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あすのみらい  作者: 怠猿
4/4

third 昼ごはん

「ヨータって性格変わったよな」

「いきなりどうした」

 康太郎は両手を頭に当てながら、

「いや、昔のヨータは人と言い合いになることすらなかったのにな」

「そうか?」

 そうだったか? 案外、考えの違い方で人との言い合いになる事は多々あったが…。

「そうだよ。中学と高校の時なんて毎日のように「退屈だ」や「憂鬱だ」とか言ってたし」

 …そんな事を言ってたのか……、昔の俺は。しかも毎日、

 康太郎はうんうんと頷きながら

「これだけは言えるね。ヨータは昔より今の方が毎日、いい意味で生き生きしてるよ。最近見てなかったけど」

 俺を見上げながら苦笑いする康太郎に微笑。

「まだ昼前か…」

 康太郎は自身の手首に巻いてある腕時計を眺めながらそんな事を言うと、俺はそれを横から覗いて時間を確認する。

「っても、あと二十分で昼になるな。昼は一緒に食べるか?」

 康太郎は「あー」と頭を掻きながら、

「ヨータ、ごめん。昼は姉ちゃんと大切な話があるから無理だ」

「そうか。大切な話があるんならしょうがないな」

 俺は。この時、微かに康太郎が作った暗い顔に気付く事はなかった。

「あ、それじゃ姉ちゃんの所に行ってくる。ここからだと歩いて十六分は掛かるから」

 俺は康太郎に手を振って別れる。

 どうしよう。食堂…はアレがいるから絶対に行きたくない。とりあえず、

「部屋に戻るか」

 途中、モアイとばったり出会ったりしたが無事逃走に成功して自室に到着。

「ふう…。自室に戻るのにこんなに体力を使うなんて思ってなかったぞ…はあ…」

 手を胸に当て深呼吸。息を整え終わった俺はドアを開け部屋に入ろうとすると、突然、後ろから声が掛けられ慌てて後ろを振り向く。

「誰…だ?」

「誰って、私よ。瀬良の頭は簡単に人の名前を忘れるのかしら?」

白髪にアジサイの髪飾りを着けた少女――比叡メイは退屈な顔をしながらそう言った。

「比叡。お前、何しにここに来たんだ?」

 比叡は手に持っていた袋を持ち上げ、

「昼よ」

「昼?」

 比叡はニコリと微笑みながら――

「昼ごはんを、私と一緒に食べなさい」

 一瞬、比叡がなんて言ったのか分からなかった。一緒に昼ごはんを?

――――――――――彼女が本当に何を考えているのかさっぱり分からない…………。

「え、お前と一緒に昼ごはん?」

 少女は頬を膨らませながら、そのまま俺に無言の横腹に蹴りをいれるが、流石に何回も食らってるから無事回避―――した場所に太刀の刃が。

「あぶねえ!!」

「早く決めなさい。返答次第で生か死か決まるかしら」

「半分、脅しじゃねえか!?」

 それより、速やかにその太刀を閉まって頂きたい。さっきから太刀が軽く床に突いただけで床がチーズのように切れているのだけど。

「しょうがない。一緒に付き合うよ」

 んー? さっき、比叡の顔が一瞬緩んだような………気のせいか。

「それじゃ、来なさい」

「うあっ⁉ 腕が! 腕が死ぬ!」

 腕に関節技を掛けられながら彼女に引っ張られながら歩く。

 そもそも、なぜ昼ごはんを食べるだけで関節技を掛けられているのだろう? さっきから腕の骨がメシメシと聞こえるが………幻聴であることを願おう。




 鏡の前で両手を顔に覆う少女に見間違うほどの容姿を持った青年。青年は静かに鏡の前で泣いていた。青年は顔を上げて涙を指で拭い鏡を観る。鏡に映るのは自分自身でも少女と思う自分の姿だけ。右目に着けてある黒の眼帯に優しく触れる。

「もしかすると、アイツの今の性格は俺のせいかも知れないな」

 過去のアイツはあんな性格では無かったのを知っているのは俺と姉ちゃんだけで、昔のアイツを知る者は、俺ら除いて誰もいない。

 二年前、二年前の出来事がアイツを変えた、変えてしまった。一番、アイツを変えた原因は『あの少女』、人望が良くて、誰よりも負けず嫌いで、誰よりもアイツの事が好きだった一人の少女、その少女の死がアイツの全てを変えた……。

