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魔王王子と星銃銃士の王国復興《リ・ジェネシス》  作者: 斉藤・賢生
王子と銃士の出会い
13/23

雑魚王子

あれから、一週間経った。


脚の怪我はすっかり治り。

南座学園での生活にも段々と慣れてきた。

だからと言って、周りの生徒の、

よそよそしい態度が変わるわけでは無いが。

もっとも、そんな中で積極的に話しかけてくるやからもいる。


「ねぇ、光一郎! お昼一緒に食べよ!」


午前の授業が終了した瞬間。

最前列の席である明日木あすき麻里まりが、

こっちに近づいてきて、誘って来る。

「うん、いいよ」

特に断る理由も無いので、その誘いを受ける。

「光一郎殿、私も同席して良いでしょうか?」

すると、隣の千代がその話に入ってくる。

「うん、僕は構わないよ。麻里さんは?」

肯定の意を示して、麻里に聞く。

「別にあたしはいいけど…光一郎!」

「な、なにかな……?」

急に不機嫌になった麻里に、

気圧されながらも光一郎は尋ねる。

すると。

「あたしのことは呼び捨てにしてって言ったじゃん!」

と、返された。

「……ど、努力するよ…」

「ん、まぁいいよー。光一郎カッコいいしぃ♪」

すぐに機嫌が治る。

でも、なんて言えばいいんだよ。

「あ、はは……」

困った末に笑って誤魔化す。

すると、前から更に面倒くさいやつが声をかけてくる。

「なぁー、光一郎~。俺も誘ってくれるよなぁ~?」

レイドだ。

メチャクチャ、ウザい。

その気持ちを代弁するように、

レイドの隣の席の少女が声を発する。

「若! 失礼ではありませんか! 魔王国の王子ともあろう方が!」

理知的な雰囲気の眼鏡メガネ少女、エレンだ。

「申し訳ありません、天道様。以前の模擬戦でもご迷惑をおかけしていますのに……」

そして、光一郎に謝って来る。

しかも、一週間も前のセイナ達との決闘についても。

「いいよ、別に気にして無いから」

と、笑顔で返すが。

半分、嘘で、

半分、本当だ。

本当なのは勝ち負けに関して。

あの勝負に関わらず、

光一郎は“力比べ”とか“実力勝負”なんかには興味が無い。

嘘なのはレイドの―実力に関して。

まさか、あれほどにまで。


―弱いとは。


ザコ王子。

レイドはそんなあだ名を陰で叩かれるほどに。

弱かった。

当然、千代やアトラスやセイナなどの、

実力者達とは比べるまでもない。

それほどの弱さ。

……俺と同じ…なのか…?

