『幻の女』読了
図書館から借りていたウィリアム・アイリッシュの『幻の女』を読み終わりました。いやあ、すごい小説でした。
この小説は「傑作ミステリ海外編」みたいな推理小説の案内本に大抵載せられていますので、題名とどんな事件が書かれているのかは知っていました。変わった帽子を被った女性と二人であちこち回ったのに、誰もが主人公の男性一人だけ、連れはいなかったと証言するという謎があります。
肝心の主人公も帽子に気を取られ過ぎて、黒で統一されたファッション程度しか印象に残っていないのです。顔も体つきも髪や瞳の色さえも記憶なし。
宵の口、主人公は妻と喧嘩して家を飛び出し、妻と一緒に予定していた夜の外食とショーの見物を、バーで会った、カボチャみたいな形をした、カボチャみたいなオレンジ色の大きな帽子を被った女性を誘って行くのです。
単に食事とショーを一緒にするだけで、名も聞かず、立ち入ったことも知らずにお別れしようと、二人は決めて出掛け、別れます。
お家(ニューヨークにお住いなので、当時の高級アパートですね)に帰ったら、警察官がいて、妻が死んでいます。他殺です。
死亡推定時間が、丁度、変な帽子の女と会った頃。
バーでも食事をしたレストランでも、タクシーの運転手も劇場のドアマンも主人公一人で、連れはいなかったと証言します。
今回の妻殺しと思われる事件とは一切関わりなかったけれど、主人公には別に恋人がいました。
陪審員裁判で、妻が邪魔だったんだと心証は悪い、主人公と一緒だった女性が証人として出てこないし、一人で出歩いて、連れがいたと下手なアリバイ打ったと有罪で死刑を宣告されます。
主人公の恋人と親友が別行動で真相を探ろうとします。主人公の話を聞いているうちに、これはシロではないかと思いはじめた警察官が味方します。
古いミステリですので、人間の心理面の描き方に物足りなさがあります。これはうまく新しく証拠を得た! と思ったら手から水が漏れるように、消えてしまう、そして、恋人や親友が行動の中で身の危険を感じるスリルと謎解きが主になっていると言えましょう。
ファッションチェックも案外バカになりません。幻の女性の帽子ばっかり有名ですが、男性だって外出の際は帽子を被るのが当たり前の時代背景だったのが解ります。そして、幻の女性が主人公の服を見て言います。
「そのネクタイが服と合っていない」
これが伏線の一つ。
これ以上書くとネタバレになりますから、書きませんけど、結構ハラハラさせられました。まあ、ほかにもミステリ読んでいてたまにありますが、事件解決して、それでハッピーでいいわけ? なところはあります。
最後に一つ、これ警察の初動の捜査ミスだべ?




