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3つのルール  作者: アキラ
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第6話 過去の一端

彼女たちの歓喜の声は次第に奇声へと変わっていった。

まるで神様が舞い降りたときの群衆のざわめきのようで、

俺は耳を押さえたくなった。

しかし、姿はどうであれ、彼女たちは歓迎してくれているようで、

その態度をむげにするような行動を取ることは到底、出来そうもなかった。

そして俺が少しの間、沈黙を決め込んでいると、

マリアさんは「自己紹介しないの!?」とでも言わんばかりの表情で首を傾げられた。

俺は少し迷ったものの、もうどうにでもなれというやや諦めのような感情を抱きながら、

自己紹介をするために一歩だけ足を進めた。

「え~と、さっきマリアさん?からも紹介されたと思いますけど、

改めまして、笹部星加といいます。戸惑うことばかりかとは思いますが、

早くこの生活に慣れて、皆さんとも仲良くなりたいな。って思います。

よろしくお願いします。」

俺は自分の言葉を言い終わるやいなや、半ば無理に作った笑みを晒しながらお辞儀した。


するとまたしても、彼女たちの興奮は沸き上がったようで口々に「天使」だとか

「守ってあげたくなる」といった言葉がホール内を飛び交い、とてもうるさかった。


それから数時間、

女学生たちの質問攻めに遭うという拷問にも等しい時間を過ごし、疲れ切っていた。

(はぁ、本当に女子って疲れる。なんかよく行っていたカフェはどこなのかとか、

下着のサイズとか、好きなケーキの種類とか・・・。

女子ってなんでああいうどうでもいい事を聞きたがるんだ?

まあ、昔仲良かった秋星との思い出があったから何とか乗り切れたけど、

はぁ、これ俺にもし女友達がいなかったりしたら、危なかったよなぁ。)



秋星美夜とは中学校時代の親友だった。

彼女と出会ったのは中学1年の最初、

俺が今日と同じようにこれからの生活の場となる教室を入学初日に

見に行った時に、彼女はそこにいた。

彼女は初対面だったのにもかかわらず、「おはよう、これからよろしくね」

と言ってくれて、最初は失礼な話「変な奴」と思っていたが、彼女と徐々に話をし、

接していく内に彼女の内面の美しさや優しさに心を惹かれた。

そもそも趣味が似ていたということもそういう風に思った原因の一つだったが、

俺と彼女は入学してから僅かな間で親友になっていた。

そして色々なことを俺たちは話していた。

さっきの女子たちの話でも対応することのできたケーキの話だとかカフェの話、

さらにはどの下着なら似合うかまで相談されたこともあった。

まあ、さすがに下着のことで相談されたときには驚きしかなかったが、

それも今となってはかけがえのない思い出になっている。


ただこの時の俺は勘違いをしていたんだ。

友愛の大きさが恋愛感情と同義であるというように。


今思い出しても、あの時の俺はどうかしていた。

中学2年の夏休みが終わったある日、

俺は男友達の緒方から秋星と付き合い始めたことを報告された。

一瞬、何が起きたのか分からなかったと共に

なぜか今まで築き上げてきた彼女との関係が崩れ去る予感がして、

それからほどなくしてその予感は現実へとなった。


秋星美夜は中学3年になった日、俺の下駄箱に手紙を残して消えたのだから。


俺は意味が分からなかった。

彼女が突然いなくなったこともそうだったが、

なんで親友だったのに相談もなしに消えてしまったのかの方がショックだった。

俺たちの関係ってそんなものだったのか。

そんな隠し事をしたまま消えたり、何の相談もなく恋人を作るような。

そんな程度の関係だったのか。と自分で自分を責めた。

そして、おそらくそんなことがあったからだろう。

それ以来俺は人間関係を築くことをめんどくさいからという理由で極力避け続け、

卒業するときには本当のぼっちとなった。

だけど、もうあんな苦しみを味わうことはなかったから、

ボッチでいることは全然苦ではなかったし、有意義な時間を過ごしたともいえる。


ただ一つ今こう言う状況だからこそ、卒業後のあの2週間は後悔しかない。

だってその2週間のせいで、俺は今こんな学園に入学する羽目になり、

女装までさせられているのだから。



そんな過去の記憶を思い起こそうとしていると、唐突にドアをコンコンとノックする音が聞こえてきた。


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