魔王でうおおおおおお!!
俺、歩幸越棚! 急性アルコール中毒で死んじゃったの! 一気飲みは悪い文化。根絶しなければならない。そもそも未成年で酒飲むなと声が聞こえそうだが、俺は精神年齢だけは高い。
ノロノロと起きて座り直す。晴天の空。もう実家と言っても過言ではないいつもの情景。
しかし違うのは幼女の様子。布団に横になり、惰眠を貪っている。枕元にはカップ麺のカップが転がっている。
起こすのも忍びないので、起きるまで待つことにした。
「ふわぁ~」
しばらくしてから、彼女は起きた。二度寝することもなく。髪はボサボサで寝巻きのまま。失礼なことをしているのではないかと、今さらなながら後悔する。
「ん? 何だお主か。起こせばよいものを。まぁ心遣いには感謝しよう」
そう言って布団の上で胡座をかく。
「転生じゃな?」
「はい」
「今日の夢はショタ魔王を成敗する夢じゃった」
「はぁ」
「なので、お主もそうなってもらおう」
「は?」
寝ぼけたことを言われながら暗黒へ落ちていった。
目が覚める。目に映るのは月下の草原。星々が夜の眼を開けさせて、大地は寝静まっている。
俺が最初に感じたのは違和感だった。頭に何か硬いものが生えている。夜陰の中、なぜか光景が明るく見える。そして体内から流れ出るほどの力。これは魔力か? 長年の経験からそう推察する。ともあれ、己の体を見なければ全てが不明のままだ。
水溜まりを探そうとして気づく。魔力があるなら魔法を使えばいい。異世界の常識だ。水を出すイメージをするとウォーターカッターのように勢いよく水が噴出する。勢いを納め、チョロチョロと地面に水を垂らす。
できた水溜まりに映るのは、肌が紫色で、山羊の角が生えた一人の男だった。
朝になり、ゴブリンの村に着いた。俺はおそらく人間という種族ではない。魔族か何かだ。ならば同じ魔物同士でたむろしたほうが安全と思いこのような行動をとった。
村は森に囲まれた場所にあり、外界から閉ざされている。そこに堂々とやってきて、見張りのゴブリンに見つかる。
「と、止まれ! お前、何者だ。まさか、魔族?」
警戒と尊敬がミックスされた感情を向けられる。魔族特有の能力なのか、彼の魔力量が体感で判る。そんなに多くない。
俺は魔族らしき者として通され、村長と話すことになった。
「その肌、角、恐るべき魔力。まさに魔族様じゃ。して、なぜこのような貧村に?」
とても畏まった態度で迎えられた。俺はただ安全のために訪れただけなのだが、どうしてか畏怖されている。魔族であることが関係しているのか。
俺が口を開こうとすると、一人のゴブリンが慌ただしく走ってきて、息も絶え絶えに言った。
「大変です! 人間共が攻めて来ました!」
「何だと? こうしてはおられん。すぐに戦士を集めるのじゃ! 魔族様。貴方はどうかお隠れになってください」
「ふーむ」俺は一考し、村長に告げる。
「俺が先頭に立ちましょう。これでも腕に覚えはあります」
「そんな、魔族が前に出たら、人間にどれだけ恨まれるか」
そう言って止められたが、俺は無視して前線に出た。すでに森に侵入されたのが感覚で理解できる。俺は剣を貰い雷のエンチャントをつける。
右手に剣。左手には、冷気の魔法を溜める。俺が村の前で仁王立ちしていると、ついに人間が現れた。
「あれは、魔族か?」
「絶滅したと思ったのに!」
「狼狽えるな! 所詮は野良の魔族。恐れることはない! 行くぞ!」
そう叫び突進してくるが、俺の魔法によって全員が凍った。そこへ剣を振るい、稲妻が凍った人間共を粉砕する。痛みさえ感じずに死んだだろう。
ゴブリン達は俺を称え、祭りを開いた。夜はキャンプファイアで熱狂し勝利に湧いた。
そんな時、村長が俺へ語った。
「昔のことです。我々魔物は魔族の下、大変栄えておりました。しかし突如侵攻してきた人間により、魔物の国は滅び、魔族は虐殺され、同胞は奴隷として売り捌かれ、土を舐める生活をしてきました。そこへ、貴方がふとやって来た。これは魔神様のお恵みです。どうか、我らを導いてくれませんか」