光一郎は天道家の長男でありながら、

魔導の才能は全く無い。

魔力の総量も、

魔法の展開速度も効果範囲も、

一般人の十分の一にも満たない。


ちなみに。

天体魔人スター・ゲイザー』は別だ。

あれは特別な方法で会得した、特別な魔法だ。


おそらく、レイドは光一郎ほどでは無いにしろ、それくらいの実力なのだろう。

正直、監視の必要は無いのでは。

と思わずにはいられない。

何故ならば、レイドが魔法協会にとって、危険な存在であるかどうかを見極めるのが目的だからだ。

しかし、レイドの実力では、なにも出来ない。

だが、一度引き受けてしまったのだから仕方ない。

「なぁー、良いだろ? 光一郎?」

と、当人であるレイドが聞いてくる。

「うん、もちろん、良いよ」

光一郎がそう答えると。

「じゃあ、せっかくだしぃ、庭園で食べよ!」

麻里が元気良く言う。

「お、いいねぇ」

レイドが賛成し、みんながそれに続く。

い考えですね」

「あそこなら、大人数おおにんずうでも問題ありませんね」

「……じゃあ、行こうか」

そう言い、皆で庭園に向かう。



××× ××× ×××



「あら、奇遇ね」

光一郎と千代、麻里。そして、レイドとエレン。

五人で食事をしていた時、ルーナが二人の従者を連れてやって来た。

「やぁ、ルーナ。そっちもお昼?」

「えぇ、もちろんよ」

ルーナが柔らかな微笑みで答える。

「じゃあ!一緒に食べよ!」

光一郎の隣に座った麻里が誘う。

「じゃあ、お言葉に甘えて失礼するわ」

そう言うと、ルーナは光一郎達が座っているベンチに腰かける。

ベンチはかなりの大きさなので、六人が座ってもまだ余裕がある。

ちなみに、光一郎達は食堂で販売しているおにぎりを食べている。

「あなた達も座りなさい」

そこで、ルーナが、

立場を守って立っていた、二人の従者に促す。

『はい』

アトラスとセイナはそう言うとベンチに座る。

「お嬢様。どうぞ」

そして、セイナは持っていたバスケットを開け、ルーナに差し出す。

「ありがとう、セイナ」

ルーナは上品に頷き、その中からサンドイッチを取り出す。

バスケットの中を覗くと、その中にサンドイッチを始めとしたフライドチキンやフレンチトーストなどといった料理が入っていた。

「うん、美味おいしいわね」

ルーナはサンドイッチを一口食べ、

セイナに微笑みかける。

「あ、ありがとうございます…」

すると、セイナは嬉しそうに、

しかし、どこか恥ずかしそうに感謝の言葉を述べる。

そして、

「光一郎、このサンドイッチ…セイナが作ったのよ」

と、ルーナが言う。

「……? へぇ、そうなんだ」

何故、そんなことを言ってくるのか分からない。

しかも、名指なざし。

「……それだけ?」

「え?」

光一郎の反応が気にくわないのか、

ルーナが聞いてくる。

更に―。

「光一郎…もう一度言うわ。このサンドイッチ、セイナが作ったのよ」

笑顔のまま。

しかし、有無うむを言わさぬ圧力で迫る。

「え、え~と……」

なんと言うべきか迷う。

するとセイナも、

「…………………」

無言でこちらを見ている。

期待と不安の入り交じった視線だ。

「と、とっても美味おいしそうだ…ね……」

なんとか、そう答える。

「ほ、ほんと…!?」

反応したのはルーナではなく、セイナ。

「ほんとにそう思う!?」

「う、うん、本当だよ」

と、思ったままを口にする。

すると、

「そっか…エヘヘ、そっかぁ、美味しそうかぁ」

と、嬉しそうに笑う。

文字でいうなら、にへらー。

……なんか、ちょっと…かわいいな…

がらにもなくそんなことを思う。

「ねぇ、光一郎」

不意にルーナが話しかけてくる。

「何かな?」

「セイナは―彼女にするならぴったりよ?」

「ぶッ!!」

思いがけない言葉に吹き出す。

「い、いいい、いきなりなに言うの!?」

「あら? でも、そうじゃない? セイナ、お料理は上手だし、他の家事や炊事も完璧だし、かなり可愛いと思うわよ?」

「い、いや、確かにそうだけど……」

僕が言いたいのはそういうことじゃない。

そう言う前に、

「はーい! はい!はい! 料理ならあたしもデキるし!」

麻里が元気良く、しゃしゃり出てきた。

どうやら、セイナに対抗心を燃やしたらしい。

何故かは分からないが。

「あたし、美味しいお味噌汁作れる!」

と、麻里。

その言葉にセイナも迎え撃つ。

「…私も……ブイヤベース作れる!」

麻里とセイナの間に火花が散る。

「あたし! 肉じゃが、作れるし!」

と、麻里。

「わ、私だってポトフ、作れるもん!」

と、セイナ。

「光一郎は絶対に肉じゃがの方が好きだし!」

「そ、そんなの分かんないじゃない!」

「………」

なんで俺?

二人のやり取りを見ながら、光一郎はそう思った。

『光一郎は何が好き!?』

麻里とセイナが聞いてくる。

いや、だから、なんで俺?

