生き物の生態に関する誤解について
生き物の生殖の話題です。比較のために人間の話もあります。お嫌いな方は読まないでください。
宮城県名取市に熊野神社の大きな分社があります。そのうちの一つの熊野那智神社の近くには観音堂や高館山があり、遊歩道が整備されています。
以前良人や子どもたちに高館山に登ってみないかと誘ってみました。しかし、良人から断られました。
「あそこらへんは蝮が出るらしいぞ」
「長袖長ズボンにゴム長軍手して、アルコールスプレー持っていけば大丈夫じゃないの?」
アルコールスプレーは消毒だけでなく、簡単な動物除けにも使えます。蛇は実際にはウワバミではないので、お酒は飲みません。
「蝮は飛びかかってくるぞ。母親の腹を喰い破って生まれてくるほど気が荒いんだ」
「……、それは誤解です」
確かに蝮は胎生で、雌が総排泄腔から子蛇を生み出しますが、子蛇の体形からして食い破る必要はありません。獅子は千尋の谷に我が子を突き落とし、這い上がってきた子のみを育てる、並みの迷信です。毒を持つ為に蝮は人間を見ても逃げずに威嚇してくるでしょうけど、出産に関しては嘘の言い伝えです。
「え~、雌は子蛇にお腹を食い破られて死んじゃうんだぞ」
なおも、良人は言いましたが、わたしは動物番組で蝮の出産の映像を観たことがありましたので、食い破られないし、死にもしないと説明しました。その映像では、総排泄腔からズルリンといった感じで、子蛇が母蝮から出てきていました。
「出産の時に、母親の命が危ないといったら、ブチハイエナの方が大変なんだよ」
「なんでブチハイエナ?」
「ブチハイエナの雌は偽ペニスを通して子どもを生むから、そこが裂けちゃって大出血して、死んじゃう場合があるんだってよ」
「それってどういうもの?」
わたしはその頃読んだ本を本棚から取り出してきました。河出書房新社から出ている『ヴァギナ 女性器の文化史』(キャサリン・ブラックリッジ著 藤田真利子訳)です。第三章の「ヴァギナの動物学・昆虫学」にブチハイエナの雄と雌の写真が比較されるように載っています。写真を見ただけでは恐らく誰も雌雄の区別がつかないと思います。写真では、雄も雌も同じようなものが後ろ脚の間にぶら下がっています。
雌のクリトリスがそのような形になり、尿道も走っているのだそうです。その本によると、ブチハイエナの群れは雌が率い、雄よりも雌の体が大きいのです。
しかし、この変わった生殖器官の為に、ブチハイエナの雌は妊娠・出産に苦労しているのです。男性器のようなクリトリスを通して交尾をして、出産の時は、そのクリトリスが産道になるのです。
人間の新生児の頭囲が約三十二、三センチというからだいたい直径十センチ、身長が五十センチくらいとして、一つ、赤ちゃんが人間の男性器を通って産まれてくる所を想像してみてください。
ブチハイエナの雌が初産で五頭に一頭が出産の傷から死んでしまい、子どもの六十パーセントが出産の途中で死ぬと、本で説明されています。ブチハイエナの赤ん坊は一・五キロ。偽ペニスというか、クリトリスは三倍に伸びきってもまだ足りず、裂けてしまうのです。その傷や出血、そしてその長く狭い産道を通るのに耐えきれた雌と子どもが生き残っていくそうです。
人間は頭が大きいことと直立歩行している為に、ほかの哺乳類より難産と早産ですが、ブチハイエナは特殊な生殖器の為に難産です。
という説明を本に基づいてしました。蝮に対する誤解は解けたような気がしますが、良人にはブチハイエナの難産よりも、雌雄の比較の写真の方が印象深かったようです。
結局、高館山の遊歩道に行こうとはなりませんでした。結構うっそうと木々が繁っている場所なので、一人で行く度胸もなく、いずれは行ってみたいなあと考えているのみでございます。那智神社自体にはお参りしたことはあるんですけどねぇ。




