表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

14話 掴みとる信仰

「……早く、終わらせましょう」

「すまねぇな。まさか、こんな形で手合せすることになるとは思わなかった。悪いが、手加減はできねぇぞ」


 おれと、ガイム。二人お互いに剣を構え、対峙する。

 それは、共に実力がある者同士の、決闘のそれに他ならなかった。


「……え? あれ本当にアキラか? 剣なんて見るだけで震えてたはずだよな?」

「いつのまに克服したんだ?」

「わからねえが、ガイムさんは戦争を生き残った傭兵なんだろ? アキラが勝てるわけない」


 村人たちが口々に言う。

 村に来てからのおれしかしらない村人にとっては、今のこの現状はさぞや意外な事だろう。


「……だとよ」

「まあ……ですよね」

「キャハハハハハ! じゃろうの~。精々驚かせてやればよい!」


 今までのやり取りをずっと黙ってみていた精霊少女が言った。心底楽しそうに見える。自分の主がちゃんと戦えたことが、嬉しいかったのかもしれない。

 ちなみに今、精霊少女は浮いていない。一応、村人の目線を気にしてくれたのか、飛ばずにいてくれた様だ。

 それから数秒の時間が過ぎる。おれ達の緊張は、周囲のどよめきを吸収し、次第に静寂へと変わっていく。

 張りつめた空気が、広場を支配した。


 おれはまっすぐとガイムを見つめ、集中しながら、緊張の音を聴いていた。

 誰かの息を飲む音が聞こえる。

 とても長い時間に感じる。

 内戦を生き抜いた傭兵は、油断できる相手ではない。

 張り合った気は、互いの隙を見逃さない。

 一瞬の綻びが合図となるだろう。

 そしてこういった場合、口火を切るのは大抵、空気の読めないヤツである。


「何をしているのです傭兵! そんな小僧、さっさと倒してしまいなさい!!」

「――ッ!!」


 ペストロが叫ぶ。場の空気が乱れた。一歩を踏み込んだのは同時。

 瞬時に互いに間合いを詰め、一撃を繰り出す。ガキィンと剣同士がぶつかり、火花が散る。ガイムはすぐさま体勢を立て直し、次の一撃を入れる。おれはそれも剣で防ぐ。その次も、その次も、おれは剣で一撃防ぐことができた。


「やるな……! アキラ!」

「ガイムさんこそ……!」


 剣越しに挨拶を交わす。数回の打ち合いの後、二人は一度離れ、間合いを取った。


「……気に入らねえな。遊びやがって」

「……そんなことは」


 体制を整えながら、ガイムが不満そうに言葉を吐いた。さっきのラミアとの戦いを見ての感想の様だ。


「ガイムさんの攻撃を……防いだ……?」

「え、アレ、本当にアキラか……?」


 あっけにとられた村人たちの口は、例外なくぽかんと空いている。

 村に来ていた商人も、ペストロすらも空いていた。

 精霊少女だけが、とてもとても自慢げに鼻をみょーんと伸ばしていた。


「……仕方ねえ。様子見は終わりだ。本気で行くぞ」

「……」


 それは、ものすごい殺気だった。周りで見ていただけの村人達ですら鳥肌が立つ。

 おれは何も答えず、ただ重心を下げ、攻撃に備えることで返事をした。

 これで、勝負が決まる。

 踏み込むためガイムの重心が動き、止まったかと思えば、次の瞬間にはガイムの本気の一撃がおれに降りかかっていた。

 しかしその剣閃を瞬時に見切り、切先がおれに到達するよりも圧倒的に速く、ガイムの懐へ入り込んで高速の横なぎを繰り出した。

 ガイムも咄嗟に防御姿勢に切り替え、剣で受けることに成功するも。

 キン! という高音がその場に響いた。

 その結果に、おれは一言、言葉を吐く。


「俺の勝ち……ですね」

「やっぱムカつくぜ、小僧」


 ガイムが見慣れたはず剣は、切っ先を失いその姿を変え。

 わずかに回転しながら、十秒に届くのではないかという対空時間を経て。

 ドスッ……! と、土の地面へと突き刺さった。


「それまで! ……決着です、よろしいですね? 司祭様」


 すかさずジャンがその場を取り仕切る。

 ペストロはジャンの言葉に返事をするでもなく、ただ悔しそうに歯を食いしばり、顔をヒクつかせていた。


「これを以って、正式に祠の取り壊しは中止とします。これは領主としての命令です。この村は、これまで通り、女神アレナと共に、祠の女神を祀り続けます!」

「お……のれ……! 村を挙げて邪教徒となるというつもりですか……!」

「勘違いされては困りますね司祭殿。街を護って見せた英雄は、銅像になり、崇められるのはよくある事ではありませんか」

「何をぬけぬけと……! ラミアを崇めて、ただで済むと思っているのか……!」

「ふむ……? 確かに、この村は、ラミアという女性の英雄が、身を挺して隣国の侵攻から護った村です。それが何か?」

「~~~~~っ!! 減らず口を……! お、覚えてなさいよ!!」


 ひょうひょうと言葉を返すジャンに、ペストロは怒りで耳まで真っ赤にしながら、広場の教会の中へと引っ込んで行った。

 恐らく、荷物を纏めに行ったのだ。


「さてみなさん。せっかくの式典です。……そうだ。この式典も、名を変えねばなりませんね。元々は我々が長い歴史の中で、女神様への信仰を疎かにしてしまったことが原因。どうでしょう? 今日のこの日を、蛇神様の守護に感謝を捧げる日とし、村の祭日とするのは」


 ジャンは両手を広げ、村人達に聞く。その答えはもう、わかりきっている。


「仕方ないねぇ。ジャンさんが言うんじゃ、そうするほかないねぇ」

「いいぞー領主様ー!」

「蛇神祭だ! こりゃあ改めて準備しないとな!」


 村人たちは一斉に動き出し、再び式典の準備に新たな熱を帯びる。


 ……全く。都合の良い村人達だ。

 おれは、どこか嬉しそうな人々を見ながら、そんなことを思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