とは、思うが、

「…僕は和食の方が……好きかな」

と、答える。

「やったぁ!」

「そ、そんなぁ……」

その答えを受け、

麻里は喜び、セイナは悲しげだ。

「光一郎~お前も罪な男だなぁ~」

レイドがなんか言ってくる、ウザい。

そこで、不意にルーナが。

「あら、でも、お料理だけじゃ彼女にはなれないわよ、ね?」

と、光一郎に聞いてくる。

「え? まぁ、うん」

ルーナの言わんとすることは分からないが、

一先ず、同意しておく、

「やっぱり、彼女にするなら。女性的な“魅力”が必要よね」

「……え?」

「だから……ほら、ね?」

そう言うルーナの目線はセイナの、

―その胸に向いている。

『ッな!?』

その場にいる、全員が驚きの声をあげる。

「お、おおお嬢様! 何をおっしゃるんですか!?」

セイナがふくよかな胸を両手で隠すようにしながら、叫ぶ。

「なにって、大事なことよ? あなたの“強み”をアピールしていかなくちゃ♪」

なんて、楽しげに語る。

そんな、ルーナに、大馬鹿レイドが言う。


「―でも、この中で一番、胸無いのルーナだよな」


『……………』

氷のように冷たい空気が、空間を支配した。

誰も、

何も、

言えない。

言えるはずがない。

「アハ、アハハ……アハハハハハハ!!」

しばらくして、ルーナが壊れたように笑いだす。

気のせいでなければ、

その瞳には涙が浮かんでいた。

「お、お嬢様! しっかりしてください!」

「お嬢様!? お気を確かに! おのれ……貴様キサマァ!」

セイナとアトラスがあるじを気遣い、アトラスはレイドに怒鳴り付ける。

「え? 俺?」

どうやらレイドは自分がやらかしたことに気付いていない。

「若! いいから、謝って下さい!」

「今のはないわー…」

エレンはかなり焦り、麻里はドン引きだ。

「アハハ!!………はぁ………」

そこで笑い終わったルーナが、

否。

狂い終わったルーナが、

「……ありがとう…もう、落ち着いたわ。悪いけど…誰かお水をくたさる?」

いつもの―とは言えないものの、

なんとか上品さを取り戻して言う。

「あ! じゃあ、あたしたち(・・)が食堂からもらってくるよ! ね!?」

と、麻里がエレンに意味深なウィンクをしながら、言う。

すると、その意図を察したらしいエレンが、

「そ、そうですね! ほら、若! 行きますよ」

「え? あ、うん」

そう言って、レイドの手を掴み、

三人は食堂に向かって歩きだす。


それで、その場は五人になる。

「ねぇ、光一郎?」

不意にルーナが、

いつもの、

否、それ以上に優雅に話しかけてきた。

「……何かな?」

光一郎が聞き返す。

「“あれ”が魔王国の王子だなんて、拍子抜けじゃない?」

ルーナの顔にはいつもの微笑み。

しかし、

その意味はいつもとは違う。

「あなたはレイドを監視するためにやって来た…そう言っていたわね?」

「うん、そうだけど…」

「果たして…彼を監視する意味はあるのかしら?」

それは正に、

光一郎自身が考えていることだった。

「彼には、魔導の才も、政治交渉の場に立てるほどの知恵も無い―そんな彼を監視する意味は本当にあるのかしら?」

そう、優雅に、上品にルーナは言う。

そして、それは真実だ。

レイドには、時間と労力を割いてまで監視する価値は無い。

―でも。

「―でも、それは君には関係の無いことじゃ無いかな?」

光一郎も爽やかに微笑みながら問う。

「それが、そうでもないのよ」

「どうして?」

「私も―レイドが目的で、この学園に来たから」

「そ、そうなの?」

知っていた。

正確にいうならば、そうだと思っていた。

そうでなければ、聖王国の貴族が公国の魔導学園に通ったりしない。

「もっとも、私の目的は“監視”じゃなくて“観察”なのだけど」

「観察?」

「えぇ、彼の実力を見極めるのが目的なの」

「…何故、そんなことを?」

光一郎の問いは至極真っ当なものだ。

故に、ルーナも。

正直に答えてきた。


「――私には野望ユメがあるの」


「……ユメ?」

あまりにも、大それた答えに、

光一郎は思わず聞き返した。

「えぇ、野望ユメよ。野望やぼうと言い換えても良いわね。私はその野望やぼうのためになら何だってするわ」

そう語る、ルーナの表情カオには。

今までの優雅さや上品さに加え、

