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魔王王子と星銃銃士の王国復興《リ・ジェネシス》  作者: 斉藤・賢生
王子と銃士の出会い
8/23

従者三人

またも、間を開けての投稿となり申し訳ありません。

場所は南座学園の講堂。

今は進級式が行われている。

「――み、皆さんは二年生、三年生として、えー新入生を導く立場にあります。よって、これからは――」

講堂の舞台の上では桐堂学園長が多少は毅然とした態度で話している。

とはいえ、今まで通りのオドオドした雰囲気は変わらない。

正直あまり聞きやすい話し方ではなかった。

しかし、この場にいる生徒は皆、一流の魔導士になることを目指している。

そんな生徒たちは礼儀正しく、あるいは規律正しく話しを聴いている。

もちろん、私語などあり得ない。

二人を除いて。

「つまり…私との打合せもせずに監視対象に接触し、そのうえ監視任務の事を明かした―と?」

「あぁ…まぁな」

光一郎は今回の任務のサーポーターである藤名瀬・千代にレイドと会い、そして自分の正体を明かした事を伝えた。

「正直言って…あり得ないと思います」

感情をあまり出さない凛とした表情の中に、しかし明らかな不満が見てとれる。

……ちょっと怒ってるな…

「……まぁ、そう怒るな。俺も考えがあったんだ」

「それは理解しています、それで?収穫はあったのですか?」

千代の問に光一郎はある種の自慢のように話し始める。

「あぁ、奴はおそらく頭のまわるタイプじゃないな」

策略、知略、謀略。

時にはブラフや駆け引き。

それらを用いて状況を有利に進め、勝利を得る。

そんなタイプではない。

それならばいくら魔導の才能があろうとも魔法協会の敵にはなり得ない。

それが光一郎のレイドに対する評価。

――むしろ。

「寧ろ問題なのは……ルーナ・エル・ライトの方だ」

声色を変え、雰囲気を変え。

光一郎は静かにその名を口にした。

「…ライト殿ですか?何故です?」

「ルーナ・エル・ライトを知っているのか?」

光一郎の問に千代はうなずく。

「彼女は学園の中でも有名です、恐らく二、三学年で彼女を知らない者はいないでしょう」

「…いったい何者なんだ?教えてくれ」

絶世の美少女。

ルーナは文字通り圧倒的な美貌を持っている。

それだけでも学園で多少名を売ることは出来るだろう。

だが、規律正しい生活を送る魔導学園の生徒たち全てがその存在を知るためにはそれ以外の理由があるはずだ。

「もちろん構いません。ですが、その前にルーナ殿を警戒する理由を教えていただけませんか?」

光一郎がルーナを警戒する理由。

どうせ、千代には話しておかなければならない。

「おそらく、あいつは俺達と同じ目的でここにいる」

「…つまり、ライト殿は聖王国の監視者であると?」

光一郎と千代はレイドを監視するため魔法協会から派遣された。

つまり、ルーナもレイドを監視するため聖王国からやって来た人間である。

それならばルーナの情報が規制されている理由も解る。

そしてもし、ルーナの目的が本当にそうなら。

同じ目的を持つものとして、光一郎はルーナの動向に細心の注意を払わなければならない。

「なるほど、理由はわかりました。ライト殿についてお教えします」

「あぁ、頼む」

「ルーナ・エル・ライト殿は去年のこの時期に他の“二人の生徒”と共に編入してきました、詳しいことは知りませんがライト殿は聖王国の貴族令嬢のようです」

ルーナが貴族の令嬢であることは知っていた。

だが。

「二人の生徒?」

初耳の事実に光一郎は質問する。

「その二人について教えてくれ」

「二人はルーナ殿と同じ聖王国の人間で、ルーナ殿の従者です」

「…なるほど。まぁ、従者を二人も連れていれば有名にもなるか」

学園にはルーナ以外にも貴族の人間はいる。

実際に光一郎も公国の公爵である天道家の嫡男だ。

しかし、従者を連れているものはいない。

そんな学園の中で二人も従者を連れていれば嫌でも注目を集める。

「いえ、それだけではありません」

だが、千代が反論する。

「…どういうことだ?」

光一郎が問う。

それに千代が真剣な面持ちで答える。


「――その二人の従者は未だに無敗なのです」


「……なるほど、な」

千代の答えに光一郎が感じたのは驚愕でも不可解でもなく、納得だった。

