第2話 出発~到着
「結構長いな…」
馬車を走らせながら僕は地図と睨めっこする。
今朝アインの街を出て次の街を目指すことにしたのだが…想像以上に遠い。このままじゃ今日中に到着出来るかすら怪しい。
「ね~しろ~、まだヘトスの街に着かないの~?」
寝起き直後の間の抜けた声が幌の中から聞こえる。てめぇなに昼寝してやがる、寝てる暇があったらあんた馬車を僕の代わりに走らせろよ。あんた馬の扱い僕よりも上手いだろ。
「ねぇ士郎、貴方も休んだらどう?早朝から馬車を走らせてるんだから少なからず疲れてるんじゃ…」
もう一人の声も聞こえてきた。おぉ氷華よ…あんたはそこの馬鹿女とは違って人を気遣う事ができるんだな…物凄く嬉しいぞ。
「いや、僕はまだ大丈夫だよ。こういった事くらいしか僕は役に立てないんだから」
自虐気味にそう言った。悲しいことに戦闘面においては男である僕よりも女であるこの二人の方が優れている。その代わりと言ってはあれだが生活面や今回のような長距離移動の際は全て僕が請け負っている。幸い、現世にいた頃から家事は得意だったし、馬車の扱いも原付に乗るよりかは簡単だったのですぐに慣れた。男なのに情けないな…これじゃ主夫だ。
「そう…でも無理だけはしないでね。辛くなってきたら私が代わるから」
そんな僕にこんな優しい言葉を掛けてくれる友人、プライスレス。
「別にいいよ氷華、士郎は好きでやってるんだから。ねー士郎」
そんな僕の感動をブッ壊してくれる友人、今すぐ馬車から下ろしたい。
何だかんだ言いながらも夕方にはヘトスに着いた。
ここヘトスは鍛冶の街と呼ばれる程武器や防具の製作が盛んだ。僕達が今回の目的地にここを選んだのも、武器や防具を調達したいという三人の意見が一致したからだ。尤も…あの二人は魔法や殴りがメインなんだから武器なんて要らないだろう。
「ふあぁぁぁ…やっと着いたの?」
幌から出てきて伸びをしながらフレイは呟いた。この女…結局ずっと寝ていやがったのか…
「お疲れ様士郎。部屋の空いてる宿を見つけておいたわ」
なんだこの人…有能過ぎるだろ。
「ありがとう氷華。おら、早く行くぞこのナマケモノ女」
「なっ…!?誰がナマケモノよ!!」
馬車を引きながら氷華が見つけてくれた宿に向かった。
観光や装備調達は明日にすることにした。宿の近くにあったレストランで少し遅めの夕食を取る。
「ふぅ…お腹いっぱい…♪」
フレイは幸せそうにお腹を撫でている。なんで今日一日睡眠しかしてないお前が僕達三人の中で一番食べてるんだよ。まるで意味がわからんぞ!!
「そういえば…宿の従業員に聞いたんだけど、この街は温泉も有名なんだって」
口元を拭きながら氷華が言う。この人は言動の一つ一つが絵になるよなぁ…
「え、温泉あるのここ。じゃあさ、三人で入りに行こうよ」
「馬鹿か貴様は。僕は男だぞ。三人一緒に入るなんてそんなの混浴でも無い限り…」
「ほれ、あったぞ混浴」
フレイが何故か誇らしげに胸を張る。只でさえ大きいんだから別に張らなくでも良いような気が…つか何で見つけちゃったの?しかも何で貸し切りなの!?偶然?いや絶対こいつ何か仕掛けたもん!!
「で、士郎はどうするのさ。私達と一緒じゃ流石にあれか?刺激が強すぎるか?ん?どうなんだい?」
こいつ…!!いや落ち着け士郎…安っぽい挑発に乗るんじゃない…僕はあれだ、後で一人でゆっくり温まりたいスタイルなだけだ…別に二人の裸体を見るのが恥ずかしい訳じゃないんだ…
「僕は後でいいよ。二人でガールズトークでもしているがいい」
心の中の動揺を悟られないようにしながら僕は言った。
「ちっ…つまらない男だな…もう少し動揺した方が可愛いげがあるのに…」
フレイの奴…後でとっちめてやる…
「でも士郎、私達が先でいいの?今日一番疲れてるのは士郎の筈だよ」
優しいなぁ氷華さんは…どこぞやの間抜けナマケモノ女も見習えばいいのに…
「レディファーストって言葉もあるしね、僕は大丈夫だよ」
心配をかけないように言ってみた。
「そう…じゃあお言葉に甘えて…」
二人は更衣室に消えていった。さて、こっからあの二人が温泉から出るまで暇だが…何をしよう。
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