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灰色の世界より  作者: 霧間 誠二
第一章 目覚め
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7話 修行の日々

修行中

 制動で苦労したおかげか、練習して能力を発動させるのは一瞬でできるようになった。

 顕微鏡のレンズを変える感じで、カチッとして視界はまったく変わらないがあの感覚に似ている。

 このレンズを変える始動は、目が一瞬だけ強く光るという。

 これが第六段階の『活動』だったようだ。

「しばらくはこの状態で慣らします」と言われたので、毎日ランニングと知識を詰め込む勉強、剣の稽古をしていた。

 アンジェはボクに付き合って走ったり、セリア母さんの剣の稽古を見学している。

 そしてこの能力を実感できたのは、七日ほど経った時だった。

 セリア母さんの剣が、遅く感じ始めたのが予兆だっただろう。

 剣の稽古といっても、相手の木剣を叩き合うだけのチャンバラなのだが、ちょっとした暗黙の了解があり、相手の攻撃が木剣に当たったら攻守交替というものだった。

 ボクが上手く避けていくので、セリア母さんは一旦攻撃止めて、ボクに「ちょっとまってねー」とアンジェと何か話して戻ってくると「続きいくわよー」と、いきなり顔付きが変わって攻撃してきた。

 お姉様モードだ。

 確かにさっきよりは速いのだが、避けられないほどじゃないと続けると、セリア母さんの目が光った。

 あれ、活動したかなと思ったら一回二回と避けて、三回目でボクの持ってた木剣は空に飛んでいった。

 手には遅れて痺れが来たが、あまりのことに呆然としていたら「セリアさん、やりすぎです!」とアンジェに怒られたセリア母さんだった。

 アンジェの説明によると大気の流れを感じて、体内の流れと調和させた状態で、これを第七段階『流動』と呼び、身体能力が強化され、魔法使いの基本を身に付けたことになるそうだ。

「次からは難しく危険度が増しますので、十分注意してください」

「はい!」

 確かに流動から一気に変わった。正直、今までの前段階は効果が何もなかった。

 これからが本番ってとこか。

「第八段階は『心像形成』と言います。心に描いた物を形にすることです。最初にやったこれですね」

 鉄の手甲を装着して説明されたんだが、何か難しいとか言って喋りながらあっさり出されると簡単そうに思えてしまうが、できるのかこれ?

「これができれば、村で一人前と認められますので、難しいですよ」

 じゃあ早速やってみようと、試しにいつも使っている木剣をイメージしてみるが、うん、出ない。

 悩む。

 今までは何となくと時間過ぎたら出来てたような感じだったから、あんなの出すとか本当に魔法みたいな……ん、魔法?

 そういえば前に教えて貰ったはずだ。魔法とは大気に溢れる自然の力『マナ』を取り込み、体内に流れる気『オド』で調和させてから放出して発生させる現象だったかな?

 そして流動は大気の流れを感じて、体内の流れと調和させた状態のこと。

 マナを取り込まずに、体内の流れで調和?

 自分の手を見ながら考えていると、何かが微かに蠢いていることに気付いた。

 何だこれ? と自分の体も見てみると、表面にふわふわと波打ったり揺らめいたりしている。

 もしかして、これが……『マナ』と『オド』どっちだ?

 そんな感じで体のオーラっぽいのを観察していると「それが調和されたマナとオド、『魔力』ですよ」と教えてくれた。

 これを操れるようになるのが課題のようだ。




 それから毎日練習した。

 走りながらも剣の稽古中も、意識して動かせるのか、どうやって動いているのかと考えながら続けた。

 アンジェに頼んでゆっくりやってもらい観察して、自分と比較してどうやっているのか調べながらやり続けた。

 それでもまったく把握できなかったので、セリア母さんにも頼んで見せてもらった。

 セリア母さんの心像形成は剣だった。それを見て、アンジェがこの能力に慣れ過ぎていたことを理解した。

 アンジェは視線も変えずに、何でも無いように瞬間的に出現させて、忽然と消す。本当に息をするかのようにあまりにも自然すぎた。後、腕にそのまま装着するので、発生させる流れが見辛かったのだ。

 一方、セリア母さんは何かを凝視してからくうを掴むように、その手に出現させた。

 なるほど……心で描いた物を形にする。その通りだった。

 詳しくは、心で描いた物を現実に認識して形と成す。

 ふむふむと納得していると、セリア母さんは恥かしかったのか、剣を掻き消すと急ぎ足で家に入ってしまった。

 真剣に見すぎたかな?

