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花鳥風月物語  作者: 藤波真夏
第一章
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四話 僕だからできること

四話 僕だからできること

 宮廷。

 仕事を終えて一息ついていた。部屋に向かうと話し声が聞こえて来る。龍が入ると、夕飯を囲んで茜と朱鷺のように薄桃の装束に銀の髪飾り、口には真っ赤な紅を引いた女性が座っていた。

 そしてもう一人、男性が座っていた。薄青の装束だ。そして長い睫毛に印象的な目。そして指先まで全神経を集中させたように清廉で、美しい所作。男とは思えないほどの。

「龍兄上。ご苦労様です」

「私が夕食を共にとお誘いしたのです」

 男性と女性は龍に向かって頭を下げ、茜は二人のことを龍に話した。龍はこの男女を知らないわけがなかった。

「驚いた。夕弦ユヅル若葉ワカバ殿か」

 茜が夕食に呼んだ夕弦は本名・ソン夕弦ユヅル。龍の弟で三男にあたる。隣にいるのが本名・若葉ワカバ。彼女は夕弦の妻にあたる。夫婦揃って茜の誘いに応えてくれたのだった。

「龍兄上が国王となってから食事を共にしておりませんでしたので」

「そうだったな。待たせて悪かった」

「いえいえ。お気になさらず」

 そして夕食が始まった。目の前には豪華なご馳走が並んでいる。箸でご飯を食べて、おかずを口に運んだ。そして話が進む。

「仕事はどうだ?」

「ええ。特に大きな出来事もなく、平和です。もうすぐ宴も近いので、舞の稽古が大半です」

「そうだな。また夕弦と若葉殿の舞を見たいものだ」

 龍が二人の舞を見たいと言って湯のみのお茶をすすった。

 夕弦は雅楽寮ウタリョウという部署で高官を務めている。雅楽寮は主に宮廷行事における舞や音楽などを統率しており、治部省ジブショウの管轄の中の一つである。

 そこでは舞を披露する男性の舞手、女性の舞手である妓女ギジョ、楽器を演奏する奏者などの表現者を多く抱えている。彼らを稽古し、監督し、統率し、公演を行うのが雅楽寮の主な仕事だ。

 夕弦は子どもの頃に才能を見出され、王族出身でありながら高官と舞手という二つの顔を持つ。その舞は天下一品で、元々顔立ちが良かった影響もあってか老若男女が目を奪われるほどの舞だと言う。

 そんな夕弦の妻である若葉も妓女として雅楽寮の中でも、内教坊と呼ばれる妓女の詰所で妓女として活躍している。

「やはり大人数で食べる夕食はいつもより美味しく感じますね」

「確かに」

 茜がそう言うと、龍も同調した。すると夕弦が龍に大切な話があると伝えた。込み入った話らしいのでと龍と夕弦は両人の妻を残して廊下へ出た。

「一体なんの話でしょうか?」

「さあね。女には無用かもしれませんわ」

 茜が龍と夕弦が出て行った先を見つめながら言った。若葉はお茶をすすって言った。若葉は茜の顔を覗き込む。茜は驚きながら「どうしたんですか?」と若葉に聞く。

「王妃さまは、国王陛下のことが大好きなのですね」

「なっ?!」

「顔に書いてございますよ。まるで恋してるみたい」

「若葉さま! なんてことを言うんですか!」

 図星を突かれてしまったのか、茜は顔を林檎のように赤くなった。それを隠そうと顔を手で覆い隠そうとするが、顔が熱い。照れているのが分かってしまう。若葉は口元を押さえて少し笑った。

 意地悪でやっているわけではない。王妃である茜の初心な反応が見ていて面白いだけなのだ。茜は久しぶりの若葉との会話を楽しんだ。



「それで? 話ってなんだ?」

 龍がそう言うと夕弦が真面目な顔をして龍を見た。

「父上に新しい妃が入内されたそうです」

 夕弦の言葉に龍の表情が変わった。

 龍や夕弦の父である先代国王にはたくさんの妻がいた。龍の母である正妃も、夕弦の母である側室の妃もすでに亡くなってしまっている。兄弟の中でもまだ健在の妃もいるが、そこまで大きな発言権はない。

