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魔王王子と星銃銃士の王国復興《リ・ジェネシス》  作者: 斉藤・賢生
王子と銃士の出会い
3/23

学園編入

 正門をくぐると巨大な煉瓦れんが造りの校舎があった。

 『南座みなみざ学園――。』

 「公国こうこく神威かむい」の首都「宮代みやしろ」の都心部に位置するこの学園は世界でも有数の魔導学園だ。


 そして今日この学園に編入する少年――。

 天道てんどう光一郎こういちろうは、

 憂鬱な気分で校舎を見上げていた。

 光一郎は純白の髪と青い瞳に端正な顔立ちの少年で、白い生地に紫色の装飾の施された南座学園の制服を着て、両手には自前の手袋を着けている。

 「………はぁ…」

 と、ため息をつき光一郎は校舎の入り口へと重い足取りで歩き始める。

 これから、この学園で始まることになる学園生活が、

 光一郎には気の重いものだった。

 そして、もう一つ。

 “任務”のことを思いだして、

 光一郎はさらに気が重くなった。

 「……まぁ仕方ないか…」

 自分に言い聞かせるようにひとりごちた光一郎は、

 入り口の中へ入って行く。

 校舎の入り口は校舎の壁をくりぬいたトンネルのような作りで、中に入ると両側の壁にそれぞれ掲示板があり、そこにポスターやお知らせの紙なんかが貼ってあった。

 そして、トンネルを通り抜けたその時。

 光一郎は思わず息を呑み、目を見開いた。



 「楽園」があった。



 その“庭園”は全体的に円形の庭園だった。

 中央に大きな噴水ふんすいを配し、そらを深緑のツタで覆った形のルーフが囲い、さらにその周りを色鮮やかな花々を植えた花壇かだんが円を描いて置かれた見事な庭園だった。

 ――だが。

 その庭園を「楽園」に変えていたのは中央に位置する噴水――。


 その端に座った一人の少女だった。

 少女の淡い金の長髪は風を受けちゅうで遊んでいた。

 緑の瞳は日の光を帯びて光り輝いていた。

 純白の絹のようなその肌は噴水の水の中にもその色を映していた。

 そして――楽しそうに、しかしどこか悲しそうに微笑む姿は――。

 様々な花の中で一際、


 美しく咲きほこっていた。


 「きれいだ……」

 呆然と光一郎は呟いていた。

 光一郎がこれまで視た中で――。

 否。

 これから視るであろう女の中でも、

 この少女が一番美しいと、

 そう思わせるほどに、

 その少女は美しかった。



 「あなた……どなた…?」

 「…え…?」

 絶世の少女が発した言葉に、

 光一郎の意識が「楽園」から現実に引き戻された。

 「あ、あぁ、“俺”は――」

 瞬間――。

 その言葉を発したその瞬間。

 現実に戻ったはずの意識がさらにリアルに“現状”に降り立った。

 ……なにを気を抜いているんだ…!!