狩人のような“狡猾さ”が見てとれた。

「それと、レイドがどう繋がるの?」

大体の予想をつけていながら、

光一郎は聞く。

「その野望ユメを叶える為には、より多くの、より優秀な手駒ナカマが必要なのよ」

「つまり……レイドもその一人だと?」

「えぇ、そういうこと。でも―とんだ期待(はず)れだったわ」

そうだろう。

レイドの魔導技術()知恵()では、

利用することすら出来ない。

「まぁ、でも他に収穫はあったけど」

「収穫?」

ルーナが意味ありげに言う。

光一郎は意味が分からず聞こうとするが。

「さぁ、私の話は終わりよ」

「え? なに言ってるの?」

ルーナがやりきったような表情になるので、

光一郎はすかさずツッコミを入れる。

「あら? まだ、何か知りたいことが?」

なんて、とぼけるように言ってる。

「当たり前だよ、まだ、一番大事なことを言って無いよ?」

光一郎が言うと、

ルーナは楽しげに笑う、

あるいわたのしげにわらう。

「フフ、そうかしら? 私には分からないわ」

どうやら、あくまでとぼけるつもりのようだ。

仕方がないので光一郎自身が言う。


「そんな大事な話をなんで僕にしたの?」


そう。

それこそがもっとも大事なことだ。

そして、その問いを受け、

ルーナが更に愉快そうに微笑み。

「やはり―あなたにして正解だったわ」

と、語る。

「……どういうこと?」

光一郎が聞くと、ルーナは、


「光一郎―私の元に来ない?」


そう言った。

「………え?」

意味を理解出来ず、聞き返す。

「さっき言ったでしょう? 他に収穫があった、と」

「……うん、言ってたね」

「それはあなたのことよ、光一郎」

怪しくわらい、ルーナは続ける。

「確かに、レイドは期待外れだったわ。でも、代わりにあなたに出会えた」

「……だから、あんな話を、僕に」

「そういうこと♪」

言うとルーナはバスケットの中から、

サンドイッチをもう一つ取り出す。

「返事はすぐじゃなくていいわ。―さぁ、みんなそろそろ、帰ってくるし午後の授業は模擬戦よ、お昼の続きをしましょう」

「………………」

その後、すぐに麻里、エレン、レイドが帰って来た。

光一郎の胸中に波乱を残したまま、

昼食は再開される。



××× ××× ×××



午後の授業は、ルーナが言ったように、

模擬戦だ。

ただし、今日の模擬戦は以前とは少し違う。

より、実戦に近い状況を体験するために、

魔導兵器を持っている者は、

魔導兵器を使用して、模擬戦を行うのだ。

この三年一組では魔導兵器所持者は、

五人。

光一郎、千代、セイナ、アトラス、ルーナだ。

ただし、ルーナの魔導兵器は、

聖王国の最新技術が使われているため、

授業では使用しないらしい。

そして、今。

「ハアァァ!!」

「チィ!」

セイナの細剣型の魔導兵器による刺突(突き)を、

アトラスが間一髪で回避かわした。

今から二分ほどまえ。

間宮担任の指示でセイナとアトラスが、

模擬戦を開始した。


セイナの魔導兵器は青い細剣レイピア

アトラスの魔導兵器は両刃の赤い長剣ロングソード


最初はアトラスが遠距離攻撃で、優位に立っていたが、

今は間合いを詰めたセイナが剣術で圧倒している。

どちらも『身体強化』を使っている。

その為、動きが以前とは段違いだ。

普通、同時に二つ以上の魔法を使うのはとても難しい。

しかし、魔導兵器があれば話は別だ。

魔導兵器による魔法の使用は魔導士の負担にならないからだ。

つまり、魔導兵器があれば魔導士は同時に二つの魔法を使う事も簡単になる。

実際、セイナとアトラスは今、

攻撃や防御は魔導兵器に頼り。

自分は『身体強化』で機動力を上げている。


もし、以前の模擬戦でセイナが魔導兵器を持っていたなら。

光一郎は間違い無く、負けていた。


なんて事を思いながら、

光一郎はその模擬戦を見ていた。

「光一郎殿、先程のお話しどうなさるのですか?」

隣の千代が聞いてきた。

先程のお話しとはもちろん、

ルーナの野望ユメとやらの話だ。

「もちろん―ことわる」

当然だ。

光一郎は公国・神威カムイの人間。

いくら、公国と聖王国が同盟国とは言え、

ルーナに力を貸す理由は光一郎には無い。

「―そうですか」

「………」

相変わらず無表情な千代。

……一体、なにが言いたいんだ…?