「性格は、前よりは……いい方だから実際どっちが良かったのか」

 小さく笑う。

「出来れば、姉ちゃんとヨータには泣いて貰いたくないが」

 目を瞑りながら眼帯の紐に触れる。

「内緒に………しないと」

 目を瞑りながら眼帯を外す。

「内緒にして……」

 両目を開け、

「しないと、いけないんだ」

 鏡に映る自分の眼。二人に出来れば内緒にしておきたい事。

「毎回見てるけど、違和感あるね」

 左目が黒目で右目が赤目。昔は両目とも黒目だったのに。と鏡を前に呟く。

「ってか、どうにかならないのかな。この右目」

 赤目の中心に十字架の模様。

「本当に痛すぎる」

 はは…。右腕を鏡に向け――、

「―――代償は大きいし、その力を得るのも代償多々…本当に使えなさすぎだろ」

 少しづつ変異する右腕。それに反応するかのように光り輝く右目。

「ガイアと、ノイズの―――合成体」

 鏡に向けた右腕は人の腕と全く変わっていた。

「人を、辞めたことは、絶対に内緒でなくてはいけない。そもそも、こんな姿を姉ちゃんとヨータに見せること出来ないよ。はは」

 姉ちゃんとヨータに見せても、詳しいことは聞かないで。と言えば聞かないでくれるだろうけど。あの二人のことだから聞いたら大変な事をやらかすに違いない。

「これだけなら、まだしも」

 日本刀を鞘から抜き、右腕に切りつけてから鞘に戻す。

「うっ」

 右腕にすっぱりと縦に亀裂が入り、血が勢いよく噴き出す。それを静かに眺める。

 普通なら急いで止血をしなければ大変な事になりかねないが、

「………いつ見ても気持ち悪いな」

 少しづつ再生する腕。大きく噴き出していた血は徐々に小さくなり、数秒で止まり、縦に切れた腕はすっかり元通りに戻る。

「人を守れるなら――――別に人を辞めるくらい、苦でも何でもない」

 右手を鏡に向けたまま握る。

 パリィン。

「あ、やばっ⁉」

 右腕を人の腕に戻るのを見届け終わり、眼帯を着け直して床にばら撒かれた鏡(小さな破片と化した)をどうするか迷いながら

「やっぱ、不便だよ」

 右腕に向けてそう言った。




「お味はいかがかしら」

「もぐもぐ…ごっくん。お前、料理出来たんだな」

 俺は比叡メイの新しい部分を見つけた。




~~~~~~




 その部屋はパッと見てもただの会議室としか言えなかった。

部屋の真ん中には円形の大型の机を囲むように置かれた椅子に数枚の紙が束になった資料が乱雑に机に置かれている部屋。そんな部屋に二人の人がいた。

一人は着崩れた茶の軍服を纏いながら、椅子にだらりと座って足を机の上に投げ出し、一人は部屋の奥の扉に彫像のように立っていた。

『本当に冷たい子だ。一体、誰に似たのか』

 男は壁に向って通話の切れた電話を投げ、バキッと音を鳴らしながら電話はバラバラに破損し壊れる。青年は電話の壊れる音にも見向きせず彫像のように目を瞑ったままピクリとも動かない。

『あの子は、彼に『依存』しすぎているんだ。だから私のことを見向きもしないんだ。そうだ、そうにちがいない。彼がいなければ、アレがいなければ! アイツがいなければ!! あのガキがいなければ!! あの子はちゃんと私を見てくれる。そうだ、そうにちがいない!』

 男は子供の癇癪のように泣き叫ぶ。

 その叫びは悲鳴であり、妬みであり、恨みであり、その男の持つ『狂気』そのものだった。

『あああああああああああああああああああ! あのガキがいなければいい! そうだ!あのガキなんていなけりゃ、あの子は私の愛する子だったのにいい! あのガキが、アレが、あの野郎が、アイツが、そうだ、いなければ――――あの子は永遠に私だけのモノだったのにいいいいいい!?!?』

 男は突然なまでに真顔に変化し、ドアの近くに立っていた青年に声を掛けそれに青年は返事を返す。

『はい。なんでしょうか。萩吾大和総司令』

 青年は男の前に歩み寄り背中を折る。

 その青年もまた―――異常だった。青年は189センチほどの長身に手には白い手袋を嵌めている。少しでも床に叩きつけたら一瞬で折れてしまいそうなほど痩せていて、それに合わせて作られている執事服からは何十本ものダガ―ナイフがギラリと刃を覗かせている。

