魔導真眼
「セァァッ!」
青い髪を揺らし、
セイナは青い細剣を振り抜く。
振り抜く先にあるのは、槍だ。
土属性魔法によって造られた、
敵の攻撃。
本来、刺突を目的とした武器である細剣、
その武器による斬撃はけして威力は高くない。
しかし、セイナの一撃は的確に槍を打ち据え。
乾燥した音を発して砕け散る。
光一郎がロドリゲスを連れて校舎の中に入り、
五分程経過した。
正直、
戦況は芳しくない。
相手の人数は約五十人。
数の面では圧倒的に不利。
しかし、敵は一人として魔導兵器を持っていない。
統率や連携も甘い。
つまりは烏合の衆だ。
アトラスとセイナが連携すれば、
時間をかけても確実に殲滅できる。
その程度の敵。
しかし。
「喰らえ!」
五メートル程遠くの敵が魔法を放つ。
展開された赤い魔方陣から炎の玉が飛び出す。
速度はそれなり、
セイナには簡単に避けられる。
だが、
セイナは避けない。
否。
避けられない。
何故なら、セイナの背後には。
他の生徒がいるから。
今セイナが回避行動をとれば、
彼らに炎球が当たってしまう。
……それだけは許されない…!
セイナは青い細剣を――。
魔導兵器『青水の聖剣』を構える。
「出でよ!『水の葉刃』!」
発する言葉は『青水の聖剣』に刻まれている魔法の名だ。
セイナの魔力が『青水の聖剣』に注がれ、
細剣の刀身が淡く輝く。
そして、その細剣を一振りする。
刀身が空を切るように一閃し、
その刀身から新たに水の刃が現れ、宙に浮く。
もっとも、それは刃というより円盤に近い形をしていた。
しかし、高水圧によって鋼鉄すら切り裂くその円盤はやはり刃と称して問題ないだろう。
「行け!」
セイナが命に水の刃が前方に飛び出す。
水の刃は向かい来る炎の玉を文字どおり、切り裂く。
だが、炎の熱に耐えきれず自身も蒸発してしまう。
「――チッ!」
もとより、攻撃を防ぐことを目的とした魔法。
しかし、あわよくば。
そのまま、一人二人切り伏せてしまいたかった。
それほどまでにセイナは内心で焦っていた。
「おい、セイナ! 落ち着け! 攻撃が単調になってるぞ!」
自分の左から声をかけられる。
声の主はもちろん、
赤い長剣、魔導兵器『赤炎の聖剣』を持ったアトラスだ。
彼も他の生徒を背に、敵と対峙している。
「うっさい! そんなの分かってるわよ!」
吐き捨てるように言い返す。
アトラスとは長い付き合いだ。
様々な場面で共闘してきた。
相棒。
そう言って差し支えない。
彼と自分が完璧に連携して戦うことが出来れば、
こんな奴等は相手にもならない。
しかし。
敵の攻撃は、様々な方向、角度で放たれる。
そして、それを回避することは許されず。
時には魔法で相殺し、時には剣で叩き伏せる。
無論、一人で五十近い攻撃の全てに対応など、
出来るはずもない。
というか、同時に対応できる攻撃など多くても五つが限界。
それ故、アトラスもセイナも、そして千代も防戦一方、
満足な連携など不可能だ。
その事実もセイナを焦らせていた。
「セイナ! 一旦退がりなさい! やはり、私も前に出るわ!」
そんなセイナの心情を察してか、
他の生徒たちと同じような位置で『防護障壁』を展開しているルーナが声をかける。
今は一人でも戦力が欲しい。
しかし――。
『それはなりません!』
セイナの言葉はアトラスと重なり、その場に響いた。
「な…!? あなた達!」
拒否されたことに驚き、
ルーナが声を出すが、
「姫はその場に居てください!」
「決して…決して、俺達の後ろから動かないで下さい!」
セイナとアトラスは、敵の攻撃に対応しながら言葉は放つ。
「だけど! このままでは――」
『それでもなりません!』
またしても、セイナとアトラスの声が重なる。
前方から放たれたる土塊の槍や弾を、『青水の聖剣』で弾きながらセイナは言う。
「姫! 姫は絶対に生きて下さい!」
続く、槍状の炎も『水の葉刃』で切り裂く。
「姫をお守りし、姫がなさるべき事をしていただく! それが私の騎士としての役割であり、誇りです!」
炎の槍を切り裂いた後、
氷の礫の群れに晒された。
反射的に『青水の聖剣』を振り、
幾つか防ぐ。
しかし、小さな礫が左太ももに刺さる。
――だが。
「故に! 姫はどうかそこに居てください!」
まるで太ももの痛みなど、傷など無いかのように。
セイナは―聖王国第三王女に仕える騎士は、
野蛮な攻撃を切り伏せる。
美しき主に届かせぬために。
「セイナの言う通りです!」
不意にアトラスも、声を挙げる。
