8話 タロウは幽霊魔法使い≪模擬試験⑻≫
ぜひ、最後まで〜、見てって〜下さい⤴︎〜!!(オペラ調)
昼の時間帯になると太陽は南に位置するようになり、空は鼠色から紺碧の蒼穹のようにカラカラと晴れていた。昼食はいつも通りに変わらず、本校舎の東の一階に位置する食堂はいつもよりも賑やかに食堂内を騒がせていた。模擬戦の疲れが溜まったタロウのクラス、1-Cは他のクラスと比べても大きく食べている。が、やはり貴族が大半を占めているということなので自らのナフキンを制服の襟の上につけてゆっくりと食べていた。しかもどこかのレストランのように手を少しだけ上げて食堂のおばさんを呼びつけている。食券を買って取りに行けばいいだけのことなのに、わざわざ取りに行かないのは「平民くさい」というだけの理由だった。
毎日毎日一人で食べているタロウは今日だけ一人ではなかった。いつも誰もいない端っこの方の席に一人だけで座り空気になるように一生懸命食べていたが、今日は、今日は一緒に食べる人がいた。ザウティスだ。ザウティスがタロウの向かい席に座っていた。しかもいつもみたいに取り巻きと品のない笑い方で食堂のおばさんを呼びつけているザウティスはここにいなく、まさに貴族という感じの振る舞いをタロウにしながら二人で食券を買いに行っていた。取り巻きは後から来たらしく、ザウティスを探していたそうだが端にいるタロウ達に結局気づかずに取り巻き達だけで食べていた。
タロウは海鮮丼、ザウティスは贅沢にも何かのステーキを食べていた。この国には箸という文化が無くスプーンですくって食べていたが、取れないものがあったらしく苦戦していた。まるでハムスターかのように頬張って食べているタロウを見てザウティスはなんだか面白くて口を隠して笑っていた。タロウは笑うなとでも言うように睨みつけているが、だんだんとザウティスのステーキへ視線を送らせていた。ザウティスがそれに気づくと、一口だけ切ってタロウの口へと運んでやった。険悪な顔をしていたタロウがそのステーキを咀嚼していくとだんだんと表情を緩めていくのがわかる。それにまたザウティスが笑っていた。
「3回戦、一番、タロウ対マウン。」
タロウは先ほどから顔をしかめていた。手には黒く光るクラリネットを持っている。顔をしかめている理由は何度同じ曲を吹いてもアサヒが来ないのだ。1回戦、2回戦ときて3回戦も来ると勝手に予想していたがやはりあちらにも何か都合があるのか、何をしてもアサヒはこななかった。ただの銃を使って戦うとなれば勝ち目は薄い。本来銃は近距離戦闘のものではなく、中距離、長距離専門なので特に対人となれば銃を使った対戦だなんて秒で負けてしまうだろう。
精霊魔法という手もあるがシェイドを使って魔法を発動したことはなく、上手くいかなければ加減できずに自分自身を殺してしまう可能性も出てきてしまうのでできるだけ使いたくはないが、辞退するという手もある。だがあまりその手は使いたくない。ザウティスとココの分を踏みにじるわけには行かず、辞退するという考えが出た瞬間、自分はバカだと思った。だが何もできずに取り巻きにやられるのもイラつくので自分の体なんて気にせずに行こうと思った。
「始めッ!!」
その言葉に取り巻きことマウンがタロウに飛びかかってきた。タロウは慌てる。マウンの手にはしっかりと握りしめられた剣があり、それをタロウに向けて振りかけた。魔法を発動することが出来なかったタロウは咄嗟に地面を強く蹴ってその剣を避けた。アニメとかゲームにみたいにウサギのように跳ねて避けたのではなく、体の向きをずらして相手の間合いから抜けるように後ろへと飛んで見せたのだ。マウンは舌打ちをすると剣の先を真っ直ぐタロウに向けながら片方の腕を後ろで組んで前のめりになってから地面を強く蹴り、間合いに入るとその剣先でタロウを刺そうと何回も連続してタロウに刺そうとしていた。タロウもしびれを切らし、なんとか攻撃をしようと思ってクラリネットに力を入れると形が変形した。銃では意味がないとちらりとクラリネットを見たが、その形は銃ではなく木の杖となっていた。
(っえ〜、魔法使えってこと〜?)
