乙女ゲーでうおおおおおお!!
俺、歩幸越棚! ヒロイン庇ったら死んじゃったの! しかもいつもと違って名声をこの手にしてないし。やんなるわ~。
「あぁ、あ~!」
なんだ嬌声かと起きる。幼女が携帯ゲーム機の画面を見てよだれを垂らしていた。そして変な声を出している。
見るクスリでもやってるのかと疑ったが、それなら会話も可能だろうと話しかけることにする。
「あの」
「うるさい! 今いいところだから黙っておれ!」
子供のような事を口走った彼女だが、見た目だけは実際子供。そして口振りの威厳から俺は言われた通りにしておく。
体感一時間のあと。
「ふぅ。やはり推しは素晴らしい。あれ、お主、いたのか」
「いましたよ。さっきから。それでいつものを頼みたいのですが」
「ふーむ」
幼女は腕を組んで悩む。何か問題があるのかと訝しむ。
「そうじゃ! お主、わしに協力せぬか?」
「はぁ、と申しますと」
「これからお主にはわしのやったゲームの世界に行ってもらう。そこで色々やってほしいのじゃ」
「色々って?」
「行けば判る」
いやここで説明しろよと激しくツッコミたかったがそれを言う間もなく奈落へ真っ逆さま。やれやれと斜に構えたいが落ちているのでできなかった。
目が覚めると、窓から差す光が熱を感じさせた。ベッドの上、そこに横になっていた。
体に異変を覚えるのに時間はかからなかったが、同時に理解するのも早かった。俺はまた女になっていた。そして貴族のお嬢様というのも判った。
ベッドから降りて、鏡に向かう。目に入るのはロングの黒髪に漆黒の瞳。目を下げると紙が置かれていた。日本語で何か書かれてある。それを取り一読する。
『今回、お主にはわしが推しと付き合うのを手伝ってもらう。推しの名はカート君。すっごくヤバみのある尊い子なのじゃ。しかしわしの立場は貧乏貴族。お主は中堅貴族で忌々しくもカート君の許嫁じゃ。そこでお主には悪役を演じてカート君から見捨てられてほしい。そうすればあとはわしの手の平の上じゃ。これまでの恩を返したいなら協力してくれ』
どうやらあの幼女からの手紙らしい。どこか尊大な態度をとられているような気がするが、彼女には多大な恩があるのは事実。これからの転生ライフを楽にするためにも、ここで恩返ししてやったほうがいいだろう。
俺は手紙を服の中に隠した。これが証拠になるとは思えないが、一応所持しておく。家族との退屈な食事を済ませカートの家へ行く。今日は始めてカートとやらに会う日だ。これは政略結婚。彼との会話は全て茶番となる。
屋敷から出て馬車に乗って道を辿る。既視感のある光景なので道中は省略。カートの屋敷に着くと、少女が一人佇んでいた。金髪のショートに緑色の目。身なりは清楚だが、なぜか見たことがあるような気がした。
「失礼ですが、貴方はどちら様ですか?」
俺が聞いてみると、彼女はいきなり手を掴み俺を連れていく。草木の覆う庭まで引かれ向き合わされる。
「何をするんです!」
「しっ、手短に言うぞ」
「その声は」驚きで目が開く。
「お主はここでカートと初対面となるが、傲慢な態度であの子に悪印象を与えるのじゃ。わしはここに使用人として働く。時間はかかるがわしを彼と結びつけるために頑張ってくれよ。その後の地位と来世は保証するから」
「わ、判りました」
一方的に捲し立てられ、彼女は行ってしまった。俺は少し間を空けてからカートの屋敷へ入った。
「これはオチタナー様。お待ちしておりました」
執事が出迎えてくれる。俺は彼に着いて行き大扉を通る。そこには二人が対面できる程度のテーブルがあり、席が二つ。その片方に、美少年が座っていた。紫色に光る髪。深海のような色をした吸い込まれる目。身長は俺より少し高いぐらい。まだまだ子供っぽさが抜けてない。
執事が耳打ちしてきた。耳に近いのに、それでも聞き取りづらい程に小さな声で。
「カート様は大変、その、感情の上下が激しいお方ですので、ご注意ください」
そう言い残してそそくさと去ってしまった。扉は閉められ、俺とカートの二人だけ。カートは俺が入ったことに気づかないのかボーッとしている。
俺は礼儀正しく声をかけようとして、目的を思い出す。俺は彼に嫌われないといけないのだ。ではどう嫌われるか。彼は激情家というのは聞いたから逆鱗を逆撫でしてやればいい。
まずはジャブとして挑発することにした。
「来客に対して挨拶も無しとは、ホントに私の婚約者ですの? 失望しましたわ」
わざと言葉に抑揚をつけて嘲る。その声で俺の存在を認知したカートは、ゆっくりと俺を見る。