「姫を守ることが俺達の総てです!」
迫り来る巨大な土の弾丸。
それを力任せに叩き斬る。
「姫を守るためならば! この命を捨てることさえ厭いません!」
言いながら、飛来する土槍の雨を、『赤炎の聖剣』より放った炎で焼き尽くす。
「万が一にでも、姫が攻撃に晒される時は…この場の全員を見捨ててでも逃げに徹します!」
炎を越えてきた槍が肩口を切り裂く。
しかし、
「故に、どうか! どうか、俺達を信じて…そこを動かないで下さい!」
肩が切り裂かれた事など、吹き出る血など無いかのように。
アトラスもまた王女に仕える騎士として、
下賤な攻撃を焼く尽くす。
麗しき主に触れさせぬために。
「でも……このままじゃ! あなた達が!」
叫ぶようなルーナの声。
まるで―泣いている。
当然だ。
騎士が主を想うように。
主もまた騎士の無事を祈っている。
しかし、セイナとアトラスはその声を背中のみで感じ、
敵に向き直る。
「……羨ましいですね」
そんなことを言ったのは、千代だった。
セイナの右側に立ち、セイナ達と同様に敵の攻撃を防いでいた。
「私の主も…そんな風に、仕えがいのある主であれば良かったのですが…」
ちょっと寂しげに言う。
それにセイナは、
「それは…光一郎のこと?」
と、聞くが。
「いえ、別のお方です…ですが…そうですね、いずれ光一郎殿にお仕えするのも……悪くないかもしれません」
言い終えると千代は『雷刃丸』を構え直す。
「そのためにも―ここは生き残らねば」
真剣な眼差しで敵を見据える。
数人の敵が土の弾丸を放つ。
「幸いにも―ここは公国・神威の首都だ。すでに異変に気付いた魔法協会のもの達が動いている筈です。彼らが到着するまで耐えれば―」
敵の攻撃を『雷刃』を発動させた『雷刃丸』で粉砕しながら、千代は言う。
「本当に!? それは本当のこと!?」
セイナは思わず、声を跳ね挙げた。
「それなら―」
まだ、戦える。
終わりがあるなら、戦える。
しかし。
「それは……何時になる?」
アトラスが炎の玉を炎の壁で相殺しながら続ける。
「一分後か? 十分後か? それとも…一時間後か?」
そんなアトラスの問いかけに、千代は、
「……分かりません」
短い、しかし、とてつもなく重い声で答える。
「そんな……」
いつ来るか分からない助けを待つ。
その事実にセイナの心が、
一瞬挫けた。
故に―。
「――ッ!? セイナ! 前だ!」
「――え?」
飛んでくる巨大な氷の塊に気付かなかった。
……しまっ―――……
氷塊が体を打ち付ける。
衝撃が体の芯を突き抜け、
骨の折れる音が聞こえた。
『身体強化』により、普段より格段に頑丈な体。
しかし、それでもあまりに凶悪な攻撃だった。
数回地面を転がり、なんとか止まる。
「セイナッ!」
後ろから声が聞こえる。
セイナの身を案じる声。
間違いなく、ルーナだ。
……立たなければ…!
主の前で、
無様な姿は見せられない。
痛みに震える体を起こし、
前を向く。
―――だが。
「――――あ――――」
前から、土の槍が迫っていた。
正確な数は分からない。
しかし、優に二十本はくだるまい。
細剣で弾こうとするが、
手に力が入らない。
魔法の発動も間に合わない。
……姫―すみません…
主に謝り。
こんなところで終わる自身の不甲斐なさを謝罪し。
静かに目を閉じた。
しかし――。
「――『広範囲障壁』」
声が聞こえ、セイナは目を開ける。
目の前には背中があった。
その背は南座学園の男子生徒の制服だ。
男子生徒は黒い髪を風に揺らしながら立っていた。
彼は右手を前に掲げ、魔法陣を展開する。
その魔法陣は灰色の円形、『防護障壁』によく似た魔法陣だ。
唯一、違うのは。
「……巨大きい……」
そのサイズ。
優に直径十メートルあろう、その『防護障壁』は、敵とセイナ達の間に巨大な壁となって存在していた。
そして。
カン、カン。
と、無機質な音を経てて土の槍は壁に弾かれる。
「――!? な! なんだ!? あれは!」
「わ、わかんねぇよ!」
「馬鹿! いいから、撃て! 撃て! 撃て!」
土の槍が弾かれたのを見て、焦ったように敵が攻撃を再開する。
しかし――。
「――無駄だ」
背中だけ向けた男子生徒は呟く。
そして、それは事実だった。
敵が一斉に攻撃を放つ。
炎の玉。
電の矢。
土の弾。
氷の剣。
様々な属性が、
様々な形状を模して飛んでくる。
しかし、その全てが魔法陣にぶつかり消滅するか墜落する。
それはまるで、
鋼の城壁に、
無謀にも針を突き立てる蜂の群れだ。
