天体魔人
「おい!?セイナ!」
自分の名を呼ばれ、
セイナ・レーシアは後ろを振り返る。
そこにいるのは、自分と同じ従者と自分の主。
アトラスとルーナだ。
「いったい何をしてるんだ!」
アトラスが怒ってる。
当然だろう。
セイナとアトラスは主たるルーナを守るためにいる。
故に、たとえ模擬戦であっても、
主の許し無しに行ってはならない。
しかし自分は今。
天道光一郎にいきなり攻撃を仕掛け、決闘を申し込んだ。
だから、アトラスは怒っている。
――だが。
「……まぁ良いじゃない、アトラス」
麗しき我が主。
ルーナが美貌に微笑を貼りつけて、そう言う。
これにアトラスは、
「よ、よろしいのですか?」
と聞く。
「えぇ、セイナが無意味に決闘を挑むとは思えないもの……何か理由があるのでしょう?」
「はい、もちろんです」
ルーナに問われ、セイナは答える。
そう。
セイナには理由がある。
光一郎に決闘を挑む理由が―。
「それならば構わないわ、それよりアトラス?」
「はっ、なんでしょうか?」
「貴方も闘いたい相手がいるのなら、この授業の中でのみ許可するわ、存分に力を振るいなさい」
「はっ、かしこまりました」
しかし、そこで。
「ちょっと待ちなさい、生徒だけで話を進めないの!」
間宮担任だった。
「レーシアさん? 決闘を申し込むのは構わないわ。でも、いきなり攻撃を仕掛けるのは、ただの危険行為よ!」
……しまった…
確かにいきなり攻撃したのはやり過ぎだったと、思う。
しかし。
「待ってください、先生!」
声をあげたのは、他ならぬ光一郎だった。
「僕はこの決闘を受けます」
「光一郎殿!?」
それに驚いたような声をあげたのは、
千代だった。
しかし光一郎は千代を片手で制する。
「間宮先生、さっきの攻撃は僕が避けられるように手加減されていました」
そんなことはしていない。
あの魔法はいわば―反射的に発動したもので、
手加減とか全く考えていなかった。
しかし。
「まぁ、本人がそう言うなら…」
間宮担任はあっさり認めてしまった。
……私のことを庇った…?
そう思うとまた、
胸が苦しくなる。
別に光一郎への想いが変わった訳じゃない。
今でも―好きだ。
だが。
どうしても許せないことがある。
そのために、
お灸を据えるために。
セイナは決闘を申し込んだのだ。
「光一郎殿……」
「な、なんか大変なことになってんな……」
千代が心配そうに、
レイドが馬鹿そうに、言う。
そこにさらに、
「ちょっ!光一郎?なにがどーなってんの!?」
ウェーブのかかったブロンドの髪。
グリーンミントの瞳。
明日木・麻里だ。
彼女の魔導着姿も、
千代と同じく。
健康的でありながら、
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいた。
しかし、今そんなことはどうでも良い。
「みんな心配してくれてありがとう、でも大丈夫。僕にも勝算ならあるから」
と。
みんなに言うが、
実際にこの言葉を伝えたいのは千代だ。
そして、千代もその言葉で理解する。
「……分かりました、御武運を…」
続いて麻里も、
「光一郎!ケガしたらダメだかんね!」
と、言ってくる。
挙げ句エレンも、
「天道家嫡男様の実力、拝見させていただきます」
なんて言ってくる。
「あはは…ありがとう」
なんて言って良いか分からず、そんな風に返す。
そして、いざ決闘――。
という矢先。
「光一郎、やめとけ」
レイドが言った。
「――え?」
ぽつん、と声を落としてしまった。
まさか、レイドにそんなことを言われるなど。
思いもしなかった。
「な、なんで?」
聞き返す。
それに答えるレイドの表情は―。
今までのにやついた表情でも。
エレンに怒られた時の嫌そうな表情でもない。
強い確信に満ちた表情だった。
「勝てねぇぞ? 下手したら、大怪我する」
しかも、そんなことを言ってくる。
「やってみないと…分かんないんじゃないかな?」
なんとか、そう言い返す。
しかし―。
「いや解る、俺には理解る」
更に、確信を込めて。
「お前じゃ、レーシアさんには勝てない」
「……なんで分かるの?」
レイドの雰囲気に押されながらも聞き返す。
すると、一言。
「視えるから」
