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第五幕―お話ってなぁに?猫さん―

 「ただいまー」


 風呂上がりのミシェルが濡れ髪のままで部屋に戻ってきた。


 うわなんか濡れて艶やかに光る紫の髪とか滴る水がすっごい色っぽい…

 いや、惑わされるな!私はこの男に15分もの間放置プレイくらったんだぞ!!


 「あれ?藍琉怒ってる?」


 「当たり前でしょ!いきなり放置くらったら普通怒るって!」


 キッとミシェルを睨みつける。

 私を怒らせた張本人は事の重大さをわかっていないのか、顔色一つ変えない。


 ちょっとは反省しろよ!!


 「ごめんごめん。でも俺入浴中の藍琉に、「俺の部屋で待ってて」って言ったはずなんだけど」


 「・・・」


 私は必死に記憶の糸を手繰り寄せる。




 ・・・。

 ・・・・・・。




 「あっ!!!」


 『お風呂あがったら俺の部屋で待っててくれない?後でゆっくり話がしたいんだよね。白兎に会う前に大事な事を話しておかないといけないから』


 「ね?」


 思い出した私は瞬間的に顔が熱くなるのを感じた。羞恥のあまりミシェルの顔が見れない。


 「ご、ごごごごめんミシェル!」


 自分が忘れてただけだったなんて…。勝手に怒ってた自分が滑稽すぎてどうしようもない。嗚呼…穴があったら、いや、なくても掘って入りたい。


 「いや、俺も悪かったし。待たせてごめんね?」


 「うん」


 とりあえず仲直り。喧嘩してたのかは微妙なところだけど。

 ちらっと顔を上げてミシェルを盗み見ると、穏やかな眼差しで私を見ていた。金色に輝く瞳に無意識に胸が高鳴る。


 「あっあの、話って何?」


 誤魔化すように話を振る。幸いミシェルは私の顔が更に赤みを帯びたことには気づかなかったようで、安堵した。


 しかしそれも束の間。一瞬後には私の言葉を聞いたミシェルの口が、奇妙に、いや、ぞっとするくらいおかしく、つり上がった。




 そう、本当に・・・心底ぞっとするくらい。




 「・・・白兎の事を、教えてあげる」


 何だか、変・・・?

 ミシェルの様子がおかしい。醸し出す雰囲気が、表情が、がらりと変わった。私の思い違いでなければ。

 いや、思い違うはずがない。ここまで顕著に態度が変われば、どんなに鈍感な人だっておかしいと気づく。






 「藍琉、君が望むなら、俺は何だってしてあげる・・・」






 こわい。


 こわいこわい怖い怖いっ!!


 「み・・・しぇる・・・・・・?」


 私は、動けなかった。

 金色の瞳に絡めとられたかのように体が動かない。


 ミシェルの黄金の瞳は、私の心臓を握りつぶそうとしているのではないかと思う程真っ直ぐで。けれどそこに浮かんだ狂気が、私を戦慄させる。

 初めてミシェルを、“怖い”と思った。


 「ど…どうしたのミシェル?変だよ・・・」


 さっきまでは普通に会話してたのに・・・。どうして?


