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賢者でうおおおおおお!!


俺、歩幸越棚! クワで耕されて死んじゃったの! あれは異論無き事故死だ。俺は悪くない。


「災難じゃったのう」


幼女が声をかけてきたので、青空を見るのをやめ起き上がる。幼女はスマホをポチポチといじっている。横向きにしてるから、多分ゲームだろう。


「いやぁ今回ばかりはご容赦下さい。あんな事故が起こるなんて夢にも思わず」


「容赦はいつもしてるがの。あ、クソ、避けきれんかった」


どうも熱中しているようで俺の話は右から左へ流される。転生できればいいのでそのままにしておこう。待てばいい。


「うん? お主まだいたのか。あぁそうか転生させておらんかったの」


俺が座っている場所だけ穴が空き、風のように落ちていった。落ちたな。越棚だけに。




目が覚めると、久々か、森の中だった。体のまるっきり俺の体のまま。さて今生はいかに生きてみせようか。


過去を覗くと、俺は大抵最後には死んでしまう。事故死であったり望まぬ自刃であったり。俺は死からは逃れられないのかもしれん。されば、死ぬのを許容し、死ぬまでに何か大事を成せば満足して逝ける。今までもそうだったが、今回はより大成するために努力しなければ。


しかしこれまで武勇で功名を得ようと躍起になっていた。これからは安全圏で名を轟かせようと思う。しかし商人はダメだ。下手すれば事故で死ぬ。賢く立ち回ろう。


賢く。そうか、賢者になればいいのだ。魔法を極め、人々に勉を伝える存在になれば、そうそう死ぬこともない。


俺はまず街に向かい、魔法について調べることにした。


魔法とは、イメージと言葉で使うものらしい。酒場で聞いた情報だ。イメージは楽だ。元現代人の頭の使いどころだ。言葉とはつまり語彙の豊富さ。一人称の主人公は語彙力が無ければやってられないので、俺は適任だろう。


まずは冒険者になって金稼ぎだ。剣は買わない。魔法に剣は不要だ。代わりに魔術書を買い森へ行く。


森の中で本を読み解く。本はローマ字で書かれてある。しかし全部日本語なので簡単に習得できた。イメージさえできれば無詠唱で魔法を使うことも可能だろう。


早速、ファイアという魔法を試してみた。今回は呪文を唱えてみる。


「我が心の火よ。天まで昇れ。

我が眼の火よ。それは龍の如く。

我が血の火よ。 草花を殺し。

我が魂の火よ。太陽となれ」


結果。森が全焼した。ファイアなんてものではなくもう噴火とか天災とかそのレベルである。俺のイメージとは全然違う。こう、焚き火を考えていたのだが。


冒険者ギルドの者が何事かと重武装で駆けてきて、俺を捕縛した。下級冒険者の狩り場を壊したのだから当然の処置だ。


俺はギルド長の前に跪かされた。


「お前は何者だ」ギルド長が聞く。


「下級冒険者の越棚です」


「お前が森を燃やしたのか。なぜ燃やした? どうやって燃やした?」


「ファイアの魔法を試そうとしまして、呪文を唱えたところ、想像以上の威力が出てしまい、あのようなことになった次第です」


俺は正直にありのままを話した。すると、周囲はざわめき始めた。ギルド長も驚いて、


「ファイアの魔法で、森を焼いた?」


半信半疑の様子。俺がもう一度仔細に語ると、厳しい顔は崩れ、膝を叩いて笑った。


「このような大物をここで抱え殺すのは実に惜しい! おい、この者を大賢者の弟子とさせよ」


それからはトントン拍子に事は進み、大賢者と呼ばれるエルフの女性に師事することとなった。彼女は俺の才能を見込んで自身の全てを教えてくれた。


そして、たった一年のあと。


「お前は私を超える逸材だ。もう教えることは何もない。大賢者の称号はお前が継げ。私はお前の噂を聞きながら隠居するとしよう」


免許皆伝といったところか。俺は国の誇る賢者となった。


魔法はイメージできるものなら何でもできた。まるで無から有を生み出すが如く召喚も自在であるし、大陸を滅ぼす天災だってくしゃみのようなもの。俺の体は常に魔法によって防護され、たとえ刃物が突き立てられようとしても、刃が己に刺さる前に刃物が朽ち果ててしまう。誰も俺にかなわない。


しかし、それが俺のやる気を削いだ。だれ一人として俺の魔法を貶す者はおらず、だから挑戦は一切ない。ただ人々に教えるのみ。つまらない人生である。


魔法を創るのにも飽いてしまった。ほぼ全能の能力を持ったら退屈するのみとは。


一大決心。俺は千年の眠りにつくことにした。遥か未来の魔法であれば、俺を軽々と超えてくれるだろう。そうすれば、またあの学ぶ楽しさを思いだし、青春を再び享受することとなる。