「レーシア様、大丈夫ですか?」
隣から亜麻色の髪の少女が声をかけて来る。
その少女の名は、エレン。
魔王国の王子に仕える従者の少女だ。
そして。
彼女がいるということは―。
「大丈夫か? レーシアさん」
そう言って顔だけをこちらに向けて、
数多の敵の攻撃を防ぎながら。
背中姿の男子生徒――レイドが平然と声をかけて来た。
「若、どうやらお怪我をなさっているようです」
「エレン、治療はお前に任せる」
「はい」
短いやり取りの後、エレンがこちらに向き直る。
「直ぐに《治癒》を施すのでお待ちを」
「え? あ、ありがとう……」
驚きながら返事を返す。
しかし、それも無理からぬ事だ。
――何故って。
「彼…あんなに強いのね」
ほとんど独り言の呟き。
しかし。
「……えぇ、若は普段は力を隠しておいでですから……」
どこか、寂しげにエレンは返事を返すした。
「隠す? なんで――」
疑問に思い、問い発しようとした、が―。
「静かに! ――痛みますよ」
エレンが黄緑の丸い魔法陣を展開し、
それをセイナの脇腹に掲げると、
「―――ッ! くあぁぁっ!?」
折れた骨の回復に伴う急激な痛みがセイナを襲う。
「応急的なものです! 直ぐに終わるから…我慢なさい!」
エレンの叱咤を受け、
セイナも歯を食い縛り、前を向く。
アトラスも千代も、
驚いたように、
いや、実際に驚いて。
レイドを見ている。
そこにあるレイドの背は、
情けない王子のそれではなく。
責任と命を背負う、魔王のそれだった。
××× ××× ×××
「お、おい……」
声をかけられたので、
レイドはその方向を見る。
声をかけてきたのはアトラスだ。
「よぉ、アトラス…無事そうだな」
いつもならここで「気安く名前で呼ぶな」と言われてしまう。
しかし。
「こ、これは…どういうことだ…?」
そんな余裕も無いのか説明を求めてくる。
なので、レイドは。
「ん? あぁ…これは『広範囲障壁』っていう広範囲防護魔法だ…通常の『防護障壁』にも使われている《防循》に《広域》と《強化》を追加することで防御範囲と強度を――」
「俺が聞いているのはそういうことじゃない!」
レイドの説明を遮り、
アトラスが怒鳴る。
「俺が聞きたいのは…なんでお前がそんな高等魔法を使えるのかってことだ!」
「…………」
「今のお前の説明が本当なら、『広範囲障壁』の等級は最低でも三等級魔法だろ! なら、お前は……本当は模擬戦だって楽に勝てたんじゃ無いのか!?」
「……………」
レイドは答えない。
ただ、黙ってアトラスを―申し訳無さそうに見ている。
「―――ッ! 答えろ!」
アトラスが堪らずレイドに剣を向ける。
「ア、アトラス殿!?」
千代がレイドの後ろから声を挙げる。
しかし、アトラスは止まらない。
「答えろ! レイド・スラッシュ・ヘイルスウィーズ!」
瞳が怒りに燃える。
「何故、実力を隠していた!? 何を企んでいる!?」
「……何も企んじゃいない」
レイドはなおも申し訳無さそうに答える。
「……ッ! なら!」
アトラスの声が震える。
「お前は! ずっと! ずっと、ずっと! ……俺のことを馬鹿にしていたのか……?」
声が震える。
怒りに。
そして、屈辱に。
「手加減して……わざと負けて…ずっと…ずっと…俺のことを馬鹿にしていたのか…!?」
剣を向けた、腕が震える。
レイドへの怒りに。
自分への怒りに。
「なんとか……なんとか言え!」
アトラスが剣を振りかぶる。
――しかし。
「――アトラスッ!」
ハッと。
主に名を呼ばれ我に返る。
「――ひ、姫……」
「アトラス…落ち着きなさい」
理性を失い。
感情に流された騎士に。
主は優しく微笑みかける。
そしてレイドに向き直る。
「レイド……申し訳ないわね」
……あ…
自分が守るべき人が、
自分のせいで謝罪している。
アトラスは心底自分が情けなくなった。
「…ルーナ…やめてくれ、お前もアトラスも謝る必要は無い」
おまけに、自分が怒りを向けた相手にそんなことを言われてしまう。
もう、死んでしまいたい。
「そう言って貰えるのはありがたいわ…でも」
しかし、そこで。
ルーナの雰囲気が少し変わる。
「私も実力を隠していたことは…納得出来ていないわ」
ルーナは怒ってなどいない。
ただ、己の意思を告げる。
「……でも、その話は後にしましょう」
そう言ってルーナはレイドの展開した『広範囲障壁』越しに敵を見る。
その障壁には今もなお魔法が打ち込まれ続けている。
「あぁ、そうだな」
レイドもルーナに倣って敵を見る。
