第2話 間違い
「ああ、ごめんごめん。まさか人がいるなんて思ってもいなかったから、
単純に驚いてたんだ、さっきの質問の答えだけど、そうだと思うよ。
今日もらった紙にそう書いてあったから。」
俺がそういう風に答えると、彼女は満足げな顔になった。
「そっか、それならいいんだよぉ。私も下見がてら教室に立ち寄ってたら、
君が来ただけだからねぇ。あ、私の名前はね~、月宮雫っていうんだよぉ~。
ねぇねぇ~、君の名前はなんていうのぉ。教えて~」
俺は下見という言葉が気にはなったものの、
それを聞いてはいけないような気がして、彼女から与えられた問いにだけ、
答えることにした。
「俺の名前は笹辺 星加だ。女みたいな名前ってよく言われるが、
まあ気にしないでくれ」
「うん。わかったぁ!!星加くん、これからよろしくねぇ
私のことは雫って呼んでね~」
雫はそういうや否や、腕時計をちらりと見ると立ち上がった。
「あ、そろそろ私寮に戻るね~。部屋の片づけをしなきゃなんだ~」
そんな言葉だけを残して、雫は足早に教室を出て行って、
まるで嵐が過ぎ去った後のような静けさが教室内にいた俺を襲った。
「ほんと、ぐいぐい来る奴だったな。
なんかあのまま帰った方がめんどくさいことにならなかったんじゃないか。
アイツ絶対明日話しかけてきそうだよなぁ。はぁ~」
俺は盛大にため息をつくと、もうここに長居する意味もないと結論付けて、
教室を出ることにした。
この時、俺は気づくことができなかったのだ・・・。
ロッカーに隠されているかのように入れられた死体に。
俺は教室を出てから、寮のある方角へと足を進めていた
この学園の生徒は寮に入ることが義務付けられている。
というよりも入学してから卒業するまでの間に学園の外へ出ることはできないといったこの学園のルールが存在するため、当然と言えば当然なのだ。
そしてそんなルールがあるためからか、この学園の敷地内にはいろいろな建物や設備がある。スーパーやコンビニ、薬局などといった生活用品を売っている店のほか、本屋やスポーツ店、ゲームセンター、果てはマンガ喫茶やメイド喫茶などまである始末。
ある意味、1つの都市と言っても過言ではないほどにこの学園の中央部には揃っている。
そして俺が今向かっている寮は男子と女子できっちり分けられており、男子寮は敷地の左側に位置し、女子寮は右側に位置している。
さらにこの寮にはセキュリティーが完全に配備されているようで、男子が女子寮に近づくと警報が鳴り、すぐに警備員が駆けつけてくるらしく、そこで怪しいと判断された場合にはこの学園特有の施設、牢獄に一定期間拘束される。これは逆も同じで、男女平等を謳っているようだ。加えて内部もきっちりとしているようで、全生徒に固執が用意されていることはもちろんのこと、部屋に入る際には指紋認証及び網膜認証をしなければ入れず、常時監視カメラが稼動している。ただまあ、監視カメラは生徒自身のプライバシーの観点から基本的には誰も見ることはできず、それは守衛や学園理事も例外ではない。例外的に事件が起きた時にその部屋の住人及び学園理事、先生3名の許可を得た場合に限り見ることができるが、実際そうなることはめったにない。
とまあご丁寧に入学式でもらった生徒手帳の中には細かく、
そんなことが書かれていた。
寮へ向かう最中に俺は生徒手帳を読み進めていった。
そのためか、寮への道はそこまで長いとは感じず、
いつの間にか寮についていた。
寮の入り口に近づいていくと、中から20代後半の男性が出てきた。
男性はこちらに向かってゆっくりゆっくりと近づいてくると、
俺の前でその足を止めた。
「笹辺さん、あなたはどうして男子寮に来られたのですか?」
男性から発せられた言葉はそんな質問だったのだが、
俺としては意味が分からなかった。
どうしてって、そんなの男だからじゃないですか・・・
としか反論の言葉を思い浮かべることのできなかった俺は思わず
「どういうことですか?」と質問に質問を返すということをしてしまった。
すると男性は、明らかに見下したような表情で嘲り笑ったかと思うと、
衝撃的なことを言い出してきた。
「どういうことですか?って本当に言っているのですか。まったくこれだから新入生というものは嫌なのです。生徒手帳を見ないから。しょうがないので私が教えてあげましょうか。生徒手帳の校則24番にはこう書かれています「異性の寮に侵入せし者は、怪しければ牢獄へ」とね。そしてあなたは女性としてこの学園に登録されています。よってあなたにとって、この男子寮は異性の寮であり、私は貴女を牢獄に入れることができます。ですがまあ、入学初日で間違えってしまったということにしてあげましょう。さぁ、早く女子寮へと行きなさい。次にもしもあなたをこの付近で見かけた場合は問答無用で牢獄に入れますので、ご了承を」
男性の言葉を聞き終わった瞬間、俺は唖然としてしまった