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花鳥風月物語  作者: 藤波真夏
第一章
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十九話 花が散り、舞う

十九話 花が散り、舞う

 場所は雲雀の家。

 四人はそこで昼食を取っていた。蘭丸は久しぶりに雲雀の父が作る料理が食べたくなりやってきた。そして都羽と朔夜も同じように料理を頬張った。

「おいしい」

「やっぱり雲雀のお父様の作る料理はおいしい!」

 雲雀は笑顔で水餃子を食べている。蘭丸も料理を頬張って終始笑顔だ。

 料理を食べ終わった後、四人は秘密の場所である丘へやってきた。すると蘭丸はカバンの中から紙を取り出した。

「どうしたの?」

 雲雀がそう聞くと、蘭丸は詳細を話した。

「お父さんの部屋に散らばってた手紙、この前読んでみた」

「なんて書いてあったの?」

「難しくてよくわからない」

 蘭丸には手紙の内容が何を指しているのかよく分からない。しかし、その手紙からは桃也を心配するものであることは察しがついた。蘭丸がなんとか知り得た情報があった。

「名前が書いてあるんだ」

「名前? それって蘭丸のお父さんの名前?」

「それもあるけど、お父さん以外の人の名前が手紙にたくさん出てくるんだ〜」

 蘭丸は血まみれの手紙を取り出した。

 四人は目を反らすことはなかった。自分たちも現場に居合わせたという事実が四人に突きつけられるだけだ。

 真っ赤な血は変色し、少し黒っぽくなっている。蘭丸は紙に手紙に書かれている名前を全て書き写していく。


 孫 龍

 孫 棕

 孫 夕弦

 孫 尊

 要

 直己


 手紙に書かれていた名前はこの通りである。孫の苗字があることから王族の人間であることは明白である。しかし、名前だけで苗字のないものもある。これはどうしても判断がつかなかった。

「孫龍さまってこの国の王様じゃない」

「じゃあそれ以外の人たちって?」

 物知りな都羽はそう言った。しかし龍以外の人たちのことを尋ねられてもそれは分からない、と首を振った。しかし苗字が同じであることを根拠に家族ではないか、と推測を立てた。

「じゃあこの人とこの人は?」

 雲雀が指差したのは、「要」と「直己」。苗字が書かれておらず、何者なのか分からない。ここは知っている大人に聞いた方がいいに決まっている。

 四人は誰に相談するかを考えた。相談した結果、向かったのは・・・。

「俺に何のようだ?」

 都羽の家だった。相談する相手は都羽の父・露風だった。都羽は露風に説明する。行方不明であった手紙を蘭丸がかき集めて今持っていると。それを聞いた露風は本当かね?! と驚いていた。

 すると露風は誰にも見られないように屋敷中の襖を閉めて対策を行う。そして部屋が完全に閉まると露風は四人を呼んだ。

「まさか・・・君が手紙を持っていたなんてな・・・。都羽。お前も知っていたのか?」

 露風に言われて都羽は首を縦に動かした。露風はそうだったのか・・・、と言った。露風は四人を叱り付けるようなことはしなかった。露風もわかっていた。まだ七歳の子供が四人で秘密を抱え、大人を頼れずにいるのは大人以上に心苦しい状況だ。

 その秘密を打ち明けてくれたことに露風は何かを感じている。

 蘭丸がカバンの中から血で汚れた手紙を取り出した。露風は愕然としていた。

「都羽のお父さん?」

 朔夜が露風に聞くとなんでもないんだ、朔夜と言った。

「お前たちが見た光景はお前たちの口から聞いた言葉から想像するしかなかった。だが、この手紙を見る限り、お前たちが見た現場はもっと凄惨なものだったのかもしれないな」

 露風が手紙の内容を一通り見ると、なるほどな・・・と呟いた。

 すると蘭丸は名前の書かれている紙を取り出して、露風の前に見せた。

「手紙の中に書かれていた名前です。誰なんですか?」

 露風はそれを見てすぐに分かった。四人にわかるように説明する。

「全員孫家の方々だ。蘭丸くんのお父さんである桃也さまは一番末の第十皇子だ。桃也さまには九人の兄がいる」

「じゃあここに書かれているのは、蘭丸のお父さんのお兄さんたち?」

「そうだ」

 露風は雲雀の問いかけに答えた。

 露風は紙に書かれた名前を指差しながら説明してくれる。

「孫龍さまは第一皇子でお前たちも知っているだろうが、この国の王様だ。孫棕さまは第二皇子で今は中務省という部署で最高高官をしている。孫夕弦さまは第三皇子で雅楽寮の最高高官かつ舞手をしている二つの顔を持っている方だ。孫尊さまは第四皇子。東宮学士をしている方だ」

