悪男って言葉はない
フェミニズムの本などで、『悪女』という言葉はあるのに、『悪男』なる言葉はない、なんて書かれているのを目にしたことがあります。(学生時代の読書経験だからフェミニズムの論としては古いかな?)
辞書的な意味で『悪女』は、容貌の醜い女性、心掛けや行いが悪い女性となっています。しかし、『悪女』の単語に皆様はどんなイメージを思い浮かべられるでしょう。
セクシーで魅力的、驕慢で男性を翻弄する女性が浮かぶのではないでしょうか。そして、男性側が別れようとしたり、本気の怒りを見せたりすると急に泣いてしおらしげにすがってきたり、もしくは男性に劣らず激昂してみせ逆に男性を戸惑わせたりして、離れがたいと思わせる。こうなると心掛けや行いはともかく、容貌が悪いは当てはまらないように思います。
『ファム・ファタール(運命の女)』にしろ、性的な魅力で男性を翻弄する『悪女』にしろ、男性から見た女性です。
『悪男』という言葉がないですから、単に「悪い男」といえば、容貌が良くないほかに、暴力を振るうとか、多額の借金がある、ギャンブルが好きで勤勉ではないとか、女性を見下している、性的な対象として価値があるかどうかでしか女を見ていない、平気で女性から金品を貢がせる、飲酒ばかりしている、幾らでも言葉を並べられそうな気がします。女性の人生を翻弄するというより、男性の存在が女性の生き方に密接に関わるので、『悪男』という言葉の必要がないのかも知れません。(そこらへんで、フェミニズムの方が声を大にしたいのかも)
話は変わりますが、わたしが中学生くらいの頃にNHKの人形劇で『三国志』が放送されていました。わたしは何故か主役の劉備よりも曹操が好きでした。そして父も劉備が好きではない、曹操が好きだと言っていました。
父の言い分では、主役だからと劉備が聖人君子に描かれているのが好みではないのだそうです。確かに人形劇の劉備はお利口さん過ぎるような気がしました。でも、何故わたしは曹操が好きなのでしょう。自分が悪いことをしていると自覚しているからかしら。野心というか、自分の欲を実現していくのにためらいがない所為かしら。子ども時分にはよく解らなかったですし、今でも同じようなものです。
長男が『三国無双』だか、なんだか、ゲームをするようになって『三国志』の話を親子でする時期がありました。
「どうして、ママも山形のおじいちゃんも曹操が好きなの? 悪役じゃないか」
と質問されました。
「悪役はいい男じゃなきゃいけないの」
「なにそれ?」
「子どもは解らなくてもいいの」
多分それが自分の中の答えなのでしょう。曹操が主役になっている『三国志』ものの漫画『蒼天航路』を夢中になって読んだよなぁ、あれは良かった、と、反芻したりするのでした。魅力的な悪い男もいるものです。
有吉佐和子の『悪女について』は実に興味深い作品です。女性に対する男性の幻想、そして小説はこう書くものよと展開していく内容、お手本になります。