第4話 遭遇
女子勢二人が出てきた。
「なんだお前ら、もう上がったのか?」
「うん、あまり長く入ってると士郎が寒いだろうと思ったから」
ねぇ、何で氷華ってこんなに人の事気遣えるようになったの?中学時代は〝氷の女帝〟って呼ばれてたくらい他人に強く当たってた人間だよ?人間時が経てば変わるって言うけどこれは変わりすぎでしょう…
「おい士郎、私達は宿に帰ってるから。あんたは一人で帰ってきなさいよ」
ねぇ、何でフレイってこんなに人の事考えないようになったの?幼年期はもっと人の気持ちを考えられる優しい人間だった気がするんだけど…人間時が経てば変わるって言うけどこれは変わりすぎでしょう…
「一応聞いとくけど…お前ら以外に温泉に入ってた人はいなかっただろうな」
名前も知らない人と鉢合わせなんて嫌だからな。
「いや、私達以外にはいなかったわ」
「そうか、なら良かった」
これでのんびり浸かれるって事だな。
「はぁ…どうするかなぁ…」
身体を洗いながら僕は今後の事を考えていた。
まず今後の行動について。現在僕達には明確な目的が無い。だが今のままただ旅をしてるだけじゃ何の面白味も無い異世界ライフになってしまう。何か良い案は無いものか…
次にパーティ編成について。ただでさえ三人しかいないのにその三人全員が攻撃しか能の無い固有スキル所有者だ。僕の知ってるRPGのパーティ編成と違う。せめてあと二人、回復要員とバフ・デバフ要員が欲しい。まぁ…そんなもの掛けなくてもあの二人なら余裕で1ターンキルが出来るだろうが…
…駄目だ、もう考えるのは止めよう。さっさと身体を流し終え温泉に浸かろうとする。
「あ、こんばんは」
だがどうやら先客がいたようだ。既に小さな女の子が浸かっていた。髪は綺麗な金髪をショートに。まだ幼さが残る顔立ちを見るに…恐らく僕の妹と同い年、すなわち10歳くらいだろう。
…は!?何で!?あいつら他に入ってる人いないって言ってたじゃないか!!何で人が、しかもこんな時間帯にこんな幼女が呑気に温泉に入ってるんだよ!!あいつら嘘ついたの!?謀ったの!?
それともあれか!?この温泉で死んでしまった哀れな女の子の魂が時折こうやって出てくるって怪談か!?
「えーと…大丈夫ですかお兄さん?」
少女がこちらを見つめている。うへぇ…滅茶苦茶落ち着かない…
「あー…僕は大丈夫だけど…何で君みたいな子供がこんな時間帯にこんな所にいるんだい?」
出来る限り動揺を隠しながら聞いてみる。
「何でって…そりゃ私がこの時間帯にここに来るのが日課になってるからですよ」
当たり前な事を聞かないでと言いたげな顔で答えてくれた。え、なにこの街。こんな事が当然な街なの?幼女がこんな夜遅くに温泉に入るのを日課にしてるような街なの?つかなんだよ日課って。やけにババ臭い日課だなおい。
「ところでお兄さん、温泉に入らないんですか?」
首を傾げながら聞いてきた。
「え…あぁ…うん…入りたいのは山々なんだけどさ…」
いくら相手が子供といえども女の子に変わりはない。やっぱり少しは恥ずかしさがあるわけで。
「あれれ~?もしかしてお兄さんったら女の子とお風呂に入るの恥ずかしいんですか?」
「なっ…!?い、いや…そういうわけでは…」
「その反応は図星ですねお兄さん?」
動揺を隠せない僕に女の子は小悪魔的な微笑を見せてきた。
「ええい!!分かったよ入れば良いんだろチクショー!!」
高校生が幼女に負けた瞬間である。
僕自身の名誉の為に言っておくが僕は決してロリコンではない。むしろ完全に守備範囲外だ。よってこれから繰り広げられる会話は下心も何もないということを皆様に伝えておく。
「へぇ、お兄さんの名前は士郎なんだー」
何故か名前を聞かれたので軽く自己紹介をした。ちなみに女の子の名前はロックだそうだ。やけに女の子らしくない上に餓〇M〇Wに出てきそうな名前である。あの二人が聞いたら喜びそうな名前だ。
ちなみに、今となってはどうでもいいが、幽霊なんかではなくがっつり人間だそうだ。
「士郎お兄さんは一人で旅をしてるの?」
「いや、一応仲間が二人ほどいるが…」
「へー、会ってみたいなぁ…」
止めといた方がいい、と言う前に
「ねぇ士郎お兄さん、私もそのパーティに入れてよ!!」
「うん…うん!?」
いきなり何を言い出すんだこの幼女!?
「いやそれはまずいよ…ロックちゃんにだって親とかいるんでしょ?」
「士郎お兄さんは私と一緒じゃ嫌なの…?」
上目遣い+潤んだ瞳で僕を見つめてくる。ぐぉっ…今までアニメとか漫画の中でしか見たことがなかったが…いざ食らってみるとかなりの破壊力だ…
「いや…その…嫌とかじゃ無いんだけどね…?」
「いいでしょ…?お願い…士郎お兄ちゃん…」
そんな今にも泣きそうな目で見られたんじゃ…こっちだって受け入れざるを得ないじゃないか…
「ああもう!!分かったよ!!これから宜しくねロックちゃん!!」
「いいの!?やったぁ♪ありがとう士郎お兄ちゃん!!」
「はぁ…あの二人に何て説明しよう…」
つくづく僕は押しに弱い人間だ。ロックの頭を撫でながら呟いた。
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