燕も見た目が大事らしい
燕が追いかけっこをするように飛び、軒先や玄関先を探るように何回もやって来ていました。一番子が巣立って、二回目の繁殖の為の営巣や、縄張りの確認なのか、ひらひらと忙しそうです。
燕の雌雄の区別は尾羽の長さなんだそうです。飛翔している姿を見ても、わたしには区別がつきません。
もう二十年以上前に出版された本ですが、竹内久美子の『パラサイト日本人論 ウイルスがつくった日本のこころ』(文藝春秋社)で、スウェーデンのA・P・メラーという学者さんの燕の繁殖行動についての実験結果の話を紹介していました。
アフリカ方面からデンマークに渡ってきた燕の雄を捕まえて、尾羽の長さを確認し、一部人工的に尾羽を長く、或いは短く、細工して、比較の対照群の為に何も手を加えずと、グループ分けをして、また放しました。
結果を言えば、尾羽が長い雄のグループはいち早く(一日から三日で)繁殖相手の雌を見付けられ、次いで普通の長さの雄(一週間くらい)、尾羽が短いとなかなか相手を見付けられず(平均で二週間くらい)、遂に相手がいないままの雄がいました。
しかも、鳥の世界にこんな言葉が合っているのか解りませんが、燕の浮気の成功度まで調査されていて、成功率にも尾羽の長さで差が出ていました。尾羽が長い雄を繁殖相手に選んでいる雌はほかの雄からの誘いに応じようとしませんでしたが、普通の長さの尾羽の雄の相手や、短い尾羽の雄の相手はお誘いに乗ってしまうのでした。そして頻度は短い雄のお相手の方が多いのです。
一羽の雌が一度の巣作りで産む卵のうち、つがいの雄のものではない受精卵がいくつかある可能性大。
燕の雌がなぜ尾羽の長さで雄を選ぶのか、尾羽が長くても、これは孔雀の雄の尾羽と同じで、飛翔の役に立つ代物ではないそうです。
雌が繁殖相手を選ぶ判断材料が長い尾羽。性淘汰の、ランナウェイやハンディキャップの仮説ではなく、本の題名通りパラサイト仮説の説明が続きます。
燕の雛の成長を阻害するパラサイトはダニ。そのダニへの抵抗力が雄の尾羽の長さと関連があると、この実験は結論付けていました。
尾羽の長短の付け方や、雛にダニをくっつけての実験の細かい説明は省きますが、寄生者に強いと雄は姿が恰好良く成長するらしいのです。人の手でダニにたかられた雛にはお気の毒ですが、尾羽の長い雄を父に持つ雛がダニに強い、自分の体に寄せ付けない、耐性があるようなのです。そこで男性の見た目に左右される女性をバカにしちゃいけませんと、トンデモ仮説が展開します。
そしてまた、人類の住む地域によって寄生者が違い、そこでの人々の気性や習慣が違います。寄生者が宿主を操るとしたら、その影響下によるかも知れないと、日本人、ひいてはアジア人の性質について述べられていきます。
『そんなバカな!』から続く、オモシロオカシナ生物学の本でございます。




