ステータスでうおおおおおお!!
俺、歩幸越棚! 元ハーレム王(予定)! 男の娘に掘られて腸ちぎれて死んじゃったの!
そんな俺が目覚めると、目に飛び込むのは綿菓子が浮いてる青空。雲ではない。綿菓子だ。
「まぁた死んだのか。節操ないのう」
体を起こすと、習字をしている幼女がいた。半紙にはお金と書いてある。丸っこい、可愛らしい文字だ。
「また会いましたね」
「あぁ、またじゃ」
「それじゃあ、お願いします」
俺は転生を頼み込んだ。彼女は一切説明しないが、俺を転生させてくれる能力があるのなら、おそらくは神かそれに等しい存在なのだろう。そんな存在が幼女なのは不思議だが、多分本人の趣味なんじゃないか。俺は愚考する。
「そうはいってものう」
筆を置き、頬杖をつきそっぽを向く。不満が全身に行き渡っている。
「お主、これまで何度も死んでおる。そんなに死なれるとこちらとしても迷惑じゃ」
「はぁ、それはすみません」
「まぁかまわんのじゃが、どうせ死ぬにしてももう少し長く生きてもらわねばな」
頬杖をやめ、俺の目をジッと見る。
「どうかしましたか」
「お主が中々死なないよう、ちょうどいい世界に飛ばしてやる」
「どういう世界なんですか?」
「とりあえずステータスオープンと言えばいち世界じゃ。お主が知ればいい情報はそれだけじゃ」
「助かります。次の人生は老衰で死のうと思いますよ」
いつものように地面に穴が空き黒々とした奈落に吸い込まれる。光が縮小していき、ついには目を閉じているのと変わらなくなった。
「どうせ、無理じゃろうがな」
そんな落胆の声が、聞こえたような気がした。
目を開けると、林があった。木漏れ日が深く大地に刺さり、花々の芽が立ち上がろうとしている。人工的な道はすぐ近くにあり、これなら街へは容易に向かえるだろう。
そういえば、あの幼女はステータスオープンを言えと口にしていた。どういう意味かは解らないが、ここは異世界だ。何が起きても不思議ではなかろう。
俺は気合いをいれて叫んだ。
「ステータス、オープン!」
すると、RPGゲームのステータス表示そのまんまのものが俺の目の前に展開した。
名前:歩幸越棚
レベル:莠比ク?莠悟?蜊
素性:蟷シ螂ウ縺ョ螟ォ
体力:蜈ォ蜊∽ク?荵昜ク?荵
魔力:荳牙?蝗帑ク牙?蝗
記憶力:荳?荳?蝗帑コ比ク?蝗
持久力:蜈ォ荵昜ク我ケ昜ク我ク?
筋力:荳我ク?ク?ク
技量:荳?荵昜ク?荵
耐久力:髮カ荳?コ御ク?
理力:蝗帑コ泌屁莠
信仰:荳牙?
文字化けしてるじゃねえか! この世界バグってやがる! これでは俺がどのくらいの強さなのかわかりゃしない。こうなったのはステータスが高過ぎるからなのか、それとも逆か。これを見て理解できるのは、ステータスは信用ならないということだけだ。
待て、自分の強さが判るかもしれない方法がある。誰か、何かに喧嘩を吹っ掛けることだ。この世界がステータスという数字に囚われているのなら、ただ戦っただけである程度は強さを把握できる。
それが、別に生物である必要もないだろう。例えば、この林。木々がそこそこ生い茂っているから、筋力を試すには都合がいい。
俺は木を掴み、引っこ抜こうとしてみた。すると、引っこ抜くどころかそのまま握り潰してしまった。恐るべき筋力だ。充分な筋肉があるとは思えないこの腕に、そんな力があるとは。これではおちおち握手もできない。
ともあれ、何もしないでいるのも仕様がない。とっとと街に行って、職にありついて、この世界で生活していこう。
しかし折角ならこの能力も生かしたい。そうなるとやはり冒険者か。いつもいつもこの職に就いているが、これはどの異世界も一緒なのだろうか。
街に着くことで気がついたが、一切疲労がない。これは体力が影響しているのだろうか。あと、道中の光景全てを憶えている。これは記憶力か。普段なら記憶に留めもしないものも頭にある。ふむ、使いどころを間違えれば苦しむことになるな。
冒険者登録は特筆すべきこともなく滞りなく終わった。さぁ、薬草の採集から始めよう!