『あれの準備は』

『はい。準備は既に終らせております』

『そうか。二日後、『レプリカ』を起動するように、あの頭のおかしい研究者に伝えておけ』

『分かりました』

 青年は無表情のまま目を瞑りながら静かに後ろに下がる。

 男は胸ポケットから血のような紅い液体の入った薬瓶を取り出し、それを静かに机に置いて手元の資料を眺める。

『レプリカの被験者はレプリカの起動後、一夜だけ人を超える力を得るが、一夜を過ぎた直後に死が訪れる』

 男が静かに呟いた言葉はその資料に書かれていた一文だ。男は資料を書いた人間の姿が脳裏に思い浮かぶ。

髪がボサボサで眼は人を常に睨みつけてるような三白眼に頬には大きな切り傷。しまいには破れたТシャツに薬品がこぼれて溶けたハーフパンツを着た明らかな変人。

その資料の最後には『被験者001』と書かれ、隣には見覚えのある一人の少年の写真が貼られている。

男はその写真を見て安心したかのような顔で机に置いた薬瓶を手に取って蓋を開け口に流し込む。そして―――、

青年は男の動作を静かに少し離れた場所から眺めるが、男のその行動で無表情を保ったままの青年はやっと驚きを表情に表す。

 青年が驚いたのは、男が小型(手のひらに収まる程度)の拳銃をポケットから取り出し、それを自身の頭に突き付けたからだ。

『萩吾大和総司!』

 その男の表情は安堵したかのようで、他者から見ても『幸せ』そうな感じだった。

『私の死後、この地位と権限は全て萩吾瑞希に託す。これは私、萩吾大和の命令だ』

 男の遺言に似たそれを聞いた青年は、大声で叫ぶ。

『早まらないでください、萩吾大和総司令! あなたが、死んだらここはどうなるんです!!』

 今更、別にどうなってもいい、と男は思った。あの、背が小さく妙に大人ぶる全てが可愛い少女に全てを託して自分はさっさと死ねば、いいだろうと。生きていても少しづつ、何かに支配され狂ってく感じがして。そして、その矛先があの一人の青年と少女に向い、それを確実にあの子らに向けるくらいなら――男は自殺した方がいいと思った。

『いや、私が―――俺がここにいても、世界を救えない。けど、あの子なら確実に世界を救ってみせるだろう。なんせ―――』

 男は、頬に流れる涙に気付き、その涙を手で拭い――――、


 部屋の中に甲高い音を響かせる一発の銃声の後に机に倒れ伏す一人の男性。

 男はなんとか椅子に身体を預けながら胸に手を当て、その手の隙間から流れるおびただしい量の血液。男は前に立つ人物に掠れながらの質問を問う。

『……な…ぜ…、はあ……はあ…お前が』

 銃を男に突き出すように握った青年。

『なぜって、自殺、したかったのでしょう? だからそれのお手伝いです』

 執事服を着こなす青年は無表情のままそう言い放つ。

『それで、他に遺言はありますか?』

 首をそのまま150度に傾げながら遺言を聞く青年。

『……な、ぜ…………お…前が…』

 青年は小さく肩をすくめる。

『なぜって、萩吾大和総司令を自殺しようとしたから、それを手伝っただけです。出来れば、一発目で亡くなって貰いたかったのですが………そうすれば、萩吾大和総司令も苦しみませんしね』

 遠ざかる意識。遠のく意識。青年がどんな声で何を言っているのか、分からない。

『遺言とレプリカの事はちゃーんと伝えておきますよ。だから安心して死んでください』

 再び青年は銃を構え―――、

『…………あ』

 ――次の瞬間、男の意識は消えた。

 

『あーあ。銃弾を二発も使っちゃったなあ。出来れば、一発で死んで貰いたかったのに』

 青年は頭を掻き毟りながら今後のことを考えながら『それ』を見る。

 自身の血だまりに倒れ伏して絶命している男。

『まあ、萩吾大和総司令。―――あなたは死にませんよ。ぜーったいにね』

 青年は血だまりに転がる遺体に嘲笑し、言い放った。


『そう。絶対に、ぜーったいに、死にませんよ。萩吾大和、いえ。―――ノイズが』








まだ続きそうです。すいません…

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