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Mr.Moonlight

 最近ビートルズを題材にした映画を立て続けに観た所為か、わたしも良人もビートルズのCDを借りて聞きました。同じCDを借りないようにしていましたが、ヒット曲集なので、人気の曲は重複していました。メロディだけ知っていて題名を知らない曲、題名だけ知っていて初めて聞いた曲などなどありました。英語をそのままカタカナにしたのを邦題にしたんじゃないのは解っちゃいましたが、何故「ヤア!ヤア!ヤア!」にしちゃったんだろうか? とか、やっぱこの曲は『ノルウェーの()』ってのはヘンなんでは? と感じつつ、楽しみました。

 お互いが借りた曲を確認して、聞きたいと思った曲がないなあと思いました。『Mr.Moonlight』です。それほど有名な曲ではないのかなあと、ちょっと残念。あっ、ビートルマニアの方、まだ怒らないでください。この曲はビートルズのどのアルバムに入っているのかしらと、検索してみました。

 ビートルズファンの方々、ご存知の通り、『Mr.Moonlight』はビートルズのオリジナル曲ではございませんでした。ほかのミュージシャンのカバー曲だそうで……。

『Mr.Moonlight』、わたしにとっては印象的な曲です。

 平成ヒトケタの頃、結構宣伝されていた邦画に『満月 Mr.Moonlight』があり、封切後、観に行きました。物語が終わって、プリンセスプリンセスが歌う主題歌が『MR.Moonlight』でした。満月、月の光が魔法の効果を感じさせる、素敵な映画、実に内容に合っていました。

 まあ、サントラも手にせず、特にプリプリを詳しく聞こうともしませんでしたが、映画の主題歌はビートルズが歌っていた曲だよと、どこからともなく耳にして、ずっとどこかに引っ掛かっていたのでした。

 映画『満月 Mr.Moonlight』は原田知世と時任三郎が主演で、原作は原田康子の『満月』(新潮文庫)です。舞台は北海道の札幌市、高校で理科の教師をしているまりは中秋の名月の夜、飼っているアイヌ犬のセタが吠えて静まらないので、散歩に連れ出します。豊平川の河川敷で妙な風体の青年に出くわし、逃げ出すように戻ろうとしますが、青年は家までついてきます。青年の姿に同居の祖母は落ち着いて応対し、身元を聞こうとします。科学の徒であるまりには青年の話は到底受け入れがたいものでした。

 杉坂小弥太と名乗る青年は、シャクシャインの乱の後、松前藩の動向と当地の実情を探る為に蝦夷地に渡った弘前の武士であると言うのです。小弥太の言う年号やシャクシャインの乱の起きた時期からして、弘前から北海道に来たのは江戸時代の初めの頃、三百年も隔たった時代から現代に来たって、どうやって信じろっていうの!

 着慣れたというより着古した着物に日本刀、伸びた髪、足元に絡んでいた山ぶどうの蔓や松かさから街中住まいのコスプレイヤーではないと推察できるものの、信じる気にはなれません。

 おまけに祖母は小弥太を信じ切って、家に居候させ、面倒を見ようとしています。両親が海外に行き、祖母の家に厄介になっている身ながら、まりは頭のおかしな男と同じ屋根の下で暮らせっていうの! 反発するのですが、「まりどのが出ていくのなら、ソレガシが出ていく。歩いてでも弘前へ行く」と言い出し、祖母にも申し訳なくて、まりは折れるのです。

 どうして小弥太が現代の北海道に現れたのか? 蝦夷地には小弥太一人で入ったのではなかったのですが、帰路松前藩の番所でごたごたが起こり、小弥太が身を挺して仲間の船を帰し、一人残ってしまったのです。小弥太は石狩でアイヌを率いるハウカセの許に身を寄せ暮らしていましたが、望郷の念に尽きず、コタンで呪いを行う老女から、一年限りである、女性と共寝をしてはならないと条件を付けられて、弘前に戻る術を掛けてもらいました。ところが、同時代の弘前に行けず、時空を超えた現代に来てしまったのです。弘前には妻も子もあるのに……、おまけにこのサツホロは訳の解らぬ物に溢れ、武士の世は終わったというではないか……。

 小弥太の煩悶は一通りではありません。まりは小弥太を知るにつれ、打ち解けていきますし、弘前にも連れていきます。(小弥太はきちんと路銀を所持しており、おばあちゃんは慶長小判その他諸々、骨董商に鑑定してもらった上、銀行の貸金庫に預けます)

 ヒロインたるまりはさっぱり料理をしませんが、会津武士の孫であるおばあちゃんは毎日三食作るのは苦でないようです。十五夜にはきぬかつぎをこしらえます。小弥太に初めて会った時もバケツに水を汲んで出し、足を洗うのを心得ておりました。気を鎮めるのにお茶を点ててくださいます。六尺フンドシを洗濯してもくださいます。おばあちゃん、若かったら孫娘に譲ったりしなかったでしょう。惜しかったです。

 満月の夜に現れて、満月の夜に消えゆく男。大画面に映る満月。

 月の光に照らされた魔法の物語。

「Mr.Moonlight」のシャウトで始まり、幾度も繰り返される「Mr.Moonligt」の歌詞。

 夢のようなひととき。夢のような一篇の本。いつまでも心に残ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『Mr.Moonlight』大好きです。確か四枚目『ビートルズ・フォー・セール』に入ってましたよね。あのイントロのシャウトがいかにもビートルズで、カバー曲とは知りませんでした… 『満月』…
[一言] マンガの「半助喰物帖」と被ってしまいました。こちらは幕末の武士が井戸に落ちて現代の東京・深川だったか?に来て、料理したり食べたりする話ですが。「たまごふわふわ」が美味しそうだけど生のメレンゲ…
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