魔導士が各国の軍事力としての面を持つ以上。

当然、戦闘能力が求められる。

そのため、魔導学園では『模擬戦』という制度で生徒の育成に力を入れている。

そして模擬戦は授業の一環として、基本的にすべての生徒があらゆる対戦相手と数多くこなしているという。

その模擬戦で未だに無敗。

それはもちろん。


二人の従者が実力者である事の証明となる。


無論、二年生の始まりに編入してきた従者二人より、一年の頃から無敗記録を更新し続けている千代の方が成績の上では優秀だ。

しかし実際に戦って見なければ解らない。

その一方で。

すでにこの時点で判明していることが一つ。

「………まぁ、間違いなく俺より強いな…」

自嘲じちょう気味な笑みで光一郎は呟く。

そしてその呟きは――事実だった。

光一郎にはとある“特殊な魔法”がある。

しかし、それを使わないと光一郎は――とても弱い。

才能がないのだ。

魔導の才能が。

魔導の才能とは主に二つ。

一つ、魔力の総量。

一つ、魔法の展開速度と効果範囲。

そして光一郎にはそのどちらもない。

それこそ何一つ満足に魔法は使えない。

魔導兵器すらまともに扱えない。

以前、光一郎が千代との模擬戦で使ったマガジン型の魔導兵器。

あれには魔力を貯蔵しておく『貯蔵』の魔法陣が刻んである。

故にあれがあれば光一郎本人は魔力を消費することなく拳銃型の魔導兵器を使用することができる。

しかし、それは逆に。

魔力を貯蔵する魔導兵器がなければ――なにもできない。

その事実の証明でもある。

それほどに光一郎は弱い。

二人の従者とやらに勝つことなど当然不可能だ。

「まぁ、俺より弱いヤツを探す方が難しいか…」

「――光一郎殿。それは違います」

先程より更に卑屈な言葉に。

千代の凛とした言葉がぶつかる。

「……一体、何が違うんだ?」

その言葉は自分でも驚くほどに冷たかった。

もしかすると怒っているのかもしれない。

しかし、千代は臆さない。

「光一郎殿……貴方は、強い」

何てことを学園最強がうそぶく。

千代は光一郎とは違う。

天才なのだ。

魔導の才能に満ち溢れている。

魔力の総量も。

魔法の展開速度も。

魔法の効果範囲も。

光一郎とは、否。

他の誰とも比べ物にならない。

そんな存在。

……そんなお前に何が解る?…

光一郎の内心を知ってか知らずか、千代が言う。

「光一郎殿。貴方は自らの実力を粗末なものだと思っているようですが――それは違う」

「は?なにいってんだ?」

さっきより柔らかい言い方で聞く。

「貴方の魔法は決して弱いモノではない」

千代の言う魔法が、光一郎の唯一まともに使える特殊な魔法であることは分かった。

そして、千代が本心からそう言っていることも。

だが、千代が反論してくる理由は理解わからなかった。

「……俺の強さは自分がよく分かってる…だいたい、なんでお前にそんなこと言われなきゃいけねぇんだ?」

「私が貴方の実力を認めているからです」

いつもと同じ、否、それ以上に凛とした声音だった。

「……」

光一郎は思わず黙り込む。

「だから、光一郎殿。貴方には自分の価値を自分で下げるような真似は――」

「――もういい、わかったよ」

そこまで言われれば嫌でも理解わかる。

千代は光一郎の強さを認めていた。

たがら、光一郎が自分を軽く扱うのが許せなかった。

「……すみません、口が過ぎました」

千代が謝罪してくる。

そんな必要ないのに。

真に謝るべきは自らをおとしめていた光一郎なのに。

「…いや。もういい…俺も悪かったな」

こういう時素直に謝れないのは自分の欠点だと思う。

だから、千代の真っ直ぐな所は時折、自分の助けになる。

そう思う。

「…じゃあ、話を戻すぞ。――その二人の従者の名前は?」

光一郎の問いに千代は静かに答えた。


「二人の名はアトラス・アウグストとセイナ・レーシアです」


××× ××× ×××


「アトラス、どうしたの?そんなに怖い顔をして」


進級式が終わり、二百人余りの生徒が講堂を後にしていく。

残っているのは三人の生徒。

そのなかの一人、ルーナは椅子に座り、二人の従者と話をしていた。


一人は赤い髪に金色の瞳、そして褐色の肌が特徴的な青年。

名をアトラス・アウグスト。

一人は青い髪と黄色の瞳、そして豊かな胸が特徴的な少女。