 女性を愛する先代国王の元へ新しい妃が入内されたと聞いて、龍は驚きはしたが取り乱すようなことはしなかった。

「夕弦。父上のことだ。今回のことに始まったことじゃないだろ?」

「確かに、私も最初は軽く捉えておりました。入ってきた妃の出自を知るまでは」

「出自?」

 龍は夕弦の懸念する点を聞き出す。夕弦の顔が月の淡い光で照らされる。男も女も惚れる美しい顔が照らされる。夕弦は口を動かした。

「江一族出身の者だそうです」

「江一族だと?」

 龍の顔が驚きに変わる。

 江一族は長い年月に渡って国王に仕えてきた有名な貴族で、その発言力は大きい。龍はため息をついた。先代国王である父親は結構な年だ。それなのにも関わらずまだ妻を娶るということに多少の呆れを示している。

「最近の江一族は何を考えているのか分かりません。くれぐれもご用心のほうを」

 夕弦は江一族の動向に気をつけるようにと龍に忠告した、この入内が先代国王からの指示なのか、それとも江一族の考えがあっての入内か。今の龍には分からなかった。

 龍と夕弦が部屋に戻ってくると、茜と若葉が待っていた。話が長くなって申し訳ないと詫びるとすぐに夕食が再開した。

 場所は変わって闇夜に包まれた王宮の別邸。

 そこでは一人の女性が縁側を歩いていた。妖艶な紫色の着物に、頭には装飾品を施した簪をさしている。まぶたには薄く赤い化粧をしている。着物を翻して、暖かい光の灯る部屋へ戻った。

 そこには先代国王が待っていた。

桜花オウカ。遅いぞ」

「申し訳ございません、先王さま。しばし静寂に浸っておりました」

 その女性は桜花と呼ばれた。先代国王に向かって涼しい顔で優しく微笑んだ。そして先代国王の隣にちょこんと座った。

 この女、コウ桜花オウカ

 有力貴族江一族の出身で、現国王である龍に仕えている礼の娘にあたる。その顔は男なら誰でも骨抜きになってしまうほど。魔性の女というのは彼女のためにあるような言葉かもしれない。

 桜花はその美貌を巧みに使い、先代国王とともに闇へと消えていったのであった。この入内に思惑を感じられるのかどうかは礼だけが知っている。

 彼は自分の屋敷にある自室で何かを思案してはニヤリとほくそ笑んだ。



「よいしょ」

 朝日があがりきった朝の井戸に朔夜の姿があった。井戸の紐を引いて水を汲み、持ってきた桶に入れる。ジャバジャバ! と水が桶に入る音、飛び跳ねる音が響く。朔夜はふうっと額に浮く汗を装束の袖で拭った。

 七歳の子供にしてはかなりの重労働だ。朔夜が水を汲み終えると朝もやが出始めた。

 先ほどまで見えていた景色が変わりだす。朝もやに捕まえられる前に朔夜は重い桶を持って家へと戻った。家に戻ると裕月が朝食を作って待っていた。

「大変だったでしょ?」

「僕は大丈夫。お腹すいた!」

 朔夜は桶に入れた水を水瓶に入れて蓋をした。野菜料理と魚料理が並んだ。魚は小ぶりでお腹いっぱいには程遠い量だった。しかし、朔夜は文句ひとつ言わず食べ始めた。

 朝食後は集落をぶらぶらと散歩している。町とは違い、変化が著しいのがこの集落だ。薬を買う金もなく、なす術なく亡くなっていく人を多く見てきた。今に始まったことではない。朔夜はそれにいつも心を痛めていた。

 僕は人の役に立ちたい。でも、勉強もしていない僕が出来るのかな・・・?

