表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の空は今日も晴れ  作者: 宝蔵院 胤舜
13/31

閑話休題 肆乃弐

辺境の空は今日も晴れ 閑話休題 肆乃弐



「はぁーっ」

ダン=バルは大きな溜め息をついた。

「どうしたんです?船長。溜め息をつくと、運が逃げるって言いますよ」

タイショーが笑いながら、カウンターにレイシュを差し出した。

ここは、ランカスター公国城都の一角にある、ヒノモト風酒場「(ポルヅ)(カサ)」である。

「船長の仕入れてくれた"マグロ"、やはり大人気ですよ。特に"サシミ"で食べられるものは、城都ではまず手に入りませんからね」タイショーは腕を組んだ。「ついさっきも首都大本営指揮官補佐官の皆さんにお出ししたら、大層喜ばれましたよ」

「ああそうかい、そりゃ良かったなぁ」

ダン=バルは他人事のように答えた。

「何かあったんですか?」

さすがに心配になって、タイショーは尋ねた。

「なあ、タイショー、結婚して、良かったと思うか?」

「何ですか藪から棒に…」タイショーは目を丸くした。「まあ、私は、良かったと思ってますよ」

「確か、タイショー、子供もいたよな」

「女と男」

「重荷に感じた事はないか?」

そのダン=バルの問いに、タイショーは何かを感じたようだ。

「……判りました。ちょっと待ってて下さいよ」

タイショーは一旦厨房に入ると、弟子に色々と指示を出した上で、皿とビアーのジョッキを持って出て来た。ダン=バルの横に腰掛けると、皿を置いた。少し見た目の悪い、赤い魚の身が載っている。

「これ、"マグロ"の骨の周りの身です。見た目は良くないですが、旨いですよ」

タイショーが笑って皿を差し出した。ダン=バルはワサビ醤油で一口食べる。

「おっ。確かに旨い。これって、品書きにはないな」

「見た目が悪いんで、お客さんには出せないんでね。まあ、役得って奴で」

タイショーは悪そうに笑った。そしてビアーを一口呑むと、ダン=バルに顔を向けた。

「そう言えば、昨年、子供が生まれたって言ってましたね」

タイショーにそう言われて、ダン=バルは小さく頷いた。

「相手はヒトじゃねえのよ」

「知ってます。あの狼少女ですよね」

タイショーは笑って言った。ダン=バルの連れ添いはミーウェルというローヴェン族の娘で、城都では珍しいワーヒューマンである。店に初めて来た時には、焼き魚を手づかみで食べようとしていたが、今では上手に箸も使う。

「かわいい()だったじゃないですか。子供もさぞかしかわいいんでしょうね」

「まあな」ダン=バルは笑って答えた。「確かにかわいい。ミーウェルもかわいい。それが問題なんだ」

それを聞いて、タイショーはピンと来た。

「ははあ、なるほど」タイショーはビアーの残りを呑み干した。「守りに入った自分が、何となく許せないんですね」

「そう。それだ」ダン=バルは膝を叩いた。「まさしくそれだ。俺は、冒険が恐くなったんだ。このダン=バルともあろうこの俺様が、家族の事が心配で、未知の世界に踏み出せなくなっちまったんだ」

「戦前はお尋ね者だったって聞いてますよ」

タイショーが声をひそめて言った。

「まあな」ダン=バルも声をひそめた。「あの頃の俺は、主にアルセア帝国の船を狙った空賊だったからな。それがまあ、不思議な巡り合わせで、かの有名な東方遠征に同行する事になっちまって」

「もの凄い大冒険じゃないですか」

「あの時は楽しかったよ。毎日が冒険だったからな。ミーウェルと二人で船を操って、おてんば姫に同行した道中は、今でもはっきりと思い出せる」

「あたしも楽しかったよ、船長」

その声に、ダン=バルは飛び上がった。見ると、ミーウェルが子供を抱いて立っていた。昔は、ローヴェン族のうなるような言葉しか喋らなかったが、今では普通にアルキス語を話せるようになっている。子供の為に、と猛練習をしたのだ。

「あたしは、あんたが暴れ回ってるのが好きたった。でも、今の、あたし達を守ろうとしてる、そんな所も好きだよ」

ミーウェルの屈託ない笑顔を、ダン=バルはまぶしそうに見つめた。

「だからね」ミーウェルは言葉を続けた。「あんたの好きなようにやりなよ。お姫様に顔を背けられない事なら、どんどんやっちゃったらイイのよ。家の事は心配しないで。留守くらい守れるよ。一緒に冒険した相棒なんだから、もっと頼ってもいいよ」

その言葉を聞いて、ダン=バルは何か目が覚めたような気がした。

「ありがとう、みんな。ありがとう。俺は、家を、家族を守るってのは、殻に籠ってやり過ごす事だとばかり思ってたよ。でも、そればかりじゃないんだな。俺が俺であり続ける事で、護れる事もあるんだな」

「ようやく、前向きな発言が出ましたな」

タイショーが笑いながら言った。

「それに、俺が家族を守ってるのと同じように、俺も家族に守られてるって事にようやく気が付けたよ。本当にありがとう、タイショー」

「私は何もしてませんよ」

タイショーは新しいビアーを注ぎながら笑った。

「よっしゃ!一丁攻めるぞ。今までは安全の為に手を出さなかったルートも開拓して行くぜ!これまで以上に、珍しい食材を仕入れてやるから、待ってろよタイショー」

「ご禁制品は遠慮しときますよ」

「スレスレで行くさ」

ダン=バルはミーウェルに微笑みかけた。ミーウェルも笑顔で返した。

この後、エイミス姫と再会したダン=バルが、彼女からのお墨付きを貰い、「天下御免の運び人」として名を馳せる事になるのだが、それはまた別のお話し。




閑話休題



20180208了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