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辺境の空は今日も晴れ  作者: 宝蔵院 胤舜
14/31

第六話 “道”を忘れたサムライ

辺境の空は今日も晴れ 6

The periphery’s sky is still fine 6



“道”を忘れたサムライ The Samurai, Lost the way Man



【1】


六月も中ばである。ウィンズの月といえば、城都や、海浜好楽地のトーレルでは、早くも息抜きだ、バカンスだ、と浮かれ始める頃である。北の辺境にあたるエイフの村も、ようやく暖かい日の方が多くなり、皆のあいさつの言葉の端々に「暑い」「夏だ」という単語が付け加えられる、そんな季節になって来た。

今日は、安息日である。しかし、農民がその住民の大半を占めるエイフの村では、安息日は特に関係ない。教会でおつとめを済ませた兵隊達は、ミラールに率いられて兵営の庭に集まった。

「さて、今日はピート達の番よ」

準備運動を済ませ、額にうっすらと汗を浮かせたミラールが言った。

ピート軍曹の分隊五人は、手に手に剣ほどの長さの棒を持っている。その先に、小麦粉の入った袋がついている。

「隊長、今日は何を賭けるだあ?」

棒によりかかりながら、ピートが尋ねた。それに答えてミラールは、無言でリスキンを指さした。

「今日の賭け金は、『鳥達のさえずり』十本だ」

リスキンが高らかに宣言した。

おおっ、と兵隊達はどよめいた。『鳥達のさえずり』は、ケナッド高地のヘルマンナットという街で作られている、山ぶどうを使った珍しい赤ワインである。独特の甘みと酸味がどんな料理にも合い、ワインマニアの間では、正規ルートの価格の十倍の値で取り引きされるほどである。

「前回は、リスキン達に『ウィンズの吐息』を持っていかれちゃったからね。今回は負けないわよ」

ミラールはそう言うと、ゆったりとした姿勢で、小さく構えをとった。

「前に俺らがやった時は負けたで、今日こそは勝って『鳥達のさえずり』をいただくに!」

ピートが棒を突き上げて言い放った。ベン伍長、モルタ伍長、ロウ伍長、デントン伍長の四人の分隊員も、同じように棒を突き上げ、「おう!」と答えた。ミラールを丸くとりかこむ。ミラールは、皆のよりも少し短い棒を持ち、これには袋はついてしない。

リスキンが、右手を高々と上げ、振り降ろした。

「始め!」

号令を合図に、ミラールも、分隊五人も素早く構えをとった。

これは、軍事教練がわりにミラールが編み出したゲームである。ルールはいたって簡単であり、ミラールを中心に、分隊五人が囲む。兵隊達は棒を持ち、その先に小麦粉入り袋をくくりつける。兵隊の内の一人でも、ミラールの体に粉をつければ、兵隊達の勝ち。三 (アングーン)を二セット行い、粉をつけられなければミラールの勝ちである。ただし、手や足に、かるくついたものは無効である。

ピート達は次々に棒を突き出すが、まだまだ形がサマになっていない。野良仕事でもしているかのような動きである。ミラールはそれを流れるような動作でさばいて行く。時々、ミラールの棒、手、足が、兵隊達の、板を綿でくるんで作った防具を打つ。

三分はあっという間にすぎた。一分の休憩の後、第二ラウンドが始まった。相変わらず、ミラールの動きは冴えている。一人としてその体にかすりもしない。

「あと三十 (レムグーン)

リスキンの声が、非情に残り時間を告げた。

「よおし、そろそろ本気を出すに」

ピートはそう言うと、他の四人には構わずに、棒をゆっくりと構えた。右肩にかつぐようにして、先をミラールに向ける。

目の端にその構えを見たミラールの顔が、一瞬引きつった。

「ダーッ!」

烈帛の気合いを込めて、ピートが突きを出した。寸止めも何も考えない、文字通り必殺の一撃である。

退がってよけるひまはなかった。足を入れかえ、すれすれでピートの一撃をかわしたミラールの掌は、勢いよく突っ込んで来たピートの胸に触れた。肘が曲がったままの打撃に、ピートの体は後方に大きく飛ばされた。そのまま地面に大の字になって倒れる。

「時間」

リスキンが、淡々と告げた。三分二ラウンド、ミラールの勝ちである。

「ピート、大丈夫?」

ミラールは急いで駆け寄ると、咳こんでいるピートを助け起こした。

「くそーっ、何であれがよけられるだぁ」

ピートは、打たれた痛さより、かわされた事の方がショックだったようだ。

「大丈夫だよ、隊長」ベン伍長がさばさばと言う。「どうせピートは体だけは頑丈だで、それくらいなら平気だら」

「お前、隊長の突きを喰らった事ないで、そんな事いえるだ。がんこ痛いだぜ」

「ごめんね、ピート。あんなに鋭い突きが出来るなんて思ってもみなかったから、つい力が入っちゃって。でも、それでも手加減したのよ」

「あれで手加減…」

ピート、それにベンも思わず絶句する。ピートは身長百九十九クレグラノース(cm)、体重九十六ディボダフ(Kg)ある。その巨体プラス突っ込んで来た勢いを、ミラールは全てはね返したのだ。