街を出て、近くの森へ歩む。薬草をポイポイとバックに放り込む。
「きゃあああああああ!」
突然、女性の叫び声が耳に響く。こんな森の中にいるということは、多分同業の人間だ。音のする方向へ走り、到着する。
目の前には、傷ついた、長い黒髪の少女と、ポヨポヨとしたスライムがいた。目はなく、空色の液体の中に、赤く丸い核がある。
俺はとっさに剣を抜こうとするが、力を入れすぎて柄を壊してしまった。仕方ないので素手で相手することにする。
「今助けます、退いてください!」
叫び、突貫する。俺に気がつき、体当たりしてきた。とにかくこちらに意識を向けさせるためにスライムを殴る。するとどうだろう、核まで拳が達していないのにも関わらず、スライムが爆散した。これが技量の力か。そして反撃をくらっても痛くもなかった。耐久力が高いのだろう。俺は全く苦戦せずにスライムを討伐してしまった。
「大丈夫ですか?」
俺は少女に話しかけた。彼女は震えていた。それは俺を見てか、スライムを見てか。化け物扱いされないかと、不安になる。
「だ、大丈夫。ありがとう」
手を貸し、少女を立ち上がらせる。その時はまるで薄氷を触れるかのように優しく力無く行った。
このまま置いてけぼりにするのもなんなので、街まで連れていくことにした。話を聞くと、彼女も新米冒険者だったようだ。俺達は同期として、帰る頃にはすっかり意気投合していた。
「ねぇ、あなたの宿はどこなの?」
少女が話しかけてくる。そういえばまだ決めていなかった。決めてない、と言おうとしたところで、前世の記憶を思い出す。これから熱い夜にならないか心配だったのだ。俺はジェントルマン。すぐ手を出す不届き者でも、出される軟弱者でもない。ここは大人のスキンシップを期待したい。
「まだ決めてないな」
「じゃあ、わたしの泊まっているところを紹介するわ! ついていきて!」
恐る恐るついて行ったが、同室になることもラッキースケベも起こることなく、ごく普通に一室を借り、スヤスヤと寝た。
それからは、少女と二人で活動することが増えた。順調にランクを上げていき、いつの間にやらBランク。もうすぐドラゴンと戦うのを許されるほどにまでなってきた。ここまで一ヶ月も経っていない。少女も才能があったのか、俺よりは遅れたがBランクになった。
ちなみに、レベルアップしたかは判らない。全部文字化けしているので変わったかどうかも視覚的に理解できない。少女はレベルアップごとに喜んでいたのだ。とても羨ましい。
あと、戦いはずっと素手で行った。少女は魔法で、俺は前衛。しかしこの陣形に意味はない。なぜなら俺が全てワンパンしてしまうからだ。
そして、ついにドラゴン討伐を依頼された。
「ついにここまできたわ。オチタナくん、いける?」
「勿論だ。今回もワンパンしてやる!」
俺は目標のドラゴンが潜むという山の洞窟に侵入した。何も見えないほど暗かったが、少女が灯りの魔法を唱えてくれたお陰で少し先まで見えるようになった。俺も魔法を覚えようかな。
一本道の洞窟をぐんぐん進んでいくと、突然開けた場所に出た。そこは大きくドーム状で、見れば、金銀財宝が灯り魔法に照らされて輝いていた。
俺達に緊張が走る。ドラゴンは財宝を集める習性があることは知っていた。つまり、今ここに目標のドラゴンがいるということだ。
それを確認した瞬間、赤い眼光が暗闇を殺す。ドラゴンだ! 俺達はすぐさま戦闘態勢に入った。
まず少女が灯りを魔法で各所に灯して、洞窟をこれでもかと明るくする。ドラゴンの全景が見えた。赤く、四肢と羽をもったいかにもなドラゴン。俺は全速力で走り、ドラゴンが起き上がる前に頭に一発殴りつけた。
グチャ、といった音が洞窟を鳴らした。鱗も肉も全て潰れ、頭からは目玉やらなにやらがびちゃびちゃと飛びしだしてきた。それに不快感はあったが、それよりも、被害が出る前に災害を取り除けた安心感が俺達の心を休めた。
「やったわ!」
少女が喜んだ。俺はそれを笑みで返した。
「あぁ、やった。でも、これで満足してはいけないだろうな。俺達はもっと上にいくのだから」
「そうね、それでも今日は勝利に酔いましょう」
フッ、と笑い、しかし気合を入れ直すために、俺は頬を両手でピシッと叩いた。
しかし、力加減を間違えてそのまま頭を潰して死んでしまった。