プロローグ―やってきちゃった!!―
アリス
アリス 僕らのアリス
君はもうこの世界にはいない
何処を探してももう いない
けれど物語は終わらない 終わりはしない
君ではない誰かへと、受け継がれていく
僕らがいつか 繋がれるまで―…
† † †
嗚呼、これは一体何のroman<絵空事>なんだろうね?
うんざりしながら私はもう一度目を擦る。
うん、分かってたよ?何回目を擦っても、ほっぺたつねっても、同じ物しか目に入らないことくらい。
だけどさ?コレはないだろ。いくら何でも、流石にコレはないだろ。
私は兎に角混乱していた。
だって、ねぇ?兎の耳の生えた明らかおかしな人が走ってたから、興味本位で追いかけてみたら、ズボッて穴に落ちて、目が覚めたら薔薇の花畑だよ?びっくりするでしょ普通。
あ、紹介が遅れて申し訳ない。
私は藍琉<アイル>。女の子っぽくないうえ日本人離れした名前だってよく言われるけど、当然よ。だってフランス語のaile<翼>からとった名前らしいもん。まあそれでも歴とした純日本人なのは確かだから。覚えておいて。ここ重要!
ちなみに名字はまだ秘密。特に秘密にする意味なんてないけど、そんなの気分に決まってるでしょっ!
何だか大分脱線しちゃった感が否めないけど、とりえず今私は危機的状況に陥っている。
「一体何処なのよ此処…」
頭を抱える私。
何かモロ異世界ですとかそんな感じっぽいんですけど…
てか考えても答えなんて出ないんじゃないかしら。
だったら私悩む意味無くない?
「何か…探検に来たみたいでわくわくするっ!こうなったら隅々まで探索してや
ろうじゃないか。わひょーい!」
ネガティブになんかなってやんないんだからっ!私が落ち込んでると思ってた人、残念ね!
意気揚々と右手を上げて、いざ行かんと張り切って一歩踏み出した丁度その瞬間だった。何者かの声が降ってきたのは。
「予想に反して随分元気な女の子だね。びっくりだよ」
言ってる割には声は抑揚が無い。絶対驚いてなんかいないだろ。
ってか誰よ?人が折角ドッキドキ☆の探検に出ようとしてたのに出鼻挫くような
ことしやがって。
私は辺りを見回した。が、人影は見あたらない。
「何処見てるのさ、お嬢さん」
こっちこっち、と聞こえる方を見上げる。
太いしっかりとした木の枝の上に人がいた。
「ええっ!?何で木の上?」
私が叫ぶと、つっこむ所はそこなんだ?と愉快そうな声が返ってくる。
「Bonjour、mademoiselle<こんにちは、お嬢さん>」
木の上の人は、楽しそう、というより愉快そうにそう言って、木から優雅に飛び降りた。
「!!?」
ちょっと待ってよ!かなりの高さだと思うよ?私的に!下手に着地したら骨バッキバキだって!てか最悪打ち所悪かったら死ぬって!!
私は反射的にぎゅっときつく目を閉じる。
しかし聞こえたのはベシャッという音ではなく、トンッという軽やかな音。
私は恐る恐る目を開けた。
「あはは、驚いたー?大丈夫、俺このくらいじゃ死なないし、むしろ死ねないから」
低く、甘い声色。
目の前に降りたった人の風姿を、私はまじまじと見た。
まず目に留まったのは目を奪われるような美しい紫。派手な感じがするのに、それでいて上品な、紫の髪。
染めた…って感じじゃないわね。もしかして地毛?
「地毛だよ」
「うっひゃあぁ!?」
今!今、明らか心読んだだろ!!
「違うよ?顔に書いてあっただけ」
何で私の心ん中丸見えなんだぁぁぁぁ!
慌てふためく私の様子を見て、その人物はにやにやと、そう、にやにやと、月を思い出させる黄金の瞳を細めて面白そうに笑っている。
ん…?……あれ!!?
私は私を見つめる人物に、ありえない物を見た。
「み、耳に…尻尾!?」
「気づくの遅くない?」
すかさずツッコミを入れられる。だってしょうがないじゃない。髪の毛にばっかり気を取られてたんだから。
ピンクに近い紫とピンクのしま模様。はっきり言ってかなり派手。コスプレかと思って見ていると、う、動いたっ!!
「え!えっ?う、動っ!?何で!?」
「だって俺、猫だもん」
さらりと言われ、耳を疑う。
「猫ぉ!?」
「そ。俺はチェシャ猫。ミシェルって呼んでよ」
チェシャ猫―ミシェルは藍琉の前に跪き、挨拶代わりにその手をとって口づけを落とした。
そういった事に全く馴れていない藍琉は狼狽える。
名乗られたんだから…私も名乗るべきよね?なんかめっちゃ言えって言ってるような視線感じるし…。
「私は藍琉」
「aile?素敵な名前だね。どこまでも飛んでいけそうだ」
「まぁあながち間違った解釈でもないけど…残念ながらフランス語じゃなく私の名前は日本語よ。まぁフランス語のaileからとってはいるけど」
「ふぅん。いいね。俺なんてmassacre<殺戮>からとった名前さ」
え?ここつっこむべき?つっこんでいいの?
困っている私を見かねたのか、ミシェルは口を開いた。
「そういえば藍琉、白兎を追いかけなくていいの?さっきあっちへ向かったよ」
「白兎・・・?あっ!そういえば!すっかり忘れていたわ」
このままチェシャ猫を放置していいのかと、ちらりとミシェルを見ると、ミシェルは口を半月形にして、胡散臭い笑みを浮かべた。
「いってらっしゃい、藍琉」
そう言い残すと、チェシャ猫は消えた。
「えっ!消えた!?」
かかか神隠しっ!?いやでもいってらっしゃいって言ってたし…まあいっか。
私は白兎が向かったという方へ足を向け走り出す。
なんだかとても、不思議な気分だった…。
最初にいた木の上で、過ぎ去っていく藍琉の背中を見送り、チェシャ猫は面白そうに笑った。
「Bienvenu au pays des merveilles<ようこそ、不思議の国へ>」
そして今度こそ、消えたのだった。
皆様こんばんは☆朱音です^^
大分前から書いていたアリス小説を、掲載する事にいたしました♪今年は受験生ですので更新が遅いと想われますが、何卒よろしくお願い致しますヽ(○`・v・)人(・v・´●)ノ
↓ブログ、始めました↓
http://mblg.tv/crimsonbird/