第14話 握手と金髪(握手に応じた場合)
俺は彼の差し出して手を数秒間見つめた後、意を決した。
彼の手をぎゅっと優しく握りながら、作り笑いを浮かべることにした。
(やっぱりこんなことでリーダー格になりそうな人を無下に扱うのはだめだろう。
まあばれるリスクは幾分か高まりそうだけど・・・)
俺が握手に応じてくれたのが嬉しかったのか、
それとも笑顔を向けられて嬉しかったのか、彼は満面の笑みを浮かべていた。
少しだけ嫌悪感を感じたものの、その感情を表面に出すことはためらわれた。
「俺の名前は才場太一だよ~!!よろしく~!!
いやぁ,それにしても君本当に可愛いね。ねぇねぇ、名前なんて言うん??」
(可愛いって・・・。こういうことを言われたときの女の子の表情が
よく分からないけど、まいっか。どうせお世辞だろ。
女装しているだけでそんな顔まで変わるとは思えないし。
っていうかこの流れ的に俺も名前を名乗らなきゃいけないんだよなぁ。はぁ)
心の中で盛大なため息をつきつつも、表情はさっきの作り笑いを更に深めることにした。
「あ、私の名前は笹部星加っていいます。
これからよろしくお願いしますね。太一君」
そして俺は自分が今まで思い描いていた理想の女子像を元に
自己紹介をしたのだったが、なぜだか才場は驚いていた。
「き、君ってどこかのお嬢様なのか??」
その言葉には俺も驚いてしまった
(俺がお嬢様!?普通の女子はこういう風に挨拶しないのか。
俺が今まで見てきた女子の多くがこういう風にしていたから、
てっきり普通なのかと思っていたけど、違うのか。)
自分の理想と現実は大きくかけ離れているようだったが、
今更さっきの挨拶をなかったことには出来ないだろう。
そうであれば俺は、このお嬢様?キャラを貫いていった方がいいだろう。
(まあ、敬語で話していればそう見えるだろう)
「そんなことはないですよ~。普通の学校でしたよ~」
だがよくよく考えると、お嬢様をあまり知らない俺にとって、
お嬢様を演じることは出来そうもなく、
早々に諦めてそんな言葉を口にしたのだったが、才場は不気味な頷きをしていた。
かと思うと、またもや俺の顔をじっと見てくる。
「普通とか言っちゃってさ、おそらく俺たちの普通と君の普通は違うんだろうなぁ。
謙遜しちゃって可愛いな」
(ああ、もう何を言ってもお嬢様補正されるな。これは)
俺は心の中でため息をつきながら、才場に笑みを向けるのだった。
才場との挨拶を終えたあたりから、
どんどんと新入生だろう生徒が部屋に入ってきていた。
俺はなるべくたくさんの人の顔を覚えようと思い、
教室に入ってくる人の顔を見ながら、その特徴を頭の中にまとめていった。
そして何分かが経った頃、始業のチャイムが教室に鳴り響いた。
しかし周りを見ると、まだ教室に来ていない生徒が4人いるようで、
チャイムが鳴り響いた直後に入ってきたこのクラスの担任だろうと思われる
女性教師は困ったような表情をあげていた。
今は「早く揃ってくれないかなぁ」と呟きながら、時計を眺めている。
そしてその呟きは教室内にいる生徒たちも同じようなことを思っていたのか、
次第に波及していき、ある者は「初日から遅刻とかすげぇよな~」と
馬鹿にしているような態度を見せ、
ある者は「何かあったのかなぁ」と心配の声を上げたりしていた。
こういう場面である程度の人間性は出るのだと実感する。
人は自分と無関係な相手に対しては、素直な生物なのだから。
ガラッ
ドアが開いていく音がして、みんな揃って音のした方向を見た。
すると、そこには見るからにヤンキーなのではと思ってしまうほどに
シャツをズボンから出して、ボタンも全然留めていない。
そしてなんと言っても金髪の男が立っていた。
それもこの金髪は天然のものではなく、見るからに染めた金髪だったのだ。
彼は教壇の上に立つ、先生を視認したかと思うと、その場所へと近づいていった。
先生は明らかに怯えている表情をしていた。
そしてそのまま彼は先生の眼前に立つと、自分の手で先生のあごを上げた。
俗に言うあごクイをされてしまった先生はあまりにも突然の出来事に呆然としている
「はは、可愛らしいからついしてしまったよ。悪いな、センセ。
アンタなら俺のことを楽しませてくれそうだ。」
彼は先生の呆然とした表情を見た後、
嘲笑を浮かべながら先生をからかっていた。
しかし、少なからず可愛いと言われたことが嬉しかったのか、
先生は顔を赤らめていた。
そして、そんな光景を見させられた俺はこいつとだけは
関わらないようにしようと心に決めるのだった




