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実は最強でうおおおおおお!!


俺、歩幸越棚! ストレスで過労死しちゃったの! 中間管理職の辛さが少しは理解できたと思う。誰かの間に立つって難しい!


そんなことより、そもそも幼女はこの青空の下にいるだろうか。泣いて失踪されたら俺はどうすればいいのか。


起き上がり前を見ると、呆然と正座している幼女がいた。虚ろな目に光はない。俯いて、だが何も見てはいない。声をかけるのは憚られた。


しかし空気を読んでいては進まない。俺は貧乏くじを引いたような気分で話しかけた。


「あの、すみませんでした。これは俺の責任ですから、貴方が気負うことはないんですよ」


俺の声にビクッと震え、俺を真っ直ぐ弱々しく見る。


「何度も言いますが、貴方は悪くないですよ」


「いや、悪いのはわしじゃ。すまなかった。お詫びとしては過小だが、次の人生は楽しく暮らせるよう手配する。どうか許しておくれ」


「いやそんな、謝られることではないですよ。むしろ恩返しできなくて面目ないくらいです」


そのあと謝りあってようやく彼女を説き伏せられた。そして俺の真下に穴が空き、落下していった。




目が覚めると、俺は馬車に座っていた。身だしなみを見るとごく普通の中世農民といった服装だ。手枷をされてるワケでもない。同乗者は鎧を着ていたり、俺と同じ服装だったりで統一感はない。街を目指す者達が一緒の馬車に乗っているようだ。


誰もが暇そうにしている中、眠りから覚めた俺に鎧を着た女が話しかけてきた。


「あんた、剣を差しているようだね。あの街に向かうってことは、傭兵志望かい?」


「まぁそうですね」そういうことにしておこう。


「ははは! やめといたほうがいい。あんたみたいなひょろい奴じゃ、あたしらみたいな傭兵にはなれないよ!」


他の人もクスクスと嗤う。俺は挑発には乗らず「それは戦場で判るでしょうね」とお茶を濁した。


そうか、俺は傭兵になるのか。私事ながらやっと知った。同乗者の世間話を聞くと、この世界では戦争が絶えず、今も戦いはあるらしい。すると村は荒らされ作物は奪われ路頭に迷う。仕方ないので傭兵になるということだ。俺もその一人。


街に到着した。馬車から降りて傭兵の集う酒場へ歩む。酒場では柄の悪い男女が酒で盛り上がっている。女だろうが子供だろうが、もちろん男だろうが戦争に駆り出される。この世界の窮状を垣間見た。


「おっさん、傭兵の仕事はないか?」


酒場の店主に聞く。彼は鼻で笑い依頼書をカウンターに叩きつける。それを読むと、敵国の精鋭部隊を撃退しろと書かれていた。報酬は高額だ。だがその精鋭部隊は一人で十人殺せる生きる殺戮マシーンと呼べる奴ら。とても傭兵なんかに任せる問題ではない。


しかし、俺はこれまで様々な異世界を渡り歩いた。ドラゴンだって殺したしクラスメイトだって殺した。戦闘経験は老兵と変わらない。俺はこれを、単身で請け負うことにした。


俺への嘲笑がこだまする酒場を抜け、前金で簡易な鎧を買う。剣はこれまでのロングソードのまま。意気揚々と目的地へ行く。


街からはそう遠くなかった。それだけで危機感があるが、それに対処できないのは乱世故か。目的地は村で、森に囲まれている。すでに掠奪されたあと。彼らはそれでも居座り、ここを根城に各地を荒らしている。早急に対応しなければ街も危ない。


俺は草木に隠れ偵察する。見ると、流石は精鋭。防具は騎士同様プレートアーマーで身を包み、見張りは警戒を怠らない。これを崩すには策を練らねばならないか。幸い人数は十人と少なめ。


夜を待ち、呼吸を沈める。村は焚き火で地を照らす。こそこそと進みまずは見張りを始末する。石ころを投げ音を立てる。そこに意識が向いた瞬間、押し崩しバイザーの隙間から目を刺す。それに気づいたもう一人も脇を斬り膝裏を刺し、殺す。見張りは見たところあと一人。


先に殺した二人の反対側に見張りはいた。また倒して目を刺して殺す。あとは寝ている奴らだけだ。


その後は存外に容易かった。寝首を掻くだけの作業を七回繰り返すだけで終わってしまった。拍子抜けだったので、彼らの持ってた酒で一人酒盛りをした。村を見て回ると、人はいなかった。死体だけだ。殺人の罪悪感は一切合切吹き飛んだ。