敵はどうやら交代制で攻撃は仕掛けているようだ。
ある者が魔法の準備をする間、
他の者が魔法を放つ。
そうして攻撃が成り立っているため、
一度に放たれる攻撃はおよそ二十五。
そのほか学園の外を警戒している者もいるだろうから、
実際に戦闘可能なのは四十人ほどだろう。
尤も。
仮に五十対一でも、レイドには全く問題無いが―。
「レイド? あなたの力でこの状況を打開出来る?」
ルーナが発した質問は当にレイドが考えていたものだ。
「あぁ、なんとかなる……」
「本当に?」
ルーナが至って冷静に尋ねる。
「あぁ……五分あればな」
レイドはまるで条件を示すように、言う。
「五分?」
ルーナが分からないといった風に聞いてくる。
「つまり――俺があの数の敵を攻略するのにかかる時間だ」
レイドはさも平然と答える。
「それは……本気?」
ルーナが半信半疑で尋ねるが。
それに、レイドは答えず。
「問題は別にある」
話を変える。
否、レイドにとってはこちらが本題だ。
「問題?」
ルーナもこちらのペースに合わせてくれる。
「あぁ、五分の間―つまり俺が敵を叩く間、皆を誰が守るかだ」
そう。
レイドにとって問題なのは敵の数では無く。
それを殲滅する間の、生徒の防衛。
無論、レイドが敵に特攻を仕掛ければ敵もその対応に追われるだろうが。
もし、他の生徒が人質に取られでもしたらこちらは手が出せない。
「なら、私が――」
「私がやりましょう」
ルーナが言うのを遮り、千代が声を出した。
「……大丈夫か?」
千代の身を案じての言葉では無く。
本当に出来るのか?
そういう類の質問だ。
しかし。
「ご安心下さい」
千代は自信を持って答えた。
「五分だろうと十分だろうと、凌ぎきってみせます。…なんでしたら私が敵を叩いても良いのですよ?」
「いや、その必要は無いさ」
千代の確信に満ちた顔を見て、
レイドも確信する。
彼女なら問題ない、と。
勘などではない。
優れた魔導士には特有の雰囲気がある。
その者特有の自身に満ちた表情がある。
そして、なにより。
「視たら、分かったよ」
「……?……」
千代が小首傾げる。
……まぁ、無理も無いか…
“それ”はレイドにしか視えないのだから。
真の天才である、レイドにしか視えないのだから。
「レイド……“視える”って、あなた…まさか…!?」
ルーナが気付いたようだ。
おそらく、レイドの“眼”の正体に――。
「それじゃあ……頼むぞ、藤名瀬さん」
レイドは千代に声をかける。
すると。
「どうぞ、千代、とお呼び下さい。正直、家名はあまり気に入っておりませんので……レイド殿」
と、千代がレイドに返す。
これから戦闘を行うとは思えない、
朗らかな顔で。
「あぁ、分かった…頼むぞ、千代!」
レイドは千代に防御の全てを任せ、
前を見る。
そして、“視る”。
敵が展開する魔法陣。
そこに流れる、“それ”を。
五十近い敵の魔法陣に淀みなく流れる“それ”を、
レイドは完璧に見切る。
そして――。
……――――今だ!…
一瞬だけ。
ほんの一瞬、敵の魔法陣に流れる“それ”が途切れた。
全ての敵が交代で魔法を打ち出している。
その交代の一瞬、タイムラグが生じる。
それをレイドは見逃さない。
バシュッ。
と、音を発て、『広範囲障壁』を消す。
そして、駆け出す。
同時に二つの魔法陣を展開する。
右手には灰の四角。
『身体強化』。
左手には灰の円形。
『防護障壁』。
二種類の魔法の同時使用。
本来なら難しい芸当。
しかし。
天才には関係無い。
魔王には関係無い。
右足を強く踏みしめる。
ゴリッ。
と、石造りの地面が抉れる音がする。
しかし、気にせず。
そのまま、右足のみで跳躍する。
上にでは無く、前に。
「――! う、撃てぇ!?」
慌てたように一人の敵が魔法を放つ。
それに合わせるように周りの敵も魔法撃つ。
しかし、狙いも着けず放った魔法がレイドに当たる筈も無い。
跳躍の途中に幾つかの攻撃とすれ違う。
それにレイドは何もしない。
必ず千代が防いでくれる。
ならば、
自分は自分の為すべきことを為す。
レイドが地面に着地すると、
目と鼻の先に敵が立っている。
レイドより身長の高い男だ。
しかし、レイドに慌てた様子は無い。
当然だ。
丁度、敵の前に立つように調整して跳躍したのだから。
しかし、相手の方はそうでもない。
「なぁ!?……クソッ!」
余裕を無くし、
無謀にも素手で殴りかかる。
『身体強化』すら使っていない拳で。
「――馬鹿が」
レイドはその男を左手で殴り飛ばす。
