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3つのルール  作者: アキラ
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第18話 意図せず習得したこと

罪悪感を感じた俺はこの場からすぐに退散したかった。

しかし、それでは後々でその罪悪感が膨らんでいきそうで、

どうにも足が動かなかった。

そして俺の抱えている感情とは異なる感情を今、

抱えていそうな彼も立ち止まったまま、動きがない。


このままではずっと動けないのではないか。

そんな確信にも似た想いが想起されたとき、

彼はその表情を無理矢理笑わせた。そして・・・


「俺みたいな奴に告白されても、気味悪いですよね。すみませんでした。」

そう自嘲気味に呟くと、そのまま後ろへ去って行った。


なんだか悪いことをしてしまったなという罪悪感はあったが、

普通に立ち去ってくれて良かったという今まで感じたことのない安心感を感じた。

と言うか、告白されることがこんなにもしんどいものだとは思わなかった。


しかし、これが最初で最後の告白とはならなかった。

一匹いたら百匹はいると思えと言うおぞましい言葉があるように、

俺はそれからひっきりなしに告白された。

色々な人、色々なシチュエーション、色んな言葉で告白された。

中には「俺と結婚してくれ」だとか「俺と子作りしてくれ」という

行き過ぎた告白もあったし、男の俺でもかっこいいなと

思わせるようなイケメンからも告白された。

最初こそ、告白されることに対して気持ち悪いやしんどいやと

感じていた俺だったが、これほどの数の告白を捌ききった手前、慣れてしまった。

むしろ今では変な優越感に支配されている。


だからというわけではないが、

「好きです!付き合ってください!!」

「あ、ごめんなさい!まだ貴方のこと全然知らないから告白されても困るわ。

もう少し仲良くなってからそういうことは考えましょう。」

と言う風に女子的な振り方を習得してしまったのだ。


普通の男子学生ならば、到底習得できないはずのスキルを習得したことに

いささか、どうしようもない感覚が胸の内に起こったが、しょうがない

俺は諦めて、男を振り続けていった。


とまあ、そうこうしている間にも時間は過ぎていくわけで

俺の胸中には教科書を買いに行けないのでは。

と言う焦りが生まれることに・・・。


このままではさすがにやばい。

そう思った俺は走ることにした。


しかし、俺の前にまた一人告白しようと

こちらへ駆け寄ってくる男子が現れたのだ。

俺の瞳に滲む焦燥感に気づいているのか、

気づいていないのかは分からないが、

このタイミングで出てくるのは迷惑でしかない。

「好きで」

「ごめん。無理。今急いでいるから」

そんなタイミングで出てきたから申し訳なかったが、

俺は彼の言葉を食い気味に奪い、振った

きっと自分がそんなことをされてしまったら思い切り、悲しむことだろう。

だけど、優しさを見せている余裕は既になかった。


きっと後ろでうつむいているに違いない。

その確信を持って振り返ったのだったが、なぜか追いかけてきていた。


俺の頭の上で疑問符がたくさん浮かんでいるものの、

ここで立ち止まりなぜまだ追いかけてくるのかを聞いていたら、

本当に間に合わなくなってしまう。

そのまま前を向き直すと、全力で走った。

途中、何回か何かを叫んでいるような感はあったが、気にせずに走った。

何人かの生徒にガン見をされたが、それすら無視していった。



「ハァハァハァ・・・」

無事、教科書購入を終えることが出来た俺は、今肩で呼吸している。

それくらいに体力を使い果たした。

教科書に入った瞬間のその場にいた生徒及び先生の

あの驚いた表情は生涯忘れられないだろう。


だが、もう一つ気がかりというか生涯忘れられなさそうな事項があった。

「大丈夫か?ほら、これ」

そう言いながら、冷たい缶のお茶を手渡してくるこの男の存在だった。


あの時、きっちりと振ったつもりで走っていたのだが、

なぜか彼は追いかけてきた。

それも息一つ切らさずについてきて、

今はこうしてお茶を買ってきてくれていた。


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