名をセイナ・レーシア。

無論、二人とも南座学園の制服を着ている。


アトラスはルーナの言う通り鋭い表情をしていた。

理由は一つ。

「“姫”どうか、我々から離れて行動するのはやめてください」

「あら、どうして?」

多少、責めるようなアトラスの物言いをルーナは受け流す。

「どうして、ではありません!我々の側に居ていただかなければ、姫をお守りできないからです!」

アトラスとセイナの従者として仕事の一つにルーナの身を護るというものがある。

しかし――。

「あは、あなた達が私を護る?私の方が強いのに、一体どうやって護るというの?」

「――っ!それは……ですが、姫――」

「それと、その呼び方はここでは禁止しているはずよ」

ルーナの普段より低い声と普段より鋭い瞳にアトラスは思わず息を呑む。

「も、申し訳ありません、“お嬢様”」

「うん、よろしいわ♪」

打って変わったような態度のルーナ。

「それはそうと……セイナ?」

しかしすぐにまた、態度が変わる。

至極、真剣な雰囲気だ。

「なんでしょうか?ひ――いえ、お嬢様」

セイナにルーナは額に汗をたらし答えた。

「…あなた――また、胸が大きくなったわね………!」

「はいっ!?」

セイナは思わず甲高い声をあげた。

「姫!いきなり、何をおっしゃるんですか!?」

たまらずセイナは聞き返す。

「何って、あなたの胸の話よ?」

「ですから、なぜ胸の話をするのですか!」

その言葉にルーナは少し自嘲気味な笑みを浮かべる。

「いえ、ね。少し…羨ましいだけよ」

そう言ってルーナは自分の胸元。

そのつつましやかな胸に手を当てた。

「ふ、ふふ……良いわね、セイナ…。私と違って……大きくて…」

何てこと呟いている。

気のせいか、いつもは綺麗きれいに輝く瞳も、今は光を失っている。

「そ、…そんなことないですよ、姫!」

「そ、…そうです、姫!」

見かねたセイナとアトラスが声をあげる。

「わ、私みたいに胸が大きくても良いことなんてありませんよ!」

「そ、そうです。セイナの胸なんてデカくて下品なだけです!」

「そうですよ姫!――って、あぁん!?」

いきなり、セイナがぶちギレる。

「アトラス!あんた、今なんだって!!」

「あ?なんだよ、急に!」

「なんだよ、じゃないわよ!誰の胸が下品ですって!?」

「はぁ?事実を言っただけだろ!?」

「はぁ!?なんですって!!」

「なんだ?文句あんのか!?」


「やめなさい!」


セイナとアトラスの言い合いをルーナの一言が切り裂いた。

『も、申し訳ありません。姫!』

と、二人揃ってルーナにこうべれる。

「…私を励まそうしているのは分かるけど、私の従者ともあろう者が大声で怒鳴り合うなんてみっともないと思わないの?」

『……も、申し訳ありません…!』

たしなめるようなルーナの言葉に二人は、ただ謝ることしか出来ない。

「以前から言っているでしょう?その仲の悪さをなおしてって、何度言わせれば気が済むの?」

『………』

「でも、――私のためにありがとう」

『……え!?』

表情を一変させ、ほがらかに話す。

「私のための行動だもの、素直に嬉しいわ」

驚くほど、美しい、笑顔。

「それとさっきはああ言ったけど、いざというときは頼りにしているからね。アトラス。セイナ。どうか、私を守ってちょうだい」

それは見る者が忠誠を誓う、女王の微笑みだった。

「――はい、姫。わが力の全てを懸けて必ずやお守りいたします」

「――私も、わが剣に誓ってお守りすることを誓います」

アトラス、そしてセイナが改めてルーナにこころざしを現す。

それにルーナは、

「ありがとう、二人とも。――でも、その呼び方はやめなさい」

『――――ハッ!?…申し訳ありません!』

「ふふ、分かったならいいわ。さ、行きましょ」

促して講堂から出るために席を立ち、出口へ向かう。

しかし――。

「よっ、ルーナ」

「おはようございます、ライト様」

そこに、レイドと一人の女子生徒が立っていた。

「あら、二人ともごきげんよう♪」

ルーナは明るく挨拶を返す。

すると、レイドにアトラスが反応した。

「――おい、貴様」

「ん?なんだ、アトラス?」

レイドがアトラスに何気なく応対した。

すると、アトラスが明らかに不機嫌になる。

ず、俺の名を気安く呼ぶな。そして……お嬢様に対してその話し方はなんだ?」

