花嫁の涙
中華の国の傾国の美女の話で思い出しました。柴田錬三郎『毒婦四千年』(講談社文庫)に小咄っぽく傾国の美女についてのお話や妾を七人囲ったからどうなるかなんてお話が書いてあります。
彼の大陸の童謡で、立派なお屋敷にお嫁に行くのに泣く娘の歌があると紹介されていました。
これは恐怖のための嗚咽であると柴錬は説明しています。第一夫人とか正室なんて地位になれば、妾たちから寝首を掻かれる危険があるので、家の鍵を持って毎晩寝所を変えなきゃいけないような生活を考えて、泣いているのだと。
褒姒が笑わなかったのだって、捨て子だったのを拾われ養われ、褒の地方から美人だからと貢物の一つとして周の宮城に連れていかれたので、田舎娘として縮こまっていたのかも知れないし、元々いた申氏出身の后を廃して、自分が王后、子どもが王太子となったけれども、申氏とその周辺から恨みを買って、何時命を狙われるかとびくびくしていたのかも知れません。幽王の寵愛なんて有難迷惑、むしろ城が攻められればそんな不安から逃れられると喜んだのかも知れません。
柴田錬三郎は慶応義塾大学で中国文学を選択し、魯迅の研究をしていたそうで、剣豪小説のほかに中華ものの小説も多く発表しています。残念ながら柴錬の中華ものは短篇ばかりで長篇は読んでいません。
NHKの朝のドラマ『とと姉ちゃん』に出演していた及川光博が自分の役は柴田錬三郎がモデルらしいと言っていました。はて、『とと姉ちゃん』のモデルの大橋鎭子と柴田錬三郎はどこかの編集部で同僚だったのか! と驚きました。
及川光博演じる役が直木賞を受賞したと劇中流れて、妙に納得しました。ただ性格はまあったく違うと思います。
昭和26年上半期の芥川賞と直木賞の候補に柴田錬三郎の『デスマスク』が入りました。両方の賞の候補になりましたが、その時はどちらの賞にも該当しませんでした。
次の26年下半期、『イエスの裔』で柴田錬三郎は直木賞を受賞しました。