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第二幕―私と猫と紳士―


一体どこまで続いてるのよこの森…。

ずーーーっと歩きっぱなしなのにさっきから全っ然城なんて見えないんですけど?


 「ミシェルさーん」


 「ん?何藍琉、どうかした?」


 ミシェルは私を見ないで聞き返す。立ち止まってもくれないあたり鬼だ。


 「どうかした?じゃないわよ!城の頭も見えてこないんですけどっ!?」


 私はミシェルを睨みながら抗議する。


 「仕方ないじゃない。遠いんだから」


 「遠いって…一体後どれくらいで着くの?」


 一時間くらいで着くかしら?もう流石にこれ以上は歩けないかも・・・。

 自転車使ってばかりだったから、歩くのがこんなに疲れるなんて思ったの久しぶり。


 「んー…」


 歩きながらチェシャ猫ミシェルは唸る。

 たまにぴくぴく動く耳が何だか可愛らしい。ってそんな悠長なこと言ってられないんだけどね。


 「ちゃんと歩いたことないから正確なところはわかんないけど…5時間くらい?」


 「そんなに歩けるかこのドアホ猫っ!!」


 ツッコミはタイミングが重要よっ!…じゃなかった。このアホ猫ってば乙女にどんだけ歩かせる気よ?


 「えー」


 「えーじゃないっ!常識的に考えて乙女がそんなに歩けるわけないでしょ!」


 何でそんな不満げな顔されなきゃなんないのよ。不満があるのはこっちだから!


 「そんなに怒んないでよ藍琉。俺、消えないでちゃんと一緒に歩いてあげてるじゃん」


 確かにそうだけどね。もしかして前に一緒にいてくれなかった事気にしてるのかしら?


 「それとこれとは話が別」


 でも今の問題は一緒に居る居ないじゃないでしょ。悪いけどこれだけはいくらミシェル相手でも譲れないわ。


 「うーん。じゃあさ藍琉、お姫様だっことおんぶだったらどっちが好き?あ、俵担ぎでもいいけど」


 はい?まさかそれらのどれかをしろと?


 「どれも嫌なんだけど…」


 当然の私の答え。

 ミシェルはにんまり顔をする。


 「じゃあ5時間歩く?」


 「お姫様だっこで!」


 ミシェルめ…初めから選択権ないじゃない。くっそー。余裕感じるあのにやにや笑い…腹立つわ。


 「しっかり掴まっててね。落ちても責任とらないから」


 「ええっ!?ちょっと!落とさないでよっ!?私まだ死にたくない!」


 「だぁーいじょうぶ。暴れなきゃ落ちないって」


 信用できないんだけど!!まさかの主人公死亡なんてことにならないでよ!?そんなことが万が一あったら呪ってやるんだから!


 抱きかかえられた私はミシェルの首にぎゅっとしがみつく。

 ミシェルはぐっと足に力を入れると、そのまま


 「とっ、飛んだぁぁぁぁぁぁ!」


 私は驚きのあまり叫んだ。


 何?何これ?かなり軽やかに飛んだよね今?ここ既に地上5メートルは軽く越えちゃうと思うよ?


 「違うよ藍琉。飛んだんじゃなくて、跳んだのさ」


 ミシェルは木の枝を巧みに利用しとんとん木々の間を渡っていく。その素早さといったらさながらジェット機。ミシェルは何だかとても楽しそうだ。・・・私とてもじゃないけど笑ってらんないんだけど。この情況でミシェルの様子を見れただけでも尊敬に値するよね?


 常識外れ過ぎでしょ!…いや世界違うみたいだし私の世界の常識が通用しないってだけかも。






 そのまま30分程すると、段々ぼんやりと城が見え隠れし始めた。このくらい経つと流石に私もこの状況に慣れ始め、下の景色をちらちら見られるだけの余裕ができるようになった。…とは言ってもミシェルが余りに高速すぎるから、下を見ても緑の何かがあることくらいしか分からないのだけれど。


 「…あ。そういえば言い忘れてたことがあった」


 軽快なリズムで木々を渡りながら、不意にミシェルが口を開く。


 長らく会話が無かったからこんなに近いのにミシェルの存在忘れてたわ。ごめん。


 ミシェルはそんな私のかなり軽い懺悔ざんげを知ってか知らずか、そのまま続ける。


 「俺、城の前までしか案内しないから。城の前まで藍琉を連れていったら消えるんで後は自分で何とかしてね」


 「ええっ!?何て無責任な!私一人じゃこの国の礼儀作法なんて分からないしどうしたらいいのか分からないわ!」


 私は一人になりたくなくてミシェルを見上げて必死に抗議するけど、ミシェルはにやにやと笑うだけ。まぁチェシャ猫って呼ばれるくらいだしね。


 「いいかい藍琉、忘れてはいけないよ?これは君の旅であって、決して俺の旅じゃない。俺は確かに君と関わり君の運命と交わるけれど、旅をするのはあくまで君自身。あんまり俺を頼ってばかりは良くないね」


 咎めるような口調じゃない。ミシェルは笑ってる。でも諭された私は急にしゅんとなってしまった。


 「ほらほら、落ち込まないで…おっと」


 ふとミシェルが言葉を止めた。今一瞬何かが私達の横を掠めてミシェルの体が不自然な方向に傾いたのは気のせい・・・?

 ミシェルがあれは…と呟く。訝しんでミシェルの目線の先を目を凝らして見てみると、黒い人影のようなものが映った。


 「藍琉、城へ行くのはちょっと延期にさせて」


 「え?」


 「大丈夫だって。白兎は逃げないし」


 どうしたんだろミシェル。そんでもってやっぱり私に拒否権は無いわけね?