 その甲斐あって、できそうな気がする。

 さっきの剣は美しかった。

 銀色で、真っ直ぐで、全てを切り裂くような気配と誇り強さが感じられた。

 手の平を下にして、両手を前に出す。

 目を閉じて、イメージする。

 あの美しさを思い出す。

 心で形を像と成し、心でその姿を現実に映し出す。

 目を開けて両手を見る。

 見える。あの剣が見える。

 万感の想いで握り締める。

 手には存在と重さを感じる。

 これが第八段階・心像形成。

 調和された魔力と心で練り上げられた、ボクの剣だった。

 ……しばらく驚きで声も出せず、動くこともできなかった。

 ボクは魅入られたように、掴んでいる剣を眺めていた。

「よくできました。オーラン」

 いつの間に近づいていたのか、アンジェが優しく頭を撫でてくれた。

「それにしても変わった鉄……いえ、木剣でしょうか?」

 ボクの手元を見て疑問顔のアンジェだが、どうやら木剣に見えるようだ。

「違うよ、アンジェ」

 ボクは少し離れると、剣を握った指に力を入れる。

 すると短く小さな、澄んだ音が聞こえた。



 その剣は新しくて古かった。


 凶刃で在りながら雪のように儚く、装飾も無い形に美を感じた。


 少し湾曲した形状には必要性を感じず、だが必要だと静かに誇示している。


 研ぎ澄まされた鉄は鋭く、燦然と輝きを放っていた。


 剣を追求し、一切の無駄を省いた姿が其処には在った。


 長い年月を懸けて洗練され、悠久の時を超えた魂が宿っていた。


 それは古くて新しい剣だった。



「これは剣だよ」

 この世界には無いのだろう。

 ボクが、あの世界で美しいと感じて憧れた物。

 軽く空に翳した日本刀を眺める。

 鎬造しのぎづくりでの目の刃文はもん、刃中のにえはやや太く長い。

 鍛えは杢目肌もくめはだ鋩子ぼうしはかます切先きっさき。焼刃は火焔。

 つかは紺色の菱目組上巻ひしめくみあげまきつば太刀鐔たちつば

 ボクの好みが混ざっていて、何処か可笑しくもある日本刀だった。

 刃の根元から切先まで、光に反射している様を幻視する。

 そのまま眺めていると取り憑かれそうなほど美しいので、黒い漆を塗ったような鞘に収めた。

 刀を鞘に納めると鍔鳴が聞こえて、先程までの高揚感が何か落ち着いた。

 ちなみに本物の刀でやるのはマナー違反であり、鯉口を切る時は音は出ないらしい。

 この辺の所は、おみやげ用の模造刀で遊んでたイメージが強かったんだろうな。

 時代劇の効果音に似せた音が出るように出来てる、と店員さんが教えてくれたもんだ。

「オーラン、その剣を見せて貰ってもいいですか?」

「うん、いいよ」

 鞘を持って横向きにしてアンジェに渡すと、刀を抜いてしげしげと観察する。

「これは……うーん、強度は……でも、この形だと……いえ、でもこれは……」

 何か小声でボソボソ言い出し始めた。

 道のほうに独り言を呟きながら歩いていくと、草を引きちぎって刃に翳すと斬れた。

 続いて何時の間にか手甲を装着して、最初は刀を添えるだけ、そして軽く叩き始め強く叩くとやめた。

 そして手甲を消して、また真剣に見始めて数分後。

 ボクに気付いたのか慎重に刀を鞘に納めると、鍔鳴にフムフムと頷いて、ボクに返してくれた。

「まさに剣盾けんじゅんした剣ですね、さっぱりわかりません。細かく調整されているのに、全体的に調整されていない感じもします。でも何故かこれで良いような悪いような……」

 また考え込み始めたアンジェだった。

 それにしても剣盾って聞いたこと無いな。

 この世界、言葉はそのままだけど、諺が違うのが多いからこういう時わからなくなる。

 今度、諺のこと教えて貰おうと決めた。

 とりあえず聞いておこう。

「剣盾ってなに?」

「は、はい、剣盾はですね。大昔の商人が『何でも斬れる剣』と『何でも防ぐ盾』を謳い文句にして剣と盾を売っていたそうです。それを聞いていた一人が、その剣でその盾は斬れるのかと問いかけて、商人は答えることができなかったという話から来ています。もし剣が盾を斬れるなら、何でも防ぐ盾は事実ではなく、もし剣で斬れなければ、何でも斬れる剣は事実ではなくなります。どちらを肯定しても、商人の謳い文句は理屈が合わないところから来ています。辻褄が合わない。理屈が合わない。そんな意味で使います。そしてジュンとは古代語で、盾の文字を別の読み方にしたものです」


 そのまま矛盾の出来事だった。そして古代語は漢字だった。


「すいません。話は脱線しましたが、最後にその剣を消すことができれば、第八段階・心像形成は終了です。粉みたいに細かくなって消えるように念じればすぐにできると思います」

 ちょっと勿体無いかなと思うが、言う通りにイメージしてやったら霧のように消えていった。

 作るのにはあんなに苦労したのに、あっさりとだ。

 そして、この段階もしばらくは反復練習で素早くできるようにするそうだ。


 その夜、セリア母さんが「できたみたい」といって我が家は驚くことになるのであった。


アクセス解析をさっき知って驚きました。

皆様ご愛読ありがとうございます!

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