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第四幕―お宅訪問、お邪魔します、帽子屋さん♪―

 アリス…いつからこの世界は歪んだのだろう?


 君がいなくなってから?


 幾度となく、来ては去る“アリス”が現れるようになってから?


 この世界に綻びが目立ち始め、“アリス”が来る間隔がどんどん短くなってきたのは、只の偶然なんだろうか…?






























†        †        †

 リーエンの家は、思ったより普通だった。

 お茶会のあの豪華さから考えると、リーエンの家と言うからにはかなり広く大きな豪邸なのかと思ってたんだけど。


 形こそ違えど大きさは小学校の校舎くらいで、外見は煉瓦造りの洒落た家って感じ。それでも十分大きくて豪華なんだけどね。囲いも門もちゃんとある。何だかとっても貴族っぽいお家。


 「リーエンはね、金持ちをひけらかすのが好きじゃないんだよ。本当ならこれの十倍くらい広い土地を管理するくらい楽勝なんだけどね。俺は自分が使うのに困らないだけあれば十分だって言って。気障だよねー」


 軽口を叩いているミシェルは、眩しい者を見るような瞳で、どの部屋を貸すか見て回っているリーエンの姿を見ていた。


 「すごいね。謙虚な姿勢って素敵だと思うよ」


 私もつられてリーエンに目を向ける。


 あれ?待てよ。何かさっきミシェルが言ってた言葉に引っかかった気が…。


 「…ねえ」


 「何ー?」


 「もしかしてもしかしなくてもリーエンってかなり金持ち?大富豪なの?」


 「だってリーエンは伯爵だよ?そりゃ金持ちでしょ」


 「は、伯爵!?」


 「あれ?俺言わなかったっけ?」


 「言ってない言ってない」


 「言ったと思ってた」


 しれっと言わないで下さい。私そんな話一言も聞いてませんから。


 私はため息をつく。


 「藍琉、ミシェル。この部屋とこの部屋でどう?向かい合わせ」


 いいタイミングで戻ってきたリーエンが部屋に案内してくれる。連れられてやってきたのは、一階の一番奥の向かいの二部屋だった。


 「藍琉はこの世界に来たばかりだし、一番時間を共にしているミシェルが近い方が安心して休めるよね?俺は二階の一番手前の部屋にいるから、何かあったらおいで」


 滅茶苦茶紳士だわ。気配り上手で細かいとこまでよく気づく、きっとリーエンは女性の憧れの的ね。世界中の男に爪の垢煎じて飲ませてやりたいくらい。


 「わかった。ありがとうリーエン」


 「部屋も決まったことだし、お風呂でも入って疲れを癒しておいでよ。バスタオルとか服とかもろもろはミシェルに脱衣所まで持って行かせるから」


 「えっ俺パシリ?」


 「泊まらせてあげてるんだからそのくらい当然だろ?それとも何?客人面でいるつもりだった?」


 「はぁ…そういえばキミってそういう性格だったよね」


 リーエンに羨望の眼差しを向けていた私は、彼の思わぬ発言に耳を疑った。


 あれ、今聞こえたのって幻聴?

 幻聴だよね?紳士なリーエンの口からドス黒発言なんて出るわけないよね?


 「あー、そうそう」


 私の様子に気づいたミシェルが屈んで私の耳元で小さく耳打ちする。


 「藍琉はリーエンのこと紳士だと思ってるみたいだけど、リーエンって優しいのは女性相手の時だけで、おまけにたまに腹ドス黒だから」


 私はミシェルの衝撃的発言に言葉を失った。っていうか石化した。


 嗚呼…世の中なんて残念なのかしら…。何だか悲しくなってきた。


 「じゃっ、藍琉。お風呂入ってきなよ。着替えはちゃんと用意しとくから」


 「うん。ありがとミシェル。お風呂入って立ち直ってくるわ」


 いろんな意味でどっと疲れが出てきたし、お風呂でリフレッシュね。


 風呂場に来た私は脱衣所で衣服を脱ぐ。脱衣所は暖房でもかかっているのか、少しの寒さも感じさせない。


 「やっぱりというか何というか…広い。脱衣所に何でこんないっぱい籠あんのよ!ここは銭湯かっ!?」


 ついつい一人ツッコミ。我ながら虚しいわ。こんなに広い中独りぼっちでこんなこと言ってるんだから虚しさ倍増ね。


 いつまでも脱衣所にいてもしょうがないし、私は風呂場に行く。


 「え…何コレ?風呂ってレベルじゃなくない?もう銭湯さえ通り越して温泉の域でしょ」


 大浴場だよ…露天風呂までついてるよ…。でも洋風っていうね。洋風の大浴場なのに妙にしっくりくるのはきっと設計とかデザインした人の技量ね。感心するばかりだわ。


 「お風呂最高!露天風呂神ー!!」


 謎の叫びをあげて風呂に入る私。


 実は露天風呂大好きだったりする私。やっぱ旅の後にはお風呂に限るわね。…ん?旅の後じゃなくてまだ始まったばっかり?でもこれで一日の疲れはぬぐい去れるわ!どうでもいいけど私、露天風呂って日本人の心だと思うのよ。この解放感!たまらないっ!!


