閑話休題 参乃弐
グワラン=プールの前日譚です。
辺境の空は今日も晴れ 閑話休題 参乃弐
来週のフラブール祭を控え、エイフの街の「辻」での大市が活気づいている。日頃はこれほどの大市が立つ事はないせいか、みな我れ先に買い物に奔走するので、小さな露店などは直ぐに品物がなくなってしまう。なので、露店は次々と入れ替わる。
「辻」から北に少々離れた酒場「森の小熊亭」は、入れ替わりで明日から出店する商人達が杯を傾けていた。
何やら大声で周りを憚らず話しをしているのは、オイ卜ルーダのグワラン=プールである。
「おいお前、それは本当か?」
ダナウから来たという小道具屋が目を丸くして言った。
「ホンマもホンマ、真実の話しやで」グワラン=プールは手を大仰に振り回した。「城都の市いうたら、利権の話ばっかりやで。ギルドが幾つも重なっとるから、すぐ縄張りで小競り合いや」
「そんな所で、よく許可証を手に入れられたな」
「まあ、その辺は"ココ"や」プールは自らの腕を叩いて見せた。
「ホンマ言うとな、一番でっかいギルドの用人棒一家に気に入ってもろてな、うまい事取りなしてもろたんや」
「そりゃ堅いな」
「うまい事やったな」
「そやろ」プールは上気嫌である。「まあ人脈は大事やからなあ。広げるに越した事ないで」
「そういえば」オールルから来た、という商人が口を開いた。「この間、チェフ村って片田舎で商売した時、ヘンなハーフエルフに遭ったぜ。何でも、魔法のアイテムを探しているとかで、それもデ一ンスダ一ンにまつわるモノが欲しい、とか言って、結構メンド臭かったな」
「そいつ、わしも知っとるで」プールは膝を叩いた。「あの、ケスロスの傭兵っぽい奴やろ?あいつ、上から目線でホンマムカつく奴っちゃで」
「あいつな、俺が『そんな大層なモノはない』って答えたら、唾吐きやがってよお」オールル商人が怒りをぶり返しながら言った。「塩撒いてやったぜ」
「わしなあ、テキトーなもん売ったったで」プールは悪そうに笑った。「丁度、上手い事魔法のアイテムを持っとってな、まあ『呪いのレイピア』やったんやけどな。ムチャクチャ吹っ掛けて押し付けたった」
「いくらで売ったんだ?」
「二十アルムス」
「はあっ?」
さすがのゴロツキ商人共も、プールの言葉には耳を疑った。
「お前、命知らずかバカかどっちかだな」
オールル商人が首を振った。
「でも本人は、何や喜んで買うてったで」
プールは得意げである。
「しかし、吹っ掛けるにも限度があるだろ」
「何言うてんねん。話聞いた上で、相手が出せる金額で上手い事釣る。これが醍醐味やないか。特にあのハーフエルフ、何か取り憑かれたみたいに『デーンスダーン』の事言うとったさかい、何か与えてやった方がええねん」
「でもよお」別の商人が口をはさんだ。「ハーフエルフだろう?復讐されるぜ。呪いか何か掛けられちまうぜ」
「呪いが恐あて、行商やっとれるかいな。それよりも、損する方がよっぽど恐いわ」
「まあ、人の商売にケチつける気はねえけどよ」オールル商人がビアーを呑みながら言った。「お前さん、気を付けねえと、今に足元すくわれるぜ」
「ほうやな。お仲間の助言として、ありがたく聴いときますわ」
プールは嫌みな口調で言った。
「お前、友達いねえだろ」
オールル商人は呆れて肩をすくめた。
「それにしても、前にダナウで会うた、女隊長はん、べっぴんやったなあ」
プールは突然溜め息をついた。
「おい、お前、それってもしかして、ここの兵営に来た、新しい隊長の事だよな」
今までプールをけなしていた事などケロリと忘れて、その場の全員がその言葉に食い付いた。
「そやで」
プールはあえて淡々と答えた。
「噂は本当だったのか。俺、女隊長に会いに来たようなモンなんだぜ」
「会ってどうする?」
「ヤらせちゃくれねえぜ」
「せめてご尊顔だけでも拝してえよな」
商人達は口々に好きな事を言っている。
「わし、ちょっと知らん仲でもないねんで」
プールは、隠し切れない得意顔で言った。
「何でお前が女隊長と縁があるってんだ?」
「まあ、色々あってな。聖銀製のペンダントをプレゼントしたんや」
「それを、女隊長は受け取ってくれたのか?」
「ああ。もちろん。『大事にする』言うてくれはったで」
そのプールの言葉に、一同はどよめいた。聖銀製の品物を贈る、というのは『変わらぬ愛を誓う』事を意味する。もちろん商売人はそんなロマンチストではないので、『上得意者』という意味に解釈しているのだが。
「わしがこの市にいる事が判ったら、女隊長の方からあいさつに来るんちゃうかな、多分」
勝手に妄想で盛り上がり、プールはニンマリと笑った。
自身が明日引き越こす騒動も知らずに。
閑話休題
20170803了




