第27話 慰めと疲れ
「あ、星加ちゃん!!さっきは本当にありがと~」
余程、さっきの事を気にしているのだろう。結月はまた感謝の弁を述べてくる。
(そんな気にすることでもないと思うんだけどな・・・。)
「あ、うん、別にもう気にしなくてもいいからね~。私のせいでもあるんだし」
「そ、そんなことないよ!!あ、あれは私が悪かったんだよ・・・。かッとなったからと言ってあんなにもうるさくしちゃったから」
これでもかと反省をしてくる結月。
そんなにも気にすることでもないだろうに・・・。
どう返すべきか悩んでしまう。
ここまで反省されては、さっきのような言葉もまた同じ繰り返しになってしまうのではないだろうか。
(悩むな。これは)
あまり堂々巡りをしたくはない俺にとって、この後に自分が行う一挙手一動一台詞は重要な事だろう。
しかし・・・。
(女の子を慰めるのってどうすればいいんだ・・・。)
それなりに女性との付き合いもあった俺ではあるが、ここでの俺は多分この子たちの反応から察するに女性にしか見えていないのであろうし、ともすれば、俺と結月の関係は男と女というわけではなく女同士なのだ。
故に
女同士の女の子を慰める方法の最適解なんてわかるはずがない!!!
(どうしようか・・・。どうしたら)
おそらく数秒にも満たない時間ではあるが、全神経を張り巡らせて、何を言うべきか何をするべきかを考える俺にはこの時間が長く感じられた。
今はまあ、完璧な女装のおかげで女扱いをされているわけだが、バレてしまえば入学初日から女の格好をして通学してきた変態・変質者という扱いになってしまう事だろう。
そして、それは、自分が犯してもいない性犯罪で逮捕されたのではないかなどと勘繰られてしまう要因にもなってしまうかもしれない。
それだけは避けなければいけない・・・!!!
悩む俺。
しかし、時間がそんなにも用意されていないのも事実であろう。
なんだかんだ言って、女性の方が明らかにコミュニケーション能力は高く、こうして数秒であっても次の言葉を口にすることを躊躇っていてはいけないのだ。
(さぁ、どうする・・・?)
「・・・・・・・え?」
結月は明らかに不思議そうな顔をしてくる。
(あ、これはミスったか・・・。)
その瞬間、失敗したのだと悟った。
俺が悩みに悩んだ答え、それは・・・。
頭を優しく撫でることだった。
言葉を発してボロが出ようものなら困るという事で出した結論がこんなことでいいのかと迷ったが、これしか思い浮かばなかったので仕方が無い。
なでなで
仕方が無いので、このまま押し通してみることにする。
ここで下手に挙動不審な動きを取るよりはその方がいいだろう。
「んあ、なんだかくすぐったいよ~」
結月の髪は手入れがきっちりと行き届いているのだろう。
手触りが滑らかでいつまででも触っていられそうな錯覚を覚える。
そして指の腹が結月の髪を通す度に心なしか、その表情も柔らかくなっていく。
なんだか目がとろんとしてきている気がした。
「えへへ、慰めてくれてるの~?ほんとやさしいんだね」
遂に結月は嬉しそうな顔を露にした。
それにはついつい俺もつられて微笑みを浮かべてしまうというもの。
「えへへ、こんなことされたのなんて初めてだから嬉しいよ~///」
「そっか~。。。それなら良かったよ~!!ほんとにもうきにしなくていいからね~」
」
ここでもう一度、念には念を押しておく。
この調子だと、永遠に気にしていられそうだと感じたから・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
結月はあからさまに悩んでいる様子を見せる、
そんなにも気にすることなのだろうか。とやはり思ったものの、それもひとそれぞれなのだろう。
そして刹那の間の沈黙の後、結月の顔に笑みが浮かび・・・。
「うん!わかった!!もう気にしないことにするね~!ありがと!」
今度は心の底からのありがとうだった・・・。
それから、俺は女装をしているとバレないようになんとか頑張れた・・・。と思う。
カラオケという自分の声を大々的に披露しなくてはいけないこの環境には手こずったものの、そんなにも歌は上手くないからという嘘をつくことで、極力歌わずにいられたし、それでもなお歌わないといけない状況にあっても、元来声が低くないという自分の声の性質を利用して、高めの音で歌う事が出来たのだ。
今まで少なからずコンプレックスであっただけにこういう場面とはいえ、救われたことにただただ感謝した。
そして、今は自分の部屋。
「はぁ~」
他に誰も人がいないことを確認した俺は、それは深くため息をつく。
女子寮についた途端、結月達はほんの少しだけ名残惜しそうにしていたが、それぞれの部屋のある棟へと向かっていってくれた。
多分、あの時の表情から誰かの部屋で再度集まって、おしゃべりをしようとしていたのかもしれないが・・・。
俺としては一刻も早くあの心労のかかる状況から避難したかったのだ。
だから、早々に「じゃあ、私はこっちの棟だから、また明日ね~」と言って手を振って別れた。
「あら、おかえりなさい・・・。初日から遅かったのですね・・・。」
そしてそんな俺と結月達のやり取りを遠くの方で見ていたのだろうか、
マリアさんはにやにやと言っても差し支えない程の笑みを浮かべながら、近づいてきたのだが、もう彼女?を相手にするだけの元気はなく、会釈をするだけで足早に部屋に戻っていった。
「疲れた・・・」
ベットに横になりながら、思わず口をついて出てしまった。
それは多分どこにでもあるような入学式で、初日からこんなにも疲れることになろうとは思いもしなかった。
まあ、普段よりも気を遣わないと仕方のない状況だから、仕方がないと言えば、そうなのかもしれない。
「女装して男だとバレないように通学しながら、探さないといけないとか・・・。はぁ・・・。」
もう一度、深いため息をつく。
そうして、これからの事を考えている内に疲労感が限界に達したのだろう。
いつの間にか俺の意識は暗い眠りの渦へと飲み込まれていった。。




