ももたろう
すべてがホモといって過言ではない。
むかしむかし、
あるところに、
男と男が住んでいました。
「じゃっ、おれ行ってくるわ」
「は〜いっ、お勤めごくろうさまっ。ちゅっ」
旦那を送り出した主夫は、
買い物に行きました。
川のほとりを歩いていると、
「アラ、こんなところになんてステキで立派なマツタケ! 持って帰ってダンナさまと一緒に食べましょっ」
主夫はマツタケを背負い二人の愛の巣へと帰りました。
「ただいまあ」
「あなた〜、今日川でこんな素敵なマツタケみつけたのよお〜〜」
「おおこりゃすんばらしいマツタケだ! 色といい、形といい、大きさも匂いもサイコーだ!」
旦那はそれしか目に入らないという様子で顔を近づけていきます。
主夫も一緒になって顔を近づけていきます。
「ねぇえ、セーノで一緒にかぶりつきましょ〜」
「おおそりゃいい考えだ。愛してるよ。チュッ」
「やだぁん、アタシじゃないわよ、マツタケをタベルのっ」
「わかってるよ、キミが目の前にいたらガマンできなくって」
「あらあら、そんなにヨダレたらしちゃってぇん。マツタケだいすきだものねぇ」
「じゃあ一緒にね、一緒に食べようね、セーノ!」
二人はパクッと両側からマツタケの柄をくわえました。
「うわわわわわわああああ」
「アラッ、マツタケが悲鳴を上げたわよ?」
「ホントだ。ナニかな?」
「『ナニかな?』っじゃっねーよっ、アホンダラっっ! おめーらソレしか目に入ってねーのかよっっ!?」
男二人はびっくり仰天しました。
そこに現れたのは生まれたままの姿のかわいらしい男の子だったのです。
「おやまあ! あなた〜、きっとこの子は子供を授からないアタシたちへの神様からの贈り物よ?」
「そうだねえ、うん! きっとそうだ! マツタケから生まれたから『マツタケたろ・・・」
「シャッラーーーッップ!!
オレは初めっから、いる! おまえらが勝手にマツタケと思って連れてきたんだろーがっ!
それにオレには『ももたろう』という立派な名前がある!」
舌打ちが鳴った。
「じゃあいいよ。ももたろうで」
「チッって言った? 今『チッ』って言った、じじぃ?」
「だれがじじぃじゃ! ちゃんと『パパ』と言わんくぁっ」
「そしてアタシは『ママ』」
「そんなゴツい『ママ』がいるかいっ! ばばぁで充分だばばぁで」
「まあぁっ! そんなことを言うなんて・・・アタシたちの育て方がわるかったのカシラ・・・」
「育てるもなにも、初対面だろうがっ・・・あぁ・・・怒鳴っていたらめまいが」
ももたろうはへなへなと倒れてしまいました。
それからしばらくの間ももたろうは目を覚ましませんでした。
男二人は一生懸命ももたろうを介抱しました。
旦那は毎日、眠るももたろうの手を握ってあげました。
主夫は毎日、眠るももたろうの色も形も大きさも匂いもサイコーのモノを握ってあげました。
「あなた〜〜っ! ももたろうが目を覚ましたわよッ!」
「おおっ。えがったえがった」
「・・・ありがとうな。あんたらには世話になった」
「あぁっ・・あなた・・・、ももたろうがアタシたちに『ありがとう』って」
「うむうむ、苦労して育てた甲斐があったのぉ」
ももたろうはあえて突っ込みませんでした。
「じじぃ。ばばぁ。オレは行かなきゃいけない。おにぃのシマへ」
「なんと! ・・・わかった。かわいい子には旅をさせろと言うしの。それではこれを着ていきなさい」
旦那は押し入れの奥から一つの衣装ケースを取りだしてきました。
「へ〜え、なかなかいいじゃん。かっこいいぜ」
裸だったももたろうは
その全身くまなくトゲの付いている革のパンツ、革のジャンパー、等々に身を包みました。
「これはな、
おれがいつかおれ好みのかわいい男の子が現れたときに
密かに着せようと特別な生地で作っておいた服で・・・」
「サンキュー、じじぃ! じゃっ、いってくるぜ!」
ももたろうはみなまで聞かず男たちの愛の巣を飛び出していきました。
ももたろうは道をずんずんと歩いていきます。
