表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3つのルール  作者: アキラ
3/28

第3話 不可解

約1時間後、俺は女子寮の入り口に立っていた。

あの後、俺は男性に対して「何かの間違いで女子に登録されてしまった」ということを強く訴えたのだが、聞き入れる気もましてやその気もないような態度を取られてしまい、更にひどいことに牢獄にぶち込むということを再三言われ、最後には実力行使をされそうな雰囲気になってしまったため、しぶしぶ女子寮へと向かうことになってしまった。

そしてもちろんのことながら男子制服を着ている男が女子寮へと向かっているためか、道中は男子や女子から怪訝な目を向けられてしまい、俺の心は入学初日にも関わらず、大幅にすり減っていた。


女子寮の入り口で入るべきなのか帰るべきなのかを考えていると、

女子寮の中から見るからに先輩だと思しき女性がこちらへと近づいてきた。

彼女は俺の目の前に立ち、上から下までしっかりと

目をひん剝いて見たかと思うと、なにやら考えるような表情となった。

俺は当然のことながら、さっきの男子寮の時と同様に追い返されてしまうことを覚悟していた。むしろそれくらいで済めばいいと思ってしまうほどで、最悪の場合は何も言わずに牢獄へと連行されるのではという不安感しか呼び起こさない予感を感じていた。

「うん。入ってもいいわよ!!これからよろしくお願いね」

「えっ」

しかし彼女が発した言葉は侮蔑の言葉でも、強制連行でもなく歓迎の言葉で、

俺はすっとんきょんな声を上げてしまった。

すると彼女は俺の手のひらをぎゅっと握ると、

女子寮の入り口へと歩き出していった。

まるで迷子の子供を迷子センターに連れていくような表情と共に。


申し訳なさと心配を抱えたまま、入り口を通ると数人の女子が立っていた。

「あら、マリア様。そのお方は新入生の方でしょうか?」

「柚葉、そうとしか見えないわよね。

というかどうしてその子は男子の制服を着ているのかということの方が、

問題のはずよ」

「ふふ、そうだね~。それも入学式にだし~、おかしいよね~」

「こら。3人共!!そういう話をする前に大事なことがあるでしょ!!」

女子たちは俺とマリアと呼ばれた女性のことを注視しながら、

そんな話をしていたが、その中でもひときわ大人びた雰囲気を持つ腰までの長い髪をそのまま流した女性が、発した言葉を機に一瞬だけ沈黙がその場を包み、女子たちは目線を合わせたかと思うと、俺たちにお辞儀をした。

「おかえりなさいませ。マリア様!!そして初めまして」

彼女たちのそんな挨拶は、女子寮中を包むかのような音量で、その挨拶が終わり、また沈黙が訪れたかと思うと、今度は寮中のドアが開いたような音がして、それから数分も経たないうちに女子寮に住まう全員かと思われる女子が入り口付近に集まってきた。


俺はこの異常な状況に考えることを放棄した。

もうなるようになれとしか思わなかった。

「紹介するわね。こちら笹辺星加さんよ。今日からこの学園に来た新入生さんだから、みんな仲良くしてあげてね。あ、あと今はこの子こんな服装しているけど、きっちりした服装をこれから着させてくるから、皆さんはここで少しの間、お待ちになっていてね」

マリアと呼ばれていた女性は精神喪失していた俺に代わって自己紹介をしてくれたかと思うと、俺の腕をまたしても強く引っ張り彼女の部屋へと連れ込まれてしまった。

俺にとっては不安しか感じさせないような言葉を女子たちに告げた後・・・


マリアさんの部屋は本当に美しかった。

男の部屋では考えられないような色遣いのクローゼットや棚、机、ベッドなどがとてもきれいに配置されている上に食器棚の中には高そうなカップやお皿が整理されていて、まるでお姫様のような部屋だった。

「さてとそれじゃあ、お着換えの時間よ。どういう服が似合うかしらね~」

その言葉を聞いた俺はさっきまで部屋の綺麗さに

見惚れてしまっていた精神状態から、憂鬱な気分となってしまった。

それもそのはずだろう。俺は男であるにも関わらずこんなお姫様のように入ってしまったというところまではまだいいだろう。しかしそんなお姫様のような部屋に住まうような女子が男の着る服を持っているとは到底思えない。だとしたら俺が着せられる服はどういうものになるのかも容易に想像がつく。最悪の場合、フリフリのフリルの着いた少女が着るような服を着ることになっても仕方がないのだ。というよりも先ほどからマリアさんが自分のクローゼットから取り出している服はそういうものばかりで、それだけでも俺の男としての自尊心はどんどんと削られていった。

これからあんな服を着なくてはいけないのかという

漠然とした絶望を感じた時だった。

俺はこの寮に入ってから考えないようにしていたことを

改めて考えてみることにした。

それは本当に簡単なことだった。

なぜ俺が男だと分かっているはずなのに、

女子たちは俺を女子寮に歓迎してくれたのか

普通に考えてみれば、おかしかった。俺は顔が女の子のように可愛いわけでもなく、女装をしているわけでもない。少し中性顔の男が男が着る服を着ている。ただそれだけで、今までの経験上、女子と間違えられたことは一度だってない。おそらくこの寮にいる女子たちも俺のことをじっくり見たら、すぐに男だと見抜くことができることだろう。

それなのに、なぜか彼女たちは俺のことを新入生の男装女子という風に認識していた。

まるでそうあることが決められているかのように・・・。


「よし、これにしましょう!!」

そして俺が考えているうちに、マリアさんは服装を決めていたようで、

俺にその服を手渡すとにっこり微笑むのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