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成り上がりでうおおおおおお!!


俺、歩幸越棚! 今日も今日とて死んでるぞ! つまり、目が覚めたらいつもの青空を見ていた。少し雲があって、誰もが見たであろう故郷の空。それが視覚の情報として処理される。


「お主、死なないと約束したではないか」


体を起こせば幼女さん。今回は何か編み物をしている。なかなか趣味がいい。とりあえずの正座をして彼女と向き合う。


俺がなにかを言う前に彼女が口を開いた。


「まぁ、今回はわしのミスじゃ。まさかオーバーフローしてバグるとは思ってなかったのでな。許しておくれよ」


「はぁ、そんなに高くしたんですか」


「具体的には数万とかは超えてたのう」


高くし過ぎだろ。某インフレRPGじゃないんだから自重しろよ。


「さて、どうせ転生をせがむのじゃろう? これだけ死の苦痛を味わっておいてよくもまぁ生に執着できる」


「苦痛といっても一瞬でしたからねぇ。あまり死の実感がないのですよ」


「一瞬で死んだのって一回だけじゃろうに」


そう言いながら、編み物の手を休めこちらに視線を向ける。その目には少々疲れが見える。


「次は、生を大事にする教訓を体に染み込ませようかの」


「なにをするんです?」


「それは転生してから知ればよい」


そして奈落へ落ちる。いつも通り暗い空間だ。




太陽の光が瞼の中で乱反射する。その光に負けて瞼を開けると、お日様の下、馬車に揺られていることが判った。光を直に浴びているというのは、天井などがないことを知らしめている。


俺はどうやら座っていたようだ。そして、体に目を落とせば粗末な服、縄で縛られた両手。周りには同じような男女が数人。確認するだけで、今までとは違う危険を孕んだ状況に置かれていることが理解できる。


なんとか縄を引きちぎろうと腕に力を込めるが、どうにもならない。立ち上がろうとするも隣の男に腕で遮られた。


「あんた、逆らうのはやめておけ。もう俺達は終わりなんだ」


「そうか。確かに終わりだな。俺を除けば」


彼の腕をどかし堂々と立ち上がる。馬に鞭打つ男が異変に気づき、馬車を止める。


バカな奴だと内心嗤う。護衛も無しに人身輸送とは。男は鞭から剣へ得物を変え俺に狙いをすまして突きを繰り出す。その突きの切っ先に縛っている縄。見事縄を捉え、俺の腕が自由になる。男は驚いて動きが止まる。剣を持つ手の爪にめがけて拳で突く。突然の痛みに男は剣を取り落としてしまう。


俺はその剣を拾い男に突きつけた。周りの縛られている男女は震えて俺を見ていた。


「この馬車の向かう街はどこにある?」


「そ、それは、この道をまっすぐ進めばある」


「正直者は好きだ。生かしてやる」


男はすっかり腰が抜けて馬車の上で倒れる。ただでさえ狭いのに、こいつのせいでさらに狭くなった。俺は苛立ちを含めて言う。


「ちなみに俺は嘘つきだ」


「え」


倒れた男の胸に深々と剣を突き立てた。男は死んだ。痛みを感じる暇さえなかったろう。他の人々を解放していき、事情を聞く。どうやら、俺達は奴隷として裏社会に捌かれるところだったらしい。通りで彼らが怯えていたワケだ。もし反逆したら裏社会の連中と敵対することになる。それはあまりにリスキーだ。


しかし、俺のせいでそのリスクの大きい選択を取ることとなった。俺に対しては、感謝よりも怒りが湧いていることだろう。


「お前達、確かに俺は愚行を犯したかもしれない。しかし、このままではお前達の大事な人生が踏みにじられ、蹂躙され、陵辱されたことだろう。それでいいのか? 汚された人生を生きて、お前達は誇れるのか? その人生で旨い飯を旨いと思えるのか?」


俺が語りかけると、彼らは黙りこくってしまった。彼らなりに、思うところはあるのだろう。ただ、俺の口から出てくる言葉を待っている。だがそれではダメだ。俺は彼らの意見を聞きたい。そのために黙る。


しばしの沈黙のあと。


「私達で、なにかできるの?」


一人の女性が震え声をあげた。なにかできる、とはいい問いだ。俺は笑顔と共に答えた。


「俺達は今は非力だ。しかし、今だけだ。これから自由を勝ち取るために戦うことができる。奴隷としてではなく、一人の人間として尊厳を枕に死ぬことができる! さぁ、俺についてこい!自由へ邁進するぞ!」