「―――でも、隊長。僕の突きも、けっこうよかったら?」

「ええ。とてもよかったわ」

「だら、何でよけれただ?」

「―――そうね。はい、みんな集まって。『隊長から一本とって、おいしい酒をぶんどるぞ』講習するわよ」

ミラールは兵隊達を集めると、リスキンを相手に技の説明を始めた。いくら平和な軍隊でも、何も出来なくてはいざという時に村を守れない。しかし、彼らと"訓練"しても、嫌がるだけで覚えられない。

そこで、ミラールは「ギャンブル」という目的をつけてやったのだ。人間誰れしも、楽しいと思いながら何かをすれば、それは心に、体に残るものである。

ミラールの棒が、三度目にリスキンをよろめかせた時、街道の向こうから早馬が走って来るのが見えた。暗い草色の服を着て、近づくにつれ、腕につけている、黒地に緑の線の入った腕章が見えた。

「あら、ダナウからの伝令じゃないの。どうしたのかしら」

ミラールと兵隊達が見守る中、伝令は彼らの近くまでやって来ると、ひらりと馬から降りた。ミラールを見て、ピタリと敬礼する。

「お伝えします。先の国境警備報告会の折、オールル国境にて野盗の出現が確認されました。つきましては第十四小隊においても、国境の警備を一層固めるよう、東方師団長よりの御命令がございました。よろしくお願いいたします。これは、状況報告書です」

ミラールは敬礼を返すと、その手から書類を受け取った。そして、もう一度敬礼を返す。

「報告書、確かに受け取りました。ご苦労様でした」

「ありがとうございます。では」

伝令はそう言うと、素早く馬にまたがって、もと来た道を走り去っていった。

「伝令の人って、せわしないやあ」

ロぺルが呟いた。

「さてさて、どのような状況なのかしら」

ミラールは報告書の封を切ると、内容を読み始めた。

「オールル、ベスロネス各国境付近において、野盗団出没す。五~三十の徒党を組み、その行為は残虐非道。特にオールルの脱走傭兵から成る『紅竜義勇団』を称する五十人の野盗団が、最も勢力が大きく、なおかつその行動も頻繁にして、被害は尽大。最大級の警戒が必要。主要各野盗団の首領は以下の通り。

『紅竜義勇団』―カランスキー

『オロフ義血団』―オロフ

――などなど」

ミラールは読み終わって、肩をすくめた。

「野盗団なんか来たって、エイフの村じゃ、奪る物なんか何もないわよねえ」

「まったくだ」と、アベル。「だけど、物騒な事になっただなあ。もしこの辺りにまでやって来たら、どうするだ?」

「来ない様に祈りましょう」

マーカスの言葉は、兵隊達全員の気持ちを代弁していた。


【2】


「野盗団出没注意」の知らせは、エイフの街にも届けられた。しかし、滅多にそんな大事件の起こらないこの地では、そんなに切羽つまった危機感というものはない。その辺が、この地方のお気楽な所である。だいたい、先の戦争の時でさえ、この村は無関係に平和な日々を過ごして来たのである。野盗団が来たからどうなる、というほどの気持ちしか持ち合わせてはいなかった。

そんなある日の事である。

国境沿いの森に入り、杖の材料をとっていたアロウおやじが、血相を変えて兵営に駆け込んで来た。

「た…大変だっ!」

ちょうどお昼どきで、ミラールは兵隊達と昼ご飯の最中であった。

「どうしただあ」アベルがゆっくりと答える。「アロウおやじの『たいへんだ』は、あんまりアテにならないでなあ」

「た、大変なんだよ」アロウおやじは息を切らせつつ、わめくように言った。「野盗が出ただよ」

「どこで?!」

ミラールが、反射的に立ち上がった。

「国境の森ん中で、枚の材料をとっとったら、ハア森ん中で、見慣れねえ服着た男が、でっかい刀持ってウロウロしてただ。わしは慌てて逃げ帰って来ただよ」

「正確な場所を教えて。みんな、出動するわよ」


ミラールを先頭に、兵隊達はアロウおやじが野盗を見たという森の中へと入って行った。国境の土塁を越えて、ラウアー山脈の山すそをいく分か登ったあたりであり、旧街道からそう離れてはいなかった。

「どうしよう、本物の野盗団だったら恐いやあ」

ロペルが泣き事を言う。

「何を言ってるの。街を守るためなんだから、しっかりと立ち向かわなくてはだめよ」

ミラールはぴしゃりとたしなめた。

「そんな事言ったって…」

ロペルがそう呟いた時、彼らの前方の藪が、ワサワサと揺れた。何かがその陰にいるようである

うわあっ!!

