『法医昆虫学者の事件簿』と『九相詩絵巻』
警告 再び虫のお話です。虫やグロテスクなお話の嫌いな人は読まないでください。
京極夏彦のレンガ本、『巷説百物語』のカバーを外して裏を見た時、びっくりした方は多いと思います。『九相詩絵巻』のカラーコピーとは心臓に悪いです。『九相詩絵巻』は個人蔵とあり、どこかの好事家ではなく、お寺さんの所蔵なのかしらと推察しております。
『九相詩絵巻』を見て、小野小町や檀林皇后よりも夢野久作の『ドグラ・マグラ』を連想なさった方も多いのではないのでしょうか。
かくいうわたしもあの本のカバーを外して、思わず「『ドグラ・マグラ』、呉……」と呟きました。
『法医昆虫学者の事件簿』の著者マディソン・リー・ゴフはアメリカ合衆国のハワイ州の大学で昆虫の研究をしている学者さんとのことです。
昆虫を研究しているうちに、死骸に繁殖する昆虫の種類や、昆虫の生育状況から、死亡時の状況や死亡時間の推定ができるのではと、そちらの方に研究がシフトされていきました。「法医昆虫学」とはつまりそういうことです。『九相詩絵巻』さながらの様子の死体から根気よく、中にたかっている虫を分類し、どのくらい成長しているかを逆算して、また虫から多く食べられている部分から傷口などの有無を見て、死亡時期や死因の推測をしていくのです。
動物にせよ、人にせよ、生命活動を終了すると、すぐにハエの類が飛んできて、卵或いは初齢期ウジを開口部や傷口に産み付けていきます。ハエの幼虫が死骸を餌にしながら成長していくと、今度はミズアブや甲虫類などハエの幼虫と腐乱しはじめた遺骸を食べるための昆虫が付き、そしてそういった虫に寄生するハチなどが付き……、と段階があるそうです。
著者はブタの死骸を使って基本の研究をしようとします。ブタをそんな目的で殺すなんてとか、人道的な方法で殺害するのかとか、言われたそうです。(食肉用のブタならいずれを殺すのに、食べられるか実験に使われるかの差でそこまでうるさく言われた、半分はアメリカン・ジョークと思われる)
体温というか死骸の温度変化、腐敗の進行具合、そのほか付いている虫、虫の種類や死亡時間からの虫の生育時間などを学生たちと調べていきました。
腐敗具合が酷い時の調査に学生の病欠が多くなる因果関係云々とアメリカン・ジョークがありましたが、文章はマジメに翻訳されていました。
死因や死亡時刻を推定しなければならないケースは殺人だけに限らず、自殺や事故死もあります。殺虫剤や麻薬が昆虫に与える影響や、亡くなった場所が乾燥した場所、湿気の多い場所の違いの考察など、難しいですが、わたしにとってはなかなか面白かったです。勿論、ビジュアルをあまり想像しないようにして読んでおりました。『九相詩絵巻』みたいなのを探って昆虫を……、ですから。
興味のある方、ぜひ読んでみてください。
読んでみると、火葬は悪くない葬られ方だと思います。