否、正確にはその左手に展開した『防護障壁』ごと殴り付ける。
あらゆる魔法攻撃から盾となる鋼鉄の壁は、無論そのまま人にぶつければ、強力な凶器になる。
その凶器が『身体強化』により威力を増して。
生身の人体に打ち付けられる。
「ぐぁ、ぐおああぁぁぁッ!」
『防護障壁』を顔面にぶつけられた男は激痛のあまり声を漏らす。
おそらく、頬の骨は粉々だろう。
だが、レイドはにはそんなことはどうでも良い。
「こ、こいつッ……!」
遅れて他の有象無象が対応を開始する。
ある者は攻撃魔法を準備し、
ある者は『身体強化』や『防護障壁』を展開している。
対処方法自体は問題無い。
しかし、
……遅すぎる…
レイドは動く。
一先ず、四人の敵を視界に捉える。
レイドから比較的近い二人が『身体強化』を使い。
その後ろで二人がそれぞれ火炎と電撃の魔法を準備している。
レイドは一足で敵に接近する。
『身体強化』の二人を無視し、後ろの二人の前に降り立つ。
「――な!?」
「クッ! このぉ!」
二人は驚きながらもなんとか魔法を放つ。
タイミングは完璧。
回避は不可能。
しかし、レイドに回避の必要は無い。
レイドは一瞬で右手にも『防護障壁』を展開する。
両手の『防護障壁』を火炎と電撃に押し当て消滅させる。
そのまま前に突進し、二人に『防護障壁』の強打を見舞う。
それぞれ、どこかしらの骨が折れたであろう音を発て倒れる。
『死ねぇ!』
後ろから声がする。
さっき無視した二人が『身体強化』を完成させ、こちらを殴りにかかっていた。
その内一人は得意気に笑い―、
「『防護障壁』を二つ展開したということは、『身体強化』は使えないハズだ!」
そんなことを言っている。
なるほど、とレイドは思う。
確かに、二つの魔法の同時使用だけでも高等技術。
その状態で更に『防護障壁』を展開すれば『身体強化』を維持出来ない。
確かにその通りだ。
――レイド以外であれば。
「……よっと」
レイドは『身体強化』で《強化》された動体視力と反射神経を使い、その二人の拳を軽々と避ける。
そして、両手の『防護障壁』を二人に叩きつけカウンターとする。
二人は―否、先の二人と合わせた計四人の敵は。
僅か五秒足らずで戦闘不能に陥った。
しかし、レイドは止まらない。
直ぐに、別の敵を複数人、視界に捉える。
敵の魔法陣を“視る”。
……何人かは『身体強化』、それ以外は全て攻撃系の魔法、だな…
レイドは確認すると『身体強化』を使う敵、数人へと走る。
『身体強化』を使う敵数人もレイドへと向かってくる。
数で勝っている以上、敵を囲み数人で一気に叩く。
選択としては間違っていない。
寧ろ、王道と言える。
しかし。
レイドの単位は一人ではなく。
一軍だ。
レイドは立ち止まり、『防護障壁』を消す。
そして新に魔法陣を展開する。
しかし、それは『防護障壁』でも無ければ『身体強化』でも無い。
赤い大きな円形の魔法陣。
その魔法陣を静かに向ける、走って来る敵の集団に。
「『大爆発』」
赤い魔法陣の中心から、炎が塊となって現れる。
そして文字どおり。
爆発した。
××× ××× ×××
空気が振動し。
地面が震動した。
放たれた炎の光に目を細め。
発された爆発の轟音に耳を被いながら。
ルーナはレイドの魔法を見ていた。
「…あれは……『大爆発』ね…」
嘆息と共に魔法の名を口にする。
「……ご存じなのですか?」
そう聞いてきたのは千代だ。
彼女も敵からの攻撃を防ぐために、レイドの戦闘に注目していた。
尤も、敵はレイドの対応に追われこちらにはまるで見向きもしないが。
そして、レイドが先刻放った魔法。
「…あれは、魔王国で開発された火属性の三等級魔法よ、《火炎》に《収束》と《解放》を組み合わせることで大規模な爆発を引き起こすの……」
そこでルーナは険しい表情になり、「でも…」と前置きをする。
「あの魔法は、威力は高いけれど魔力の消費が激しいの…それこそ、一度使っただけで魔力を全て使いきってしまう程に……」
「し、しかし…レイド殿はまだ余裕そうですが」
千代の言う通りだ。
爆発の炎の呑まれ。
敵の十数人は地に倒れ伏している。
しかし、レイド自身は平然と立っている。
だが、それこそがレイドの強さの理由だと。
ルーナは考える。
「だから、レイドは強いのでしょう? おそらく、彼は魔力の総量が桁違いなんだわ」
「な、なるほど…」
ルーナの物言いに千代は納得する。
しかし。
「でも――、それだけじゃないわ」
ルーナは更に真剣な面持ちで語る。