兵隊達は、あわててー勢に剣を抜いた。大声を出さずに剣を抜く動作だけが出たのは、最近のミラールの"訓練(ギャンブル)"の賜物であった。

ミラールは、ゆっくりとククリを抜くと、油断なく身構えた。

「誰かいるの?いるなら出て来なさい!」

ミラールは、大声で誰何した。しばらく息をひそめている気配がしたが、やがて藪の陰から一人の男が出て来た。

男は、前合わせの上着と、すその広い大きなスボンをはき、その上にかなり痛んだやはり前合わせのコートを着ている。親指の離れた靴下に何かの草で編んだサンダルをはき、腰に、反りの強い二m(ノース)はある剣を差している。長い髪をつむじの後ろあたりで立てて束ね、目をらんらんと血走らせている。

(あの剣は……?)

ミラールは目を細め、自らの記憶をさぐった。

『お主らもたんたるすの手の者か!?』

男が叫んだ。もの凄い声量である。頭がクラクラ来るほどである。しかし、ミラール達には理解が出来なかった。

「あなたはどこから来たの?何者?何しにここへ来たの?」

ミラールは尋ねてみたが、とりあえず甲斐はない事は判っていた。言語が違うのである。ところが、である。

「レイーヌ オロス サイ?レェム アラサス ラオ?(ここはどこだ?お主らは何者だ?)」

へたくそだが、確かにアルキス語が返って来た。

外国人か。野盗とは関係ないかも。

ミラールはそう考えると、男に理解しやすいように、とゆっくりと話し始めた。

「えーと、ここはランカスター公国の北東の辺境、エイフです。私達は、あなたの敵ではありません」

『敵だと!やはりたんたるすの兵か!』

ミラールのもくろみは早くも崩れた。男は、ここへ来るまでに、かなりすさんだ環境の中でアルキス語を学んだようである。ミラールの言った「Νον(ノン) Ιρρβραν(イルブラヌ)〈敵ではない〉」を、「Νφον(ノン) Ιρρβαν(イルブラヌ)〈最大の敵〉」という、傭兵が好んで使うスラングと取り違えていた。

「ちゃんと理解してよ!まったくもお!」

ミラールは怒ってみたが、こればっかりはどうしようもない。言語の壁がもたらすかん違いは、なかなか解消出来ないものである。

『わしはただ、ここを通過したいだけなのだ。それをなぜ邪魔するのだ!?』

「少しでもアルキス語が判るなら、何でもっとじっくり聞いて、理解しようとしないのよ。これじゃ話にならないじゃない!」

男とミラールは、互いに判らないのをいい事に好きな事を言う。

「―――とにかく」ミラールは小声で兵隊達に言う。「剣を収めて。敵意がない事を示さないと、何して来るか判らないわよ」

その刹那。

殺気を感じて、ミラールは反射的に体をひねった。その脇腹を服一枚かすめて、男の刀が空を斬った。ミラールの服が、下着まできれいに斬れていた。さらに驚く事には、刀の描いた軌跡に沿って、立ち木が輪切りにされていた。

「うわあっ!!」

ミラール以下兵隊達は、悲鳴を上げると街道に向けて逃げ出した。その後に木々が倒れ込んで来る。そしてその上を、男が刀を下げて追いかけて来た。

ミラールは街道に出ると、油断なくククリを構えた。男はミラールから三ノースほど離れた所に出ると、やはり刀を構えた。

「まいったなー。問答無用なんだもんなー」

ミラールは口に出して言った。緊張感を少しでもほぐしたかったからだ。男の放射する殺気は、しゃれや冗談では済まない凄まじさであったのだ。

「あのね、ちょっと聞いてくれる?」ミラールは、再度説得を試みる事にした。「あなたがどう思っているか知らないけど、私達は、あなたと敵対するつもりはないの。判る?ノン=イルブラヌ」

男は動かない。

「Ыа(ヤー) Ба (ベ)Иът (ニェート)Твалт(ツヴァルト)〈私は敵ではない〉」

ミラールは、ためしにスリアク語、すなわちオールルの言葉で言ってみた。

『何だと?もう一度言ってみろ』

男が反応した。ミラールはもう一度同じ事を言った。それを聞いて、男の殺気が徐々にしぼんで来た。

「―――ア…Αραζαζ(アラサス) ραο(ラオ) δαφραγτε(ダフランテ) δα(ダ) ρρβραν(イルブラヌ)? Αραζαζ(アラサス) ραο(ラオ) νορ(ノル) Τανταρρζθ(タンタルス) εξενταμ(エゼンタム)?〈お主らは、敵とは違うのか?お主らは、たんたるすの手先ではないのか?〉」

