SIDEでうおおおおおお!!
~SIDE 歩幸越棚~
俺、歩幸越棚! エッチなことしたら死んじゃったの! そんなワケでまた幼女の目の前に現れてしまう。生を大事にしようとかそんな話を彼女としたのに、こんなあっさりと死んでしまっては申し訳がたたない。少し恥ずかしい思いを持ちながら起き上がる。
「死ぬのがちと早すぎやせんか?」
「申し訳ありません。言い訳もできません」
「まぁ、かまわんのじゃが」
幼女はなにやらシャーペンで書きながら俺と話す。ながら作業をして、効率悪くならないのだろうか。
「して、今回はどうしような。お主が死ぬのは判ってはいたが、しかし、次の世界はどこがいいか。お主、要望はあるか?」
そんなの答えは決まっている。
「死なない世界がいいです」
幼女はため息をつきシャーペンをちゃぶ台に置く。そして俺の目と彼女の目が合う。その目には赤子を宥めるような優しく、しかし面倒くさそうに光る感情があった。
「お主、どこへ飛ばしてもなにかやらかして死ぬではないか。死にたくなくば、まず己の身を正せ。死なぬよう立ち回れば、大往生もできよう」
「そうはいっても、せっかくならなにか成し遂げたいじゃあないですか」
「なにを言っても無駄なようじゃな」
目を閉じ、彼女は思案する。俺はそれを眺めるだけで、質問しようとは思わなかった。彼女は神かそれに等しい存在なのだから、俺の思考が挟まる必要はないだろう。かくいう俺は、彼女がどんな結論を出すか不安になる。もう転生はやめて地獄か天国に行かされることになるかもしれない。
いや待て、そもそもなぜ俺は転生しているんだ?俺が転生する理由など、
~SIDE 幼女~
ふぅむ、今日の晩飯はどうするかのう。こうして目を閉じて考えるのは日々の経済活動のことじゃ。もう少しで給料日。すると当然金は少なくなっているのが日常。肉無しもやし炒めでも作って凌ぐか、あるいは白米に醤油かけて凌ぐか。醤油はいやじゃなぁ。健康に悪い。そもそも健康を気にすることのできる懐はないが。
そうじゃ、目の前の男のことを忘れとったわ。こやつ祟り神に殺されたせいで天国からも地獄からも門前払いされてわしのところに来てしもうた。地獄も穢れを気にする時代とはな。転生なぞさせても給料は出ないのに、全く神になって不幸になるとは苛立たしい。そういえばこやつの名も歩幸じゃな。なにか縁を感じる。
ま、もう一度転生させればよいじゃろう。こやつがどこでなにをしたかはどうでもよい。ただ、死なれると無給の業務をせねばいかんから死んでほしくはない。
目を開け、男と向き合う。あやつは俯いて、なにやら考え込んでおる。どうせ他愛もないつまらぬことを考えとるのだろう。早急に結論を言い渡さねば。
「まぁ転生したらよかろう。ほれ、次の世界では死ぬなよ」
「待ってください。なぜ俺は転生しているのです?」
「そんなの知らんでいいわ」
男は突如真下に出来た穴に落ちていった。やれやれ、これでようやく
~SIDE どこかの村人~
今年は豊穣の年になるだろう。畑は立派に実り太陽は地上に晴れ渡っている。これも神様のお陰だ。教会に行って感謝の祈りを捧げねばならない。
畑仕事を終えて、教会へ行く道中、黒髪の見知らぬ男と遭遇した。この村では見かけない顔だ。旅人だろうか。声をかけることにする。
~SIDE 勇者~
四天王の一人。デブデバブミ=カンジールと遂に対決することになった。奴は四天王の中では最弱だが、魔王軍の中では強者の部類に入る。決して油断してはならない。それは、俺にお供してくれる三人も判っているだろう。
デブデバブミのいる砦、その最深部。そこにあるのは鉄で出来た大扉。ここを開ければベルデバブミと剣を交える。覚悟の唾を飲み込んで、扉を開けた。
「ほぉ。人間ごときが、この俺に立ち向かうとはな。よかろう、ここまで生き延びてきたこと、誉めてやろう。記念にここで死ぬがいい」
とっくに剣は抜き放っている。盾を構え、仲間達に号令をかける。