「…ど、どういうことでしょうか?」
千代の質問にルーナは答える。
「彼の戦闘を観ていれば分かることだわ…まず、彼の魔法の発動速度、はっきり言って異常だわ…『大爆発』でさえ二秒程度…『身体強化』や『防護障壁』に関してはもう一瞬だわ」
魔法の発動速度が高ければ当然、戦力として優秀だ。
相手が魔法を発動する前に。
自分の魔法を発動出来れば。
それだけで勝負は決まる。
「ちなみに……千代さん。あなた同時に幾つのの魔法を行使できるのかしら?」
「私ですか? 私は二つです」
ルーナの問いに千代は素直に答える。
「まぁ、それは優秀ね。私も二つ同時に行使できるわ」
「は、はぁ……」
なんだか遠回しに「私も優秀なの」と言われているような気がした。
しかし。
「……あ」
直ぐにルーナの問いの意味に気付いた。
「でも…レイド殿は――」
「えぇ、少なくとも“三つ”……いえ、それ以上同時に行使できるようね」
そこでルーナがレイドを指差す。
千代も視線を向けると。
戦闘はまだ続いていた。
レイドが戦闘を開始してから既に、二分。
しかし、敵の数は未だに三十人近くいる。
……本当に五分で?…
正直そう思わずにはいられない。
だが、次の瞬間。
千代は驚くべきものを目撃した。
「――なぁッ!?」
思わず声を出す。
しかし、それも無理からぬことだ。
レイドが十人近い数の敵に囲まれた。
そして、その敵集団は各自バラバラの攻撃魔法を準備する。
ここまでは良い。
問題は、ここから。
レイドはその敵集団の魔法陣を一瞥すると。
魔法陣を展開する。
その数――、
「じ…十……!?」
全部で十、魔法陣を展開していた。
ルーナも声に出さないだけで、目を見開いている。
そして。
敵集団が魔法を放った。
それに応じるように。
レイドも十の魔法を放つ。
放たれた魔法同士はぶつかり合い。
“完璧に相殺”される。
敵の放った炎の槍に。
レイドの水の矢が衝突する。
敵の放った雷の剣に。
レイドの土の槌が激突する。
斯くして全ての魔法が消滅する。
するとレイドは更にもう一度『大爆発』を行使する。
炎に押し出されるように大気がずれ、大地が揺れる。
爆炎が魔法を放った敵集団を呑み込み、殲滅する。
「……つ、強すぎる」
千代は半ば茫然と呟いた。
今のたった数秒のやり取りで十人近い敵が沈んだ。
しかし、レイドの表情には未だに疲労の色は見えない。
そして、レイドは五分で全滅させると言ったが。
残りの時間は約二分。
残りの敵は約二十人。
レイドには充分すぎる。
「……やはり、そういうことね」
ルーナが不意に呟く。
「どうか…されたのですか?」
千代が尋ねるとルーナは答えた。
少し――嗤いながら。
「分かったのよ、彼の強さの理由が…」
「……は?」
千代は思わず聞き返した。
強さの理由。
そんなものは既に充分に分かっている。
圧倒的な量の魔力。
超高速の魔法発動。
同時に発動させる魔法の数。
これらを置いて他に何が必要だと言うのだ。
千代はそう思った。
しかしルーナは。
「言いたいことは分かるわ…でも、さっきの魔法のぶつかり合いを思い出しなさい」
と、冷静に言う。
魔法のぶつかり合い。
おそらく、レイドが十個の魔法を同時に行使した時のことを言っているのだろう。
だが、レイドが十個の魔法を使い“完璧に相殺”したことしか――。
「………あ」
そこで千代も何かに思い至る。
「どうやら…何かに気付いたみたいね」
そんな千代の様子にルーナが言う。
「あれほど“完璧に相殺”されることはあり得ない……と、いうことでしょうか?」
「えぇ、そういうことよ」
千代の答えにルーナは短く返す。
「魔法には“属性”というものがあり、属性には“相性”というものがあるわ。『火属性魔法には水や土属性が相性が良い』と、いった具合にね。故に、相性の良い魔法を同じ威力、範囲でぶつければ……その魔法を完璧に相殺出来る…理屈の上ではそうなるわ」
ルーナはそこまで語ると、一度瞳を閉じる。
――そして。
「――でも、それは不可能よ」
瞳を開け、そう断じる。
「確かに、魔法陣は色によって属性の判別は出来る…でも、威力や範囲は別。威力や範囲は全ての魔法陣の知識を頭に入れていない限り分かる筈が無いわ……それに、仮に全ての魔法陣の知識を持っている者がいたとしても、その魔法の発動のタイミングや方向が分からなければ、やはり不可能よ」
「…ですが、ルーナ殿」
そこで千代が言葉を挟んだ。
「その話が一体何と関係しているのですか? 一体レイド殿の強さとどう関係するというのですか?」