いまいち、千代の真意が汲み取れない。

――と、

そこで。

「食らえ!」

「ぐっ!?」

アトラスのがセイナに放った炎が爆発して周りに飛び散る。

「お、おっと」

「あ、アブな!」

近くに居た生徒たちは、

悪態をつきながらも冷静に避けるなり、

『防護障壁』を張るなりしている。

しかし、火花の一つが、

レイドの方に飛んでいく。

「うわぁぁ!」

威力はあまり高くない、

否、それどころ低い。

しかし、レイドは腰を抜かして、動けない。

「若!」

すんでのところでエレンがレイドの前に滑り込み、

『防護障壁』を張る。

火花は『防護障壁』にぶつかると、

弱々しく消えていった。

「お、おおエレン…サンキュー…」

「いえ…お怪我はありませんか?」

レイドが弱々しく感謝すると、

エレンが心配そうに聞く。


すると―。

「なんだ、今の?」

「女の子に守ってもらうなんて、情けねぇな」

「やっぱザコだよな、ザコ王子」

「どんだけビビりなんだよ」

周りからそんな声が聞こえてくる。

「……あなたたち!」

それにエレンが、怒り、怒鳴り付けようとする。

しかし、

「イヤー、マジで怖かった~ エレン、サンキューなぁー」

「わ、若……」

情けない声でレイドが言うので、

エレンもなにも言えなかった。

「試合終了!」

そこで、セイナとアトラスの模擬戦が終わる。

どうやら、セイナが接近戦に持ち込んだまま勝負はついたらしい。

「では、各自、模擬戦の相手は選べ」

間宮担任の指示で生徒たちが動きがだす。

もう、レイドに興味を待っているものはいない。

――そこで。


「――なんで、言い返さないの?」


光一郎はレイドに近づき聞いた。

当のレイドはキョトンとした顔をしている。

「こ、光一郎殿?」

千代に声を掛けられ、我に帰る。

……あれ……なんで…

そんなことを聞いたのだろう。

「天道様…どういう意味ですか?」

エレンがレイドを馬鹿にされたと思ったのか、

今にも、怒り出しそうにして言う。

「天道様? それは若に対する―」

「―本当のことだからさ」

エレンの言葉を遮るようにレイドが話す。

「わ、若!?」

「エレン、いいから」

まだ何か言いたげなエレンを制して続ける。

「実際に俺はビビりでザコだから。本当のことに言い返したって意味は無いだろう?」

「悔しく…無いの?」

光一郎は自分でも意外だった。

レイドにそんなことを聞いているのが、

しかし、何故か聞かずにはいられなかった。

「別に? 悔しくねぇさ」

そう語る、レイドの顔は。

悲しげで、

寂しげだ。

でも、清々《すがすが》しくもある。

だからだろうか。

「…………あっそ」

光一郎も失望した。

おそらく、ルーナもこんな気持ちだったのだろう。

期待(はず)れ。

まさに、まさに、そんな感じだった。


一体、自分がレイドになにを期待していたのか。

それも分からないまま、失望した。

ひょっとしたら、密かに憧れていたのだろうか?

自分には無い“もの”を持っている、レイドに。


だが、もうそんなのはどうでもいい。

自分のやるべきことは変わらない。

今まで通り、真の性格を隠し、

天道・光一郎を演じ続ける。

それだけだ。


そう思った。


その瞬間ときだった。



『――この学園はたった今占拠した。この時、この瞬間より、この南座学園は我々のモノだ、生徒、及び教職員は三分以内に庭園に集まれ』



「―――――――――え?」


あまりに唐突に。



学園は占拠された。

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