 気持ちよく湯船に浸かる。

 ふと視線をずらすと、少し離れたところに…目隠しをしたミシェルの顔!?


 「っ!っぎゃあぁあぁあぁぁ!!!!」


 私は驚きのあまり自分でもびっくりするくらいの叫び声をあげていた。

 ミシェルはミシェルでかなり驚いたようで、びくっと猫の耳を立てた。…やっぱ普通の人間より耳良いのかしら?ちょっと気になる。


 「ぅわっ!ちょっと、いきなり大声出さないでよ。藍琉のせいで耳痛くなったんだけど」


 「ごっ、ごめんミシェル」


 「ホントだよ」


 ミシェルったらご機嫌ナナメ。

 目隠ししてるから表情はよく見えないけれど、声色に苛立ちが含まれているのがよぉぉぉぉーーくわかる。


 「って!ちょっと待ってよ!今のは確実に私のせいだけじゃないよね!?突然ミシェルが現れたんだもの!しかもあろうことか頭だけ!!」


 そう。問題はそこ。何で頭の部分しかないの!?どんな手品よ!別に私今手品見たい訳じゃないんだけど!


 「体は必要ないし。それにこんなところに体まで出しちゃったら後でリーエンに誤解を受けて大変なことになりそうだし。俺この家の出入り禁止になりたくないもん」


 「ああ、そういうこと」


 納得したらしたでいろいろ問題ありそうだけど、何故か妙に納得できた。リーエン怖いもんね。


 「そんなことより、俺藍琉に話があって来たんだよ」


 頭部分しかないのをそんなことで済ませちゃうミシェルってやっぱりどこか変よね。


 と心の中で呟いて、私は目隠しをしている為見えないミシェルの目を見た。


 「話って?」


 「お風呂あがったら俺の部屋で待っててくれない?後でゆっくり話がしたいんだよね。白兎に会う前に大事な事を話しておかないといけないから」


 「わかった」


 「んじゃ俺戻るねー。ごゆっくりー」


 私が返事をしたのをしっかり確認してから、そう言い残してミシェルは消えた。

 まるで最初からミシェルなんていなかったかのように、辺りは静けさを取り戻す。

 その静けさを少しばかり寂しく思いながら藍琉はできるだけ急いで入浴を済ませた。






―コンコンッ


 風呂上がりの藍琉は用意された服を着てそのままミシェルの部屋に直行した。


 「はい」


 部屋のドアをノックすると、部屋の中からミシェルの声が返ってくる。


 はい、って返事するなんて、ミシェルって律儀なのかしら。ちょっと意外かも。


 「えっと…藍琉です」


 他人の部屋というのは妙にドキドキするものだ。

 藍琉の声も心なしか震えているようだった。


 「入ってー」


 しかしそんな事など全く気にせず部屋の中からミシェルは緊張感の無い間延びした口調で言った。


 私はガチャリとドアノブを回して部屋に入る。

 何でかやたら心拍数が上がった。


 「いらっしゃい、藍琉」


 ミシェルはベッドの上に座ったままこちらを見て、機嫌良く笑った。


 あ。笑うと結構猫っぽいかも。新発見。


 「俺、今からお風呂に行ってくるからちょっとその辺でくつろいでて」


 「ええっ!?」


 突然の発言に驚く私を置き去りにして、振り返りもせずにさっさとミシェルは部屋を出ていってしまった。


 えっと…まさかの放置プレイ?

 呼び出しておいてそれは酷くないか?

 てか私まだミシェルの部屋に来て一分と経ってないんですけど。



 ・・・どうしよう。
















 困惑する中、結局私は15分もの間ミシェルの部屋で一人で待たされる羽目になるのであった。







第四幕は、帽子屋邸宅内でのちょっとした休息タイムで御座います☆


次回予告ですが、

次回はちょっと黒くなる予定です。

藍琉とミシェルによる黒甘?です。まぁ黒が大半で甘はほっとんどないですけど((笑

それと、次回は少し長くなるかもしれません。


それではまた、次幕でお会いしましょう♪


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