新選組のフィクションに関する思い出とキャスティング
わたしが中学生の時だから、三十年以上前の話ですね。NHKが平日の午後八時から放映していた時代劇に『壬生の恋歌』なる作品がありました。番組予告で、若き日の三田村邦彦がポーズを取って題名を言ってました。
「壬生って何?」
と尋ねると、父が教えてくれました。
「新選組があった場所だ」
新選組かぁ。まだこの頃は「新選組」と聞くと、祖父が観ていた『鞍馬天狗』や幕末が舞台の時代劇で剣の達人が出てくる集団らしい、くらいしか知りませんでした。
んでもってその頃、三田村邦彦は『必殺』シリーズや刑事ドラマの『太陽にほえろ!』で人気が出ていた二枚目俳優でした。
『壬生の恋歌』で三田村邦彦は主役でしたが、史実上の人物ではなくて、架空の人物で、新選組の隊士募集の話を聞いて、侍になれると幼馴染役の赤塚真人と二人でやって来た若者役。ヒロインが杉田かおる。
主役の平隊士の三田村邦彦が三十近い年齢の所為か、新選組幹部の俳優の年齢が高かったのでしょうか。今となってはそのように思えます。だって、近藤勇が高橋幸治(大昔、白黒テレビ放送の時代、緒方拳主演の大河ドラマ『太閤記』で織田信長役を演じ、大人気の為に「信長を殺さないで」とNHKに要望が届いたほど)、土方歳三が夏八木勲、山南敬助が岸部一徳でした。高橋幸治が当時五十近く、夏八木勲が四十過ぎ。貫禄あり過ぎではないでしょうか。
三田村邦彦と赤塚真人のほかに、笑福亭鶴瓶や金田賢一、内藤剛志がいたように記憶しています。沖田総司はあんまり出番がなかった所為か、全く覚えていません。
土方役の夏八木勲が大迫力で、怖かったのを覚えています。
いつだったか忘れましたが、田原俊彦が主演、沖田総司役のドラマがあったような……。ちゃんと観ていなかったからよく覚えてないのですが、あれは若林豪が近藤勇で柴田恭兵が土方、三浦浩一が山南のだったかしら。主役がアイドルだったので、山南敬助が沖田の恋を応援しようとしている感じ。
年末のドラマの『白虎隊』で、しょこたんの父親が沖田総司、近藤正臣が土方って取り合せも観ましたね。松平容保が風間杜夫。
高校生になってから司馬遼太郎の『燃えよ剣』を読みました。一般の人の土方歳三のイメージってここから来ているのではないのでしょうか。坂本龍馬のイメージが司馬遼太郎の『竜馬がゆく』で作り上げられたと言われるのと、似たようなものと言いましょうか。
そして、わたしは『燃えよ剣』のイメージから土方歳三が好きだったのでした。
昭和から平成の変わり目当たりのお正月の時代劇スペシャルで、『燃えよ剣』が放映された時は、テレビにかぶりつきでした。土方歳三が役所広司で、近藤が石立鉄男、架空の剣豪七里研之助が中康次、お雪さんが小川知子、斎藤一が宮内洋。まあ、でも後半がどうしも急ぎ足になってしまって、函館での場面が戦死シーンだけの印象になってました。
三谷幸喜脚本の大河ドラマ『新選組!』は、なるべく実年齢に近い配役にしたいと頑張ったらしくて、ドラマの初回の評判は軽すぎると散々でしたが、通して観て、面白かったです。当時の職場の女子連中で、『新選組!』で土方が格好いい、斎藤一のオダギリ・ジョーが合っていると盛り上がり、新人の男性から、「どうしてみなさん新選組に詳しいんですか?」と不思議がられました。たまたまサブカル好きの近い年代が揃っていただけです。
何故つらつらとこんなことを書き綴っているのかと申しますと、主役を誰に据えるかで配役って変わってくるよねと、つくづく思ったのです。
『壬生の恋歌』は先に書いた通り、新選組幹部が脇役なのでかなり年配の俳優さんが来ており、アイドルが沖田総司を演じるとなると手堅い演技派が脇を固め、近藤勇が主役だと成長を描く為に実年齢に近いキャスティングになってくるのかなあ、と。演技は大切ですが、テレビドラマは舞台よりも視聴者の目にどう写るか重きを置きます。『新選組!』の土方は三谷幸喜が山本耕史に決めていたと聞いてますから、周囲の俳優さんたちも年齢的に合わせていった事情もあるのでしょう。
京極夏彦の小説『ヒトごろし』の土方歳三はとんでもない人格設定されています。
小説は三人称で、一貫して土方歳三の視点で描かれています。土方は寡黙ながら、愚鈍ではなく、むしろ聡明で運動神経もいい。ですが、感情の振れ幅が快と不快しかないのかと読み手が戸惑うくらいです。自らを「人外」、「ヒトごろし」と認めています。人を殺したいと願い、人を殺せる立場になりたい、殺しても咎められない状況を作ろうとします。
盲目の長兄石翠も人を殺したいと願いながら、視力がない為にしないでいるだけだと土方に嘯きます。
「殺したいんでしょ。同じでしょ」と、囁く沖田総司は人を斬り殺すだけでなく、弱いものをいたぶるのをも好みます。土方は同族嫌悪というより、コイツのほうがタチが悪いと、沖田を薄汚い溝鼠呼ばわりします。
京都に出てからは、山崎丞が陰謀を張り巡らせて人を操るのが好き、だから人を斬る機会を作ってあげますと、土方に監察の役に就かせてくれと提案してきます。
江戸から京都、果ては函館まで土方を追い掛けてくる女――お涼――は、土方に斬り殺されたいと願い、和泉守兼定を土方に託します。
土方もお涼も、原体験ともいうべき光景を目にしていますが、それだけが素とも言えない闇が心の中に拡がっているように感じられます。
冒頭で土方は白首から、「男前」、「佳い男」と言われていますが、終盤、北海道で写真を撮った己の姿を見て、つまらない顔をしているとひとりごちます。この京極「土方」を映像化するとしたら、どんな俳優が合っているのでしょうか。