と、不可解な言葉を発する。
……見えるって…何が?…
そう聞き返そうとした、その時。
「―つまりレイドが光一郎に力を貸すってことね?」
なんてことをルーナが言った。
『――え?』
光一郎とレイド。
二人揃って聞き返す。
しかし、ルーナは動じる事無く。
「だってそうでしょう? 光一郎は決闘を受けるつもりなのだから、光一郎を怪我させたくないというならレイド、あなたが一緒に闘うしか無いでしょ?」
と、レイドを煽る。
そして―。
「あなたも―その方が良いんじゃない? 光一郎」
と、微笑みを一層に濃くする。
その微笑みを見て光一郎は気付く。
ルーナの狙いに――。
……そうか、そういうことか…
「―まぁ一緒に闘ってくれるなら、心強いかな」
レイドにそう言うと。
「い、いやいや! ちょっと待てよ光一郎! ルーナもなに言ってんだよ!?」
堪らず、レイドが叫び返す。
だが、これが不味かった。
「キサマァ!!なんだその物言いはぁ!」
アトラスだ。
主への忠誠心が強い彼には。
ルーナに敬意を払わないレイドの態度が許せないのだ。
そしてその主は――。
「ちょうど良いわアトラス、あなたも決闘に参加なさい」
「はっ、かしこまりました。ですが何故でしょうか?」
無論、主の意向に背く筈がない。
だが、理由は聞いておきたい。
「だって、二対一じゃ不公平でしょ? あなたもいれて二対二の方がより公正だわ」
「分かりました、お任せ下さい」
しかし、理由が分かれば後はただ命令に従うのみ。
「……話がまとまったのなら、早く始めましょう」
セイナが言い。
「うん、そうだね。始めよう」
光一郎が賛成し。
「さっさと、立ち位置に着け」
アトラスが促し。
「俺も参加するのはもう決定なのね……」
レイドが呟く。
斯くして決闘の参加者が決まった。
××× ××× ×××
魔法には大きく別けて二つの使い道が存在する。
一つは魔法をそのまま使用する使い道。
これを単一魔法と呼ぶ。
一つは魔法を複数組み合わせる使い道。
これを複合魔法と呼ぶ。
そして、現代の魔法戦において。
主に使用されているのは。
――複合魔法だ。
というより。
単一魔法は基本的に、戦闘では全く使えない。
複合魔法はその魔法の主軸となる“主魔法”と主魔法をサポートする“副魔法”の二種類を組み合わせている。
具体的に言うなら。
千代の使う魔法『風刃』。
この魔法は全部で三つの魔法を使っている。
一つは主魔法《烈風》。
この魔法は風属性魔法全ての主軸となる魔法だ。
しかし。
この魔法だけでは、ただ風が目的も無く無差別に吹くだけだ。
故に、二つの副魔法が存在する。
一つは《刃型》。
《烈風》により生じた風をこの魔法で刃の形にする。
一つは《射出》。
この魔法で風の刃を前方に向かって放つ。
主魔法の《烈風》。
副魔法の《刃型》《射出》。
この三つを組み合わせることで『風刃』は“攻撃”として成立する。
つまり逆に言えば、
単一魔法である《烈風》だけでは攻撃として成立しない。
故に魔法戦では主に複合魔法が使用される。
ちなみに。
魔法には“等級”というものが存在する。
最低位の魔法を示す“五等級”から最高位の“一等級”までの五段階が存在する。
五等級魔法は全て、単一魔法だ。
しかし、四等級からは全て複合魔法だ。
四等級は二つの魔法から成り。
三等級は三つの魔法から成り。
二等級は四つの魔法から成り。
一等級は五つの魔法から成る。
といった具合だ。
問題は――。
光一郎は単一魔法すら使えないということ。
しかも、授業の模擬戦では魔導兵器は使えない。
何故ならば、
学生の中には、
魔導兵器を所持していない者の方が多いからだ。
つまり――。
今、光一郎に使える魔法は――無い。
一つを除いて。
……使う…しかないか?…
光一郎は現状に問いかける。
果たして“ある魔法”を使う以外に現状打破の手段は無いのか。
もちろん、戦闘をしない。
という選択肢もある。
だが、光一郎はそれを選ばない。
理由は二つ。
一つ目はセイナの実力を知ること。
もっとも。
結果として、この決闘にはアトラス、セイナ、レイドが参加する。
つまりこの三人の実力が分かるかもしれない。
ルーナもそのつもりでレイドに参加しろと言った。
二つ目は光一郎の“素の性格”のこと。