 ミシェルは木と木を上手く渡りながら、トントンとリズミカルに下に降りていく。


 「はい着いた」


 ミシェルは壊れものでも扱うかのように丁寧に私を地面におろした。

 服をぱんぱん払って前を見ると、見知らぬ紳士がこちらを見ていた。


 「Nice vous rencontrer,mademoiselle<初めまして、お嬢さん>」


 すっと慣れた感じで手を差し出される。

 私は戸惑いながらも手を出した。


 「えっと…初めまして」


 私は見知らぬ紳士と握手する。

 紳士…とはいっても顔立ちは私と同じくらい?まだ幼さの残る顔立ちで、ミシェルよりは年下に見える。


 漆黒の髪に紫眼。タキシードを上手に着こなしていて、誰から見ても紳士な目の前の青年。でも私の二つの目がとらえていたのはそんな容姿では無かった。

 ―大きな黒いシルクハット。その青年紳士は、真っ赤な大輪の薔薇の花と、細長い青色の二枚の鳥の羽など装飾が派手な帽子を被っていた。


 「リーエン、これ、返すよ」


 私の脇にいたミシェルが何かを紳士に投げる。

 それはシュッと小気味良い音を立て紳士に向かって飛んでいった。


 「ああ、わざわざどうも」


 いつ捕ったのかしら・・・?私には彼の紳士の腕が動いたようには見えなかった。

 けれどきっと動いていたのだろう。彼の手にはいつの間にかダーツが一本収まっていた。


 ・・・一体どんな早業よ。


 「俺と藍琉に当たったらどう責任とってくれるのさ。いきなり飛んできて俺かなり焦ったんだけど」


 ぶーぶー文句を言うミシェル。しかし紳士は全く意に介さず。


 ってかさっき何か掠めたと思ったらあのダーツだったの!?ちょっと!当たったら危ないじゃない!!


 「だってそうでもしないとミシェルは俺の存在に気づきもせずにそのまま通り過ぎていっただろ?それに例え本気で当てようと思って投げたってどうせ当たらないじゃないか。現に今まで一度もミシェルに俺のダーツが命中したことはないし」


 ミシェルって意外とすごいの?でも確かに言われてみると飄々とした様子で避けてそう・・・。


 「俺がキミのダーツを避けられなかったらこの世界は終わりでしょ」


 ねえちょっとそれは流石に失礼だと思うけど!


 「もういいからミシェルは少し黙っててよ。俺今この子とお話の途中なの」


 ちょっと苛立った様子でぴしゃりと言い放つ紳士。私も今のはミシェルが悪いと思う。


 気を取り直して紳士は私に向き直り再び口を開いた。


 「自己紹介が遅れてごめんね。さっきミシェルが言った通り、俺はリーエン。シャプリエ・サジェッセ<イカレ帽子屋>なんて呼ぶ住人もいる。“アリス”、君の名前は?」


 優しい眼差しを向けられ私は不覚にもドキッとしてしまう。


 「私は藍琉。アリスじゃないわ」


 「藍琉、よろしくね。唐突だけど、ヴィオレ・ミシェル<殺戮の紫猫>…チェシャ猫からこの世界のこととかもう色々聞いてるのかな?」


 「俺は何も言ってないよ。面倒くさいし。それに教えるのは“帽子屋”の役割でしょ?」


 私が答えるより早く、ミシェルが言った。


 それにしたってさ、面倒くさいは酷くない?正直なのはいいことだけど、正直すぎて逆に腹立つぞ。


 「…はぁ。相変わらず面倒くさがりだな、君は。ずっと藍琉と一緒にいたならある程度教えておいてくれれば良かっただろ」


 帽子屋―リーエンが大きなため息をつく。


 「立ち話も何だし、今からお茶会においで、藍琉。あとミシェルも」


 えっと…。話の流れにいまいちついていけてないよ私。何このものっすごい取り残されてる感。


 「ほら、行くよ藍琉」


 ミシェルが私に手を差し出す。多少の疑問を持ちつつも私は素直にその手をとって歩きだした。


 だって二人とも歩くの早いしさ。置いて行かれていつの間にか迷子になってるなんてごめんだもの。


 けれどそんな心配は無用だったようだ。道はずっと一本道で、つきあたりを曲がったらそこはもうお茶会の会場だったのだから。


 「わ・・・あ」


 思わず感嘆の声が漏れる。


 目の前に広がるのは、あまりに豪華な光景。

 メリーゴーランドみたいな屋根に、美しく磨かれた真っ白な大理石の床。中央には10人は軽く座れるだろう大きなテーブル。それだけでも十分びっくりだというのに、テーブルには真っ赤なテーブルクロスに高級感溢れるティーポットにカップ、おいしそうなお菓子が沢山並んでいる。


 「さ、藍琉。座って」


 リーエンが椅子を引いてくれる。うわ…椅子まで高級だよ。どんだけ金持ちなの

よこの人…。


 一般庶民の私にははっきり言ってかなり気がひけるけれど、椅子引いてもらっちゃってるし、とりあえず促されるままに私は椅子に腰掛けた。

 そしてミシェルとリーエンも座ったところで、お茶会っぽい会合が始まった。













 


 



 


 






























































 


 


 

















こんばんは、朱音です♪

小説を執筆してるといつの間にか日付が変わりそうになってるのは何故でしょうか?


さてさて今回、新キャラのご登場です☆

予想通りの人が出てきちゃいましたか?

帽子屋のシルクハットのデザインは、とある漫画のドラマCDから案をもらっちゃいました^^その漫画もアリスがモチーフになっているところが多々見受けられるのですっごい好きな漫画です♪


次回はそんな帽子屋君と、藍琉、ミシェルとの楽しく愉快な(?)掛け合いですv

それでは、また次幕でお会いしましょう>w<ノシ

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