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奈良時代の本を二冊読みました

惠美子(以下惠)「先日、新聞を読んでいて驚きました」


岩崎都麻絵(以下都)「何ですか?」


惠「小説家の葉室麟の訃報です。葉室麟のお名前が多く目にするようになったのは結構記憶に新しかったし、享年六十六と聞きまして、小説家としてはまだまだ活躍なさるのではと思っていました」


都「しかし、あんたは葉室麟の読者ではなかったでしょ」


惠「はい、『刀伊入寇』と『緋の天空』の二作だけしか読んでおりません。本領とされる戦国時代や江戸時代の時代小説は一作も読んでおりません。

『刀伊入寇』は主題が暴れん坊の平安貴族で、異国からの侵攻を食い止めた内容でしたから気になりませんでしたが、『緋の天空』は主人公が奈良時代の光明皇后でしたから、あれれ? と感じました。葉室麟は歴史小説家ではなく、あくまでも時代小説の作家なのだなぁと」


都「丁度中公新書の新刊の瀧浪貞子の『光明皇后』と並行して読んでいたのがよくなかったのではないのかしら?」


惠「いやあ、光明皇后が若い頃に長屋王の息子と面識があってなんたらかんたらぐらいなら、実際年齢が近かった可能性が高いので、それは気になりませんよ。たた、弓削(ゆげの)(どう)(きょう)下道(しもつみちの) (吉備(きびの)) 真備(まきび)が出てきて、一緒に問題を解決するというのが予想を超えた展開でした。

 この二人は娘の孝謙・称徳天皇の後の側近ですよ。それが若い頃出てきて、少年の道鏡なんて仙界の見習い坊主みたいでした」


都「ほほう、歴史小説が本領のような作家の江戸人情ものの時代小説を親父さんから勧められて読んで、『稼ぐ為には苦手でも人気のある江戸時代の世話物を書かなきゃいけないのね』と感想を言っていたくらいなんだから、四角四面のお話よりもそっちが受けるというものではないの?」


惠「奈良時代は記録が残っているようで、よく解らない部分がありますし、血族関係が複雑すぎて、本当は親しいのか仲が悪いのかよく解らないんですよね。

 例えば、光明皇后は同い年でも母方の甥っ子の聖武天皇と結婚しています。また、光明皇后は自身を『藤三娘』と自署していますが、これは藤原不比等の三女だからです。ところが両親は再婚同士のようなもので、異父同母のきょうだいの橘諸兄や牟漏女王がいて、同父異母の兄たちに藤原四子がいます。どっちのきょうだいも年齢が離れていて、育った環境も違っています。どちらに親しさを感じていたのか、『藤三娘』と自署するくらいだから、後年甥の藤原仲麻呂を信頼しているから、藤原氏寄りと考えられています。

 ただ『橘奈良麻呂の乱』の時は仲麻呂とは違う対応をしようとしていますので、全面的に仲麻呂支持ではなかったようにも思えます」


都「あんたは若い頃仲麻呂が嫌いだったし、今は橘氏に興味があるからね。両親だけでなく、異父姉の牟漏女王と異母兄の藤原房前が結婚しているから、白い花、紫色の花ときっぱりと分けられないと思うけどね」


惠「人間の情の面からはね」


都「『橘奈良麻呂の乱』の辺り、光明子が皇太后なのに天皇しか出せない『詔』を出したとか、誤記とは言えないような記述があって、これも研究者泣かせらしいんでしょ。

 みんな我が甥であるからと説いて、大騒ぎしないようと娘の孝謙天皇を差し置いて、臣下たちに頭を下げさせている」


惠「そう。こういうとこがね、面白いのよ。

 上代の皇后や皇太后の立場が、単なる天皇の妻、母とは言えなかったらしいけれど、その権能を非皇族の光明子がどこまで行使できたのか、非常に興味深いんです」


都「安易にあたしを呼び出して、お喋りしているのは手抜きじゃないの? ま、あたしはいいんだけどさ」


惠「うん、反省してる。今度からは自力でやるからあなたの出番をなくすようにするから」


都「あっ! なくさなくていいから、いつでも来てあげるからそこは遠慮しないでね」

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