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二月下旬、今年はもう雪は積もらないだろうか?

 植松三十里の『雪つもりし朝』の内容に触れます。

 以前、植松三十里の『雪つもりし朝』(角川書店)を読んだことを思い出しました。決起した将校ではなく、襲撃された人々が主に描かれていました。まず当時首相だった岡田啓介、かれは妹の夫が、「何かあった時は俺が兄貴の身代わりになる」と言っていたのが、真実となる苦痛を味わいます。岡田啓介は襲撃時に部屋から逃げ、女中にかくまわれ、押し入れに入れられます。代わりに将校たちに引き出されたのが妹の夫でした。将校たちは岡田本人だという義弟を庭で射殺。事件が鎮まるまで女中部屋に隠れていて、後に生存していたと出てきますが、既に政界は首相を死んだものと後継を考えており、どうして生き残っていたのかと無言の責めを受けます。夫を亡くしながらも、兄を励ます妹。きょうだいのいたわり合いなど、襲撃を受けた側の心境が様々に描き出されていきます。

 襲撃を受けたのは当時の侍従長の鈴木貫太郎も同様でした。しかし、腹部に銃弾を受けながら、将校たちが止めを刺そうとするのを妻が必死で止めます。鈴木貫太郎が天皇の侍従長であるだけでなく、妻はかつての昭和天皇の養育掛。

 鈴木貫太郎は終戦時の首相でもありました。夫婦ともに昭和天皇からの信頼篤い鈴木は首相になってくれと、岡田啓介からあの時生き残ったのは何故かと、声を掛けられ、難しい時期の宰相の立場を受けるのです。

 襲撃を受けたのは帝都にいた者だけでなく、湯河原にいた牧野伸顕も同様でした。牧野と一緒に居た孫娘の吉田和子、後の麻生和子も一緒にいて、祖父を庇い、ともに逃げました。牧野伸顕は大久保利通の息子であり(幼時のうちに親戚に養子となったので姓が違うが育ちは大久保家)、三島通庸の娘と結婚し、その間に生まれた娘雪子が吉田茂と結婚しています。戦後、和子は父の吉田茂の私設秘書として仕事に付いて回っています。子どもの太郎の側に母として付いていてやれないことを悩みつつ、日本の独立を守ろうと父と働く姿に、応援をしたくなります。

「ママ、大好き」

 仕事であちこち飛び回ってやっと帰宅して、我が子と顔を合わせて、こう言われると母の気持ちは感無量。わたしには泣かせどころでした。

 麻生太郎にも可愛い幼少期があったんだぁとなる章の終わり方をします。

 二月二十六日の陸軍将校たちの決起を知って、昭和天皇のすぐ下の弟秩父宮は駐屯していた青森から夜汽車に乗って、帝都に向かいます。

 ここ、二・二六事件で流れた秩父宮の噂をうまく使っています。

 昭和天皇が秩父宮を難詰するのです。実際陸軍将校たちに秩父宮が担ぎ上げられ、摂政か即位かさせて、自分が押し込められる恐怖が昭和天皇にあったとも伝わっているのです。

「決起する時は自分に知らせろと、将校に言ったとは本当か?」

「決起しようとするのを止めようとして、言いはしました」

 帝都の叛乱で、重臣が殺され、陸軍上層部が危機感を抱いていないことに、天皇はかなりナーバスになっていました。

 秩父宮はあくまでも兄に忠実であろうとしているのですが、兄から見ればそうでもないのだと、対決の場面となっています。

 秩父宮と面識のある将校が決起の一員に入っている事実。そして、二・二六事件で様々にささやかれた噂。「決起の時は俺に知らせろ」と秩父宮が将校に冗談交じりだが、言った。事件後、銃殺にされる将校が「秩父宮万歳」と叫んだ。重臣の一人が「壬申の争乱の二の舞だ」と言っていた、などなど。

 秩父宮は二・二六事件では動かず、昭和天皇側に付きます。そして、その後結核を患い、療養しながらの戦中戦後を迎えます。秩父宮妃勢津子は会津若松藩主松平容保の孫です。

「賊軍と言われた人間の気持ちは判ります」

 そういった感じのことを言って、夫をいたわるのでした。

 知らないうちに巻き込まれた人間に、決起将校の下の兵士たちがいます。将校直属の連隊の兵士の一人に、本多猪四郎がいました。上司が何を考えて行動していたかまるきり知らなかったのに、その後貧乏くじを引いたかのように、厳しい戦線に送られる運命になります。

 生きて帰ってきて、本多は映画『ゴジラ』の監督となります。

 戦中戦後の日本を語り、平和や独立した国あり方は何かと問う本です。

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