 苗字と名前が書かれているものだけをまず露風は教えた。列挙された人物がすべてこの国の中心人物であることに四人は子供ながらにびっくりしている。

 そして名前だけが書かれている人物も露風は知っており、それを教えてくれる。

「この方は孫要さまという方だ。要さまは第七皇子で刑部省で副官を務めておられる」

「ぎょうぶしょう? ふくかん?」

「刑部省というのは悪いことをした人たちを裁く場所のことだ。副官は最高高官の次にえらい人のことだ」

 そして最後の人物のことも露風は話してくれた。

「この方はソン直己ナオミさまだな。第八皇子で龍さまの公務をお手伝いなされている。しかし、他のご兄弟と違って表立って人前には現れない」

「どうしてですか?」

「元々体が弱い方だからな。体のことを考えてあまり表に出ないんじゃないか?」

 朔夜が理由を聞くと露風はそう答えた。

 露風曰く直己は元々体が弱く表舞台にはほとんど姿を現していない。龍の手伝いをしていることは知られているが、今はどうなのか分からない。

「僕、この人たちに会いたい」

「蘭丸?」

「どうしてお父さんとお母さんがこんなことになったのか、もし知ってるなら聞きたい」

 蘭丸が知りたいのは両親の死の真相だけだ。兄弟たちに会って話をすればきっと何か分かるかもしれないと。

「蘭丸。この方々に会うには宮廷に入らなくてはいけない。狭き門だぞ」

「・・・」

 露風にそう言われて蘭丸は黙ってしまう。

「知りたいと思う気持ちはわかる。しかし、その知りたいという気持ちが憎しみに変わる場合だってある。蘭丸くん。今は知りたいでいいかもしれない。だけど、それが変化してしまったら最後だと思った方がいい」

 露風の忠告はどこか重く、蘭丸は首を縦に振ったのだった。



 四人は孔明のいる屋敷へ向かった。

 孔明は四人を出迎え、部屋へと案内する。すると、孔明は四人にあることを頼んだ。

「雲雀。都羽。朔夜。君たちが持っている桃也さまの宝物を見せてはくれないだろうか?」

 孔明の言葉に三人は身を固めた。どうして自分たちが宝物を受け継いだことを知ってるのか不思議でならず、警戒している。すると蘭丸が三人に言う。

「僕が話したから。大丈夫」

 蘭丸の説得により三人は警戒を解いた。そして持っている宝物を孔明に見せた。孔明も最初は本当かどうか疑わしいと思っていたが実物を見て、それが真実だと改めて思った。

 三人は孔明の前で宝物を見せた。孔明は宝物に刻まれた桃の花を確認して本当にこれが桃也の所持していた宝物であることを確認した。

「わしはずっと考えていた。どうしてお前たちに桃也さまが宝物を託したのか。なんとなくその理由はわかってきた気がする」

「それは?」

「朔夜。まだ完璧にわかったわけじゃないからまだ君たちには話せない。君たちが大きくなったら何かまた話せるかもしれんの」

 孔明はそう言った。

 朔夜は納得いかない様子ではあったが、これ以上何も言えなかった。

 空はだんだんと暗くなっていく。四人は縁側に並んで座っていた。四人は夜空を見上げている。思い出すのは、出会いから今までのこと。ここまで波の激しい時の流れは初めてで戸惑うばかり。

「私たちこれからどうなるのかな?」

「わかんない。でもお父さんは言ってた。どんな時も四人で協力して助け合いなさいって。きっとお父さんとお母さんが見守ってくれてるよ」

「蘭丸。どうしてそんなことが言えるの? お父さんもお母さんも殺されたのに・・・」

 雲雀がそう言うと都羽も朔夜も蘭丸を見やる。蘭丸は少し考えたあとに言った。

「生きなきゃダメなんだなって思っただけ。きっと四人の誰かに何かあったら、きっと悲しむ」

「無理矢理に前を向こうって思ってるの?」

 蘭丸の言葉に都羽が言った。それに対し、蘭丸は頷いた。都羽はそれはなんか蘭丸の心を殺しているかのように見えて悲しくなってしまう。

「僕は大丈夫だよ、都羽」

「本当?」

「本当」

 心配する都羽に蘭丸はそう言った。都羽は納得がいかない様子だったが自分に大丈夫だと言い聞かせるしかなかった。すると風が吹いて都羽の耳飾りを揺らす。チリンと優しい音が虚しく聞こえたのだった。


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