街の中を行き交う人々はすれ違う他人など目もくれません。
空には鳥らしき影のみ。どこまでも高く広がっていました。
雑踏の中の孤独に浸りながらももたろうが歩いていると
突然一人の少年が声を掛けてきました。
「ももたろうさん、ももたろうさん」
「なんだおまえ? なんでオレの名を知っている?」
「細かいこと気にしないで。僕、あやしい者じゃないよ」
犬顔の小柄な少年は、黒目がちな目をクリッとさせふっくらした頬をニッコリと上げました。
そして瞳の奥には妖しい輝き。
「胡散臭くてたまらないが。オレになんか用か?」
「あなたのその、お腰に提げたご立派なきびだんご、一つ僕にくださいな」
ももたろうは自分の穿いているトゲだらけの革パンを覗き込みました。
「オレのどこにそんなものが付いている?」
「あなたの着ているのは幻の、ホモには見えないという服。
そう、いわば、今のあなたは裸のももたろうさまで・・・」
「あんっの、じっじぃーーっ!! とんっでもねぇもん、着せやがってっ!」
ももたろうは怒りに身をたぎらせました。
そういえば通行人の中に二度見三度見と妙に目を離さない男がちらほらいたのを思い出します。
「だいじょうぶ。だれも訴えたりしないよ。よくできてるよね」
「そりゃそうだろなっ!」
ももたろうは今少年の目に映っている姿についてあきらめることにしました。
「ところでその、おばあさんが一生懸命握っていたきびだんご、とーってもおいしそう! 早く、早く食べたいっ!」
「あのな、これは二つあるからってそうおいそれと一つだろうがあげるわけにはいかねえんだ」
ニッコリとした口の端から涎を垂らしそうになっている少年をももたろうは説得します。
「それじゃ僕、あなたがその気になるまでどこまでもお供するっ! イヌと呼んで! 好きにしてっ!」
そうしてももたろうはイヌをお供にまたずんずんと歩いていきました。
並木道を進んでゆくと一本の木の陰からももたろうを見つめる目が見えます。
「おい、そこのでかいの。オレになんか用か?」
「キャッ! バレちゃった! はずかしいっ」
幹よりも数倍太い体が木の陰に隠れようとします。
「いや、無理があるから。尻隠れてないから」
「・・・ももたろうさん、ももたろうさん。あのー、そのー、お腰に提げたきびだんご、一つオイラに下さいません?」
「おまえもか!」
ももたろうは大男の目に映っている自分の姿と男の正体がすぐにわかりました。
「だって、だってソレ、とっても素敵! あぁ、おねがい、欲しいっっ!」
「あのな、これは二つあるとはいえ一つは予約済みでもう一つしか残ってねえんだ」
大男は木の陰からモジモジした声で言いました。
「わかりました。オイラももたろうさんのためならなんだってするよ・・・・キャッ言っちゃったっ!」
大男は思わず木にしがみつきます。木はバキバキと大きな音を立てて折れ曲がりました。
猿顔の巨体が露わになります。
「ももたろうさんっ、あんなサルなんてダメだよっ! 僕だけじゃマンゾクできないのっ!?」
イヌがふっくらした顔を歪ませて叫びます。
「アレはむしろゴリラだ」
ももたろうはイヌに次いでサルをお供にずんずんと歩いていきます。
「もう少しでおにぃのシマだぜ」
ももたろうが連れの二人に声を掛けたときいきなり頭上が暗くなりました。
と思えばすぐに明るくなり、目の前には背の高い男が背を向けて立っていました。
「・・・おめぇ、ずっとオレたちを見下ろしていたヤツだな?」
「さすがですね、気付いていらっしゃるとは」
男が振り向きます。足下までの長いコートから爬虫類顔だけを出しています。
「オレが旅立ったときからずっとツケていたな? なにが目的だっ」
「ももたろうさんももたろうさん、私もそちらの方々と同じなのですよ」
「ホモってことか」
「それも否定はしませんが。私も欲しいのですよ。貴方のお腰のきびだんごをお一つ」
「あのな、残念ながらもう、空きは一つも残っちゃいねえんだ」
「そっ、そそそれではっ! あ、貴方のその、お、お腰に提げた『きりたんぽ』ぉっ!