「みんな行くぞ! ここが俺達の、反撃の始まりだ!」
俺達は駆け、かの巨体と真っ向からぶつかった。
~SIDE 歩幸越棚~
「ぐわあああああああ!」
俺は死んだ。
~SIDE 酒場の飲んだくれ~
「なぁ兄貴、兄貴の武勇伝を今日こそは聞かせてくださいよ。兄貴ったらいつも寡黙で、親父にだってお世辞を言わねえ。そこがいいところなんですが、ちと、俺に話をしてくださいよ」
「そうだなぁ」
オレは悩んだ。オレが寡黙と言われているのは、こいつらの敵対組織のスパイだから当然で、なにを喋って情報が漏れるか分かったもんじゃない。しかし、語らないというのも怪しさを抱かせてしまう。適度にお喋りし、適度に行動する。組織の者として馴染まなければいけない。
だが、武勇伝か。ここは一丁、ホラ話でもうそぶくとするか。どんな内容がいいだろう。酒の入った頭で深く考える。この子分はわくわくと待っている。オレにとっては敵だが、こいつにとっては尊敬する兄貴分なのだろう。だからと心が傷つくことはないが。
「そうだなぁ。昔話をしよう。あれは、このナーロッパにマスクが転売された頃の話だ」
~SIDE 幼女~
また越棚が死んだ。今度は紙と格闘して死んだようだ。テキパキと転生させて、また作業に戻る。百均で買ったシャーペンとノート。これに書くは夢小説。ネットに載ることのない、わしだけの特別の小説。この世に二つとないもの。
推しとわしがくっつく妄想は日々の疲れを癒してくれる。やはりショタはよい。わしは見た目が幼いから、決して犯罪にはならぬという背徳感も、この妄想に拍車をかけてくれる。この推しは情緒不安定のヤベー奴じゃが、そこも可愛らしい。ひたすらに甘やかしたい。
あぁでも、わしは受けがいいな。徹底的に攻められるのがよい。ムフフ、筆が止まらん。まるで急行電車のようじゃ。
その楽しみを妨害するが如く電話が鳴った。しまった。電話線を切るのを忘れてた。これでは費用が! 出ないのも考えたが、番号を見ると上司からだ。大慌てで電話を取り耳に当てる。
「はい、こちら日本関東地方担当雑務課の者ですが。え、アマテラス様が引きこもった?」
~SIDE 歩幸越棚~
死ぬところだった。この世界の紙は切れ味が鋭すぎる。しかも魔物となる。魔導書なんかは特に魔物となりやすい。どうやら、本そのものの魔力が影響しているようだ。
厄介なところが、紙は所詮紙で、ふわふわと空を舞うのでマトモに剣が当たらないところだ。そして隙を見れば紙飛行機に変身してこちらに突っ込んでくる。
しかしそこが奴の弱点だ。突進してきてるその瞬間、奴は真っ直ぐにしか進めない。反撃するならここしかない。俺の剣は見事紙を捉え真っ二つにした。これで金貨二枚だというのだから大儲けだ。
ギルドに帰っていく途中、春だというのに、雪が降ってきた。空は曇天。こんなの誰だっていやな予感を心に秘めるに違いない。俺は駆け足で街に戻る。
当然の如く予感は的中した。街が燃えている。あの石畳の街が! 親切にしてくれた知り合いは無事か。心配と不安で剣に手が伸びる。だが、今はまだ抜くときではない。急いで街に行く。
街はゴブリンに襲われていた。その数、数えるのもバカらしくなる数。どの策も数には勝てまい。けれども時間稼ぎはできる。現に、街の衛兵と冒険者達が必死に市民を逃がし、ゴブリンを食い止めている。ここは後ろから一突きだ。たった一人で。無理無謀だが、俺の命より市民の命。幼女よ、また出会うことになるだろう。覚悟の眼差しを雪降る天に向け、叫ぶ。
「俺、歩幸越棚! ここにあり!」
俺はゴブリンを何十匹と斬り捨てたが、体力も気力もボロボロとなる。しかし、ゴブリン共はついに敗走した。街は守られたのだ。だがもう限界だった。俺は眠るように力尽き、仲間達に囲まれて死んだ。
古のなろうでは一人称がコロコロ変わるって聞いたんですけどほんとですかね。私は調査を行うべくアマゾンの奥地安土城へ向かった。