男はたどたどしく尋ねて来た。それに、ミラール以下十六人は、大きくうなずいた。

『そうかーっ!救かった。一時はどうなる事かと思ったぞ』

男は何やら言いながら、ガックリと膝をついた。

「ちょっと、大丈夫?」

あわてて問うミラールに、男は、

「…Νονεριλλυε(ノネリィエ)〈腹ヘった〉…」

そう呟くと、そのまま気を失ってしまった。


ハット上等兵、ボブ上等兵は、三度目のおかわりを厨房から持って来た。兵営二階の応接室を急きょ改造した客間では、(くだん)の男の食欲が爆発していた。

「腹へった」の一語を残して気を失った男を放ってもおけず、ミラール達は彼を担いで兵営まで帰って来たのだ。頬がげっそりとこけているので、とにかく空腹なのだろう、と、男が目を覚ますまでにたっぷり三人前の食事を用意しておいた。しかし、彼の食欲はミラールの想像すらはるかに超えていた。すでにこの兵営の丸一日分の食糧を平らげている。

『あー、やれやれ、ようやく人心地がついたわい』

とりあえず空腹の虫は収まったようで、男は落ち着きを取り戻したようだ。

「さて、どうしたものかしら」ミラールは呟いた。「素状を聞こうにも、言葉が通じないんじゃあねぇ」

「片言でもいいから聞いてみましょう。先のような感違いはもうないでしょうから」

リスキンが笑いながら言った。彼は、この男がかなり気に入ったようである。

「でも、いきなり噛みついて来そうで恐いに」

ロペルが尻ごみしながら言う。

「犬や猫と一緒にしないの」ミラールは笑って言うと、今度は男の方に向きなおった。「えーっと、いいかしら。私の言う事が判る?」

「うむ」男はうなずいた。「判る。少しだけ」

「よし。では尋ねるわよ。あなたは誰?どこから来たの?」

「わしは榊原(サカキバラ)四郎(シロウ)左衛門(ザエモン)正宗(マサムネ)日本(ヒノモト)武蔵国(ムサシノクニ)にて、畠山(ハタケヤマ)茂実(シゲザネ)(コウ)にお仕えしている」

