第9話:附則と偽り
「ふふふ、まあそうなるわね。そのページの端っこを見てみて。
少し切れ目みたいなものがあるでしょ」
そう言われて初めて、
俺は生徒手帳のページのあちらこちらに全てではないものの
引っ張たらはがれてしまいそうな端を見つけた。
そして思い切り引っ張ると、本当に剥がれた。
どうやら文章を書いた紙と紙の間に一枚薄い紙が挟まっているようで、
どう考えても誰かが指摘しない限り発見することは困難だろう。
しかし、その薄い紙に書かれている文章を目にした瞬間、
先ほどまで感じていた謎が解けた。
そこにはこう書かれていた。
「附則27:各自が作った3つのルールを教えられた者にもそのルールは適用され、
そのルールを破ったものには作った者と同様の罰を下す」
「附則28:3つのルールを教えた者と教えられた者は一蓮托生である。
これに基づき第三者がそのルールを破らせるように仕向け、破ってしまった場合、
双方ともに死刑に処す。但し、当事者間には適用しない。」
「附則29:3つのルールを教えた者と教えられた者はその人数を
生徒会に自己申告することによって、褒章を受け取る権利を有する。」
「附則30:当事者の意向に基づき、前則の人数に変更が生じた場合には、
その分教えることのできる人数は復活する。」
そこに書かれていたのは、規則の補足事項のようなもので、
書かれていた数字から最低でも30個以上は存在することは容易に想像できた。
それと共に言いしれないような恐怖を感じてしまった。
特に附則30は恐ろしいルールという他なかった。
なぜなら当事者の意向に基づきということは、その前の28条から考えていくと、
教えた者と教えられた者のどちらかがどちらかをはめて
死刑にした場合に適用されるということ。
つまりは教えた者と教えられた者の間には
いつでも殺すことができるという意思が存在するということ。
というかこの4つの附則はどう考えても危険だ。
そもそも附則29に書かれている褒章とは一体何なんだ!?
こういう記載をしているということはこの学園に在籍している学生なら
欲しくて仕方がないものではないとつじつまが合わない。
「ははは」
俺が必死に考えていると、
マリアさんはなぜか奇妙なものを見るような顔つきになっていた。
どうかしたんですか?と声をかけようとしたのと同時に彼女は口を開いた。
「あなた、どうして笑っているの!?」
そう言われて俺は初めて気が付いてしまった。
考えているときに知らず知らず、笑い声をあげていたようで、
彼女はそれがよほど不気味に思えたようで、そんな尋ね方をしてしまったようだ。
「いや、だってなんか笑えてきませんか?最初は少しだけ恐怖を感じましたけど、
だんだんと考えていく内に面白くなってしまって。
あ、気分を悪くしたのなら謝ります。すみません」
それは俺の心から感じた本音だった。今までもそう。
俺は人と違う考え方を持っているようで初めてのことを経験した時の
最初の感情は普通の人と同じだが、そのことについて考えていく内に
面白さの方が先行するようで、この性格から昔から気味悪がられることもよくあった。
そしてどうやらマリアさんも普通の人と同じ感情を俺に抱いてしまったようだ。
彼女の俺を見る目は明らかに変わってしまった。完全に不気味なものを見る目だ。
しかし、その目を向けられたおかげで、
俺はこの学園の入学式の時から隠すことを決意していた
本当の自分というものを隠すことが妙に馬鹿らしく思えてきてしまった。
「はぁあ、この学園では普通の人間を演じようとこの時間まで頑張ってきたが、
やはり無理だな。うん、もうやめだやめ!
本当の自分を隠してたら面白さ半減だ。
おい。マリア!さっさと話しを続けてくれないか」
俺はその言葉を最後に、マリアに今まで見せていた偽りの自分を拭い去り、
マリアに話の続きを促した。
しかし当の本人のマリアは先ほど俺が彼女が男だと分かった時や
雰囲気を男から女に、女から男に変えて俺に驚いたふりをさせていた時と
同様に固まっていた。たださっきの俺との違いはこれは演技ではなく、
本物のリアクションであるということで、
彼女が唖然としている状態から回復するまで待つことにした。




