第6話 散歩~潜入
「くそっ…何でこう僕は面倒事に巻き込まれるんだ…」
僕の悪態が館内に響き渡る。
「士郎お兄ちゃんあまり大声出さないで。私のステルス機能は万能だけど完璧じゃないんだよ?」
そんな僕に隣にいるロックが注意をしてくる。
「はぁ…ただの遠足気分だったのに…」
溜め息を吐きながら僕は今回の事の経緯を思い出す。
ロックと一緒に作った朝食を食べた後、昨日決めた通り、今日はこの街を探索することにした。
「じゃあ私は氷華と回るから、あんたはロックと回ってきなよ。ロリコンは大人しく幼女と回ってれば良いのよ」
え、マジで?僕はてっきり全員で見て回るものだと思っていたのだが…てか、だから僕はロリコンじゃないと何度言えば…
「やったぁ!!士郎お兄ちゃんと一緒に回れるんだ!!何処に連れてって貰おうかな♪」
うわぁ…ロックは喜んでるよ…これは断りづらい…
「分かったよ…その分け方でいいよもう…」
渋々了解した。三回目だが僕は決して(ry
ロックを連れて街をブラブラ歩く。特に目的地は無いのだからもはやこれはただの散歩である。
「士郎お兄ちゃんあれ見て!!硝子を膨らませてるよ!!」
だがロックはそれでも楽しんでくれているようだ。何かを見るたびに指を指しながら面白そうに見ていた。
「ん…あれは…」
ふと、僕はある一軒の店の前で立ち止まった。
「どうしたの士郎お兄ちゃん?」
僕の先を歩いていたロックはそんな僕を見て小走りで戻ってきた。
「ってここ武器屋じゃん。士郎お兄ちゃん武器でも買うの?」
「うん、流石に未だにこいつじゃこの先生き抜ける気がしないから」
言いながら僕は腰に差していたボロボロの木刀をロックに見せた。
「うわ、凄く使い込まれてるね」
使い込むというか…僕は昔からRPGとかをやるときはいつも初期装備縛りをやっていてその癖が未だ染み付いてただけなんだけどね。ちなみにこの木刀は現世の僕の実家にあった木刀である。何故持っていたのかは分からないが一応使ってる。きっとあの女神が、開幕装備無しではキツいだろうということで装備させてくれたのだろう。なんて優しい女神様だ。
「じゃあ中に入ろうか。良い武器見つかるといいね」
ロックも中に入る気かよ…そりゃ外で待機させて何者かに誘拐されるよりかはマシだけど…
「ねんがんの しんぶきを てにいれたぞ!!」
〝殺してでも奪い取る〟と何処かから聞こえそうで少し怖いが知ったことか。
今回買った刀剣は二種類。一つ目はバスタードソードだ。両手でも片手でも使え、汎用性が高いと思ったので買った。
二つ目はレイピア。皆さんもご存じの通り、突属性の刀剣筆頭だ。僕は力が無いからこのくらい軽く使える武器がありがたい。
「新しい武器が見つかって良かったね士郎お兄ちゃん」
ロックが僕が買った剣を見ながらそう言ってくれる。首には店のおじさんがサービスでくれた防御印のペンダントを付けている。
「さて、買い物も済んだし、何処かで昼食でも食べるかい?」
「そうだね、沢山歩いたからお腹がペコペコだよぉ…」
言いながら自身のお腹を擦るロック。これは急いで飲食店を探さないとな。
数分歩いてたら見つけた飲食店で昼食を取る。
「はふぅ…美味しいね士郎お兄ちゃん♪」
この世界に何故あるのか分からない料理、カツ丼を食べながらロックは幸せそうな顔で笑いかけてきた。うん、可愛い。現世にいるであろう僕の妹よりも遥かに可愛い。こんな素直な性格の妹が欲しかったなぁ…天丼を食べながらそんな事を考えていると
「…ん、頬にご飯粒付いてるぞロック」
カツ丼を一気にかきこんだせいだろう。
「え?本当?じゃあさ…」
ロックは此方に頬を近づけてきた。一体何のつもりなのか一瞬理解できなかったが、次のロックの発言で全てを理解した。
「もう士郎お兄ちゃんったら…こういうときは米粒を取ってあげるものだよ?主に舐めとるとかキスとかでさ」
「ふぅん…はぁ!?え、何、そんなこっ恥ずかしい事を僕にやれというのか!?いやだよ僕!!」