「ヒノモト?ああ、ヒノモトね。その刀、どつかで見た事があると思ったのよ」

「で、あなたはなぜ、このあたりまで来たんですか?」

今度はリスキンが尋ねた。よほどこの男に興味があるようである。

国元(クニモト)に、一人のベその者が流れついた」

「クニモト?」

「藩主の屋敷の事。その男を将軍(ショーグン)の所へ連れていった」

「ショーグン?」

「国の二番目に偉い人。で、そのべその者の話しを聞いた将軍が、わしに北方探険を命じた。べそへ来た。べそにしばらくいて、ながんとへ移動する時、賊に来られた」

「賊に襲われたのね?」

「そう。襲われた。それで、わしの一団、ハラバラになった仲間と、帰る道を探して、ここまで来た。もう二 ケ(ラウナツ)になる」

「へえー、大変だったのね。でも何よ、ちゃんと言葉、判るじゃないの。何でさっきはいきなり飛び掛かって来たのよ?」

「―――?早くて判らん」

「〰〰〰……」

ミラールは一つ溜め息をついた。ある程度喋れるにすぎない、とという事を忘れていた。

「どうにもまだるっこしいわね。司祭様とバスターはまだかしら」

ミラールがそう呟いた時、部屋の扉が勢いよく開いた。

「よう、ミラール、変な客人をしょい込んだんだってな」

この、ことごとく口の聞き方を知らないたわけ者は、言わずと知れたバスターである。そのバスターの顔を見て、榊原正宗の顔色が変わった


【3】


『き、貴様!なぜここに!?』

正宗(マサムネ)は叫ぶなり、ベッドから飛び降りた。あわてて散る兵隊達をかき分け、刀に手を伸ばす。

「は?何言ってんだ、てめえ」

さすがのバスターも目を丸くしている。

『黙れ!べそ―たんたるす国境で襲撃をかけ、わが仲間に手をかけた事、忘れたとは言わさんぞ!』

『何だよ、日本(ヒノモト)の言葉なんぞ…。あー、判った。お前、あの時、べその護衛団と一緒にいた日本(ヒノモト)の使節団の一人だな?』

『副団長の榊原四郎左衛門正宗だ』

『いちいち名乗らなくてもいいからよ。で、俺をどうしようってんだ?』

『斬る!』

バスターと正宗との会話は、ミラールには理解出来なかったが、あまりいい雰囲気でない事だけは見るだけで判った。

いきなり正宗が刀をぞろりと抜いた。兵隊達は悲鳴を上げて部屋の隅に逃げた。

「ち、ちょっと、待ちなさい!」

ミラールの制止も聞かず、バスターと正宗は円を描いて移動する。バスターが、ちょうど扉を背にするかっこうになった。

「どうしたんです?随分騒がしいですね」

そう言いながらイグロウが扉を開けたのと、正宗がバスターに突きかかったのは、ほぼ同時だった。バスターは素早く体を開いて避けた。当然、切っ先はイグロウに伸びて来た。

「うわあっ!!」

イグロウは、咄嗟に首を振り刃をよけつつ、両掌で刀身をはさみ受けた。

「お、イグロウ、すげえじゃねぇか」

バスターは、そんなのんびりした事を言う。

「す、すまぬ、大丈夫か?」

正宗はそう言いつつ、刀を引こうとした。しかし、イグロウの万力のような力がそれを許さなかった。

「い…一体、こりゃ何の騒ぎですか!?」思わず声が上ずっている。「何でいきなり切りかかられなくてはならんのですか?」

「突きかかったんだぜ」

「やかましい!――隊長、説明してもらえるんでしょうね」

「ええ」ミラールは、大きく溜め息をついた。「とりあえず、司祭様はその刀を離してあげて下さいな。マサムネ、刀を引いて」

そこでミラールは言葉を切り、バスターをにらみつけた。

「な、なんだよ、ミラール」

その迫力に、バスターが思わず引いてしまう。

「バスター、どうやらあなた、このマサムネとは初めてではないようじゃない。あなたの口から、どういう事情か説明してもらうわよ。判ってるわね」

「拒否したら?」

「体に聞くわ」

ミラールは言いつつ、構えを取った。ミラールの一撃は、防具の上からでも必殺の威力がある。

「―――判った。判りましたよ。説明しますよ」

「そう。じゃあ、始めて」

一転して、ミラールは朗らかに言った。それを見て、イグロウは声には出さずに呟いた。

「隊長、バスターの扱い方を把握して来たようだな」

「なーに、簡単な事だ」バスターはあっけらかんとして言った。「今から二ヶ月ほど前は、俺はタンタルスの傭兵部隊にいたんだ。俺達の任務は、ベソとランカスター公国あたりとの陸路を遮断する事だったんだ。その時、べソの護衛団に付き添われて、こいつらヒノモトの一団が来やがったんだ。大人しくしてりゃ、俺達も外国人にまで手は出さなかったろうがな」

「この男、わし達に向かって来た。戦ったが、何人もやられた」

正宗が、また怒りをあらわにして言った。

「うるせえ。てめえらも、すぐにそのでかい刀を抜いて応戦して来ただろうが。掛かって来るなら斬るまでよ」

「はいはい、もういいわ」ミラールがすぐに間に割って入った。「ここはべソでもタンタルスでもないし、バスターも今はタンタルスの傭兵じゃないのよ。だから、マサムネも、ここは一つ我慢してちょうだい。戦争状態での敵味方なんて、あてになるもんじゃないわ。ここは平和この上もないエイフの街なの。ここでは戦争はないのよ。マサムネ、バスターを許してやって。――はい、バスター、通訳しなさい」

バスターは、彼にしては恐ろしいほど気を使って、ミラールの言葉を訳して正宗に伝えた。

正宗は黙ってバスターが訳したミラールの言葉を聞いていたが、やがてゆっくりとうなづいた。

『みらーる殿のおっしゃられる事は、いちいちもっともでござる。わしも武士(もののふ)のはしくれ、この際つまらぬ憎みは持たぬように務めましょう』

正宗はきっぱりと言った。バスターが通訳する。

「さすがは"サムライ"ね。どこぞのごろつき傭兵とは格が違うわね」

「まったくです。爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいですね」

ミラールとイグロウが口々に言うのを、バスターはヒノモトの言葉で気弱に毒づいた。

『何でそこまで言われにゃならんのだ?』

『それだけ良く見られている、という事だ。貴様も身を良く慎しむ事だな』

正宗のその一言には、強烈な毒がこもっていた。

『何だ、コノヤロー』バスターも言われたまま引き退がる程、しおらしい人間ではない。『侍だ、武士(もののふ)だ、ときれい事を列べたてる割には、陰険な野郎だな。"憎しみは捨てた"はずじゃないのかよ』

『捨てたわけではない。貴様に対する憎みを、そう簡単に捨てられるわけがあるか。それを、あえてわしは捨てよう、と言っているんだ。少しは貴様の立場というものを考えろ』

『言ってくれるじゃねぇか。てめえ一人が聖人君子みてえだな』

『聖人君子というのは、みらーる殿の事を言うのだ』多少照れながら正宗は言う。『わしはそんなに立派な者ではないが、少なくとも被害者であり、被害者として正当な意見は踏み外さずにいるはずだ。貴様のような腐れ外道と一緒にしないでいただこう』