ついに剣がタロウのほおの皮を切り裂くと血が出てきたのか制服に赤い染みができてしまった。そこでマウンが連続の突きを止めると、今度はタロウの致命傷の部位を斬りつけようとかかってくる。しびれを切らして必死の思いで涼しい顔したシェイドに向かって話しかけた。
「シェイド!!力を貸してくれ!!」
『……………。』
「シェイド!!」
タロウが必死に呼びかけるがその気持ちはシェイドの心には届かず、足と腕を組んで何か遠いところを見ていた。呼びかけていたことに気を取られ次々に剣がタロウの体を切り裂いていった。切り裂けられた箇所から血が流れ出ていく。出血が激しくなり、体がふらつき始めるとタロウの体が力が入りずらいことに気づいて自然と後ずさりをしていた。ふ、とマウンを見ると対戦前に見たにやにやした顔よりも、もっと悪義のある笑顔をタロウにゆっくりと送っていた。頭の思考も回らないまま、このままでは危ないと判断し最後にもう一度だけシェイドに問いた。
「シェイド!!」
するとシェイドの口が動く。それはそれは重たそうにして、何か冷たく突き放そうとした気持ちがその言葉にはこもっていた。
『悪いが、今のお前には力を貸すことができない。』
その言葉にタロウは絶句する。アサヒがいなければシェイドも力を貸してくれない。今使えるのは幽霊魔法のみ。しかも陸上戦での幽霊魔法は銃を使ったとしても圧倒的に不利。地上では獲物を捕らえるために銃で相手を狙う時間が圧倒的に少ないので、銃なんて使い物にならない。シェイドとあってからジャックに教えてもらった幽霊魔法の中で一番対人に向いている魔法があるのだが、対象のものとゼロ距離出ないとダメなのだ。出来るだけ使いたくはないのだが、今のままではそれを使わなければ勝てる見込みがない。ただ勝ちたいというだけの願いだが、特にこの取り巻きことマウンに今負けたというのならば再び虐げられる可能性があるのだ。できるのならそんなことを避けたい。そう、自分で願うのならば、自分のやりたいように進もう、タロウにとってはこの模擬戦は自分の学園生活の一つの天気だったことには変わりはない。杖をゆっくり地面に置く。リスクのある幽霊魔法でもどんどん使ってやろうじゃないか、とタロウは握りこぶしを作った。
マウンが悪義のある笑みを浮かべながらタロウに剣で突きをし始め、勝ちを確信したかのようにいろいろな言葉で煽り始めた。それに無反応のタロウが面白くないのか、たまに舌打ちをしている。そしてタロウが避けられないと思われた攻撃にマウンが気づくと、思い切り力を入れ、満遍の悪技に満ちた笑みでタロウに最後の攻撃をした。すると驚いたことにタロウはその剣を自分の腹寸前で自らの手でしっかりと握りしめた。血が流れる。
「うお!?ちょ、離せよ!!平民ごときの汚いタロウが貴族である俺様の剣を素手で触んなよ!!」
その言葉にイラつきと覚えながら、タロウは自分に向かって魔法をかける。
『ドッペルゲンガー』
自分の中に何かが燃え上がると感じると剣を掴んだままマウンの胸に手をかざし、次の術式を唱える。
『ボディ・ポゼッション!!』
普通この魔法を使ったのならばタロウは倒れるはずなのだが、先ほど自分にかけた魔法のおかげで自分の分身の魂が体にいてくれているので倒れていない。そしてマウンに憑依したタロウは記憶を見るわけではなく、マウンだけにしかできないことをやった。
マウンの体を動かせるようになると慣れない体の手をゆっくりと上げた。そして忌々しいこの口で今のタロウ自身にとって一番嬉しいことをこの口で言った。
「辞退します。」
そのマウンの声に皆が驚いた。
「お、おい………マウン、どうしちまったんだよ。お前、もう少しで倒せるとこだったのに……、何してんだよ。」
取り巻きは心配した口調で言ったのだが、マウンの体に入ったタロウの魂はニヤリと悪いことを考えついたかのように強い口調で、笑った口調で伝えた。
「ああ!?なんだよ!?俺が決めたことなんだから別にいいじゃねえかよ!!お前らさあ、前々から思ってたんだけどさあ、うざったいんだよ!!ブーッス!!」
「はあん!?」
ついにやったぞ、とタロウは心の中でガッツポーズした。取り巻き達に一人だけでも反抗したら、その者だけでも自分の恐ろしさを知らしめることができる。なのでこの場を借りて実行してみた。タロウの分身の入ったタロウの体(元最強竜騎兵の体)に合図を送ると、魔法を解除して自分の体に戻っていった。いまだに魂の眠っているマウンはもちろん体のいうことを聞くことができずに倒れこんでしまった。
「しょ、勝者、タロウ!!」
皆はもう驚く気力も見せず、みんな口を揃えて思った。
(あのクソタロウってそんなに強かったっけ)
それは死んだ魚のような目をしてタロウを見ていた。
最後まで見てってくださり、ありがとうございますッ!!よければ感想、ブクマを。できれば評価を………高望みですね。最近アニメを見ています。面白いですね。はい。次回もよろしくお願いしま、すうううううううううううう!!!!'(ロック調)