「賢者様、どうかおやめください!」


「師匠! まだお教え頂きたいことは山ほどあります!」


「大賢者様!」


弟子や、俺を慕ってくれる人々は止めた。しかし心変わりはない。俺はまだまだ学びたいのだ。それを説くと、人々は静かに涙し、だけど俺向上心に感激してくれた。


事前に作っておいた氷の棺に入る。場所は燃やした森の中。弟子達が涙目で棺の蓋を閉じる。コールドスリープ。俺は目を閉じ、未来の光景を夢見た。




目を開けても、そこは当然暗かった。自身が棺の中にいるのは知っている。蓋をどけ、土を踏む。森は再生したようで、木の影が俺に被さる。計算があっていれば、俺は千年の時を超えて大地に立っている。街はまだあるだろうか。


街のある所へ向かうと、そこには村しかなかった。街が消滅したのは良いとして、村とはどういうことか。ワケが解らず村に走った。


彼らの服はみな侘しい。かつて街が栄えたとは思えない姿だ。村の者に話しかけた。


「すみません、今は幾年ですか」


聞けば、確かに千年経っていた。しかし、千年前のことは全て伝説扱いで、歩幸越棚という人物は神話の存在と化していた。


街はどこかと問えば、そんな物はないと返された。俺の絶望は頂点を超える。


千年先の未来は進んでなぞいなかった! むしろ退化に甘んじて魔法すら消滅していた。俺は二度も同じ役割に型どられた。また教師だ。


人々に魔法を伝えるために各地を駆けた。どこもどこも村ばかり。石造りの街並みなぞ探すだけ無意味だった。魔法だけでなく、千年前の生活の知恵を授け、何とか世界を復興させていく。俺の目的はスタートラインにすら立っていない。


そんなことをして何十年も過ぎ、俺は老いた。しかしその甲斐あって、人々の知識水準は非常に高くなり、初歩的とはいえ魔法も操りだした。


それでも、まだ足りない。俺の理想とする世界には麓にすら達していない。まだ教えが必要だ。俺は自らに若返りの魔法を使う。たちまちシワは消えて、白髪は黒くなり、若い体を取り戻した。


そしてまた各地を練り歩き知識を伝える。俺はいつの間にか、伝説の大賢者オチタナと同一視された。俺自身であるとは流石に言わなかった。


また数十年。石造りの街が建ち並び、やっと千年前の基準になった。これで魔法の研究ができる。結局千年前と変わっていないが、退化するよりはよっぽど良い。自身に若返りの魔法をかけ、街へ行く。


しかし、ある日、俺を見たエルフが言った。


「あの男は人民をたぶらかし、己の欲望に使う悪魔だ。退治したほうがいい」


愚かな民衆はそれを信じ、暗殺を企てる者が多数現れた。しかし剣で斬ろうとも刺そうとも剣が朽ちるだけで、魔法で燃やそうとも跳ね返され効き目がない。


人々は俺を恐怖の大王として恐れおののいた。百年を超えて彼らに尽くしたというのに、末路はこうなるか。たとえ賢者といえど、悲惨な者は足掻いても悲惨か。


よろしい。俺は千年振りの決心をした。みなが俺を敵となじるなら、本当に民草の敵となろう。賢者オチタナであることを捨てよう。


その日俺は街の中央広場にワープした。人々は籠を落とし剣を捨て逃げ出す。


「悪魔オチタナだ!」


「逃げろ! 勝てるワケがない!」


俺はその声に笑った。あまりに快活に笑うので、人達は足を止め俺を注視する。


「賢者オチタナは死んだ。俺の名はデブデバブミ=カンジール。世界を破壊する者だ。まずは手始めにこの街を焼き払おう!」


街は災禍に包まれた。何とか逃げ出したものが俺の悪名を伝播させ、俺と戦う意思を持つ勇者の噂が立てられた。その間にも世界を破壊していく。


村は水で溺れ、海は蒸発し、森は天に吹き飛ばされ、人は死ぬ。それを繰り返す。戯れに俺の王城を築いたりして、噂の勇者を待つ。


そして、玉座に座って眠っていると、玉座の間の扉が開いた。勇者が来たと喜びに湧きながら声をかける。


「ほう。学もない武勇だけの匹夫が。たった一人でこの俺に歯向かおうとはな。よかろう。記念にここで死ぬがいい」


その後、激戦が繰り広げられた。勇者は剣だけでなく魔法も巧みに使い、城は崩れ、大地を巻き込んだ大戦となった。お互い天災級の魔法を撃ち合い、世界は荒れる。


俺は歓喜に泣いた。ここまでの使い手がこの世にいるとは。ここまで生きていて良かった。俺は全身全霊を持って戦い、勇者に敗れ、死んだ。

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