ぜっ、是非ともお一つ、下さいぃぃぃ!!」
岡山名産ではなく秋田名産を男はせがんできます。
「こっ、コイツぅ! 僕らで予約が埋まるのを待っていたなあっっ!」
「キイイーッ! 『サルもおだてりゃ木に登る』パーーンチっっ!!」
サルの太い腕が長身男の顎を捉えます。男は空高く小さな点となりました。
しかしその姿はふたたび大きくなってきます。
四角い影となりももたろうたちのもとへ降りてきます。
「ももたろうさんっ、コイツ! コイツ変態だよっ」
「キャアアッ! このヒト、なんでナンニモ着てないのおっっ?!」
手足の指でコートを開け広げていた男はふんわりと着地しました。
「これはですな、トリのように自由に飛ぶには余計な物を身に着けていてはですな・・・」
むしろモモンガのように飛んでいた男を新たに連れ、
ももたろうたちはずんずんと進んでゆきました。
ももたろうを先頭に
小柄なイヌ、ごっついサル、長身のトリが続いてゆきます。
辺りには男同士寄り添う者、一人携帯片手にポツンと人待ち顔の者、
甲高い声で騒ぐ者たちなど様々なイキモノが見られました。
そしてその誰もが一行を見つめていました。主に先頭のももたろうを。
豪邸の大きな扉の前に着きます。
レーザー光線が飛び交い、きらびやかなネオン看板で埋め尽くされています。
その一つには、『Oh!兄ィィィィィッッ!!!!』と書かれています。
ゴゴゴゴゴゴと扉が開いてゆきました。
「おおっ、ももたろう! よくぞ来たッッ!」
そこにはマッチョな男がいました。
赤褐色の素肌に虎縞のとても小さなビキニだけを穿いています。
「ももたろうさんっ、アレがおにぃなの? とってもさわやかな男性に見えるよ?」
「ナニを言う。アレは危険極まりない男だ。そう、オニの化身と言ってもいい」
「そうお? オイラけっこう好みかもー」
「冗談は首の太さだけにしろ。よく見ろ。アノまがまがしいツノを!」
「ツノ、ですか?」
お供の三人は男を凝視します。
その目は自然とビキニへと注がれていきました。
「あっ、アレっ!? アレはああああっっっ!!」
「キーーーーーッッ、キケン!! キケンキケンキケン、キケンッッ!!」
「ま、まさにっっ! まさにアレはオニのツノオオオッ、ノオッッ、ノオォォーーーオッッッ!!」
ビキニの上には、ちょこんとハミ出たモノが見えています。
「おにぃッ! もう、シマの外へ出るだなんてハタ迷惑なことはやめろっ!」
「なにを相変わらずカワイイことを言っているのだ、我が弟よ」
「「「弟!?」」」
驚く三人を尻目にオニはももたろうに近づいてゆきます。
そして愛おしそうに見つめてから、しっかりと強く抱きしめました。
「いっ!? 痛ででででででぇぇぇあああぉぉいっっっ!!!」
「バカかおまえは。こんなトゲだらけの服に思いっ切りしがみつきやがって」
必要以上に鋭利な光を放つ銀色の装飾がももたろうの体を覆っています。
「そ、そんなん見えてるヤツがここにいると思うかっ、アホ!!!」
オニはちくちく痛む腕を振り回しながら邸宅の中へと入っていきました。
その場に残されたももたろうを、お供の三人と野次馬の男達はまじまじと見つめています。
オニが手に何かを持って戻ってきました。
「弟よ、オニに金棒だ」
「いやムチじゃん? ソレ」
そうももたろうが言うが早いかオニはとげとげの付いたムチをももたろうに叩きつけました。
「目には目を! トゲにはトゲををっ! これぞアニの愛のムチと知れいっっ!!」
ももたろうの衣装がビリビリと破れ引き裂かれていきます。
「ああ、もうっ! 僕っ、今ほどホモの我が身を悔しいと思ったことはないよっ」
「キイイッ! ももたろうさああんっっ!」
「せっかく! せっかくの痴態だってのにっ、ちいっっとも見えん!!」
周りからは啜り泣く声までもが聞こえてきます。
その場にいる男のだれも、ももたろうの姿の変化を見ることはできませんでした。
「フフ。これでもう、我々を阻むモノは無くなったか?」
疑問形でオニがももたろうに話しかけます。
ももたろうはかすかに残る布きれだけをまとい、キッとオニを睨み付けています。
オニはゆっくり、ももたろうへと近づいてゆきました。
「今だ!」
「そうね! 今しかない!」
「約束の時は、今!」
イヌ、サル、トリが動きました。
右に提げられた雄々しい丸みをイヌが小さなお口に含んで転がします。
左に提げられた雄臭漂う丸みをサルが肺活量に任せ吸い込みます。
中央に提げられた色素濃い笠のくびれをトリがキツツキのように搾ります。
唐突な刺激にももたろうの中から勢いよくシャワーが噴き出しました。
「もぐぁっ、わ、わた・・・!!」
「キキイイイッッ!! 『サルものは追わず』ブロオオオオーーーッッ!!!」
独り占めするトリを、嫉妬に駆られたサルが全力を込めて殴りました。
コートをはだけながら、トリはオニの顔へと飛んでいきました。
「この際アニでも可!!」
イヌは素早く駆け寄り、日の出のようにビキニの上から拝めるモノをくわえました。
オニはあっという間に腰砕けになり膝を震わせながら崩れ落ちました。
オニはももたろうへ虎縞のビキニを差しだしました。
これでもうオニは外を歩くことができなくなりました。
ももたろうは戦利品を身に着け意気揚々と
旦那と主夫のいる愛の巣へと帰ります。
道中何度も呼び止められましたがお供たちの必死の説明により事なきを得ました。
「じじぃ! ばばぁ! 戻ったぜ!」
そのとき旦那と主夫が目にしたのは、
戦利品に収まりきれないほどの立派なおタカラ。
それからというもの、
みんなはおタカラを囲んで大いに盛り上がりましたとさ。
おわり。