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大量怪奇少年  作者: リョウゴ
第一怪奇 中学の終わり
1/20

常識は静かに崩れ去る


 ───僕の非現実の始まりは中学の卒業だった。


「………ありがとうございます」


 一年遅れの中学卒業。


 口からこぼれたのは、三年学んだ中学校舎への、素直な感謝の言葉。


 靴を脱いで玄関を抜けようとして眩しい西日を感じながら閉じられたガラス戸に手をかける。


「まぁ、帰るの遅かったから、だよね」


 風邪で証書を取り損ね、取りに来た帰り。


 不思議なことに、中学の出入り口は封鎖されていて。


 死と霊に密接に絡む僕の人生は、僕の覚え無き所から僕を苛む呪いとの人生が。


 この時、幕を開けたのだ。




 玄関は、職員玄関と壁を隔てて隣り合っている。東側に大きい生徒用玄関、右側を小さい職員用玄関。


 生徒が居なくても、職員なら居るはずだ。そう考えて職員玄関に向かう為に廊下に出て職員玄関を覗き込む。


「………は?」


 黒い紐が玄関前に立ちふさがっていた。紐? 紐だ。輪っか、輪だ。体の輪郭を沿うように一本の紐が……そう、仁王立ちしているのだ。


「ん、見間違い………じゃないな」


 僕は、歩いてその紐に近付こうと一歩を………踏み出さなかった。


 触れると不味い。何故だかおぞましく感じた。気が付けば呑気に証書を持って校舎を出ようとしたときよりも、寒い気がする。


 二歩下がる。そうすると自然と廊下に出るわけだが、左を見ると───


「っ!?」


 ───正面の紐よりも本数が多くぼんやり人に見える程度の形をした黒い者がゆっくりと歩いてきている。


 先程までは気が付かなかったが、廊下が突然、黒い飛沫や水溜まりがそこにあった。瞬きをする度に消えたり現れたり消えなかったりするそれを見て僕は、血を連想した。


「こんなの、まともじゃない………っ!!」


 我に返った僕は反対側に逃げ出した。すぐ近くの突き当たりが大きい教室、隣に体育館への渡り廊下、その右に階段がある。


────教室の扉は開くのか

────渡り廊下は外へ繋がっているが、扉は開くのか

──階段の上へ行くと外から遠くなる


『ァァア』


 頭に響く、恐怖を煽る声。紐の集合体は冷静に思い浮かべると何の恐怖もないだろうが、アレ自身を視界に入れると心がざわついて平静でいられなくなる。心が恐怖に支配される。


「なっ!?」


 扉の隙間からふよふよと黒い紐が漏れ出している。渡り廊下も、教室からも。


 あの紐には触れない。逃げなきゃ。


 階段に走るしかなかった僕は一度だけ振り返る。軽く走る程度の速度で黒い人型の紐の集合体が近付いて来ていた。


 二段飛ばしで階段を駆け上がる。黒い人型の紐の集合体も着いてきている。階段を上がれるようだ。


『───アアァァア───』


 まだ響く。うるさい、こわい、なんなんだ。


 血溜まりの上を気にせずに突っ走る。瞬きの間に消えるとしても不快感が消えることはなかった。


『ウァァァ───』


 反対側の階段を駆け上がる。そのうちに声が小さくなり………そして聞こえなくなった。聞こえなくなってから振り返れば、何もない。肌寒い感覚だけはまだ残ってるが、それでも、恐怖を煽るものがなくなって、一安心─────



「イヤァァアアァァァ!!!!!!」



 耳を塞ぎたくなるような大声は、階下から響いてきた。そのはずだ。この上は屋上しかない筈だから。


「な、何なんだよ、今の……」


 怖い。さっきの声は、何だ。


 行きたくない。どうする、見てくるか?


「また、あの黒い紐に逢ったら……」


「ァァァァアアア!!!!」


 声が痛い。痛みを感じる声だ。


「………この状況は、何だよ、ホラーゲームかよ……」


 軽口を言っても微塵も恐怖は晴れない。行くか行かないか、決めなきゃ。行けばまず危険だろう。


 だから、僕は。

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