『腐れ外道とは言ってくれるじゃねえか。たかがはぐれ侍の分際で、みらーるに色目を使うたあ、なかなかに太い脳天気野郎だな、お前も』

『色目を使う、とは何だ、失敬な。わしの刀のさびにならぬ事を、みらーる殿に感謝するんだな』

『この野郎、言わせておけばいい気になりやがって。その舌を斬り落としてやれば、少しはおとなしくなるか、試してやろうか』

バスターがそう言って体を右に開いたところを見はからって、ミラールの振り手がフルスイングでバスターの頭を張り飛ばした。バスターは軽い脳しんとうを起こして、その場に片膝をついた。

「もうけっこうです」ミラールはぴしゃりと言った。「何を言ってるのか判らないけど、どうせバスターが悪いに決まってるわ。いらないもんちゃくは起こさないで。マサムネ、あなたもこの男とは争わないで。面倒くさいから」

「うむ。わしもそのつもりだ」

「ありがとう」

ミラールは屈託なく笑った。笑うと、この上なく魅力のある表情になる。正宗は思わず赤面してしまう。

「何で俺が悪者なんだよ…」

「あなたが悪いの!!」

バスターは文句を言いかけたが、ミラールはそれを押さえて決めつけた。イグロウはそれを見て、黙って肩をすくめた。


正宗は、国境の土塁の近くに小屋を建てると、そのまわりの土地を整備して畑を作った。そこに、芋や豆など、比較的早く収穫出来る作物を植えると、畑仕事の合い間を縫った何かを作り出した。

週間(ラマルス)ほど後には、『(トルマン)』の市に、正宗の姿が見られるようになった。彼は、アカサンの木で作った傘を売っていたのだ。

「これは、ヒノモトでは『蛇の(ジャノメ)』と呼んでいる」

正宗はそう言って、傘を開いたり閉じたりして見せた。基本的に騎馬文化であるランカスター公国の国民にとって、雨具は頭から体をすっぽりと覆うコートが主流であり、城都などの大都会でも、上流階級の貴婦人達が陽傘を使うくらいで、「傘」そのものの知名度が低かった。そんな中で、正宗の売り出した傘は、一種の流行を生み出したのである。

その独特のデザインと、陽や雨をよける実用性、そして変わった形の杖としても使えるところから、年配の者達に特に受け入れられるようになったのである。

ある日、街までやって来たミラールの元に、渋顔をしたアロウおやじがやって来て愚痴をこぼした。

「隊長さん、あの変な外国人、なんとかしてくれんかね?」

「どうしたの?」

「あの男の作る『傘』とかいう奴でな、わしの杖の客まで取られそうな勢いなんじゃ。もの珍しいで、みんなあっちを買っちまうで、わしゃ困っとるだ」

「まあまあ」ミラールは笑ってアロウおやじをなぐさめた。「あの傘は、雨具としてはともかく、杖としては頼りないから、杖が欲しい人はすぐにあなたの所に帰って来るわ。一時の流行と思って、もう少し我慢なさいな」

「そんなもんだっかなぁ」

アロウおやじは、首をかしげつつ店へと戻って行った。

「ふーん、なんだかんだ言って、しっかりエイフの住民の中に溶け込んでるじゃない、あのサムライ」

ミラールは我知らず微笑んでいた。

相も変わらず、エイフの村は平和であった。


【4】


生活が安定して来ると、正宗は兵隊達と共に国境の警備に同行するようになった。彼の言い分によれば、「一宿一飯の義理」である。別にミラールとしても異存はない。なにしろ正宗は、兵営の兵隊十五人分以上の腕前の剣の達人である。逆に礼を言いたいくらいである。

ある日、正宗が兵営にやって来た時に、ミラールは長剣で試合を申し込んでみた。ミラールは、長剣に関しては、ククリや素手ほどではないにせよ、自らの腕に自信はあった。正宗の技量がどの程度のものか、試してみたくなったのである。

その結果は、ミラール、そして兵隊達を驚かせるのに充分であった。

ミラールは、正宗の踏み込みの早さを考えて、返しの刀で勝負をかけようともくろんでいた。浅い踏み込みなら引いてかわし、深い踏み込みなら受け流そう、と。

リスキンの合図で、正宗が動いた。上段からの切り降ろしである。何ら小細工のない一撃だったが、ミラールは受けの動作をするので勢一杯だった。それほどの早さ、そして勢いを持った斬撃であった。正宗は受けにいったミラールの剣に対して寸止めをしたが、もしそれをしなければ、ミラールは剣ともども真っ二つに斬られていただろう。