セイナは光一郎の“素の性格”を知ってしました。
自分に決闘を申し込んで来た瞬間の態度を見る限りは、おそらくルーナにはこの事は話していないだろう。
だが。
念のため、それを確認する必要がある。
しかし――。
どうするか。
勝算はあるには、ある。
作戦があるのだ。
だが成功率は、かなり低い。
果たして、成功するだろうか。
そんなことを思いながら、
光一郎はレイドと共に対戦相手に向き合った。
二組の間の距離は約六メートル。
それほどの距離が取れる程に実技棟は広い。
「ねぇ、レイド」
光一郎はレイドに尋ねる。
「正直に聞くけど…君って強いの?」
この問いに、しかしレイドは。
「ん?さぁ、なぁ~」
なんて、テキトーに答える。
……期待は出来ないな…
一先ず、
レイドのことは戦力として考えない。
そう決めたその時。
「それでは、全員準備は良いかな?」
と、間宮担任が聞く。
それに全員が肯定の意を示す。
よって。
「それでは……始めッ!」
決闘が始まった。
最初に動いたのは、セイナ。
右手を前に掲げる。
その手に現れるのは、
紛うこと無く、魔法陣。
色は青。
掌サイズの円形の魔法陣だ。
……使用されている魔法属性は“水”…
セイナが呟く。
「―『水刃』」
瞬間。魔法陣の中心から“水の刃”が出現する。
長さは一メートル程。
形は両刃。
先端に向かうにつれ細くなっている、
間違いなく、刃。
光一郎は身構える。
おそらく――。
さっき、光一郎を襲った攻撃だ。
あの水の刃が光一郎に向かって放たれるのだろう。
光一郎とレイド、セイナとアトラスの間の距離は、
約六メートル。
なんとか避けられる距離。
そう思った。
――――だが。
「ハァッ!!」
裂帛の気合いと共に、セイナは走り出す。
……ナニッ!?…
速度は『身体強化』を使ってない時の千代と同等。
セイナも『身体強化』は使っていない。
つまり、千代と同等の身体能力。
だが――。
避けられる。
おそらく、水の刃―『水刃』は近接魔法。
なら、千代の刀を避けるのと変わらない。
そう思っ――。
「『火炎の砲弾』!!」
声が同時に聞こえた。
アトラスの声だ。
そして、その右手には赤い円形の魔法陣。
……攻撃!?…だが…
アトラスの魔法が光一郎とレイドに届くのなら。
より近くにいるセイナにも当たってしまう。
しかし。
同時にセイナが右に水平回避。
よって、アトラスと光一郎達の間には何もなくなる。
「――ッ!?」
アトラスが言う。
「―燃えろ」
巨大な火球が飛んできた。
光一郎とレイドは後方に跳ぶことで、回避。
二人の居た場所に着弾。
その後、爆発。
灼熱の炎が床を燃やす。
……なんて威力だ…!
光一郎は着地した。
そして、息を呑む。
「―セイナ!?」
水の刃を振りかぶったセイナが真横に迫っていた。
真っ直ぐに降り下ろされる、刃。
体を半回転させ、避ける。
そして、刃は床を切り裂く。
……威力だけなら、『雷刃』と同格…
生身に当たれば、
肉を裂かれ、
骨を断たれる。
だが、避けた。
すかさず、右の正拳をセイナに放つ。
が、セイナはそれを完璧に見切り、避ける。
だが、それだけでは終わらない。
両の拳で連続攻撃。
一発目、避けられる。
二発目、避けられる。
三発目―右頬に掠る。
「―チッ!」
舌打ちした後、セイナは距離を取る。
……させるか!…
すかさず、跡を―。
「光一郎! 退がれ!」
レイドの声に反応して、横を見ると。
『火炎の砲弾』が迫っていた。
「――クソッ!」
なんとか、後ろに避ける。
が、着弾の爆発によって吹き飛ばされる。
「――ガハッ!」
受け身はとるが思わず声が漏れる。
「光一郎!大丈夫か!?」
レイドが歩みよりながら、声をかける。
「あ―、あぁ、なんとか…」
返事をしながら立ち上がる。
「―!? 光一郎! 構えろ!」
再びレイドに言われ、
前を向く。
セイナだ。
水の刃を持ち、再び迫ってくる。
間合いに入った瞬間にレイドに向かって横薙ぎ。
「――うぉッ!?」
レイドは半ば転げるように避ける。
「ちょ、ちょちょ! タンマタンマ!」
続けざまのセイナの斬撃を、
レイドが逃げるように避け続ける。
おかげで、セイナは光一郎に背中を向けている。
……いまだ…!