 朔夜はそう思っていた。しかし、環境がそれを許してくれない。夢を諦めるしかないのか、と頭によぎる。

 すると、声が聞こえて来る。

「朔夜!」

 名前を呼ばれて振り返ると、こちらに向かって走ってくる蘭丸の姿があった。蘭丸の登場に朔夜は驚いている。また遊ぼうと口約束はしたものの、唐突すぎて逆に驚いている。

 蘭丸は最初家に向かったが、朔夜は留守。裕月からもしかしたらその辺を散歩しているかも? という情報をもらって探していたのだと言う。

「どうしたの?」

「ねえ、僕の家に行かない?」

「え?!」

 またこれも急だった。約束はしていたけどこれも急すぎる。朔夜の思考は停止する。朔夜はせめて理由を聞こうとするが蘭丸は内緒! と笑った。朔夜の手を引っ張って蘭丸が走り出す。

「朔夜のお母さん!」

「蘭丸くん?」

「朔夜を借りてもいいですか?」

「え、ええ」

 裕月も何がなんだからわからないが許可をだす。裕月の許可をもらってすぐに蘭丸は朔夜の手を引っ張って走り出す。蘭丸と朔夜が風を切る。人の声、動物の声が耳の前を通過して変な音に聞こえてくる。

「ついた!」

 蘭丸が速さを緩める。到着したのは屋敷の前。実はここ蘭丸の家。しかし、蘭丸の家に行ったことのない朔夜には見知らぬ場所だった。貧しい集落で暮らしていて、時たまに市場へ買い物へやってくる朔夜でさえここまでの建物を見たことがなかった。口を開けてどうすることもできない。

「蘭丸。ここは・・・?」

 朔夜が聞いても蘭丸は教えてくれなかった。朔夜についてきて、と言って屋敷の中へ入る。蘭丸が我が物顔でずんずんと進んで行く姿に朔夜はそわそわとして落ち着かない様子。できることならば今すぐにここから出て行きたい。そう思っていると屋敷の中から青葉が出てきた。

「あら、蘭丸。お帰りなさい」

 朔夜が言葉も発せずに立ちすくんでいると、青葉が近づいてくる。青葉が朔夜の目線に合わせてしゃがむ。朔夜は自分の母・裕月以外の女性と初めて会った。

「史朔夜くんね。蘭丸の母のシン青葉アオバです。会いたかったわ」

「蘭丸の・・・お母さん?」

「そうよ」

 朔夜が驚きのあまり、言葉が単語調になってしまう。朔夜の頭の中に「もしかして」が浮かんだ。見たことのない大きな屋敷、そこから出てきた蘭丸の母・青葉。七歳の子供でも答えは分かる。

「もしかして、ここが蘭丸の家?」

「そうだよ!」

「うっそ・・・」

 朔夜はまた言葉を失った。いや、失うしかなかった。青葉は朔夜の装束を見たり、頬に手を触れさせた。温かい。裕月と同じくらいに温かい。本当にこの人はお母さんなんだな、と朔夜の中に眠る本能が語りかける。

「装束は私が洗濯しておきましょ。それにしても、朔夜くんも蘭丸と同じでやんちゃが過ぎるのね」

「えと・・・」

「大丈夫よ、言わなくても。さ、お風呂に入ってきなさい」

 青葉は二人に風呂に入るように促した。朔夜は言われるがまま、蘭丸と一緒にお風呂に入った。温かいお湯が二人の体を包み込んだ。朔夜が両手で湯をすくい上げた。無色透明、だけど温もりがあるお湯。不思議な気分だった。