朝を迎え、街に帰ろうかとしたところ、馬に乗った騎士がやってきた。ヘルメットを取り外し俺の周囲を見て驚いた様子。


「これは、どういうことだ」


騎士の男は呟く。それに、


「全部俺がやりましたよ」


と答えた。彼は狼狽し、それは嘘だと決めてかかった。お前一人であの部隊を全滅させられる筈がない。さては魔術師だな。お前を魔術師裁判にかけてやると捲し立てられた。いやはや魔法魔術が違法な世界は始めてだ。それよりもと、俺は提案する。


「嘘ではなくほんとに全滅させましたが、まぁ一介の傭兵一匹がそんなことをしたなんて、誰も信じないでしょうね。ま、騎士様がお一人でやったなら少しは信憑性が増すし、箔もつけられるもんです。どうです? 取引しませんか?」


取引とはこうだ。俺は無謀にも一人で奴らと戦い、死にかけていたところを颯爽と現れた騎士に助けられ、さらに騎士は部隊を全滅させた。という美談にし、報酬は俺が六、騎士が四で分ける。それをこれからずっと続けて、騎士は名誉を、俺は金を得られるようにする。


「いいと思いません?」


「むむむ、信じていいのだな?」


「いいですとも。あくまでもやったのは貴方にして、俺は影で動きますよ」


そのあと金を先の通りに分けた。一気に大金を得たが、名声はない。でもそれでいい。充分に金を貯めたら騎士とは縁を切り田舎でひっそりと暮らす。これが俺の理想だ。せっかく幼女に転生させてもらったのだから、彼女のメンツは立たせないと。


そして再び仕事が入った。今度は騎士からだ。彼は言うに、街を襲おうとする傭兵共を蹴散らしてくれとのこと。その街はここから少し遠い。歩きでは間に合わないので馬を買った。馬に乗り騎士と同伴する。騎士は後ろで待ち、俺は前線で敵を壊滅させる。そして騎士が現れ自分がやりましたと犯行声明。そういう手筈。


俺はまず偵察を行う。街は川が流れ、その川を辿ると山に行き着く。そしてその山から煙が上がっている。目をこらすと、そこには野営している軽装の兵士が数十人。中々の数だ。山は木々を着ている。馬が活躍することはない。彼らを山と街の間の野原に誘うことが肝心だ。


俺は古臭い方法をとった。


「やーい! そこの雑魚共! 山に籠って山賊ごっこか? 降りて俺と勝負しろ! 勝てたら有り金全部置いていってやる! それともそんなこともできない臆病者か?」


これは牽制みたいなものだ。これで釣れるとは思えない。と思案してたのだが、彼らは短気なのか言われるとすぐに山を駆け降りた。結果的に野原に釣れたので僥倖と言うべきか。


俺は馬を走らせ、勢いに乗った剣を振るう。まず一人の首をはねる。馬は突進し幾人かを踏み、進む。転進、彼らは槍で防ごうとする。巧みに馬を使い彼らの横に滑りこみ一人を持ち上げ斬り、槍を奪う。


一旦離れ槍に持ちかえる。突撃、そして抵抗しようとする奴を次々突いた。全て頭部を貫く。さらに棒のように振り回し人を宙に舞わせ突き殺す。十人は殺った。傭兵達は恐れて逃げようとする。それを追撃していき屍が道を作る。


それでも逃げるので、転倒したように馬から転げ落ちた。わざとだ。しかしこれをチャンスと見たか引き返して俺に刃を向ける。俺は剣を抜き槍と剣の二刀流で圧倒する。


遠心力を用いて槍で能天を叩き割り近づく者は剣で刺す。槍を凪払い斬る。下がろうとすれば槍で突く。さらに遠くの者へは敵の武器を拾い投げた。それらは全て命中し、ついにあと一人となった。


最後の一人である女は武器を捨て、投降した。そこへ騎士が堂々と登場する。


「さ、証人は残しましたよ」


「よしよし、これで出世街道を走れる」


傭兵の女は騎士が活躍したと各地で吹聴することとなり、騎士は名声を、俺は仕事と金を手に入れた。そしていつしか、騎士は最強の戦士として世界に名を馳せるようなった。


世の人は、実は俺こそがその最強の戦士だとは気づくことはなく騎士を礼賛した。一時は俺が裏切らないかと疑われたが、結局俺は戦いが終わるまで関係を切ることはなく終戦を迎えた。我々の勝利だ。


我が国と敵国との間に戦いはなくなり、平和が訪れた。傭兵の仕事はなくなり、騎士は一貴族として城主まで上り詰めた。俺はかねてからの願いだった田舎暮らしを実現した。家を立て、使用人や護衛を雇い、ひっそりとくらしていた。


俺は経験上、こういう時こそ危険だと身を正していた。しかし、三十になり、中年になっても危険は訪れず、騎士が俺を消さないかと考えたりもしたがそんなこともなく。結局、俺は老衰によって死んだ。俺にしては平和的な死であった。

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