ハートの石
「時が経つの、早いなぁ」
およそ、3ヶ月か。
「そーだなぁ。まあクラスで団結してーなんてイベントは入学直後の集団旅行位であとは勉強漬けだろ? 確かに気が付いたらこんな時期ーって感じじゃねーか。もうすぐ夏休みで、夏休みが終われば学祭──」
「──こらそこ! 話してないでちゃんと参加して!!」
学祭委員で、現在行われていた学祭の出し物の話し合いの司会、藍沢奈狐が俺達に叫ぶ。
「何でも良いですけどお化け屋敷は勘弁してください!」
「おい玄怖いのか?」
笑いながら大悟が聞いてくる。
「ああこわいねっ!! だからその手のイベント呼ばないでくれると助かるよ!!」
「ええと、今出てる案がコスプレ喫茶とお化け屋敷だけど……良い!? 多数決とるよー?」
そんな感じで六月も下旬。高校一年がそろそろ高校という空気に馴染む頃合いである。
学祭、楽しみだなぁ。
「はいじゃあお化け屋敷にけってーい!! 賀田君、大丈夫?」
「あー、平気ですよー、本物が出なきゃ」
「おい賀田ぁー! お前幽霊なんて信じてるのかよー!!」
クラスメイトKくらいのガラが悪い生徒がそんなヤジを飛ばす。確か名前は……。
「悪いか!? 黒沢!!」
まあ、気にすることはないだろ。きっと。
「おい、様子が変だぞ?」
話し合いが終わって放課後、案の定大悟は俺に話しかけてきた。
「大悟か。あぁ、やっぱりバレますか」
「おう、そりゃあ気付くわ。困ってる人を見逃さない男だぞ俺は」
「はいはい勇者様ー。とにかく、困ってるっていうか、ちょーっと、懸念材料がありますか、お化け屋敷だけど」
「お前怖がりなんか? 何か意外だよ俺。そう言うの怖がらなさそうっていうか、そんな感じするからな」
「つい一週間前にさ、婆ちゃんから電話掛かってきたんだよ」
「へぇ、婆ちゃんねぇ」
「そ、婆ちゃん昔から自称霊感あるって言うのは知ってたんだけどね、どうやら婆ちゃんが言うには俺、霊を惹きつける体質らしくて」
電話は事実であり、婆ちゃんは本当にそう言った。ただ、ちょっとボケてきている感じがあるので信用は出来ない。
「お化け屋敷って言うのが、霊を惹きつける事にならなきゃ良いなあって」
「まるで幽霊が実在する、みたいな言い方だな」
「まあ居るものは居るし無いものはないから、信じる信じないの問題じゃないんだよね」
「見たことがあるのか?」
「………どだろ。あると思うけどね。あれらは本当に幽霊なのか分かんないし」
その辺を彷徨く白霊を眺めながら言う。
「……そっか、まぁ当日まで俺も気をつけてみるわ」
「ありがとう。それとここ三ヶ月でも分かるくらいに正直大悟のその対困った人センサー常軌を逸してると思うんだけど、何なのさ」
「理由は知らんが在るもんは有効利用、だ」
「そうか……それが良いよな」
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高校には図書室がある。
静か。本が沢山。
言うほど本を読む趣味は無いが、足を運んだのには理由がある。
「お化け、ねぇ。紐の固まりじゃ駄目かね」
狂気的? そうですか。
「…………」
図書委員に前髪長い子が居るなぁ。
本棚、きったないなぁ。
机の上、本放置して帰った奴が居るなぁ。
「うん、俺ここ無理だわ(超小声)」
本屋にでも行くかな。あ、ちょっとその前に片付けさせろ。マジ、悪いことは言わないから。というか無言だから。
「あの………手伝います、と言うか、やります、から」
「?」
「………??」
…………なんだ?? この前髪図書委員に纏わりつく白い紐は……。
「………いっっ!?」
手を伸ばしたら手首を締められた。腕にまで伸びていく本数が異常だ。なんだこれ、前髪図書委員は俺の様子に首を傾げているし、周りは一切気にしてないようにこっちを見ない。
「片付け、するから良いよ。帰っても」
「い、いや調べものを」
「………………」
ほんの少し向けられていた視線を落とした前髪図書委員は片付けを始めた。
………なんだろ、この子。何が憑いているんだろう。
「………手伝うか」
「───終わり。司書さん仕事しろし」
「……………」
前髪図書委員無言でカウンターまで戻る。まあ、いいか。
取り敢えず片付いたし、どうしようかな────って
「時間掛けすぎた、図書室閉められるじゃんか………」
すでに六時。図書室は閉じられる時間であった。
「………幽霊、あんな感じで人に憑くのか」
人の体から出たり入ったりする白い紐の束。ふわふわと意志無さげに動いているのが前髪の長い図書委員の周りに見えて、そんな事を呟いた。
………電話?
「はい、賀田です」
『お久しぶり、元気かい? 賀田君』
「元気ですけど、えっと」
『ごめんごめん、大薙だよ、大薙櫂』
「あぁ、あの時の。なんで大薙さん電話を掛けてきたんですか?」
『それがねぇ……最近変なものが出回って──────』
キィィィインンと言う耳障りな音が電話を伝って発生し、思わず耳を離す。
なん、なんだ??
『────────ん、賀田くーん??』
「あー、はいはい分かります何ですか?」
『そうか分かるか!! じゃあ後で宜しく!!』
「何の話!?」
『あ、ごめんごめん。音飛んでた? もう一回言うね?』
「御願いします」
『最近幸運招来を謳った変なものが出回ってる。それは………え、あ、嘘ぉ……本当ですか? 賀田君! ごめんね、何の話かはまた今度──学祭の辺りで話そう、その辺り俺も暇なんだ!』
「そっすか」
『そうだ、だけどハート型の石を持ってる子が居たらその出所を聞いてね? 頼んだよ?』
電話が切れた。
「何だったんだ、今の」
なんだったんだろ。