セイナが大降りの横薙ぎを放つ。
その瞬間、
光一郎は走り込む。
攻撃の届く距離に―詰める。
渾身の突き蹴りを放つ。
「―シッ!!」
セイナの腕は伸びきっている。
完璧に背後からの攻撃。
確実に決まる。
―筈だった。
「――甘いわ」
セイナが水の刃を持ち変えた。
――逆手に。
そのまま、後ろに振り抜いてくる。
軌道は完璧に光一郎の蹴りと交差している。
刃が脚に突き刺さる。
「―ッ!ぬうわああぁぁ!!」
痛みが走り、血が滲む。
刃が引き抜かれ、
痛みが増し、鮮血が溢れ出す。
「こ、光一郎!?」
レイドが必死にこちらを気にかける。
だが、側に来ようとはしない。
当然だ。
セイナに背を向ければ、確実に。
討たれる。
今の攻撃は、
死角からの蹴りも完全に把握する“感覚”。
手首のスナップのみで持ち手を変える“技術”。
卓越した二つの能力による。
高度なカウンターだ。
特に、技術。
持ち手の変更だけではない。
背後から迫る物を確実に貫く“剣技”。
それをなし得る“剣術”。
少なくとも、剣術においては、
千代より強い。
それは、セイナだけではない。
アトラスもそうだ。
『火炎の砲弾』。
聖王国の魔法だろう、凄まじい威力。
あれほどの魔法を味方への誤射無く。
二回連続で放つ。
恐るべき、射撃の技術。
専門の魔導士にも難しい。
剣術による近距離のセイナ。
射撃による遠距離のアトラス。
二人の連携による攻撃。
……完全に、負けている…
到底勝てる要素は、
無い。
何より、既に負傷している。
間宮担任が戦闘終了を宣言して、終わりだ。
「――?」
しかし。
そこで異変に気付く。
他の生徒が見当たらない。
周りに土煙が発っている。
……そうか、アトラスの…
『火炎の砲弾』により、
周りの土煙を巻き上げたのだ。
……今しか……ない!…
アトラスや他の生徒は土煙で見えない。
レイドとセイナも互いに向き合い。
こちらに気付いていない。
今しか―機会は無い。
「――『天体魔人』」
光一郎の胸が光輝く。
その光が、そのまま光一郎の体を覆う。
瞬間、体に力がみなぎる。
筋力、視力、聴力が《強化》される。
「こ、光一郎…?」
こちらに気付いたレイドが声を出す。
それにつられ、
セイナも同じようにこちらを見ている。
光一郎はレイドに向かって“警告”する。
「レイド―退がってて」
「……え?」
レイドがポカンとしているのでもう気にしない。
走り出す。
それに応じてセイナも動く。
――が。
「―は、速い!?」
簡単にセイナの背後に周り込む。
「――クッ!」
瞬間的にセイナが刃を逆手に持ちかえ。
先程のカウンターを放とうとする。
しかし、その腕を光一郎は簡単に掴む。
「――ッ!?」
驚きを隠せないのだろう。
しかし、セイナの判断は的確だった。
水の刃を手放す。
新たに魔法陣を展開する。
色は灰色、形は四角。
……『身体強化』か…
次の瞬間にセイナの筋力が《強化》され、
光一郎の手を振りほどき、距離を開く。
「お、おい、こ、光一郎…?」
レイドがどうしていいのか分からず聞く。
……邪魔だな…
「レイド―セイナは僕がなんとかする、アトラスの方を頼む」
「わ、分かった」
そう言い残すと、レイドは土煙の中に消える。
それで、
その場は光一郎とセイナだけになる。
「――さて」
光一郎はセイナに向き直る。
時間が無い。
いきなり、核心を突く。
「俺の“性格”―口調のことは誰かに話したか?」
「…………………誰にも」
警戒を解きながら、一言だけ呟く。
おそらく、
否。
確実に真実だろう。
彼女は嘘をつけるような性格じゃない。
「こ、こっちも一ついい?」
セイナが聞いてくるので、