そんな過去があったのか。俺は同情心を隠せない。そしてさらに野心も芽生えた。俺は彼らを扇動し、傘下に加え人間に逆襲。そして国を建てて王の座に就く。魔王として君臨するのだ。
そうと決まればすぐ決行だ。俺は村長に王になると宣告し、ここに魔物国再興の道が開かれた。
最初は俺達を襲った村を破壊した。虐げられた恨みか、ゴブリン達は人間を殺して回った。俺は止めもせず物資を掠奪。そこから人間の街へ行き、存分に力を発揮し雷の嵐で街を壊滅。ここを拠点に、オークやトロール、スライムやら何やら、とにかく魔物達を仲間に加えた。
魔族は俺一人なので、政治は全て俺の独裁によって成り立つ。もっと言えば魔物軍の中で最強なのは俺なので前線に立つのも俺。非常に忙しい毎日が眼前に立ちはだかった。侵略は決して止まらず、人間を殺戮して進む。各街には俺が任命した監督官を置き、魔物の住む街に改造させた。
侵略に次ぐ侵略。我々は短期間で大陸の半分を制圧した。人間は民族浄化によって根絶させている。残酷だが一代で成り上がるには多くの犠牲が伴う。魔物達も人間への怨恨で殺しに躊躇いはない。それも後押しして、人間と魔物には憎悪による関係性が生まれた。
ある日、政務に追われていると、突然声が聞こえた。幻聴かと疑ったが、それにしては意志のありすぎる声だった。
「最後の魔族、最後の我が臣下、オチタナよ。我の声が聞こえるだろう。我は魔神と呼ばれる神。汝らの主君である。汝、我の意向に従い人間共を駆逐せよ。よいな? 人間を駆逐するのだ」
俺の返答を待たず、声は消えた。それを、元村長、現秘書のゴブリンに言うと、彼は感激して涙を流した。
「その声はまさしく魔神様の声。貴方を導く神のお言葉です。それに従順に従うこそ魔物の王として相応しいでしょう」
指図されるのは嫌いだが、神の言っていることは俺のやることと合致している。さらに人間を抹消するため、虐殺部隊を組織し、国中に潜む人間を殺させることにした。
さらなる侵略により、人間は絶滅寸前まで追い込まれた。残る人間の国家は一つ。あとは虫を潰すよりも簡単だ。俺が手を下すまでもないと、臣下の将軍に任せ、俺は政治に精を出した。
それがいけなかったのだろう。悲報が届いた。
「魔王様、人間から勇者なる者が現れ、軍隊を一掃しています。我らの力及ばず、申し訳ありません」
「謝罪はいい。どんな奴だ」
「はい、奴らの神から加護を与えられた、強靭な身体能力を持つ一人の女です」
「数で押せないか?」
「ダメです。全く歯が立ちません。ここはどうか、魔王様が直々に対処していただければと」
「よし解った。俺が出る」
そう言って激戦地まで馬を走らせた。たどり着くと、そこは死屍累々。人間も魔物も血肉を流し倒れていた。その山の上に、一人の少女が返り血で汚れて立っていた。
俺は馬を降り少女に話しかけた。
「お前が件の勇者なる匹夫か。俺が直々に処刑してやる」
「そういうお前は魔王ね。相手にとって不足はない。我が主の下で懺悔させてやる」
勇者は跳び、斬りかかる。それを冷気魔法で凍らせようとするが、空中で避けられ突貫。迫り来る剣を弾き雷の斬撃を放つ。直撃するも致命傷とはならない。
終始、俺が優勢だった。雷と冷気と剣。これらに圧倒され勇者はジリジリと押される一方。もはや決着はついた。
俺は魔力を剣に集中する。すると電気が剣にまといつき光輝いた。剣を振り下ろす。それだけで巨大な雷が天を割る。直撃こそしなかったが勇者の体は焦げた。もう戦闘能力は失った。
「とどめといこうか」
俺は足で彼女を踏み、地べたに這いつくばらせる。そこへ雷を帯びた剣で刺した。ダメ押しに雷を降らせた。俺にも当たったがダメージはない。
しかし、いきなり勇者の体が光り始める。身を溶かす高熱が発せられ体は膨張する。危機感に従い離れようとするが、遅い。彼女は自爆し、俺はまともに巻き込まれ四肢が吹き飛んだ。そして、出血が止まらず、俺は死んだ。