結局ミラールは三度正宗に挑み、三度とも敗れた。完敗であった。

「正宗、あなた、すごい強いじゃない」

ミラールは素直にほめた。

「いや、わしはまだだ」

正宗はそう言って刀を鞘に納めた。

「まだまだって事ね。ヒノモトには、あなたより強い人がいるの?」

「わしの兄弟子、わしより強い。それより、師匠は強い。師匠も、試合で敗けた事がある」

「あんたより強いのが、まだゴロゴロいるのか?」

横で見ていたイグロウが、思わず口を出した。

「うむ。わしはまだ下っぱだ」

「ヘえー、すごいトコだな、ヒノモトってところは。もしかしたら、サムライっていうのは、ファンネル騎士団より強いかもしれないな」

イグロウはうなるように言った。ファンネル騎士団というのは、ランカスター公国々王直属の特殊騎士団で、その強さは、周辺国家をして「世界最強」の讃辞を惜しまないほどである。「ファンネル騎士団一人は通常の騎士一個中隊に匹敵する」とまで言われている。

「うーん、ファンネル騎士団と比べるのはどうかしら」ミラールは笑った。「あの人達は普通じゃないからね。いくらマサムネが剣の達人でも、あの人達には手こずると思うけどな」

「ま、あくまで『もし』という事ですよ」

イグロウも笑った。一人話しから取り残された正宗も、二人につられてニコニコとしていた。

「何か、強そうには見えないだけんがねえ」

ロぺルがポツリと呟いた。


ある日、リスキンの小隊は正宗と一緒に、旧街道の東側の国境沿いをパトロールしていた。このあたりは樹木の群生が多く、下からでは全く森の中の様子はうかがえない、そんなところである。つい先日、正宗がミラール達と遭遇したのも、このあたりである。

このあたりはまた、獣や鳥が多く、絶好の狩猟場ともなっており、山猟師がよくここを出入りしていた。

「お、たき火の跡だ」

リスキンが、それを見つけた。地面を数クレグラノース掘ってたき火をし、その上から土をかぶせて火を消すやり方は、このあたりの猟師がよく行う方法である。

「あいつらにも注意してやらにゃあいかんら。このあたりにも、いつ悪い奴らが来るか判らんだでさあ」

アベルが最もらしく言った。

「そうだな」リスキンはうなずいた。「猟師達が巻き込まれたりしなければいいんだが…」

その時、森の奥から、か細い悲鳴のようなものが聞こえた。

『むっ』正宗の反応は早かった。『三町ほど向こうだ。ついて来い!』

ヒノモトの言葉でそう言うが早いか、声のした方へ走り出した。二ノースの刀を軽々とかついで猛烈な速さで走って行く。リスキン達は、彼の姿を見失わないようについて行くのがやっとである。

正宗が駆けつけると、そこにはオールル風の"こぎたない"服を着て、幅が広めの湾曲した刀を持った男六人が、腰を抜かした三人の猟師につめ寄っているところであった。

「何だ、Вас(ウス)〈お前〉は?」

ひげづらの男が正宗に怒鳴りつけて来た。アルキス語とスリアク語をごっちゃにして使っている。

「お前ら、山賊か?」

正宗は、ゆっくりと構えをとりながら尋ねた。

「山賊、とは聞こえが悪い。泣く子も黙る『紅竜義勇団』とは、俺達のこった!」

眼帯を付けた男がそう大見得を切った。それを聞いて、兵隊達は震え上がった。

「やばい、本物の山賊だに!」

「どーすりゃいいだあ?」

カーツとパットが、顔色を変えて剣に手をかけた。

「何だ、やる気か?」

眼帯が、よく光る雙眼でねめつける。そのひとにらみで、カーツとパットは、熱い鉄を触ったかのように、あわてて剣から手を離した。リスキンも、どう対処してよいか判断がつかず、あえて動こうとはしなかった。猟師が人質状態である。うかつに動けば、彼らがあぶない。六対六に人質三人では、明らかにこちらの分が悪い。

「わしはやる気だ」

正宗の一言は、兵隊、そして山賊に目を見張らせた。

「まっ待て、マサムネ、早まるな!」

リスキンはしぼり出すように言った。緊張からか、声が出しづらかった。しかし、正宗は涼しい顔をしている。

「ほほー、Ещак(イェーチャク)〈おっさん〉、変な見かけによらず、仲々度胸があるねえ」

刀を二本ぶら下げた、いかにも凶暴そうな人相の男が、ひげづらの後ろから茶々を入れて来た。

「まあな」

淡々と答えつつ、正宗は六人の山賊を観察した。ひげづらと眼帯はそこそこ刀が使えそうだ。人質につめ寄っている若い二人は、まだ下っぱで腰が引けている。二本差しはこの中で最も凶暴性が高そうだ。そして、最後まで口をきかない、獣のような眼光をした男、こいつがこの六人の統卒者である。そう目星をつけた。