流石にそれに応える大声はなかったものの、皆俺について来ることは決めたらしい。勿論、俺も打算無しにこのようなことはしない。俺は彼らと共に成り上がる。これまでは冒険者として成り上がったが、今回は人々を率いて、一人の豪族として台頭してやる。


そのあとは、ひとまず近くの村まで隠れ進み村の人々にやっかいになった。そこでまた演説し、人々の心を掴めた。正直この世界の身分とかは知らなかったのだが、自由とか尊厳とかを謳っていたら多くの者がついてきた。総勢六十名近く。家にある斧や、自家製の石槍、その他鈍器などを持って、夜、例の街に忍びこんだ。


仲間の一人に先導してもらい、裏社会連中のアジトへ向かう。悪臭のするスラムのさらに深部のあるところ。そこだけはやけに清潔で邸宅が一つ建っていた。貴族が住んでいそうなほどだった。実際に住んでるのはヤのつく奴らだが。


すると、示し合わせたかのように松明や武器を持った男達が現れた。俺は先導した仲間だった奴を斬り捨てた。どうやら俺達は罠に飛び込んだらしい。


「みな落ち着け。ここは俺が先陣を行く! ついてこい!」


仲間を鼓舞し、邸宅へ突撃する。なるほど用心棒共は手練れのようだが数には勝てず、あっという間に玄関は制圧。中へ侵入し、とにかく暴れまわる。壁も床も血の化粧でケバケバしく、脂は異臭を放っている。


大きな扉があったので蹴り開けると、わたわたと逃げの準備をしているハゲ頭の男が一人。この部屋は広く、金ぴかに光っていることから、こいつが重要人物だとは簡単に想像がつく。


「そこを動くな!」


俺は剣を向けながらそそくさと近づき柄の先で後頭部を殴り引っ捕らえる。仲間達も到着したようで、その手には奪ったであろう財宝が。ひとまずこの男を拘束するのを手伝ってもらい、縄で縛りあげて連行した。


ちょうど良く、朝になっていた。朝焼けが街を芸術にし、人々が目覚める。特に今日は騒がしくしたので、起床は早かったのだろう。俺達がハゲ男を連行している早朝、何事かと民衆が群がっていた。


男を街の広場に立たせ、俺は剣を頭上に掲げる。


「この男は知っての通り多くの大罪を犯し、それを懺悔することなく、これまで生きてきた。そしてそれを糾弾しない忌まわしき貴族共! 俺はそれらを断罪するためにここにいる。見よ! この愚か者の最後を!」


人々の注目が充分に集まったところで、ハゲ男の首を綺麗に舞わせた。民衆は状況をイマイチ理解していなかったのか、長い間沈黙が続いた。俺達は決して喋ることなく、彼らの息遣いに気をつけた。


すると、ざわめき始め、次第に喜びの声があがり、ついに嬌声へと進化した。彼らはついに街の巨悪が消えたことに涙した。奴が持っていた財宝を民衆一人一人に分け与え、俺達の正義を服のように見せつける。


「待て、そいつは罪人だ!」


衛兵達が集り始め、俺を指差して怒る。どうやら、彼は殺されては困る人間だったらしい。大方、貴族との癒着だろう。


「分かった。悪法も法と言う。俺達は黙ってこの街を去ろう。諸君、さらばだ」


俺達は俺を先頭に悠々と街を出ていく。人々は門の先まで見送りし、中には我々の一群に加わる者もいた。


それからは、地域を転々とし、山賊やらの賊共を成敗していき、我々の名は正義の風の下世界が知っていく。俺達は百人を超え、見ただけで逃げ出す賊もいるほどだ。各地の諸侯から勧誘を受けるも、俺達はあくまでも民のために働いている。その大義に反することはできない。こんな大義を掲げたせいでおちおち風俗にも行けない。ノリで行動するんじゃなかった。


わりと後悔している日々のある日、夜営している最中に女性が一人やってきた。あの日、奴隷として運ばれているときにいた、震え声をあげたあの女性だ。


「オチタナ様、夜の相手がいないことで悩んでいるでしょう」


「よく分かったな。確かに性欲ははち切れんばかりだ。だが俺はそうそう性に手を出すつもりはない」


「もう、英雄色を好むとも言うのですから遠慮なんてしなくていいのに。私が相手になりますよ」


「え、いいのか」


「素直ですね。ええ、いいですよ」


俺は喜んで承諾し、熱い夜を過ごそうとしたが、彼女はとんだ淫乱で、何度出しても足りぬ足りぬと俺を責め立て、ついにはテクノブレイクして死んでしまった。

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