「あったかい?」

「うん、あったかい」

 蘭丸に聞かれて朔夜はそう言った。

 蘭丸は自分の装束に、朔夜は特別に蘭丸の装束を借りて着た。風呂上がりの二人を居間で待っていたのは、桃也であった。桃也は風呂上がりの二人を優しく出迎えた。

 朔夜はここが蘭丸の家であることをすでに知っている。となると自ずと答えは見えてくる。

「もしかして、蘭丸のお父さん?」

「そうだ。俺は桃也。よく来たね、朔夜。湯加減はどうだった?」

「あ、はい。温かかったです・・・」

 朔夜は緊張のあまり声が小さくなる。朔夜には桃也が只者ではないことをなんとであるが、察し始める。雲の上の存在のような気がしてならない。

 桃也は二人にこちらへ来て座るように言った。桃也は緊張している朔夜に声をかけた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。朔夜、俺はお前に会いたかったんだ」

「僕に? どうして・・・」

「蘭丸の初めての友達だったからな。それに、頼みごとをされてね」

 桃也はそう言って立ち上がった。

 数分後、桃也が持ってきたのは半紙と筆、そして数冊の本。一体何が始まるのか朔夜は分からない。桃也がついに朔夜に真相を話す。

「朔夜。俺が君に学問を教えてあげよう」

「へ?!」

 真相が告げられた。しかし、その真相の大きさに朔夜は変な声を出してしまった。そして気持ちが二極化する。学問ができるという嬉しい気持ちと、身分も低く貧乏な自分が受けていいんだろうかという疑問にも似た気持ち。

「それは嬉しいですが・・・、僕は貧乏人です。お礼もできないのになんで・・・」

 すると桃也は朔夜の頭を撫でる。桃也の手はとても大きかった。朔夜が生まれてすぐに実の父親は亡くなった。物心ついた頃には父親のいない環境が当たり前だった。初めて感じる、父の手のひら。

 心が動きだす。

「これは、蘭丸からの頼みでもあるんだ」

「蘭丸が?」

 朔夜が蘭丸の顔を見た。蘭丸は照れているのかそっぽを向いて頭をかき始める。桃也はその理由を話し始めた。

 蘭丸は朔夜が寺子屋に覗いていたことがあったことを目撃している。しかし、朔夜の家には通わせるための余裕はない。このままでは朔夜が自らの夢を達成することができない。そこで蘭丸は自分にできることを考えた。それは「勉強を一緒にやる」ということだった。しかし、蘭丸も勉強は苦手。教えられるほどの技量がない。そこで、父である桃也に頼んだのだった。蘭丸も朔夜も知らないが、桃也は宮廷で国王の十男としてたくさんの学問を勉強していた。学に関しては申し分ない。

 蘭丸の頼みを叶えるため、それに桃也が一肌脱ごうと思い立ったというのだ。

 朔夜はそれを聞いて声を出せずにいた。

「蘭丸のお父さん・・・。いいんですか?」

「いいんだ。朔夜、君には勉強をする権利があるんだ」

 朔夜は桃也に頭を下げた。朔夜の小さな手が綺麗に揃えられた。

「ありがとうございます!」

「俺よりも蘭丸に礼を言いなさい。発起人は俺ではないからな」

 朔夜は蘭丸の方を見て同じように礼を言った。蘭丸は自分にできることはなんなのか、と考えた時に朔夜を助けてあげたいという気持ちが大きかったこと。朔夜と勉強したいと思ったことが出てきて、それを父にお願いしただけと言った。

「ありがとう、蘭丸! 君は僕の大事な友達だよ!」

「友達?」

 蘭丸がつぶやいた。先ほどまでの蘭丸ではなかった。蘭丸は朔夜を友達だと思っているが、肝心の朔夜がどう思っているのかとても気になっていた。その答えが今、明らかになったが蘭丸は反応できずにいた。

 友達に飢えていた蘭丸にとって、嬉しいの言葉では言い表せないものだった。

「うん。僕も同じ気持ち!」

 蘭丸が笑った。これを見て桃也は内心安心している。もしかしたら、この史朔夜という少年は将来「孫」の名前を名乗らなくてはいけなくなる蘭丸と一生の友になることを想像した。