その千代の質問に、ルーナは今までで一番妖しげな笑みを作る。
「あなた…魔導の才能とはなんだと思う?」
それは質問の答えとしては、邪道も良いところであった。
なんせ質問で返されたのだから。
しかし、千代はその問いに答えた。
「……やはり、魔力の量。魔法発動の速さ。同時に行使可能な魔法の数……などでしょうか?」
それはとても模範的な解答。
しかし、それこそが千代の本心でもあった。
「フフ…確かにそうね……それらは間違いなく魔導の才能と称するに相応しいわ…そういう意味では、レイドはもちろん、私やあなたも…あるいわ、天才と言って問題ないかもしれないわ」
――でも。
「でも……もし、そんなものとは違う…根本的に全く別種の“才能”があるとしたら……?」
ルーナは千代に対して嗤う。
「そんなものが…?」
千代はルーナに問う。
その問いにルーナは嗤いを濃くする。
「聞いたことがあるの……生まれつき“魔力の流れ”を“視る”ことの出来る“眼”があると…それは――」
「〈魔導真眼〉」
その名を口にしたのはルーナでは無い。
エレンだ。
どうやらセイナの治療を終えたようだ。
「セイナは? どんな、様子?」
ルーナは冷静に。
しかし、少し心配そうに尋ねる。
「応急処置は済ませました、今は……」
そう言うとエレンは後ろを振り向く。
そこには、横になったセイナとそれを見守るアトラスがいる。
「《治癒》の魔法を施すのは私ですが、《治癒》で消費われるのは本人の体力ですから。今はアウグスト様が様子を見てらっしゃいます」
「そう……ありがとう」
セイナだけでなくアトラスも落ち着いたようで、ルーナは安心する。
そして本題に戻す。
「で? やはり、レイドには〈魔導真眼〉が有るの?」
「……えぇ、その通りです」
「そう、なのね…やっぱり」
エレンが少し、沈痛そうに答える。
しかし、反対にルーナはどこか面白そうだ。
「あの…? その…“マテリアル”とは何なのですか?」
千代はその二人の会話に質問を挟む。
「さっき言った通りよ…〈魔導真眼〉は先天的な“体質”、魔力の流れを読み取ることの出来る“眼”よ」
ルーナは自分の瞳を示し、続ける。
「通常、私達の眼は魔法陣そのものや魔法の“結果”としての“現象”を見ることは出来る。…例えば…炎の魔法を使う時、赤い魔法陣とそこから生まれる炎は見えるでしょ?」
「は、はい」
ルーナの解説に千代は頷く。
「――でも」
ルーナはそう前置きをすると、レイドを指差す。
レイドを先刻と同じように、複数の敵に魔法陣を向けられている。
しかし、その表情に焦りは無い。
そんなレイドを見ながらルーナは話す。
「でも、彼は違う。彼の〈魔導真眼〉は違う……魔法陣を視れば、そこに注がれる“魔力”が視える。魔法の炎を視れば、そこに込められた“魔力”が視える。人間を視れば、そこに流れる“魔力”が視える。私達が表面的に見えているモノの“根源”―裏側を視ることが出来る」
「な、なるほど……」
千代は半ば圧倒されて呟いた。
既に、新たな情報にてんてこ舞いだ。
しかし、ルーナの言葉を続く。
「そして、“魔力の流れ”が視えるということは……“全てが解る”ということよ」
「? どういうことですか?」
「そのままの意味よ……魔法陣に流れる魔力を視ることが出来れば、その魔法の威力や範囲はもちろん、発動のタイミングや発射の方向まで解る……いえ、それだけでは無いわ。魔導士を視ればその人の魔力の総量は簡単に解る…つまり、その魔導士の強さが解るということよ」
「――あっ」
千代は愕然とし声を挙げた。
何故なら、レイドは敵に単身突っ込む前に言っていた。
『視たら、分かった』、と。
あれはつまり。
千代の魔力の総量を視た、ということだ。
視た結果、防衛を任せられると判断した。
そういうことだった。
「……で、ですが、それはあまりにも――」
千代が言葉繋ごうとした、その時。
「強すぎる……ですか?」
エレンが口を開いた。
その言葉は当に千代が言わんとしていたことだ。
何故なら。
実戦では敵のことが事前に解っていることは、まず無い。
故に、自らの技を磨き。
故に、敵の情報を探ろうとする。
だが。
〈魔導真眼〉には。
レイドには。
敵の全てが解る。
しかもそれは、情報を探った訳ではない。
敵の得意な魔法を知り。
敵の弱点を嗅ぎ付け。
敵の僅かな情報に聞き耳をたてる。
そんな、努力を。
創意工夫を。
したわけでは、無いのだ。
只、視るだけで。
全てが解るのだ。
そんなのは。
