第17話 確保 そして 衝撃
李留が結月と初対面の挨拶を交わしていたちょうど、その頃
星加はまだ逃げていた。
途中でなんで俺は逃げているのか。捕まった方がいいのではないかとも思った。
そもそも逃げていると言うことは何かしら自分の中に
後ろめたい感情があるという風に思われてしまうことは間違いない。
だけど彼らのあの表情を見た瞬間、俺の足は勝手に走り出していたのだ。
今も彼らの姿が目に映っただけで、逃げる為の体勢を勝手に取っている。
ただ逃げているばかりもいられない。
教科書を購入しなければいけないと言うこともあったが、
残してきた李留のことが心配でもあった。
それに足の方もそろそろ限界に来ている。
このままではずっと逃げ続けなければならない
。そう思うと、なんだかもう諦めて捕まってもいいのでは。と思えてきた。
ただ追いかけてきた真意が分からない以上、
その事情を知らないで捕まるのもリスクは高い。
普通の学生ならば、最悪の事態を想定することもないのだが、
いかんせんこの学校は普通とは呼べない。
そしてそこに在籍する学生も普通ではないはずだ。
だから、この考えは間違っていない。
半ば乗り気はしなかったが、捕まえて追いかけてきた真意を聞き出す決意を固めた。
と思っていたら、前方から俺のことを追いかけてきた内の一人が走ってきた。
見るからに弱そうだったこともあり、
さっきまで考えていた計画を実行することに決めた。
俺は近くにあった柱の裏に身を隠し、その好機を獲物を狙う獣のごとく狙った。
そして、数秒後、その時は訪れた。
彼はこちらに気づいていないようで、柱を不用心にも通り過ぎようとした。
その瞬間、俺は彼の後ろから手を伸ばすと、そのまま抱きしめた。
逃げられないようにするために、右手を下半身の方へ、
左手を首元に近い位置で止めた。
端から見れば、カップル同士がいちゃついているようにも
見えなくもないこの姿勢だったが、俺は真剣だった。
(もし、こいつが変な動きを取ろうとしたら、このまま首を絞めてしまおう)
しかし、捕まえられているはずの彼はなぜか嬉しそうだ。
その証拠に、後ろからははっきり見えないが、明らかににやついている。
仕舞いには「むふふふ」と男性らしからぬ気持ちの悪い声を出している。
すごく、気味が悪い・・・。
そんな気味の悪さに気を取られていると、
彼はその一瞬の隙を突いて、すごい力で俺の拘束から抜け出した。
途中で首を絞めてしまったからなのか、彼の首には赤い痣ができあがる。
(やばい。逆上して襲われるかもしれない・・・。)
そう思ったのも、束の間のことで彼は早くこちらの存在を確認したかったのか、
すごい勢いで振り返ってきた。
とっさに身の危険を感じて、戦闘態勢を取る俺
しかし、彼が返してきた反応は予想外のものだった。
見るからに顔は赤いのだが、それは怒りから来たものではなく、
どう見ても照れていることが窺える。
更にその事に加えて、トイレを我慢している子供のようにもじもじとしている。
(なんだ、こいつ!?すごく男らしくない上に気持ちが悪い・・・)
心の中で悪態をついた、ちょうどその瞬間、
いつの間にか彼は俺の手をしっかりと握っていた。
そして意を決したような面構えになると・・・
「一目惚れです!!どうか、俺とつきあってください!!!」
「・・・・・は? はぁぁぁぁあああああ!?!?」
俺はあまりの衝撃に彼の緊張で汗ばんだ手をふりほどくと、後方へと飛び退いた。
と言うよりも後ろに転けかけた。
そして何とかバランスを取り戻し、さっき言われた言葉を反芻した
(一目惚れ、一目惚れ、一目惚れ。一目惚れっていうのはあれだ。
一目見て惚れた・・・つまりは好きだということ。
だから付き合ってくれと・・・。いやいやいやいや!!おかしい!!
どう考えてもおかしい!!そもそも俺、男な訳でこんな格好しているけど、
趣味嗜好は普通の男性と同じなのに。というか、まさか、こいつホモなのか!?
だから俺のことを好きだと・・・。
い~や、それはどう考えても違うような気が・・・。)
ああでもない、こうでもないと自問自答していると、俺に告白をしてきた彼は
明らかにしょんぼりとしている。
それもそうだ。彼は俺のさっきの言動と態度が
その返答という風に感じているのだろう。
正直、その表情を見ていると、罪悪感を感じてしまう