「ほら、二人とも。早速始めようか」

 桃也が手を叩いた。二人ははーい、と返事をして先生である桃也へ向き直った。

 まず桃也が教えたのは、文字。文字を書けることでさらに道は広がる。桃也はまず自分の名前を半紙に書いて見せた。勿論、苗字を隠して---。


 桃也


 次に蘭丸に自分の名前を書くように言った。蘭丸も筆に墨をつけて半紙に自分の名前を書いた。


 蘭丸


 名前を書く練習だ。しかし、朔夜は自分の名前の音「サクヤ」というのはわかるが、肝心の漢字は分からなかった。漢字は漢字でも、人名となると読み方も様々だ。膨大な漢字から該当する漢字を探し出すのは至難の技だった。

「でも苗字は見たことあるんです」

 朔夜は筆に墨をつけて、角ばった「史」の漢字を書いた。これを見て名字の漢字がわかった。次は名前の漢字だ。蘭丸は朔夜に質問をした。

「名前のこと、お母さん何か言ってた?」

 朔夜はうーん、と唸り考える。すると、お母さんが過去に言っていたことを思い出して、頭の中の引き出しを開けていき、記憶を甦らす。繋がっていく風景、当てはまる言葉。

「お母さんは確か『あなたは月のない日に生まれた。だから名前にはお月さまが入ってる』って」

 それを聞いた桃也は半紙に慣れたようにサラサラと書いた。できた半紙を朔夜が覗き込んだ。


 史 朔夜


「これで『シ・サクヤ』と読むんだよ。『朔』は月に関係する漢字だ。『朔』は別名で新月という意味がある。月のない夜といえば新月だ。どっちかといえば、『朔』の方が知られているからね。そして、夜に生まれたから『夜』を足す。すると完成するのが、『朔夜』」

 朔夜は桃也の書いた自分の名前に目が離せなかった。これが自分の名前と脳裏に焼き付けている。桃也はこの名前を書けるようにしないとな、と笑った。

 ここからは朔夜に自分の名前と他の文字を書けるように必死に書き取りを行っていく。最初は苦戦してきたものの、だんだんとうまく書けるようになってきた。桃也もうまい、と褒めた。

「まあ許容範囲だな。これからどんどん練習すれば、うまくなるぞ」

「ありがとうございます!」

 朔夜はお礼を言った。

 それからというものの、蘭丸と朔夜は夜まで桃也から勉強の手ほどきを受けた。時間も忘れて文字を書き、計算をする。半紙はだんだん枚数がなくなり真っ黒になっていく。

 夜になって朔夜を送り届けるため、蘭丸と桃也は朔夜の暮らしている集落へ向かった。手には提灯を下げて月夜の町を進んでいく。朔夜と蘭丸の案内でずんずんと進んでいくと、集落にたどり着いた。

「朔夜、遅かった・・・わね? 朔夜、その人は?」

 裕月は朔夜を送りに来た桃也のことを聞いた。朔夜は遅くなってしまったので蘭丸のお父さんに送ってもらったと話した。桃也は改めて裕月に挨拶をした。

「こんな夜遅くに申し訳ありません。私、蘭丸の父で桃也と言います」

「ん? 桃也・・・?」

 裕月が首をかしげた。そしてだんだんと記憶が呼び起こされ、顔面蒼白になっていく。蘭丸と朔夜はその様子を見上げて見ていたが、裕月が地面に膝をついて両手をすら地面につけて、桃也を見上げた。

 謎の行動を起こした母に朔夜は驚くばかりだ。

「もしかして・・・、孫桃也さまですか・・・?」

「お母さん?」

「朔夜! あなたも頭を下げなさい!」

 裕月は理由もわからず立っている朔夜を無理やり座らせ、頭を下げさせた。朔夜は理由が分からずに裕月に聞いた。

「孫桃也さまよ! 前の王様の十男で今の王様の弟よ!」

「え? うそ・・・」

 朔夜が驚きっぱなしだ。桃也はあまり嬉しそうな顔をしていなかった。蘭丸はその様子を何も言えずに見つめることしかできなかった。桃也が皇籍離脱をして初めて、自分のことが分かる人物に出会ってしまったのだった。


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