「ふん、何も言えないですのね。この程度で意気消沈するなんて見下げた根性ですこと」
さらにジャブ。ここらで抵抗してくれるとそれにカウンターを放てるのだが、どうするか。
だが期待に反して彼は微笑んだ。
「始めてだよ。ボクにそんなこと言ったのは」
「よっぽど甘やかされて育ったのですね。はぁこれでは幼児と変わりませんわね」
「フフ、もっと貴方の声を奏でて。ボクの好奇心と聴覚を満足させて」
ふんわりと雲のような声。彼の瞳はどこまでも優しく、俺への怒りは全くない。俺は怯みつつも罵倒を切らさない。
「ま、まさか被虐趣味を持っているとは思いませんでしたわ。まぁ汚ならしい。帰ると致しょうかしら」
「帰らないでよ。ボクを嗤ってみせてよ」
こいつ。俺は内心歯ぎしりした。本当にマゾヒストなんじゃないか。それだったら、むしろ今までの罵倒は逆効果だ。手の平返して今度は褒めちぎるか。
「嗤うだなんて、とんでもありませんわ。よく見れば、貴方はとても美しく、日輪のようですわ。これまでのご無礼をお許しください」
「なぜそこで態度を変える! 嗤うなら嗤え! それが君の声の価値だ! ボクに都合のいい言葉を吐くんじゃない!」
突然の激昂。効果あり、と言いたいところだがその急変は俺の喉を詰まらせた。
さらに褒めるか卑屈に謝るかで悩んでいたら、突如彼は泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、いつもボクはこうだ。ごめんなさい。ボクなんて嘲笑されて当然だ。褒められるなんておこがましい」
「え、え、え」
俺は困惑で変な声が出た。謝られても困るし、彼が何をしたいのか理解が及ばない。そうして黙っていたら、
「なんとか言ってよ!」
今度は怒った。そして褒めたらひまわりのような笑顔を見せた、と思ったら一転怯えだし罵倒したら泣き出し謝ったら笑って許ししかしテーブルを殴ってキレた。
もう、こいつワケわからん。何とかして嫌われようと頑張ったのだが、激怒されながら好かれるという理解不能な現象を体験した。
それからは、どういうワケか彼に気に入られ、頻繁にカートと会い仲を深めていった。いや故意ではない。俺は嫌われようとしているのに、カートが追い回してくるのだ。
自室に引きこもったりビンタしたり彼の親を馬鹿にしたり色々したが、反応は狂笑ばかり。もしくは泣くか怒るか無反応か。
ついには幼女に呼ばれた。お叱りなのは判るので弁明の言葉を頭に並べながら彼女の元へ向かう。
「お主! なぜ嫌われようとしない!」
「いやどうにかしようと頑張っているんですよ。でも、何でかは知りませんがお眼鏡に叶ったようで付きまとわれているんです」
「じゃったら突き放せばよかろう」
「もうしましたよ。そしたら押し倒されて、それを蹴りとばしたら喜ばれて、んで怒られて、もう何がなんだか」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
二人で作戦会議を開き、カート君嫌われ作戦を展開したが、全て台無しである。屋敷をめちゃくちゃにして幼女に叱られたりしたらカートは幼女にキレるし、幼女を構いまくったら幼女を冷遇するし、打つ手なしの詰みである。
幼女はいつもカートに振り向いてもらえず部屋の隅でしくしく泣く。俺はそれをなだめ、次は上手くいくと励ます。今度はカートが赤子みたいに泣いたのでこちらもなだめてキレられた。
逃げたい。最近は眠りも悪く朝まで起きてしまうこともしばしば。食事が喉を通らず吐き出すこともある。カートはそれを幼女のせいにして、それを弁護したりすると笑って泣いて、罵詈雑言を吐く。幼女は泣いてどっか行く。追いかけて背中を撫でる。撫でてほしいのはこっちだ。
ある日、目の隈を化粧で隠してカートの元へ行く。頭痛が酷いがいつものこと。今日の屋敷は何やら様子が変だ。厳かな空気が身を引き締めてくる。そのせいで吐き気がした。
彼の前まで歩くと、彼は突然跪き、小さな箱を手に出した。まさかと血の気が引いたが、そのまさかで箱が開くと結婚指輪があった。
「ボクと結婚してください」
その瞬間、廊下の先から悲鳴があがり、その声は全速力で近づく。
「絶対に許さない!」
見ずとも判る、幼女だ。カートは驚いて固まったが、俺はもう気力の限界を超え、その場に倒れた。
「オチタナー! どうしたんだ!」
「おい、越棚! お主わしを裏切る気か!」
心臓の鼓動が聞こえる。機関銃のような速さ。俺は倒れたまま吐血して、意識を失い、絶命した。
ギリギリ投稿セーフ!