全力で否定する。
「…そうだよね…相手が子供とはいえ流石に女の子の頬にキスなんて無理だよね…」
少し寂しそうな表情をしながらロックは自分で頬に付いた米粒を取ろうとする。
「~~~!!分かったよ!!やれば良いんでしょやれば!!」
「え…きゃっ!!」
ロックの肩を掴み顔を近づける。
…え、どうしよう…ほぼヤケクソでこんなことしてるけどこれかなり難易度高いぞ…相手幼女だし尚更犯罪臭が凄いことになってるんだけど。
「士郎…お兄ちゃん…?」
顔を赤くしながらロックは、顔を近づけたままいつまで経っても動かない僕を見つめ続けている。止めろ…そんな目で見ないでくれ…何か色々壊れそうなんだけど…ああもう!!こうなりゃどうにでもなりやがれ!!覚悟を決めてロックの頬にキスをし、米粒を取る。
「んっ…ふぅ…」
ちょっ!?そんな変な声出さないでくれよ!!マジで僕の理性がブッ壊れちゃうから!!急いで米粒を全て取りロックから離れ…
「もう…士郎お兄ちゃんったら…不意打ちなんて卑怯だよ…?」
られない!?気づいたらこの幼女は僕に抱きついていやがった!!
「ふふっ♪次は私の番だねぇ…覚悟してね士郎お兄ちゃん♪」
「止めろぉ…止めろぉ!!」
その日、また高校生が幼女に負けた。
「楽しかったね士郎お兄ちゃん♪」
満面の笑みで此方を見てくる。うん、実に眩しい…
「僕も楽しかったよ…とても疲れたけどね…」
今の僕は精神的にも肉体的にもボロボロだった。まさか幼女とイチャイチャする日が来るとは思わなかった。完全にロックの一方的攻勢だったけど。
「とりあえずもう帰ろうか…僕は休みたい…」
「うん、分かった。じゃあ最後に…」
ロックはわざわざ僕の歩幅に合わせてきた。そして…
「どうして手を繋いだ?」
「どうしてって…だってお兄ちゃんと手を繋ぐと安心するんだもん♪」
…そうかい、安心する、か…なら…
「ちょっ!?士郎お兄ちゃん!?」
「大人しくしてて」
ロックを持ち上げそのまま肩車する。
「うぅ…恥ずかしいよ士郎お兄ちゃん…」
顔は見えないが多分真っ赤にしているのだろう。知ったことか。こちとら昼間の飲食店で公開処刑食らったんだ。このくらい我慢しろ。
結局、肩車のまま宿に帰った。
「ただいま…って、あいつらまだ帰ってきてないのか」
部屋の中には誰もいなかった。どうせその内帰ってくるだろうと思い夕飯の支度を始める。
「ねぇ士郎お兄ちゃん、あれ何だろう?」
ロックはテーブルの上にあった紙切れを持ってきた。あの二人が残した書き置きだろうか?ロックから紙切れを受け取り読み始める。
「えーっとなになに紅と蒼の少女は戴いた。返して欲しくば街外れの廃墟に来るべし…ってなんだこりゃあぁぁぁ!?」
え!?何!?あの二人が誘拐された!?何らかの冗談だろ!!
「士郎お兄ちゃん…これって…」
「ロック、危険だからこの部屋からは出ないで」
今日買ったばかりのレイピアを装備し敵地に行こうとするが
「な!?お兄ちゃん一人で行く気!?駄目だよ!!」
案の定ロックが止めようとする。
「だが…このままじゃああの二人が…」
「いいお兄ちゃん?私も一緒に行く」
「…分かった」
ロックをこの部屋に置きっぱなしにしたらまた誘拐犯が来ないとも限らない。だったら一緒に行動した方が安全だ。ロックを連れて街外れの廃墟に向かった。
そして現在に至る。
初めてあった時に薄々感じ取ってはいたのだが、ロックの固有スキルは完全ステルス。敵に認知されなくなる。しかも他人にもその効果を付与することが可能らしい。音だけは完全には消せない、スキル発動中は自分自身は攻撃出来ない等の欠点はあるが総合的にみればかなり使い勝手のいい能力である。
「早く二人を見つけてトンズラするぞ…」
音に気を付けながら二人を探す。簡単に見つかるといいな…
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