「お、そりゃ悪かった、すまねぇ――」

「――お待ちください、わか

アトラスに謝ろうとしたレイドを止めたのはレイドと供にいた女生徒。

名はエレオノーラ・ウェイルドハイト。

ルーナのよく知る、レイドの“従者”だ。

亜麻色の髪と瞳。

髪は肩口にかかる程度の長さで、切り揃えられいる。

かけている眼鏡は元々理知的な顔を更に知的に見せる。

もっとも今は、理知的な顔を怒りに染めていた。

「若が謝罪なさる必要などありません」

「お、おい、エレン。やめとけよ。あと人前で“若”って呼ぶのやめてくれよ」

「しかし、若は若ですから。――それより」

そう言ってエレンこと、エレオノーラはアトラスを睨む。

それにアトラスも応じる。

「――文句でもあるのか?」

「えぇ、大いにあります、ず、若のことを“貴様”と呼ぶのをやめていただきましょう」

「……嫌だと言ったら?」

「無論、嫌とは言わせなくして差し上げます」

アトラスとエレンの間に火花が散る。

互いの主の名誉めいよに懸けて目の前にいる従者どうぎょうしゃだけは許せないのだ。

だが――。

「こら、アトラス、やめなさい。彼は元とはいえ一国の王子よ。もっと敬意を払いなさい」

「…はい、失礼しました、お嬢様」

ルーナがアトラスに言った一言で矛が納められた。

「ごめんなさいね、レイドそれにエレオノーラさん」

「いや、良いんだよ。こっちこそ悪かったなルーナ、アウグスト」

ルーナとレイド。

二人の主が謝罪をし合う。

それを見た従者二人は、

「……すまなかった、お前の主への非礼を詫びよう」

「…こちらこそ、感情的になりました、申し訳ありません」

形だけのようだが確かな謝罪をする。

それを見届けたルーナはレイドに問を投げ掛ける。


「ねぇ、レイド……光一郎のこと、どう思う?」


その問いにレイドは一瞬の躊躇いもなく答えた。

「良いやつだと思う」

その声には絶対的な確信が込められていた。

それに対してルーナは――。

「……そう…」

と。

だけ返した。


失望したから。


ルーナのいる立場せかいは特殊だ。

神聖アルヴァレン王国。

世界の4分の1を統治している大国。

ルーナはその国のために常に何かを考え、何かと戦っている。

力があるからだ。


ルーナには力がある。


それは魔導の才能としての力。

それは人を引き付ける人徳としての力。

それは持っている権限としての力。


そして、それらの力には責任が伴う。

その責任を果すために、

ルーナは考え、戦い、生きている。

それはアトラスもセイナも同じことだ。


レイドも同じ。

――そう思っていた。

だが、


違った。


今日編入してきたばかりの天道・光一郎。

彼は天道家の長男だ。

故に彼がこの学園に来ている理由は当然。

ヘイルスウィーズ王国の元王子レイドだ。

そして、そのことはレイドにも簡単に解ることだ。

にも関わらず、レイドは光一郎のことを

本気で『良いやつ』だと言った。

つまりそれは――。


光一郎について何も考えていない。


ということだ。

レイドは、

何も考えず。

何とも戦っていない。


だから、失望したのだ。

レイドは持っているはずの力も。

果すべきはずの責任も。

全ててて生きているのだ

……そんな人に用はないわ…

なんていう胸のうちはおくびにも出さず。

「じゃあ、レイド、エレオノーラさんまたね。行くわよアトラス、セイナ」

と言う。

そして、講堂を後にする。


「あ、あの。ひ――お嬢様」

教室へ向かう廊下の途中。

セイナがルーナに声をかけた。

「なにかしら?セイナ」

「は、はい。その、さっきおっしゃっていた、光一郎とは『天道・光一郎』のことでしょうか?」

そう聞かれ、そういえばアトラスとセイナには光一郎のことを話していないのを思い出す。

「えぇ、そうよ、あの天道・光一郎よ。なかなか癖のありそうな人間だから二人とも気をつけてなさい」

「わかりました」

「は、はい、かしこまりました」

そう、告げてルーナは従者を二人を連れだって歩きだす。

しかし、この時ルーナは気付いていなかった。

従者二人の内の一人、青い髪の少女が――。


頬を紅く染めていることを。

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