はっきり言って。
異常だ。
千代はそんな感想を抱いた。
思わず、本能的に。
嫌悪した。
故に。
「……はい。私は…レイド殿は…強すぎる、と思います」
と、エレンに対して思いを告げる。
「やはり……そうですか」
エレンはその言葉を静かに受け止める。
しかし。
「あら? そう? 素晴らしい才能だと思うけど?」
ルーナが。
愉しげに、答えた。
「どういう…意味でしょうか…?」
エレンが眉根を寄せる。
だが、対照的にルーナは嗤みを深める。
「だって、そうじゃない? あれほどの“力”…ただ眠らせておくには惜しいんじゃないかしら?」
そう話すルーナの表情は。
何かを企んで、嗤っている。
何かまでは分からない。
しかし、確実に何かを企んでいる。
「あなたは…一体――」
エレンがルーナを問いただそうとした。
その時。
三度目の『大爆発』が放たれた。
爆音が地に轟き。
爆炎が空に舞う。
今の一撃で、敵は完全に殲滅された。
「……若…」
エレンは悠然と歩いて来るレイドを呼ぶ。
その体には、かすり傷一つついていない。
だが、その表情はとても悲痛そうに歪んでいる。
「……若、大丈夫ですか……?」
自分は何を聞いているのだろう。
たとえ、他の生徒を守るためとはいえ。
かつては魔王国の民であったかもしれない者達と戦い。
数十人は確実に殺めてしまった。
それなのに「大丈夫ですか?」だと?
大丈夫な筈が無い。
エレンは、胸中で自己嫌悪に陥った。
しかし。
「…ん、あぁ……大丈夫だ」
と、レイドを無理に笑う。
平静を装う。
その様子がまた、痛々しい。
エレンは、どうしょうもない無力感を抱く。
……なんで……私は…何も、出来ないんだろう…
もし、エレンにレイド程の力があれば。
代わりに戦うことが出来るのに。
一緒に戦うことが出来るのに。
「――レイド」
ルーナが不意にレイドの名を呼んだ。
先刻までの企むような嗤いは無い。
「ご苦労様、レイド」
素直に労いの言葉を掛ける。
「…あぁ」
レイドも素直にそれを受け取る。
「これから、どうするつもり?」
ルーナの問いにレイドは即答する。
「まず、もっと安全な場所に移動する…まだ、他の敵が潜んでるかもしれないからな……何か意見は?」
レイドが確認のためにルーナに問う。
すると。
「えぇ、実は一つだけ……問題が」
「問題? それって――」
「――ちょ、ちょっと待ってッ!」
レイドがルーナに質問をしようとした、その瞬間。
一人の少女が生徒の群れの中から飛び出した。
「あ、明日木さん…?」
飛び出した少女はウェーブのかかったブロンドの長髪とグリーンミントの瞳が特徴的な少女。
明日木・麻里だ。
「お願い、レイド! ちょっと待って!」
麻里はすがり付くようにレイドの胸ぐらを掴む。
「ど、どうした…?」
レイドが圧倒され聞き返す。
しかし。
続く麻里の言葉にレイドは絶句した。
「光一郎が……光一郎がまだ…一人で戦ってるのッ……!」
「―――!」
驚愕、などというものでは無い。
思わず、ルーナの方を見る。
すると。
「彼女の言う通りよ、それが私の言おうとした問題よ」
……あの、馬鹿…!
光一郎は決して頭は悪くない。
だが、その選択は愚かと言わざるを得ない。
光一郎に人並みの才能や実力が無いことは。
光一郎を初めて“視た”時から解っていた。
……なのに、アイツ…!
「彼は……敵の隊長格と戦っているわ――囮として」
「なッ!? 囮!?」
ルーナの説明にレイドは驚きの声を挙げる。
「えぇ、彼は戦闘能力の高い敵の隊長を一人で引き付けたの……彼の行動がなければあなた来るまでに死人が出ていたでしょうね」
その説明にレイドの中で、またしても光一郎への感情が沸き上がる。
……無茶なことしやがって…!
「どこだ!? 光一郎はどこで戦っている!?」
レイドは半ば吠えるようにルーナを問いただす。
それにルーナは冷静に返す。
「東棟の校舎よ、おそらく私達から距離を取るために上の階に登った筈よ」
「分かった! ルーナ達は他の生徒を連れて安全な場所に移動してくれ!」
レイドは走り出しながらルーナに呼び掛ける。
「了解したわ、任せてちょうだい」
ルーナはそれに短く返す。
「わ、若! 私も――」
エレンがレイド共に来ようとする。
だが。
「駄目だ! お前も他の生徒達の傍にいてくれ!」
「で、ですが!」
「いいから言うことを聞け! これは命令だ!」
レイドは尚もすがり付くエレンを主として黙らせる。
……光一郎…無事でいろよ…!
そして東棟に入っていった。