「そこの二本刀。わしと勝負せんか?」

正宗は、いきなり大声で言った。あわてて止めようとするリスキンを身振りで押さえる。

「おもしれえ」

男は舌なめずりをしながら、前に出て来た。

「何がおもしろい」

あくまで正宗は淡々としている。

「自殺してえんなら、自分のそのでけえ刀でやんな。それがいやだってんなら、ま、俺の二本で手伝ってやるがな」

二本差しはあくまで図々しく、そんな太いことを言う。

「マサムネ、大丈夫だかいやあ」

ロペルが思わず呟いた。

「ヤゴ」正宗がリーダーだと当たりをつけた男が、初めて口を開いた。「挑まれたからには、生かして帰すな」

ドスのきいた声だ。リスキン以外の兵隊達は、既に腰がくだけている。気迫で既に完敗である。

「判ってますよ、ボス」

ヤゴは、ニヤニヤしながら、ぞろりと二本差しを引き抜いた。場が一気に緊張する。若い二人も、ヤゴと正宗に気をとられ、目は猟師達から離れている。しかし、猟師達は腰が抜けて動けないままである。

「挑んで来たからには、覚悟はいいな!いくぞ!」

ヤゴが刀を振り上げた。強烈な殺気がほとばしる。正宗にとって誤算だったのは、ヤゴが、自分の目測より強かった、という事だ。ヤゴを挑発した時には、彼はまだ全員を峰打ちにして捕えよう、と考えていたのだが、当てがはずれた。

ヤゴはなまじ強かった。強かったので、正宗の"情け心"にフタをしてしまった。正宗は抜き打ちでヤゴの胴体を輪切りにすると、その勢いのまま若い二人に向かって踏み込み、返す刀で二人の首を飛ばした。さらに斬り抜いた姿勢から左手を柄の元にあてがい、目をむいている眼帯男の胸を突き抜いた。その間わずかに二 (レムグーン)。まばたきする間に、四人が血の海に沈んだ。

「Е´Бурюа(エ ブローア)〈ちくしよう〉!」

ひげづらが、正宗の横から斬りかかった。正宗は体を開いて避けつつ、刀を袈裟懸けに斬りつけた。

正宗の刀は地面に切っ先を軽くぶつけた。小石に当たって小さな音がする。

「見事だ、サムライよ」

ボス、と呼ばれた男が、ゆっくりと口を開いた。

「ありがとう」

「だが、お前一人がいかに強かろうと、それは無駄な事だ。二~三日のうちに、我々はこの村を襲う。お前のような手練が一人いる事が判っただけでも、今回の偵察は成功した、と言えるだろう。『紅竜義勇団』の力、みくびるなよ」

ボスはそう言うと、くるりと背を向けた。しかし、正宗が斬り込むスキはなかった。彼は、見事な身のこなしで森の中へと消えていった。そこに、正宗と、リスキンと、腰を抜かした七人が残された。


【5】


兵隊達は、ヘロヘロになりながら兵営に帰って来た。三人の猟師も、兵隊達にかつがれるように連れて来られた。

「みんな、大丈夫か?」

イグロウの問いにも答えられないほど、兵隊達はまいっていた。ただ一人、正宗だけは背をしゃんと伸ばしている。

「みらーる殿、『紅竜義勇団』と名乗る一団がやって来た」

「何ですって?」

この言葉に、さすがのミラールも動揺した。よりによって、最も危険とされている一団が、この平和ボケした村を襲おう、としているのである。

「奴らは、二、三日後には来る、と言っとりました」

リスキンが、ようやく落ち着いて口を開けるようになった。

「二、三日じゃ、ダナウに援軍をたのんでも、とても間に合わないぞ」

イグロウは腕を組んだ。思わず重苦しいため息がもれる。

ミラールは、天井を見上げた。

「こりゃ、この兵営始まって以来の大仕事になるわね。一世一代の大勝負だわ」

ミラールは呟くと、バチーンと音を立てて顔を叩いた。皆がミラールに注目する。

「よし、みんな、よく聞いて。今聞いたように、二、三日後には、この村を盗賊団が襲って来るわ。この村を守れるのは、私達しかいないのよ。勇気を持って、敵を追い払いましょう!

ピートの小隊は、街まで走って、この事態を説明して、家に鍵を掛けて、むやみに出歩かないように言い聞かせて。街の人にたのんで話しを伝えてもらってもいいわ。

トールの小隊は、兵営で武器と防具の点検。あるのとないのとでは、やはり全然違うからね。

リスキン達は今日は休んで、明日の英機を養ってちょうだい。

じゃあ、解散!!」

ミラールの一言を待たずに、兵隊達は動き出した。直接我が身に振りかかって来た災難である。「僕らがやらねば誰がやる」といった使命感が、彼らを駆り立てていた。

慌ただしくなった兵営から出ると、ミラールは、イグロウに耳打ちするように言った。

「司祭様、バスターにも協力をお願いして。彼の力はどうしても必要なのよ」

「―――判りました」

バスターぎらいのイグロウも、この時ばかりは何も言い返せなかった。

長くて短い、嵐のような四日間は、こうして幕を切って落とされたのである。


(続)

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