 絞り出すように声をあげる。

 ミシェルは口を半月型につり上げたままで、私を見つめている。


 「だって、知りたいんでしょう?白兎の事」


 「う・・・ん」


 「だったら、白兎の事、教えてあげる。藍琉が望む事は、何でも叶えてあげる・・・」




 きもちわるい




 半月型の口が、狂気を纏った瞳が、私の全てを捕らえて放さないミシェルが。


 気持ち悪い。


 私は襲いくる強烈な吐き気に耐えながら、それでもミシェルから視線を外すことが出来なかった。

 思い出したかのように寒気が私を包み込む。歯の根が合わず、ガチガチと鳴った。知らない間に体はカタカタと震えていて。


 「お、おかしいよミシェル・・・。どう・・・したの?」


 私は恐怖にうまく動かせない体で、少しでもミシェルから離れようと後退する。


 ミシェルはそんな私をあざ笑うかのように、ゆっくりと一歩ずつ近づいてきた。


 どうしよう・・・このままじゃ・・・。


 心ばかりが焦って、体がついてこない。逃げなきゃいけないと頭では理解しているのに、それに反して体は全くと言っていいほど言うことを聞かない。


 どんどん私とミシェルの距離が縮んでいく。


 「やっ…!来ないで!」


 掠れた声で叫ぶ。けれどミシェルは歩みを止めない。


 とうとう私とミシェルの距離は、手を伸ばせば届く程に縮まってしまった。


 「藍琉…」


 ミシェルが腕を伸ばす。

 もう駄目だと思い、私は反射的にぎゅっときつく目を瞑った。










 「なーんてねっ」


 直後、優しく甘い声が頭上から降り注ぎ、私を暖かなものが包み込んだ。

 驚いて目を開けた私が抱きしめられたのだと気づくのにそう時間はかからなかった。


 「ミシェル…?」


 私を包み込む体は、暖かく優しい。ふんわりと、甘い匂いがする。


 「冗談だよ、藍琉。怖がらせてごめんね?」


 抱きしめられているからミシェルが今、どんな顔をしているのか私には見えない。でも、さっきとは違いミシェルの声は私を安心させる。

 それでも私はまだミシェルを警戒していた。ミシェルが何を思ってこんな事をしたのか全く理解できなかったから。

 力を込めてミシェルの体を押す。それほど力を込めて抱きしめていたわけではないのか、意外にもあっさりと私とミシェルの体は離れた。


 自然と見てしまったミシェルの顔は、今までにない真剣さを帯びていて。

 私は驚くと同時に、不可解な様子でいるミシェルから目が離せない。

 まるで金縛りにでもあったかのように、私はじっとミシェルを見つめていた。


 真剣な顔つきのまま、ミシェルは口を開いた。


 「藍琉、よく聞いて。君が警戒するべきなのは俺じゃない。俺だったから今のは冗談で済んだけど、君がこれから必ず出会うであろう白兎はそうはいかない」


 「どういうこと…?」


 私は狼狽える。ミシェルは曇りない真っ直ぐな瞳で私を見て言った。


 「いいかい藍琉?白兎は“アリス”に執着してる。“アリス”の為なら何だってするよ?気をつけて。白兎の前で迂闊に発言しちゃダメだ」


 「え…?それは…白兎と喋っちゃだめってこと?」


 的外れな事を言う私に、ミシェルは困ったような顔をして笑った。


 「そうじゃないよ。誰かがいなくなればいいのに、とか、死にたい、とかそういうことを言っちゃダメだってコト」


 「言わないよ、そんなこと」


 「そ?だったらいいけど」


 私の答えを聞いて安心したのか、ミシェルはチェシャ猫という名にふさわしいにんまり顔をした。


 「それにしてもさ、俺、迫真の演技だったよね。藍琉超ビビッてたし」


 「なっ!ビビッてないもん!!」


 ビビッてたけど。

 っていうかミシェルがいきなりあんなことするから悪いんじゃない!警告するにしたってもっと他にやり方ってものがあったと思うんだけど!!


 「へえー。じゃそういうことにしといてあげる」


 なんか腹立つ!


 悔しいが何一つ反論できない私に、ミシェルは口が裂けてしまうんじゃないかってくらいにやにやしてる。すごい猫っぽい。…猫だけど。


 「もうっ!私自分の部屋に行くからっ!」


 こうなったら拗ねてやるわ。


 「そう?じゃあ部屋まで送るよ」


 あ、あれ?意外とあっさり行かせてくれちゃうの?引き留めてくれるかなーとか淡い期待しちゃったじゃないの。


 「ありがと」


 ミシェルが先に行って自分の部屋のドアを開けてくれる。


 意外と紳士なところもあるのね。


 ミシェルの部屋と私の部屋は向かい合わせになっているから、移動が楽だ。

 私が自分の部屋のドアを開けるのを見守ってから、ミシェルが口を開いた。


 「それじゃ、お休み藍琉。良い夢を」


 「お休み。また明日ね」


 ドアを閉めるまでミシェルが見ていてくれている。

 この世界の一日目は、どうやらミシェルに始まりミシェルに終わるみたい。



 ドアを閉めると、私はすぐにベッドに横になり今日一日の出来事を思い返しながら、すぐに寝てしまったのだった…。



第五幕は、黒甘です!

うまく文章が書けずに実は結構四苦八苦していたり。

情景描写って意外と難しいんですよねぇ;;

精進します


次幕はまだどうするかの予定がたっておりませんので読者の皆様をお待たせしてしまうかもしれません><

ゆったりと待っていていただけると嬉しいです。

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