高校入学
「ねえ見てみて!! 玄!! 綺麗な川だよ!!」
「当たり前じゃん、上流だし」
「上流だとなんできれいなの?」
「下流に行けば行くほどゴミが増えるからだよ」
「へぇ、玄ってば物知りぃー!」
「やけにハイテンションだね───は。」
「───ちゃんはすーぱーハイテンションなのです、テンションひゃっくー!!」
「はははははっ!!」
△◇▽◇▽◇△
「────夢、か……」
「高校初日から寝坊かますなんて我が子ながら呆れる」
車を運転する母が、ボヤいた。どうやら寝てしまっていたらしい。寝坊してしまって、また居眠りと言うわけだ。
だって高校が始まるんだぜ? わくわくするだろ? 前日寝れないだろ? そして初日から寝坊………と。
「それ言うなら何で起こしてくれなかったのさ」
「起こした、返事あったから油断しただけ」
「うぇ? マジで?」
「マジ」
「マジですか、俺そんな憶え無いんだけど……」
「確かに聞いた。と言うかあんたが俺っていうとスッゴい違和感ある、止めて」
「ええぇ……」
酷い言い草だ。良いじゃないか、俺って一人称。
「………学校、取り敢えず間に合いそうね」
「おお、さすがお母様」
「礼は?」
「今見えるところには居ないよ」
「は?」
「は?ってそっちが………ああ、あぁ、そう言うことか。ありがとう御座いますお母様」
「……大丈夫かね、あんた」
「大丈夫だよ、多分」
霊と礼、勘違いする程度だから、たぶん大丈夫、たぶん。
「大体、私立で、大学までの一貫校だろ? 今からあんたが通うのは」
「あぁ、まあ」
「そんなんで大丈夫かねぇ? 加えて寮暮らしなんだろ?」
「……我ながらなんでそんな所行こうとしたのか……」
「出来るだけ知り合いの少ないところが良いってあんたが言ったんじゃないか、確かにあんたとしちゃそうしたくなるのも分からんことじゃないけど」
「……」
「楽しくやれよ?」
そう言った母がブレーキを掛ける。
「ほら行きな、学校だよ」
「なんとか、間に合った………」
開始直後の入学式に静かに滑り込むことに成功した俺は、一気に脱力した。
「…………」
ちらり、と周りからの視線が辛い。
そりゃあ、式の始まる前に既に一度集合したらしいから、後から来た奴は目立って仕方ない。大人しくしていよう。
「────おっくれましたぁぁあ!!!!」
バダーンッと大きな音を立てて扉は開かれ、全力の叫びを放つ男が。
勇者か。あれ、勇者かよ。
それが彼────我籐大悟への第一印象だった。
【白霊】白い紐の集合体
【黒霊】黒い紐の集合体