「あぁ、いいぞ」
と、答える。
「それは……『身体強化』なの?」
「そうだ」
嘘だ。
この魔法―『天体魔人』は、
そんな魔法じゃない。
だが、そんなこと正直に言うつもりは無い。
「あ、脚は?」
「ん? あぁ、大したことねぇよ」
そう言って、刺された脚を軽く動かす。
もうすでに、出血もさほどじゃない。
痛みなら我慢すればいい。
「それより、セイナ」
「な、なによ…」
セイナがビクッとしながらも返答する。
なので質問を続ける。
「なんで決闘なんだ?」
「な、なんでって…?」
「俺のことを嫌いになったんだろ? だから、痛い目に遇わせたくて決闘……か?」
「ち、違うわよ!」
光一郎の語る推測に。
しかし、明確な否定の意を示す。
これには、光一郎も意外だった。
「……え、違うのか?」
「そりゃ、確かに痛い目に遇わせようとしたけど……」
「じゃあ、何が違うんだ?」
セイナの意図が読めずに更に尋ねる。
すると、
「………なの」
「え、何だって?」
セイナが何か言う。
しかし、良く聞き取れない。
「今でも好きなの!」
「な、なぁッ!?」
思いもよらぬ一言に、赤面してしまう。
「じゃ、じゃあ、なんで―」
光一郎の問を遮りセイナが答える。
「だって…光一郎が他の女と話してるから!!」
「………はぁ…?」
またしても、予想外なことを言われる。
「……だから、決闘を?」
「………うん」
どんな理由だよ。
内心でそんな気持ちが、膨れ上がる。
「……じゃあ、もういいよな?」
「……え?」
「決闘だよ、決闘。もう、終わりで良いだろ?」
「あ、う、うん…終わりにしましょ」
そう言った瞬間。
光一郎の体に纏っていた光が消える。
……時間切れ…か…
それと同時に、辺りの煙が晴れる。
そして、周りの光景が見えた。
他の生徒や間宮担任が呆れ顔であるものを見ている。
それは―。
「ぐはぁッ!」
アトラスに一方的に撲れている。
レイドだった。
「呆れたな……まさか『身体強化』も『防護障壁』もまともに使えないとわな」
アトラスが言う。
それにつられるように、周りの生徒も口々に言い出す。
「やっぱり、こうなったな」
「相変わらず“ザコ王子”っぷり」
「どんだけ弱いのよ」
他にも「なんで魔導学園に居るんだ」とか「あれで元王子かよ」なんて声も聞こえて来る。
「……どういうことだ…?」
状況が理解出来ず誰となく尋ねる。
しかし、その声に答えるものがあった。
「見ての通り…よ」
セイナだ。
「彼はあれほどまでに弱いのよ」
「……そうか」
どうやら、勘違いをしていた。
ルーナの思惑。
レイドの実力を測ろうとしているのだと思った。
だが、そうでは無い。
レイドの実力がとるに足らないものだと。
それを光一郎に教えるためだった。
ふとルーナの方を見やる。
「…………」
無言。
しかし、その微笑みは雄弁に物語っていた。
これで分かったでしょ?
と。
そして、ルーナは間宮担任に声をかける。
「先生?アトラスはレイドに勝ち、セイナは光一郎に負けているようだわ」
それに間宮担任は、
「あぁ、そのようだね」
そのまま、続ける。
「それではこの決闘は引き分けとする! 負傷した者は医務室にいくように!」
その言葉を最後に終業の鐘がなる。
「光一郎殿、医務室に案内します」
「ちょ! 光一郎! 脚! 大丈夫!?」
千代と麻里が心配そうに聞いてくる。
「うん、まぁね」
笑顔で返す。
そして、医務室へと片足を引きずりながら歩きだす。
レイドの方を見る。
エレンが近くに歩みより、心配そうにしている。
しかし、レイドはそれに弱々しく答えるだけ。
その姿は正に。
軟弱な“ザコ王子”だった。