 そう心の中で自分を怒鳴りつけ光一郎は深呼吸をする。

 そして―。

 スイッチを入れる。


 「やぁ、こんにちは。“僕”の名前は天道・光一郎。今日この学園に編入してきたんだ」


 ――と。

 驚くほど明瞭に。

 爽やかな笑顔で、自己紹介をした。

 「あら……そうなの」

 絶世の少女は腰掛けていた噴水から立ち上がり多少困惑しながらもそう答えた。

 ……なんとか、乗り切った…

 そう安堵した光一郎に絶世の少女が身に着けた南座学園の女子用制服の身だしなみを整えて話し掛ける。

 「あ、名乗り遅れてごめんなさい、私はルーナよ、ルーナ・エル・ライト。『聖王国』からの留学生なの、よろしくね」

 と、優雅な笑みを見せて絶世の少女――改めルーナは自己紹介した。

 神聖アルヴァレン王国――。

 またの名を「聖王国せいおうこく」というその国は、世界の4分の1を統治する大国であり公国・神威の同盟国だ。

 ……ルーナ…エル・ライト?…

 その名前に引っ掛かり光一郎は眉をひそめた。

 「ねぇ……どうかしたのかしら?」

 「え?あ、いや別に何でもないよ」

 どうやら、心配されるほどに考え込んでいたようだ。

 ルーナの気遣いの言葉に気を取り直して笑顔で答える。

 「そういえば、あなた。今はまだ7時よ?まだ授業が始まる時間じゃ無いわよ?」

 ルーナが不思議そうに聞いてくる。

 「うん、実はまだ最後の編入手続きが残ってて。今から学園長室に行かなくちゃいけないんだ」

 「そう、それは大変ね……場所は分かるの?」

 「うん、大丈――」

 大丈夫と言いかけて光一郎は考える。

 学園長室の場所は分かるのだが学園のことを聞くためにもう少し世話になっておこうと思ったのだ。

 「…あー、いや、よく分からなくて……よければ案内してもらえないかな?」

 「えぇ、かまわないわ」

 再び優雅な笑顔でルーナは承諾してくれた。

 「こっちよ、ついてきて」

 「うん、ありがとう」

 ルーナが廊下を歩くそのすぐ後ろを光一郎も歩いてついていく。

 「…そういえばルーナさんはこんな時間に何してたの?授業はまだなんでしょう?」

 なんとなく気になり光一郎はそんな問いを口にする、するとルーナは少し目を泳がせた。

 「…え、えーと、あの庭園あったでしょう?この時間が一番静かなのよ、あそこ」

 「へぇ、そうなんだ」

 間違いなくそれだけではないだろうと光一郎は確信した。

 「そ、それより、光一郎?あなた年齢はいくつなの?」

 明らかに話をらされたが今は特に追及する気もないので光一郎はルーナの質問に答える。

 「年齢?17歳だけど?」

 それを聞いたルーナはさっきの誤魔化すような態度とは真逆の楽しそうな笑顔になった。

 「あら!じゃあ学年は三年生なのね!」

 「う、うん、そうだよ」

 「うふふ、私も三年生なの。ひょっとしたら同じクラスになるかもしれないわ!そうだ!クラスはなん組になるか分からないの?」

 「え、えっと、まだ分かんないんだ…」

 「あら、そうなの?残念だわ」

 と、大して残念に思っていなさそうにルーナが言ってくる。

 正直、光一郎には何がそこまで楽しいのか分からなかった。

 むしろ光一郎はこういう意味のないテンションの高さは嫌いだった。


 だが――、何故だろう?

 この美しい金髪の少女の笑顔を見ていると光一郎は――。

 とても穏やかな気持ちになった。


 「あ、着いたわ。ここが学園長室よ」

 と、そこでルーナが止まり右手側にある部屋を指していた。

 するとちょうどその時、学園長室の扉が開き中から人が出てきた。

 「あ、学園長先生。おはようございます」

 ルーナが挨拶をしたその人は、人の良さそうな人相に中太りの体型、そして、つるつるの頭皮をたずさえた南座学園の学園長、桐堂とうどう義博よしひろだった。

 「学園長先生、おはようございます」

 ルーナにならって光一郎も挨拶をする。

 「あ…、二人ともおはようございます。天道くん、今迎えにいこうとしてました。では早速ですが編入手続きを済ませてしましょう、中へどうぞ」

 そう促して桐堂学園長は学園長室の中へ戻って行く。

 光一郎はルーナに向き直ると、

 「ここまでありがとう、じゃあまた今度ね」

 「ええ、また今度会いましょう、もしかしたら教室でね!」

 互いに笑顔と言葉を交わし、光一郎は学園長室に入って行く。


 部屋の中に入り扉を閉める。

 部屋の中はトロフィーや表彰状などで飾り付けられたいかにも学園長室という風情だった。

 光一郎は室内のカーテンを全て閉め、外から全く見えなくすると。

 自分の中の「あるスイッチ」に意識を集中する。

 そして――。

 そのスイッチを切り替える。


 「……じゃ……桐堂学園長。さっさと仕事の話を始めるぞ」

 今までの爽やかな好青年の雰囲気と口調を捨て、乱暴に言い放つ。

 「…は、はい。天道――」

 おどおどしながら返事をしていた桐堂学園長がそこで口をつぐんだ。

 「おい、どうした?」

 光一郎が不審に思って聞く。

 すると、

 「は、はい。あの……何とお呼びすれば…?」

 「あぁ?好きに呼べよ。後、敬語も要らねぇぞ」

 声の温度は低く、

 しかし、口調は粗雑そざつで、

 苛烈かれつに、光一郎は告げる。

 「わ、分かり――。分かった、天道くん。では、そこに掛けてくれ」

 戸惑いつつも了承した桐堂学園長に促され光一郎は、部屋の真ん中に設けられた、テーブルを挟んで向かい合った二つのソファーの一つにドカッと座った。

 「ふううぅぅぅ」

 と、光一郎は思わず長いため息をついてしまった。

 「た、体調でも悪いのかい…?」

 桐堂学園長が心配したのか聞いてくるが今の光一郎にはそれすらもわずらわしかった。

 ……これはしんどいな……

 そう、光一郎はルーナといたその時間ずっと、

 “演技”を続けていた。

 それもただの演技ではない一秒一瞬、

 わずかな刹那でさえ気を抜かない、

 徹底した演技だ。

 当然それ相応の消耗を強いられる。

 だが、光一郎には、

 それをしなければならない理由わけがあった。

 しかし、こんな疲労がこの場所――、

 学園ではまだ序の口であることも、

 光一郎は理解していた。

 …本当になんでこんな所に来ちまったんだ……

 光一郎はその理由を思い出していた。


 全ては三日前にさかのぼる。

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